ホシノの同期になって拗らせたいだけのSS   作:watazakana

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村瀬メイ

「正しさ」の奴隷。自己肯定力が皆無なため、自身の行いの正当性を、他人で担保しようとする。


ホシノの同期になって拗らせたいだけのSS 7

「言ったよね?メイ。ホシノを正しくするのが私の役目だって。ユメ先輩を引き留められなかった私達だけの約束……って、思ったんだけど」

「ホシノ、待って。もういいんだよ、あんたの交わした契約は……」

「良いって、そういうの。ねえシロコちゃん」

「……」

 

シロコちゃんは、驚く様子でした。

 

「おじさん、言ったはずだよね。『その次は?』って。おじさんを連れ戻したところで、また苦労しちゃうんだよ。ずーっと借金地獄でさ……カイザーPMCだって敵に回しちゃう」

「でも、それで散り散りになるのは、私は嫌だ」

「シロコちゃんだけじゃないですよ。私も、アヤネちゃんも、セリカちゃんも。皆がそれを望んでないんです」

「じゃあ何?皆が銀行強盗をしたかったらするの?うへえ、それはおじさん嫌だな」

「ホシノ、少しは話を……」

「先生、あなたは、間違うことを望んでるの?生徒でもない私を?流石にそれは筋違いでしょ。何も言わずにふらっと行っちゃったのは、申し訳なく思うけどさ」

 

でも、生徒じゃないんだよ、今の私はさ。と、無理に笑うホシノを、見ていられなくて。

 

「銃なんて構えちゃって、まだまだおアツいね、メイちゃんは」

「ホシノ、いったん話を聞けって」

「聞く話なんてないと思うんだけど。だって、私のことに意見しなかったじゃん。引き留めるならあの時言えば良かったんだよ。ユメ先輩の時できなかったんでしょ?じゃあ、あの時私を引き留めていれば何か変わったかもしれない。でもやらなかった。それは、メイが正しさの奴隷だから」

「聞けよ!」

 

銃声を鳴らします。桃色の髪を、弾丸が掠めます。

 

「……私は、私なりの方法でアビドスを守りたいだけ。私が居なくても、先生とメイが居れば、アビドスは何とかやっていける。新しい生徒会を立ち上げても良かったんだ。そうすれば、メイが中心になってなんとかやっていけた。いや、そうするべきだった。それが正しかった」

「……っ」

 

正しさ、私の行動基準。わかっている。こいつ、わかって私を抉っている。私は、正しさを裏切れない。今更正しさを投げ捨てられるほど、面の皮は厚くない。

 

「……ごめん」

 

正直、その考えは浮かばなかった。あの時は、ホシノをいかに連れ戻すかしか、考えてなかったから。

 

「ささ、ここはおじさんの方から説明しておくからさ。帰ってくれない?私はメイちゃんを信じているから、戻る気はないんだ」

「……それでも」

「……」

 

痛い。ホシノの、あの一年生の時のような視線が痛い。私が指名手配犯を捕え損ねたときのような、「何してんだお前」と言いたげな視線が痛い。それでもさ。

 

「あんたを捕まえないと、納得しない後輩が居る。私も納得できない」

「……そう」

 

一拍置いて、ホシノは私の懐に潜り込む。ショットガンは顎にピタリつけられている。まずい、これはホシノの十八番。顎を撃って脳を揺さぶり、のけぞったところを肝臓側の横腹めがけて二発、そして倒れたところを銃床で殴打のコンボ。始動が当たれば、ヒナですら抜け出せないだろう。私は自分の銃でショットガンを弾く。顎への直撃を避けたけれども、耳をかすめた。銃声は耳をつんざき、甲高い耳鳴りがうっとうしい。

 

「私がアンタら全員倒せば、理解してくれる?私が拒絶してるってこと」

「……じゃあ、勝負だ。私たちがホシノを〆られたら、理解してくれる?私たちが、どれだけのことをしてでもホシノを必要としてるってこと」

「じゃあ、喧嘩だね」

「先輩方……本当にやるんですか?」

「うん。やるよアヤネちゃん」

「ん。ホシノ先輩も、メイ先輩も、どちらも正しいと思うから。私は納得のいくやり方でやる」

「シロコちゃんに同意です☆」

「ああもう、こうなったら止められないじゃない!メイ先輩、あとで覚悟してよね!」

「先生、指揮お願い。このホシノは、先生の指揮込みでも勝てるかどうかわからないから。気合い入れて」

「……わかった」

 

