全国大会の準決勝、対サンダース大学付属高校戦が開始される。
観客席の一角には黒色の制服、機甲科の生徒のほとんどが応援の為に駆け付けていた。そこから少し離れた場所で私は箱詰めのピザを堪能している。たっぷりと乗せたチーズは熱く蕩けており、少し辛めのトマトソースに贅沢に乗せた大量のハム、その美味しいの暴力とも呼べる品を豪快に噛みついてもっきゅもっきゅと頬張った。
そんな私の口元を横からティッシュで拭いてくれるのは赤星小梅、反対側の席には小島エミが腰を下ろしている。前の席には楼レイラと不機嫌な顔をした逸見エリカが座っており、私の後ろではアンツィオ高校の制服を着たアンチョビとカルパッチョ、ペパロニが仲良く腰を下ろしていた。
このピザは彼女達が試合前に作ってくれたものである。
「というか、なんで他校の生徒が一緒に居るのよ!」
「……ピザ、食べたいのかい?」
「いらないわよ! 別に欲しくて言った訳じゃない!」
むう、と私は口先を尖らせてチーズとハムたっぷりのピザを頬張る。
隣に座っている小梅とエミは、もう既に一切れ頂いた後であり、レイラは私が勧めるまでもなく手に付けていた。ちなみに私の真後ろに座る金髪のカルパッチョは退屈なのか私の髪を編み込んで遊んでいる。それに釣られてアンチョビは私の髪を二つ縫いにしてみたり、ペパロニは耐え切れずに爆睡してしまったりと自由に過ごしていた。
もうすぐ試合が始まるので先に手洗いを済ませてしまおうか、と空になった箱を手に取る。
「仲良くするんだよ」
「だから、なんでこいつらが一緒なのよ!」
「同じ戦車好きの誼だねえ」
「というか何処の高校なのよ!」
「それは流石に傷つくなあ~」
エリカの物言いにアンチョビが苦笑した。
彼女達が所属するアンツィオ高校は、全国高校生大会が初めて開催された時に参加していた高校のひとつであり、気付いた時には参加校から消えてしまっていた。それが去年、久しぶりに全国大会に参加する事になった。去年、今年と二年連続で初戦敗退してしまっているが、観ていて気持ちのいいチームだった。黒森峰の二回戦を観戦した後キャンプを張っている彼女達に遭遇し、そして夕食に招待されたのだ。とっても美味しい食事であった。その時に連絡先も交換し、今日もまた観戦している事を知ったので合流する流れになる。
お腹もいっぱいになり、ふわりと欠伸を零しながら厠までふらふらと足を運んだ。
◆
「それで、どういう関係なんだ?」
友達の友達は最早、他人だ。
エリカと呼ばれていた黒森峰の生徒が私達の事を剣呑に睨み付けた。
まるで狂犬のようだと思いつつも「友達だ」と返す。
最初に彼女、西澤詩織と出会ったのは黒森峰女学園の第二回戦の後の事だ。
これも勉強だと戦車道チームの仲間達を連れて試合を観戦しに行くまでは良かったが、感覚派の多いアンツィオ高校の面々だと試合時間の長い展開だと我慢が利かなくてカルパッチョを除いた皆が途中で脱落してしまった。試合の後、何時もと同じように野営で食事を摂っていると何時の間にか紛れ込んでいた女の子がいた。見た目からして初等部か中等部、黒森峰女学園の制服を着ているので中等部だと推測できる。
カルパッチョにスパゲティを御馳走されている彼女に事情を聞けば、戦車道の試合を見に来たとの事だった。その帰りに小腹が空いたので美味しい匂いのする方へと足を運んでみるとパーティーが開催されており、カルパッチョに誘われて参加したとのことだ。
この事をカルパッチョに問い詰めれば「あれ、そうでしたっけ?」と首を傾げた。こいつ……!
「ま、いいじゃないですか! 細かいことなんて!」
だっはっはっ、と笑うカルパッチョに拳を握り締めたのは記憶に新しい。
あまりにも美味しそうに料理を平らげる為、先ずは腹を満たしてやる為に私が秘伝の鉄板ナポリタンを御馳走した。するとラザニアとアクアパッツァを食べた後であるにも関わらず、ものの数分でペロリと平らげてしまった。まだ余裕がありそうだったので、何処まで食べられるのか気になって次から次に食事を用意してやれば、フードファイトさながら胃袋が2つあるんじゃないかってくらいの量を小さなお腹に収めてしまった。流石に悪ノリで食べさせ過ぎたかも知れない。と思いはしたけども、ポンポンと満足げにお腹を叩く少女の姿を見て「ま、いいか」と深く考えるのをやめた。
最終的にCV33を走らせて、出航間近の黒森峰女学園の学園艦に送り届ける。
去り際に連絡先も交換する。
その時、初めて聞いた名前が西澤詩織だった。
前回の反省も踏まえて、今回はカルパッチョとペパロニの二人を連れた少数精鋭での観戦。黒森峰女学園の試合だったこともあり、観客席での合流が決まったのが少し前の事。詩織の指示した場所に行ってみれば、彼女の友達と思しき他の黒森峰の生徒も一緒に観戦する事になった。
だから、文句を言うなら私じゃなくて詩織に言って欲しい。
そんな事を思っていると詩織がトイレから戻り、試合が開始された。
「相変わらず、黒森峰の陣形は綺麗だなあ」
試合開始直後、15輌の戦車が一糸乱れぬ動きで前進する姿は、それだけで芸術的だ。
実際、陣形を維持する能力ってのは大切だ。特に黒森峰女学園のように重装甲で高火力、高機動の戦車を揃えられるのであれば、正面装甲の厚い戦車を前面に押し出しての前進。接敵後、素早く戦車を展開し、火力を一点に集中させる意味でも効果的な動きといえた。
しかし、この動きは
「アンツィオが観るべきは、みほの小隊だよ」
前の席に座る詩織が告げる。
そのすぐ後で4輌のⅢ号戦車J型が西住まほが率いる本隊から外れた。隊列を気にせず、速度を重視した行進。しかし互いに援護をできる距離を維持しており、不思議と連携が取れているように見えた。それを成立させているのはキューポラから身を晒す少女が乗った戦車。3輌の中心を走り、絶妙な距離感を保ち続けている。
その少女の顔がまほと雰囲気が似ていることに気付いて、彼女が詩織のいうみほだと察した。
「チハでもやり方次第じゃシャーマンにだって勝てるんだ」
そう呟く彼女の横顔は、妙に説得力が込められていた。
結果としてサンダース大学付属高校は、Ⅲ号戦車J型の小隊による側面攻撃に翻弄される事になる。火力の半分近くを側面への対処に使ってしまった為、まほ率いる黒森峰本隊の攻撃に耐え切れず、真正面からすり潰される事になってしまった。結果は圧勝。黒森峰の練度は高いし、まほが突っ込んだタイミングも良かった。
しかし、この戦果を出した最大の功労者は、相手の矛先を変えたⅢ号戦車J型の小隊によるものだ。
「戦いは火力じゃない、おつむの使い方なんだ」
個々の意識の高さが練度に繋がるのだと詩織が口にする。
何故か隣に座るペパロニが目を輝かせていた。
こいつ、最後の正面衝突以外はほとんど寝ていた気がするんだけどな。
カルパッチョだけが私の心の癒しである。
いや、良い奴らなんだよ。
自分の気持ちに素直な子が多いのがアンツィオ高校の良い所なんだよ、うん。
私も、この学校が大好きだし。