非合法ロリばあちゃん。   作:にゃあたいぷ。

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6話.戦闘開始。

 獣道ですらもない荒野を計20輌の戦車が砂煙を上げて直走る。

 今日は遂に来た戦車道全国高校生大会の決勝戦、敵はソ連戦車が中心のプラウダ高校。私、西澤詩織も予定通り、メンバーの一人として選ばれている。先頭を走るティーガーⅠを中心に展開した陣形は鶴翼、まだ接敵の危険のない今は速度重視で相手との距離を詰めている。そんな先輩方の背中を独逸の有名な行進曲である旧友を口遊みながら追いかける。

「余裕がありますね」と私に声を掛ける我らが戦車長殿、赤星小梅の言葉に対し「最短でもまだ接敵しないからね」と返す。「そうですか」とキューポラから外を眺める彼女の声は震えていた。初めての実戦、それが黒森峰女学園の全国大会十連覇の掛かった決勝戦ともなれば、無理もない。「今から気を張り詰めていても持たないよ」とだけ告げて、先頭車輌を視界の端に収めながら悠々と戦車を操縦する。

 暫く走らせていると『私達は本隊を離れて、別行動を開始します』と副隊長殿から通信が入る。

 みほが乗るⅢ号戦車J型の後に続くのは、私を含めた計3輌の中戦車。まほ隊長が率いる本隊が敵本隊を食い止めている間に、副隊長が率いる小隊が横を駆け抜けて敵本隊の背後に出る。そこから先は副隊長が得意とする撹乱攻撃、相手の意識を自分達に向けさせる事で味方本隊を援護し、黒森峰が誇る超火力で敵を薙ぎ払うって寸法だ。とはいえだ、敵将のカチューシャは優秀だ。準決勝で使った副隊長の戦術を知っているし、副隊長が囮だと看破する可能性が高い。だから今回は副隊長がフラッグ車を任されている。

 戦車の数と質で上回るなら我らが隊長殿に万に一つの負けもない。西住まほは、それだけの傑物である。同様にみほも傑出した能力を持っている。本気で逃げを打った時の彼女を捕まえるにはカチューシャレベルの人間が必要だ。そしてプラウダ高校には、カチューシャ以外に指揮能力に優れた人物は居なかった。

 カチューシャの居ない敵本隊など我らが隊長殿の敵ではない。

 勝率の方程式は確立されている。

 懸念材料は、ふたつ。ひとつは風が強く、空気が冷たくなり始めた事。途中で大雨が降る事を予見する。

 もうひとつは、カチューシャもまた傑物だということだ。

 

 

 戦闘区画。黒森峰女学園の初期地点から丁度、対角線上にあるプラウダ高校の初期地点より20輌の戦車が一糸乱れぬ統制で進軍を開始する。

 今日の大一番が始まるまでプラウダ高校の隊長を務めるカチューシャは頭を悩ませ続けていた。準決勝で黒森峰が見せた部隊をふたつに分けた撹乱作戦。今のプラウダ高校には、真っ当な手段で敵陣の後方で展開する西住妹の部隊を止める手立てがない。それは単純に部隊長の差、西住姉に負けず劣らずの指揮能力を持つ西住妹に対応できる人材が自分以外にいないのだ。そして、それは勿論、プラウダ高校の本隊を率いて、西住姉が率いる敵本隊と撃ち合える指揮官が居ないことにも繋がっている。

 根本的に優勝常連校の黒森峰とは地力に差があった。

 

「前門の虎後門の狼とはよく言ったものね」

 

 カチューシャは呟き、そして黒森峰が居るであろう方角を見据える。

 手が足りていない。試合の開始前から詰んでいる現状、プラウダ高校が黒森峰女学園に勝つ為には何処かで博打を打つ必要がある。というか西住姉だけでも手に余るってのに妹まで居るのは羨ましいを通り越して、卑怯だ。かといって愚痴る事に意味はなく、蜘蛛の糸ほどに細い勝ち筋を延々と手繰り寄せなくてはならない。ピンと張られることもなく、緩んだ糸を手応えなく手繰り寄せ続ける。

 だからカチューシャは正攻法を投げ捨てた。

 善戦する事に意味はない。と一歩だけでも勝利に近付く為に暗闇の中に歩を進める。

 

「ナターリア ! 三年生の意地くらいは見せてよね!」

『これでも三年間、先輩方の打倒黒森峰に付き合わされて頑張って来たんだから! やってやるわよ!』

「……ネガティブなのか、ポジティブなのか、わからないわね」

 

 戦意がないよりはましね。と自棄気味な先輩との通信を切り、自分は自分の役目に集中する。

 作戦はこうだ。3年生を中心にした本隊が敵本隊と真正面からぶつかり、時間を稼いでいる間に西住妹が率いる別働隊を捜索し、発見次第これを撃滅。後、敵本隊の後方に部隊を展開、前後に挟んだ鉄床戦術を以て敵を撃滅する。西住妹を見つけられなかった時は、どちらが先に敵のフラッグ車を撃破するかの競走だ。正直、分の悪い賭けになる。そもそもだ。西住妹を撃破してもナターリアが西住姉の猛攻に耐え切れるとも限らない。

 兎に角、速度。即断即決、速攻、鎧袖一触の瞬殺、撃滅。撃滅せよ。速度が、全てを解決する。

 

「正直、この試合。勝ち筋なんて見えないのよね」

 

 ポツリと零した弱音。首を振って、前を見据える。

 結局、勝ち目を見出すことができなかった。どれだけ考えても必敗の二文字に行き着いた。

 しかし、それならば、試合の中で勝機を見出せば良いだけの話だ。

 キューポラから身を乗り出す。

 両目を見開いて、僅かな情報も見逃さないように注視する。

 全ては、この日、勝つ為に努力を積み重ねてきたのだ。

 運が悪い、生まれた。西住姉妹が居る時代の生まれが不幸の始まり。

 そんなものは全て、このカチューシャ様が捻じ伏せてやるのだ!

 

 

 ポツリと戦車の装甲に水滴が落ちる。

 空を見上げれば、まだ白い雲が覆い尽くすだけだ。しかし遠くを見れば、暗雲が空を流れている。

 風が強い。天気予報は確認していた、雨が降ることも分かっていた。

 だけど、予定よりも早く、雨が降りそうだ。

 予報よりも強く。

 

「……荒れるな」

 

 私、西住まほは気を引き締める。

 撃てば必中、守りは堅く。進む姿は乱れなし。

 鉄の掟、鋼の心。それが西住流だ。

 咽喉マイクのスイッチを入れて、指示を出す。

 

「雨が降る、それも大きな雨だ。だが、整然と行進せよ」

 

 一度、息を吸い込んでから告げる。

 

「恐れる事はない、ここには私が居る」

 

 何時も通りだ。と荒地を進むティーガーⅠの振動を感じ取る。

 この戦車には、三角旗がなかった。




■ナターリア
出典、プラウダ戦記。三年生。
原作ではカチューシャと内ゲバして、途中離脱する。戦車道エンジョイ勢だが、地味に逃げるのは上手かったりする。
前に作品で扱った時に、かなり頑張ってくれた子で好きになったので、今回もゲスト的に登場。
三年生なので作中では、これが最初で最後の試合。
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