私たちの、喧嘩が始まった。

 

----

 

 

爆弾をばらまいて煙幕を張る。手ごろな瓦礫を投げつけ、視界を遮る。その間にシロコちゃんとセリカちゃんで十字砲火をしても、視界を遮られると悟った瞬間その煙の中に突っ込んで、私の方へ距離を詰める。シロコちゃんとセリカちゃんはそれで撃てなくなる。射線上に私が居るから。

私は姿勢を低くして、ホシノが懐に潜り込めないようにする。すると銃床が脳天に振り下ろされるので、すかさず横に移動する。ホシノの癖は、「一撃目は必ず頭」だ。運動中枢を潰して、確実に仕留めるタイプだ。だから、顎、後頭部は特に警戒しなければならない。避けたところで、ノノミちゃんが撃つ。慣性によって必ず硬直する場面。しかしこいつは化け物じみた戦闘力を持つので、二回転捻りを入れた跳躍で全部避ける。ドローンのミサイル攻撃は?「ここならミサイルが来るだろうな」という持ち前の危機察知能力で距離を取り、全力疾走で直撃だけは避ける。駄目だ、先生の指示が合理的かつ的確ということは、「ホシノの予想通りに動く」ということ。ホシノからすれば全部「来ると思っていたこと」、対策さえ決めていればどうにかなる範疇だ。私の脳内で、一つの言葉がさっきから渦巻いている。

 

勝てない。

 

ヒナの強さは頑健さと長射程の圧倒的な範囲殲滅力。ツルギの強さは格闘性能と超常的な再生能力。では、ホシノの強さは?それは、全ての能力が超高水準でまとまっていること。もちろん、ヒナみたいな頑丈さはないし、範囲殲滅ができる銃を持たない。ツルギほどの回復力はないし、射程外や超至近距離においては上がいる。だが、全てが高水準であることで、ほぼ全ての状況に対応できる。

それは身体能力だけではなく、戦闘経験にも由来する。「場慣れ」しているのだ。例えばスナイパー相手なら。弾丸を受けるか的確な防御をして、どこに居ようが5分もかからずにそいつの元へ行く。ホシノ相手に初弾で有効打にならなかった時は、敗北を意味する。2発目以降は当たらない。距離と弾速を勘で把握し、マズルフラッシュからどのタイミングで避ければ良いかを算出する。そしてホシノは攻撃力も高い。対2~3人用のはずであるショットガンの火力をゼロ距離でぶち込むその無慈悲な戦い方も相まって、まさに「危険人物」として警戒されるにふさわしい人物だ。ホシノとの最初の戦闘で勝てる人間は、このキヴォトスではいないと思う。私だって、知識ありきでホシノと戦っている。それで辛うじて防戦になっている。

 

勝てない。そんなこと、私が一番わかっている。まして、超前線型のホシノと後方支援型の私だ。勝てるわけがない。セリカちゃんやシロコちゃんは、まだまだホシノには届かない。戦闘における合理性がまだ身についていない。

 

「メイ先輩がずっと狙われている……」

「先輩ばっか、私達は眼中にないってわけ!?」

 

いや、ホシノは私だけを眼中に入れているわけじゃない。ちゃんと後輩たちも見ている。見た上で、狙っていない。それは脅威じゃないからとか、そういうのじゃない。

 

「ホシノ、てめえ……」

「……」

 

後輩が、大事なんだろ。愛しいんだろ。なるべく殴りたくないし撃ちたくないんだろ。お前は優しいから。現実主義者だけど、お前は優しいから。砂祭りのポスターをあえて破って見せたのも、ホシノがユメ先輩に真剣に向き合ってほしかったから。お前は最後まで見捨てなかった。ユメ先輩を。こんな詰んだ学校を守りたいのも優しさだ。お前はアビドスが何より大切だ。お前にとってのアビドスは、お前が過ごした時間の全てなんだろ。私にばかり攻撃が向くのは、私が共犯だからだ。ユメ先輩を守れなかった、共犯だから。

 

──なら。あの苛烈な攻撃性が全部私に集中するのは辛いけど、そうなら。言いかけた言葉を飲み込んで、ホシノを睨む。

 

「ホシノ……そうだ。その通りだ。ホシノがここに来てくれた信頼を、私は捨ててしまったんだろうね。間違ってるって否定するわけがない、私なら。でも、実際はこのざまだ。でもさ、アビドスにとって一番大事なものって何だと思う?借金を返すことなんかじゃない。土地を取り戻すことでもないんだよ」

