ホシノの同期になって拗らせたいだけのSS 作:watazakana
シャーレの先生は、ただ一言。恨めしく睨む私に、「ありがとう」と言うだけでした。車を出して、私を連れてアビドスに向かいます。
「……電話すればよかったのに」
私と二人きり、重苦しい沈黙の中、先に口を開いたのは先生でした。
「履歴に貴方の名前が残るの、嫌だったので」
本心ですけど、嘘です。私は嫌いな人の連絡先を知らないし、こんな時間に電話をかけても先生は出ないだろうと思っただけ。平日の0時を過ぎて寝てないなんて、思っていなかったのです。
「あなたは、私のことが嫌い?」
「はい」
「そっか」
シャーレのあるD.U.シラトリ区を出て、西へ西へと車は走ります。私が何分とかかった距離を、十秒ほどで走るのを見ると、少し虚しさが残ります。
「じゃあ尚更感謝しないとね」
「……は?」
先生の発言に、私は顔をしかめました。ちらと私を見た先生は、補足の説明をします。
「嫌いな人に助けを求めることって、普通はできないから」
「……ホシノに私の好き嫌いは関係ないです」
ホシノが大事だから、貴方を利用するだけしたいのです。
「ホシノのことがとても大切なんだね」
「……一年からの、付き合いですから」
そう、大切。だから、先生に訊きたいことがある。
「先生」
「どうしたの?」
「ホシノに何か言いましたか」
先生は一瞬黙って、やり取りの一部始終を答えました。最後は、「私が何とかする、って言った」と、言いました。その中に、「奇跡」という単語が入っているのを、私は聞き逃しませんでした。
ああ、だからこうなったんだ。ホシノは変わってない、いや、変わらない。あんなナリでも、現実主義は変わらないんだ。「奇跡」なんて、起こしようがない。だから現実的なことで決着をつけようとした。そのトリガーは、徹頭徹尾、先生だ。
「……結局あんたのせいだ」
「それって……」
赤信号になった路地で、先生の胸倉をつかんだ。
「あんたのせいだ!あんたが、私達が搾取されてるって気づいたから!あんたが奇跡なんて言葉使ったから!!私は良かったんだ、あのままで!別に救われなくても、ホシノが居れば良かったんだ!あんたは弾薬をあげるだけでよかったんだ!」
先生はあっけに取られていました。
「あんたのせいだ……あんたがいなきゃ、今頃きっとみんな何も知らないで……幸せだった……」
震えた声で、先生を責め立てる。でも、先生はあっけに取られただけで、まるで動じていない。赤から一転、青に照らされる。私は、自分が酷く卑しく矮小に思えて、そのまま手を離しました。掴む気になれませんでした。
「すみません……」
「……ごめんね。こうなったからには、私が何とかするから」
「あんたには無いでしょ、そんな責任も義務も。大人なんだから見捨てていけばいいんです」
「大人だからだよ。大人だから、生徒のことは最後まで面倒を見るんだよ」
ぐん、アクセルによって私たちの身体が揺れて、信号は後ろに。
それからは、話す気にもなれませんでした。