Fate/stars night   作:観測者さん

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IV. 後編 きっと

 

きっと。と思ってしまった。

 

あれを使いこなせる俺ならきっと。と、

 

この聖骸布を剥ぐたびに叫び声のような金属の摩擦音が頭の中で鳴り響く。

 

投影、開始(トレース オン)

 

「なっ──!!」

 

───────────────────────

 

俺がアーチャーに見せられたのは、心を鉄にした男の話だった。

 

木々が赤く黒い泥に、飲み込まれていく。

その中、たった1人の男が迫り来る泥と男を取り込まんとする布のような影を弾いていた。

 

遠坂はその男を心配そうな顔で見つめる。

「アーチャー」と呼ばれたその男はついにその猛攻に耐えかねた。

 

I'am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)

 

紡がれたその詠唱を俺は知っている。

 

その身体が剣で出来ていたことを知っている。

 

ヤツの腕はその英霊の物だった。

 

俺がその腕を見た時に感じた1人の気配はきっとこのアーチャーだったのだろう。

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)

 

目と、心に刻み込んだ。

 

この視界いっぱいに咲いた盾を。

 

それでも黒く侵食されていく盾を見て俺は思わず唇を噛み締めた。

 

猛攻を続ける影にエミヤシロウは重症を負い、音のみを拾える中で、少し低い女性の声がした。

 

「そんなことをすればあなたは…」

 

「考えるまでもない、何もしなければ消えるのは2人だが、こうすれば確実に1人は助かる…」

 

何が起きているのか、想像するには情報はなかったものの、事実から推測することは容易だった。

 

生々しい音と共に重いものが落ちる。

 

 

 

 

そこからだいぶ時間が経った映像に切り替わる。

 

汚染され黒ずんだ英霊、その禍々しい巨体にに対して、その英霊を解析、理解しそのことごとくを投影した。

 

その時、エミヤシロウはアーチャーを追い越した。

 

「是・射殺す百頭」

 

その力、業、生き様を俺は見た。

 

 

 

 

程なくして、度重なる投影は身を滅ぼすものだと知る。

もはや聖骸布が最大限に引き出す制御力は失われた。

 

その次、見たのは決戦前夜。

 

エミヤシロウはライダーとの共闘を拒んだ。

 

閃光(スパークス)

 

大聖杯のある地下洞窟に入る時、エミヤシロウは心を鉄に変えた。

 

記憶の霞はただ「あの時」桜を殺せなかった己を憎むばかりだった。

 

「何故───あの時、サクラを殺せなかった…?」

 

「なんでこうなるのを分かって…」

 

エミヤシロウを主観として見る士郎はこの度し難い感情に目を瞑りたい気持ちばかりだった。

 

正義の味方と、桜の味方である自分が混ざった感情。

 

それがいつしか彼に桜を殺める選択肢を与えた。

 

記憶や五月蝿い感情は全て内に仕舞った。

 

ランナーズハイのような高揚感がエミヤシロウとセイバーを渡り合わせた。

名前も思い出せない彼女にトドメを差す方法を探る。

 

「あなたの方法では──を救えない」

 

ただそれだけを反芻するだけだった。

 

エミヤシロウは腕から奥義を探ろうと潜った。

 

しかし探すその手を誰かに取られた。

 

「間桐桜は私が手を下す。」

 

真っ白な地平線の見える空間。

 

そこに立つ腕の主(エミヤ)

 

意識や体のなにもかもをエミヤシロウから彼が乗っ取った。

 

席を譲るように、また受け渡されたバトンを、もう1回繋ぎ直すように。

 

また受け継がれたその身体はもはやエミヤシロウではなかった。

 

白髪に褐色の肌、ただ少し若い幼さを感じる外見だった。

 

記憶はここで大きなノイズを立てて消えた。

 

景色から俺が遠のく感覚を覚えた瞬間、また白い空間に戻された。

 

 

 

しかし、そこにあったはずの無数の(記憶)が、たった1本の剣と赤い宝石のネックレスが置かれているだけになっていた。

 

「…みたか、」

 

振り返るとアーチャーが佇んでいた。

 

「みっともない男の話だっただろう。」

 

「救いたいと願った女を救う前に精神が摩耗しきり、受け継いだ物を返すはめになってしまった。」

 

「そのせいで俺は半ば英霊エミヤと同化し、このように歪なサーヴァントとなった。」

 

彼は正面にある剣を指して言う。

 

「受け取るがいい、衛宮士郎。」

 

「それが今さっきお前の見た記憶の全てと、エミヤと俺の魔力だ。」

 

アーチャーは足から少しずつ透明になっていく。

 

「アーチャー、それだけのために…?」

 

「こんな中途半端なサーヴァントで申し訳がない。」

 

「しかし、これだけは頼みたい。」

 

士郎はグッと、その剣を持った。

 

「桜を幸せにしてくれ。」

 

その剣が抜かれると同時に、「剣製」は殻を破り、図書室に戻っていた。

 

手には赤い宝石が握られていた。


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