「無駄口叩く余裕あったら、さっさと躱すなりしたら?」

「あんたやセリカちゃん、シロコちゃん、ノノミちゃん、アカネちゃんだよ。アビドス対策委員会が一番大事なんだ。だって、『アビドス』を名乗るには、私たちが居なきゃ話にならない」

「だったら私が居なくてもいいでしょ。言い方は悪いけど、予備が居るんだから」

「正しいけど、違う、それは、私たちが『アビドス』だから。土地は、今や校舎周辺しかないけれど。だからこそ、私たちが『アビドス』なんだ。アビドス対策委員会、即ちアビドスは、私たちは、全員が互いを一番大切に思ってるんだよ」

「大切に思うだけじゃどうにもならない!」

「そうだよ、だからどうにかするんだよ!!」

「自分の言ってる意味わかってる!?そのどうにかした結果を台無しにしやがって、エゴイスト!」

「自分を犠牲にしなくてもどうにかできるはずだっつってんの!」

「信じられるか、メイも私を騙したくせに!正しくするって言っておきながら、肝心な時に私のことを間違いだって言う!」

「……本当にそれはごめん!」

 

ショットガンを抑えるために、あえて懐に入ることを許す。頭、頭に来るぞ。そら来た、私はライフルを捨てて、ホシノの銃身の先端を掴む。ホシノが簡単に動じることはないけれど、私に武器を掴まれたことで身動きが取れなくなる。先生の指示じゃだめだ。先生というだけで、ホシノの警戒レベルは最大になる。先生が指示すれば、反射的に武器を手放して私をタコ殴りにした挙句武器を取り戻すだろう。私の指示だからこそ、「先生よりは」という侮りが生まれる。ホシノは突破口を少しでも考える。それが分水嶺。

 

「今だ!みんな!私ごと──」

 

ホシノは引き金を引く。顎に全弾命中だ。流石に、しっかり掴んだ上で銃身を逸らすなんて腕力も早さもない。

 

「っ──」

 

脳が揺れる。意識が飛びそうになる。だめだ、絶対に手を離しちゃだめだ。ホシノは意外に思うだろう。でも、今のホシノは冷静じゃない。一発でダメなら、という『やる気』がある。でも、自分が行動不能であることに気付くのはその後だ。「撃った時点で間に合わない」というのもね。

 

ドローンから発射されたミサイルと、三人の集中砲火。私を巻き込んで。耐えられるはずもなく、私は早々に意識を手放した。

 

----

 

私の罪は、他人に正しさを求める気質だ。私はどうしても、自分が正しいという実感を持つことができない。常に間違っていることへの不安が大きい。自信がない。だから、信用している他者が正しいと思うことが正しいと思うことにした。でも、それって無責任なんだ。自分で責任を取ることができない。なぜなら、「あの人が正しいから」という幼稚な言い訳に逃げることができるからだ。……実際、私は、逃げるだけだった。「正しさの奴隷」、まさしく、私にピッタリの形容だ。正しいということは、それだけで世界から援護を受けることができる。だから、みんな「正しさ」に拘る。私は、その拘りが異常だった。異常な正当欲は、自分の正しさだけでは物足りず、遂に他人からの承認で補充するようになった。

 

結局、私が可愛くて仕方がないのだ。だから、ユメ先輩や、ホシノに依存した。ホシノが大切、っていうのは、そういう意味だった。私はホシノが大切だ。気が狂いそうになったあの時、私の正しさを担保するための寄生先だった。今の今までそうだった。でも、ホシノが正しさに突っ走って、私がそれを正しいと心から言えなくなった夜。「正しくなくちゃいけない」と、わざわざ意識したときから。あの時から、本当にホシノが大切な存在になっていたんだと思う。

 

「それじゃあ、メイちゃんは何をしたかったのかな?」

 

姿は見えないけれど、ユメ先輩の声だ。純粋に、疑問に思う声が砂漠をこだまする。

 

「……正直、アビドスとかいう土地のことなんかどうでもいいんです。アビドスは、砂だらけの何の魅力もない、詰んだ土地だから」

「あはは……」

「でも、紫関ラーメンの大将は良い人だし、セリカちゃんはまっすぐで正直者だし、アヤネちゃんは素直で愛らしい。ノノミちゃんは真面目で真摯で、シロコちゃんはちょっと危ういけど、でも強い子。そして、何よりそんな人々は。アビドスに暮らす私の好きな人々は、ホシノがあっての存在なんです。だったら、ホシノが犠牲になるなんて、絶対あっちゃいけないじゃないですか。それは、私がどれだけ間違っても、どれだけ犠牲が正しくても、アビドスにとって正しくない」

