前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第98話『皇太子グラスフェッド』

 

 

 

 

 

 俺は自分の拳を見つめながら軽く驚いていた。

 いや、だって、あっちの世界でもなかったくらい気持ちよく全力が決まったからさ。

 俺が本気で殴ったのを正面から受け止めるとこうなるんだ……。

 

 前世だと俺の力量は大抵の連中が把握していたから、敵対したやつがプロレスみたいに避けずにいるなんてことはなかった。

 

 相手を追いかけながら食らわすのと、止まっている相手にしっかり踏ん張って真っ向から一発ぶち込むのじゃ後者のほうが当然威力は高くなる。

 

「こういう感じになるんだぁ」

 

 木っ端微塵――比喩ではなく、まさにこれこそがそうなのだと言える現象を俺は生まれて初めて見たのだった。

 

「しんじょー……」

 

 鳥谷先輩の声を聞いて俺は振り向く。

 

 鳥谷先輩は一戦終えた俺に潤んだ視線を送ってきていた。

 

「鳥谷先輩……」

 

 もしかして怖がられてしまったか?

 

 正直、現代ならフィクションレベルのモンスターを一撃で倒してしまったし。

 

 力の底を見てくれと言って着いてきてもらったが、そうなる可能性も危惧しておくべきだったかも……。

 

 だが、

 

「しんじょー! めちゃくちゃすごかったぞ! わたしは今……猛烈に感動している!」

 

 鳥谷先輩は涙をボロボロ流し、手の甲で拭いながらそう言った。

 なんだ感激して泣いてるだけか……。

 感動する要素はよくわかんないが。

 

「こんな圧倒的な力を持つ人間がこの世界にいたなんて……。今まではわたしのパパ……じゃなくて父さんが最強かと思ってたがお前は明らかにそれ以上だ……! 素晴らしい! Meraviglioso!」

 

 興奮して思わず出た感じのネイティブな外国語の発音はまったく聞き取れないけど。

 

 怖がられてないのならよかった。

 俺の心配は杞憂だったようだ。

 てか、鳥谷先輩の父親って強いのか。

 

 まあ、マフィアの人なんだからそりゃそれなりに戦えてもおかしくないよね。

 

 

「な、紅鎧が消えた……? 一瞬であの巨体が……一体どうなって……?」

 

 

 そういえばいたなと思い出すレベルで途中から空気だった鼠耳の少女ガッツが現実を受け止めきれない様子でブツブツ言っていた。

 

 目が変にキマッた感じになって錯乱しているようだがしっかりしてくれよ?

 

 君は地下都市側の見届け人なんだから。

 

 

 

 感極まっている鳥谷先輩を宥めてから俺たちは地下都市のゲートに戻ることにした。

 その道中でこちらの増援に来ようとしていた結城優紗やグラスたちと出会った。

 どうやらあっちもケリがついていたようだ。

 

「もう! ちょっと聞いてよ! あたしが全部片付けてあんたに褒め……自慢しようと思ってたのにグラスさんが最後の美味しいところを持って行っちゃったのよ!」

 

 プンスカしている結城優紗の話によると、最後の四天王は最後っ屁というか悪足掻きで紅鎧みたいに突然謎のパワーアップをしたそうだ。

 

 サイズが紅鎧のようになったわけではないが、動きがよくなって聖剣でも両断できない硬質な表皮を得てしまったのだとか。

 

 結局、結城優紗が引きつけて翻弄しているところにグラスが一族秘伝の奥義というのを叩き込んでトドメを刺したらしい。

 

 奥義ってどういうのなんだろうと気になったが、質問するタイミングを逃したのでそれは聞けずに終わった。

 

「ユサ殿はコアの位置を正確に把握できたのでな。彼女の指示があったおかげで極夜のコアを一直線に貫けたよ」

 

 手柄を横取りされたとグチグチ言われていたにも関わらず、グラスは結城優紗を立てるような言い回しを選んでいる。

 

 人としての器の違いが明確ゥ。

 てか、そういや熊人族ってのはコアというのがあったんだっけ。

 それを壊さないと強くなって再生しちまうんだったか。

 

 アレ? 俺、よく考えたらそんなの確認しなかったけど大丈夫か……?

 

 グラスたちに相談した結果、紅鎧は肉片すら残ることなく消失したので恐らくコア部分も一緒に破壊されているだろうという結論になった。

 

 念のためグラス率いる忍者部隊が戦闘を行なった付近をしばらく見回りするそうだが、仮に生きていても当分はとてつもなく弱体化しているそうなので俺の手を煩わせることはないと言われた。

 

「じゃあ、これでもう地上を攻めようなんて輩はいなくなったから解決でいいよな?」

 

 紅鎧は俺が討ち、その配下の幹部も全滅した。

 

 一般兵は生きているやつもいるだろうが、先導者ポジのやつがいなければさすがにもう決起することはできないはずだ。

 

「ああ、そうだな……。此度のそなたらの協力により、我らメリタの民は犠牲をほとんど出さずに争いを終結させることができた」

 

 そう言うと、グラスは膝を着いて俺たちに頭を下げる。

 

 お供としてついてきていた忍者たちがちょっと尋常じゃない感じでざわつき、一斉に慌てて同じように膝を着けた。

 

 なんなの? この彼らの天変地異を目撃したような空気は。

 

「そなたらには大恩ができてしまった。この多大な慈悲は生涯忘れない。キョクロン王室直系、皇太子グラスフェッドの名において、我々地下都市メリタはそなたらに永遠の感謝と親愛を捧げることを誓う」

 

 真摯な視線を俺たちに向けて、グラスは恐らく最大級の謝辞を述べてきたのである。

 

 いや、こうたいしってあんたさぁ……。

 

 そりゃ王族が膝着いたら周りの連中も天地がひっくり返ったような態度になるわ。

 

 

 

 

 

 ちなみにその後の地下都市の民たちについてだが――

 

 どうやら鳥谷先輩の両親が公安の偉い人と面識があるらしく、そのツテで地下都市と日本政府が会談をする機会を取り持ってくれることになったようだ。

 

 まあ、いきなり『地下都市に住んでた民なんですけど……』とか言ってその辺の一般人に声をかけてもスムーズに話は進められなかっただろうから、顔を繋いでくれる存在を得られたのは彼らにとってよかったんじゃないかな。

 

 あっ、国の偉い人が介入するなら紅鎧が暴れた痕跡も騒ぎにならないよう揉み消してくれるよね……?

 

 あの熊ヤロー、結構派手に破壊活動してくれちゃったからさぁ。

 

 権力者は目玉焼きに醤油をかけるくらいの気楽さで情報操作をやっているはずという偏見に基づいて俺はそんな期待をした。

 

 

 

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