非合法ロリばあちゃん。   作:にゃあたいぷ。

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2話.新入生おばあちゃん。

 中学時代、孤児院暮らしだった私は戦車道と関わりを持つ事ができなかった。

 故に戦車道では、特待生の受験資格を得る事ができず、一般入試で黒森峰学園の機甲科を受ける。それで最優秀の成績を叩き出す事で見事、私は特待生として奨学金と授業料の減免を勝ち取った。とはいえだ、成績を落とすと奨学金も授業料の減免も打ち切りになる為、今後も気を付けなくてはならない。

 入学式、私は新入生代表としての挨拶を述べた後、その足で戦車倉庫の前まで移動する。

 私達を出迎えてくれたのは、まだ二年の身でありながら戦車道チームの隊長に選ばれた短髪の少女。西住まほと名乗る彼女は、落ち着いた雰囲気が曾孫とよく似ていた。あのまま曾孫が成長していれば、彼女のようになっていたのではないか。としみじみと何度も頷いた。まほが粛々と、淡々とした挨拶を述べた後、予め割り当てられていたチームに移動する。これは内部進学組と外部からの受験組で派閥を作らない為の配慮であり、経験の有無も考慮した上でバランスを取っているようだ。

 勿論、これが最終的なメンバーという訳ではない。

 というのも一年生が練習用に割り当てられる戦車はⅡ号戦車が大半を占めており、これが三人乗りなのだ。黒森峰女学園の主戦力はⅣ号戦車やⅤ号戦車(パンター)で、これが四人乗りや五人乗りとなる。つまりレギュラーを目指すのであれば、チームの解体と補充を避ける事はできない。

 とりあえず今日は割り当てに従って、与えられたⅡ号戦車と共にメンバーと合流する。

 

「初めまして、私は楼レイラと言います!」

 

 ツインテイルの少女が元気よく挨拶をしてくれる。

 内部進学組の彼女が、今日の戦車長で砲手だ。装填手席には、外部入試で経験者の子が入り、通信手を兼任する。

 そして余った操縦手席に私が腰を下ろす。どうしてこうなったのかというと「貴女のような小さい子に砲弾を持たせる事はできないから」との事だ。

 今生の私の身長は低い。少なくとも機甲科の中では一番、低いようだ。

 

「まあ、なんだっていいさね」

 

 戦車に乗れるのなら役割に拘りはない。今生では、初めて乗る戦車に胸の高鳴りを抑える事ができなかった。

 

「えっと、最初は慣れないと思うけど……」

 

 操縦桿を握る。身体は変わっても感覚は変わらない。

 肉体だけではなく、魂に刻み込まれた一連の動作でエンジンに火を灯す。

 戦車の振動する感覚に笑みを浮かべる。

 良し、良し、良し。肉体の反応は、戦車に乗った最後の時よりも調子が良かった。

 まあ、あの時は齢八十歳を超えていたので、当然といえば当然だ。

 

「昔に比べれば、随分と操縦桿も軽くなったもんだ。さあ車長殿!」

「は、はい!?」

「気前よく行こうじゃないか! 黒森峰流だと発進の合図は……えっと、パンツがアホー?」

「パ、パンツァーフォーです!」

「それだ! よし、行くよ!」

 

 アクセルペダルを踏み込んで、先ずは慣らし運転。思っていた以上に状態が良くて気分も上々だ。

 ひと通り、動作を確認した後でゆるゆると指定された場所に移動する。それでもまだ操縦に馴れていない戦車が居たもんで、並ぶのが最後になることはなかった。「この感覚、何時まで経っても堪らないねえ」と私が呟く後ろで経験者の二人が信じられないものを見るかのようにジッと私を見ていた。

「戦車長が周りに気を配るのが仕事だろう?」と告げる私にレイラは慌てて、キューポラから身を乗り出す。

 

「おいおい、それだと良い的じゃないか」

「的?」

「狙撃とか……ああ、いや、戦車道に歩兵や狙撃手はいないんだったね」

 

 平和な時代になったもんだ。と私がケラケラ笑ってみせる。

 若干、引いてしまった二人を尻目に先輩殿の指示で砲撃訓練に移行した。

 

 一発目を外した車長殿が懸命に照準を合わせる中で「当てられない者は当たるまで続けるんだ」と先輩殿から指示が下される。それに気をよくした私は「的に当てるんじゃないよ」と助言する。

 

「えっ? それだと成績が……」

「戦車が上手くなりたいんだろう? なら撃てる時に一発でも多く撃っておいた方が良いよ」

「いや、でも、やっぱり周りに迷惑が……」

「そうだね、的を掠める練習なんてどうだい?」

 

 俯角5度、左に3度と私が言ってやれば、砲弾は的の左側を綺麗に掠める。

 その後で私が戦車を僅かに旋回させて、的から照準を外した状態で停め直した。

 的に当たりそうな時は、私の方から指示を出して、的を掠めさせる。

 それを三度も繰り返した後で通信機から呼び出しがかかった。

 

『次は当てるんだ』

 

 隊長殿の低い声色に「ぴえっ!」と可愛い悲鳴を上げる車長殿。とりあえず私は震える車長殿に問い掛ける。

 

「次は何度、調整する?」

「み、右に7度。俯角5度……?」

「よし、撃ってみな」

 

 揺れる車体、強い衝撃音。白煙と共に離れた砲弾は見事、的のど真ん中を撃ち抜いた。

 

「やるじゃないか」

「えへへ……」

 

 私の言葉にレイラは気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 やっぱり何事も出来ない事が出来るようになる瞬間が楽しいもんだ。