 

ユメ先輩は、多分沈黙している。

 

「私はホシノを正しくし続けてきたけれど、ホシノは私じゃないんです。だから、ホシノも私も、欠けたって補充できないんです。誰もが誰かの予備じゃない。……何が言いたかったんだっけな、そうだ。私は、単純にホシノを助けたかった。正しさの道具としてのホシノじゃなくて、アビドス対策委員会の委員長、私の共犯、同級生の小鳥遊ホシノを」

「──そっか」

 

穏やかに風が吹く。

 

 

 

──寒い。

 

 

----

 

「んがっ!!寒い寒い寒い!!」

 

長らく、気絶していたみたいです。見慣れた星空が、私たちを見下ろしています。

 

「ん。ホシノ先輩、起きたよ」

「お~~、良かった良かった~~。メイちゃん大丈夫?も~すっごい無茶するんだから、おじさんびっくりしちゃったよ」

 

ホシノは私の元へ駆け寄ります。え?ホシノ?

 

「え、ホシノ……?」

「いや~おじさん早とちりしちゃったみたいでさ~~、迷惑かけたね、ごめんね」

「あの後、ホシノもメイも倒れちゃってさ……」

 

私を膝枕していた(!?)先生から状況を説明されます。要約すれば、「共倒れした後、私をダシにホシノをめちゃくちゃ説得した」とのこと。本当に何から何まで言ったらしいですね。疎外感を覚えないことはないです。でもまあ、喧嘩にはちゃんと勝ったし。私の態度はホシノには伝わっただろうし。何より私を説得材料にしたってことは、私にも居る意味はあったってことです。満足してます。……でも。

 

「うへえ、よくもまああんな恥ずかしいこと言えるよねぇ」

「……ホシノ」

「ん?どうしたの?」

「ごめん」

 

謝るべきは謝るべきですね。

 

「……うへぇ」

「ずっと、ずっと私は、ホシノを利用してた。私は、ホシノを都合よく利用して、でも都合が悪くなったら自分のわがままばっかりだった。約束、守れなかった。ホシノを正しくできなかった。私は最初から間違えてて、ホシノを間違わせてしまった……。でも、間違えたら、正しい方に舵を取り直しても良い。ちょっとだけなら間違いも悪くない、そう思うから……」

「メイちゃん」

 

ホシノは穏やかにこちらを見る。

 

「……ラーメン奢って。私もラーメン奢るから。それでお互いチャラにしよ」

「……え?」

 

拍子抜けな私の顔をホシノが笑う。

 

「あっれぇ聞こえなかった?ラーメンだよぅ、おじさんと一緒に耳が遠くなっちゃったかな?おばさん」

「……耳年増って言葉知ってる?まったく……みんな、いい?朝ご飯は戦勝祝いのラーメンだよ!」

 

後輩たちは朝ラーメンという言葉に目を輝かせ、ホシノは少し困惑気味でした。

 

「いやぁ~何もそんなに張り切らなくても……おじさん朝からラーメンはきついよぉ~」

「嘘つけ、この前朝ごはん結構きつめのカップラーメンだったでしょ」

「うへぇ……バレてた……」

 

そして、忘れていたことを思い出す。

 

「あ。後輩たち、それに、先生。アレを言う準備は良い?」

「ん。待ってた」

「は~い☆」

「え。アレほんとに言うの!?」

「わ、わかりました……」

「?」

 

せーの、の合図で言いますよ。せーのっ

 

「「「おかえりなさい、ホシノ先輩!

      おかえり、ホシノ   」」」

 

そんな言葉に、一層ホシノは困惑して。

 

「うへえ、これ、おじさんも言わなきゃいけないヤツ?」

「当たり前でしょ、元はホシノの家出なんだから」

 

先生に助けを求めるもあえなく却下され、ホシノは嬉しそうな顔をする。そう、ホシノの居場所はアビドスで、私たちなんだから。そうしていただかないと。

 

「──みんな、ただいま」

 

 




Vol.1が終わったので、あとはちまちまホシノに脳を焼かれたときにあげます。付き合ってくれた皆様方には感謝申し上げます。
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