Fate/stars night   作:観測者さん

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プロローグⅢランサー

遠坂邸

セイバー召喚より実に2日前。

 

この日は酷い雷雨だった。

遠坂凛。五大元素使い(アベレージ・ワン)の稀代の魔術師。

そんな彼女は雨、ひいては湿気が大嫌いであった。

 

「う……ん。」

けたましくなる目覚まし時計をそこそこ使い物にならない程度にする朝。

どうせ治すから、なんて言い訳でここ10年は起きてきた。

 

寝起きが悪く、自慢の髪も湿気で凄まじい事になっていたが、この日はすこし”調子が良かった”

 

洗面台で、滴る水も拭ききらぬうちに、よし。と気合いを入れ、大きく背伸びをした。

右手に浮かんだ、3画の令呪。

それが彼女に自信を与えてくれた。

 

魔術師には個人によって「魔力のピーク」というものが存在し、彼女の場合午前1時がそれに当たる。

 

触媒無しでの召喚の場合、それを待った方が狙った召喚の成功率は上がるのだが、今回はその限りではない。

 

「さて、やるわよ、私。」

 

遠坂邸 地下工房

石造りの湿った土の空気が漂う工房。

 

羊皮紙やフラスコ、魔導書などが置かれたこの工房の中で、魔術師でなければただの箱、あるいは土だと一蹴されない物だが、先述した通り魔術師、特に聖杯戦争の参加者には手を尽くしても叶わぬ代物だ。

 

箱には、古い文字で「ウルク」

 

そう書かれていた。

 

あとは──

 

「ぐぬぬぬ……!!」

 

ドサッ、ガタガタガタ…と机を退けるたびに次々と物が落ちる。

 

限界まで退けた後ろには、10年前、父 時臣が使用したものと全く同じ召喚陣がある。

 

片手に持っているウルクと書かれた土塊(つちくれ)も、前回時臣の使役したサーヴァントの触媒である。

 

「今回は勝つわ。必ず。」

 

陣の上には箱を。

片手には日頃魔力を込めていた宝石たちを。

 

時臣の死因はハッキリとはしていない。

使役していたサーヴァントの記録ももちろん残されてはいない。遺言はなく、残されたのはこの家と資産。

自身も該当していた、複数元素使いのレポート。

アゾット剣のレプリカ。そしてこの触媒である。

 

雷の音が聞こえる。

 

吸って吐く十秒。

 

持っていた宝石から純粋な魔力を還元しつつ詠唱を始めた。

 

 

魔力は詠唱が進むと召喚陣を水の如く自然に、かつ不自然な軌道でなぞるように滑る。

 

─満たせ。

──満たせ。

───満たせ。

────満たせ。

─────満たせ。

 

五度繰り返し、部屋の色は青から緑、緑から赤へ変化していく。

 

令呪が熱い。令呪を中心に魔力が一塊持っていかれる感覚を覚える。

強く踏み込むが倒れそうで、冷や汗が背中を伝う。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。」

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

 

全身がひりつく。どんな修行より重く、魔力が枯渇する心配を無意識にしてしまう。

 

「誓いを此処に。」

「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

 

「汝、三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!!!」

 

息を飲んだ。

全身に力が入らなくなり、突如として後ろに倒れそうになる。

ふと見えた白い手に、手を伸ばしてしまった。

 

 

────────────────────

 

 

「どうやら、僕がたくさん魔力を持っていってしまったようだね。」

 

男?女?ただ分からなかった。

 

「ランサー」

 

「エルキドゥ。君の呼び声で起動した。」

 

「君の采配に僕は必ず従うと約束するよ。」

 

地上を向いた彼の爽やかなその声は、確かな重みを持っていた。

 

記録的な豪雨と予報された冬木市一帯が2日後に襲いかかる不穏を纏う形で地面を打っている。

 

 

 

聖堂教会 地下

 

召喚陣が燃えていた。

しばらくすると消え、いつの間にか、石像が佇んでいた。

 

召喚は成功した。回路と石像とを繋ぐパスがその証であるが、問題の英霊らしきモノは、反応がない。

 

静電気が至る所に走っていた。

 

人の形をした石像を中心に、そのボルト数は実に3万。

 

静電気は確かな電撃となって、マスターを避け流れていた。

 

パスの繋がりを認識したあたりから、外では雲行きが怪しくなり、雷を伴った雨が降り始めた。

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