 この後、行進訓練を終えた後、使った戦車の整備に入る。

 ほとんど点検するだけで終えた私達は、他のメンバーの手伝いに回った。

 こういうのは全員で終わらせた方が連帯感が生まれる。

 戦車道はチーム競技。こういった小さな積み重ねが案外、馬鹿にならない。

 

 

 戦車の操縦が上手い子がいる。

 初めて乗る戦車なのか新車の座り心地を確かめるように慣らし運転を始める。あの動きは経験者だ、左右の操縦桿を使った戦車の独特な操縦方法に適応していた。でも中等部に居なかった子だ。外部入試組の誰かだと思うけど、大会とかでも見た事のない動き方をしている。そして何処か懐かしさを感じられた。間違いない、あの操縦の仕方は西住流だ。でも、私の知る西住流とは少し動き方が違っている。

 夕食時、食堂で黒森峰女学園の生徒が一斉に食事を摂る中で私は、目の前のスパゲティをフォークでカチカチと何度も突き刺していた。流石に黒森峰女学園の生徒全ては覚えていないのだけど、機甲科の生徒の顔と名前、簡単な経歴は頭に入れている。あの戦車に乗っていた子は誰なのだろうか? そして、あの戦車から感じる妙な既視感は何か?

 今日まで見てきた試合の記憶を掘り起こし、ぐるんぐるんと映像が浮かんでは消えていった。

 

「みほ、アレが気になるのか?」

 

 私が一人で使っていた机に聴き慣れた声と一緒に腰を下ろす。顔を上げる。食堂のカレーを持参した姉がいた。まだ湯気の立つソレをスプーンで掬い上げる。聡明な姉は礼儀正しい所作でソレを頬張り、しっかりと飲み込んだ上で次の言葉を口にした。

 

「冷めるぞ」

「あ、うん」

 

 慌ててスパゲティを頬張る。考え事に興じ過ぎていたようで、少し冷めてしまっていた。

 

「名前は、西澤詩織」

「あ、あの小さくて今年の主席合格者の……でも、あれ?」

 

 名前を聞いた事で顔を思い出したが、経歴を思い出してコテンと首を傾げる。

 外部入学者で孤児院の出身。黒森峰女学園に入る前まで、戦車道の経験はなかったはずだ。

 でも、あの戦車の動かし方は間違いなく、西住流を知っている者の動きだった。

 

「心当たりはある」

 

 と聡明な姉が、幾分か会話をすっ飛ばして告げる。

 

「だが、もう一度、確認を取ってみる」

 

 何を、誰に確認を取るつもりなのか。言葉足らずな姉が黙々とカレーを食べ始めてしまったので、聞くに聞けず、私もスパゲティの残りを頬張った。冷めて麺が少し固まっている。まあ私と違って優秀な姉なら任せておけば良い。と半ば思考放棄にも似た思いで麺を口に含んだ。

 周りから視線を感じる。今の戦車道の界隈では、西住流は勿論、姉の名も大き過ぎる。

 私も西住流の娘として頑張らなきゃなあ。と気乗りしないままスパゲティを完食し、席を立った。

 

「またね、お姉ちゃん」

「ああ」

 

 僅かに目を細める姉。それを見た私は口元を綻ばせる。

 少し軽くなった足取りで食器を返しに向かった。

 

「なんだ、その程度しか食べておらんのか?」

 

 食器を返す時、少し年寄り臭い口調で話し掛けられた。

 西澤詩織だ、私よりも頭ひとつ分も小さな女の子。まるで母のような黒色の長髪をしている。

 彼女のことを事前に知らなければ、中学生の低学年と間違えてしまいそうだ。

 

「食うも才能、戦は体力勝負。しっかり食わねば、戦場では体力が持たんぞ」

 

 そう告げる彼女のトレーには空になった丼物ひとつに大皿ひとつ、更に汁物の器も載せてある。

 

「ちょっとちょっと! 詩織、彼女が誰だか分かってるの!?」

 

 その彼女の背後からは茶髪でツインテイルの女の子が慌てた様子で声を掛ける。

 西住流の名は、黒森峰女学園の中では特に大きかった。

 こんな親の威を借るような形で特別扱いされたくはないんだけどな。

 

「ああ、知っておるよ」

 

 彼女はトレーを返却口に返した後、少し気落ちする私の頭に彼女の手が乗せられる。

 

「御家が大きいと子は大変だろう。よく頑張ってるね」

 

 背伸びをし、にかりと笑う彼女に周囲がザワリと騒然とする。

 しかし事の張本人である彼女は、周囲の視線も気にせず、ケラケラと肩を揺らしながら食堂を後にした。慌てて追いかけるツインテイルの子、名前は楼レイラ。私と同じ内部進学組だ。中等部の時、あんまり彼女は言葉を交わせなかった。引っ込み思案な性格が祟り、他の子とも仲良くできた子は少なかった。

 頭を撫でられた感覚がまだ残っている。

 そういえば、最後に撫でられたのは何時だったけな。母に褒められた時のことが思い出せない。

 暫し、ポケッとしてると「なに突っ立ってんのよ」と不満顔の元副隊長に睨まれる。

 私は笑って誤魔化して、食器を返却口に戻すのだった。




■楼レイラ
出典はフェイズエリカ。
エリカの腰巾着として書かれるが、原作には出て来ない子。
中等部の頃はレギュラーだったけど高等部に入ってからはレギュラーから落ちてしまっている。
まあ一年やからしゃーない。かと思えば、原作では姿が見せないので二年時もレギュラー落ちしてる可能性が高い。
世界線が違うだけだと思うけど。
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