前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第115話『カルロッタ』

 

 

 

 

 

 ガブリエーレさんに案内されて俺と江入さんはリビングに入る。

 やはり高級マンソン! リビングも圧巻というものだった。

 だってほら、まず床が大理石ですわよ! ツルツルですわ! 真っ白ですの!

 

 天井まである大きなガラスサッシは開放感があって、夜景になりつつある都会の景色がよく見える。

 

 これなら花火大会もいい感じで見物できそうだ。

 

「おっす、よく来たな! 他のみんなはまだ来てないぞ!」

 

 リビングのソファに座った鳥谷先輩が元気よく出迎えてくれた。

 彼女の格好は合宿初日のような白ワンピではなく普通にカジュアルな夏服だった。

 あれはやはり旅行用の服だったのだろう。

 

 そういえば万が一のことが起こらなかったので出番がなかったロケットペンダントは今も鳥谷先輩の首元に飾られている。

 

 普段使いしてくれてるってことは気に入ってくれたのかな。

 

 渡した物が喜ばれているのは素直に嬉しいね。

 

「ケイティ、この子が今の馬飼学園のボスなの?」

 

 鳥谷先輩の隣には謎の金髪ブロンド美女が鎮座していた。

 

 鳥谷先輩の身長を20センチほど伸ばして10歳ほど大人にしたような欧州美人である。

 

 この人は誰だ……?

 鳥谷先輩と一緒に座っている距離感からすると使用人などではなさそうだ。

 姉とか従姉だろうか。

 

 なんて思っていたら、

 

「Piacere! ケイティの母のカルロッタよ」

 

 ブロンド美女は朗らかな笑顔でそう挨拶してきた。

 母親……? えっ? 母!? 何歳……!? 

 年齢を訊ねるのは失礼なので控えるがめっちゃ気になる……。

 

「あ、どうも初めまして新庄怜央です。ケイティ先輩にはいつも大変お世話になってます」

 

 俺は内心の動揺を押し隠しつつ、なんとか挨拶の口上を述べた。

 

「江入杏奈です」

 

 江入さんも会釈をして最低限の礼儀は果たす。

 

「マンマ……母さんがさ、ちょうど用事で日本に来てて、しんじょーが今日来るって言ったら会ってみたいって押しかけてきちゃったんだよ。飛行機の時間があるからすぐ帰ると思うけどごめんな?」

 

 鳥谷先輩が申し訳なさそうに両手を合わせる。

 

「は、はあ……」

 

 どうやら鳥谷母は俺を見物するためにわざわざ待っていたらしい。

 

 俺ってそんな面白い存在ではないと思うんだが……。

 

「だって、噂の『しんじょー君』が遊びに来るって聞いたんだもの。これは会っておくしかない! って思ったのよ!」

 

 鳥谷母はグッと親指を立ててウィンクを向けてきた。

 噂ってなによ……。

 というか、用事ってのはもしや地下都市の件についてか?

 

 そうならお礼の一つでもと思ったが、変に踏み込むのもアレだな……。

 

 裏社会の人の用事だし詮索してると思われたら怖い。

 

「ワタシは昔、日本の高校に通っていたの。で、ケイティの父親……夫とはその頃に知り合ったのだけど。彼は当時の馬飼学園のボスでね。だからケイティからもよく話題に出ていた今のボスがどんな子なのか気になっちゃって」

 

 鳥谷先輩の父親が馬飼学園の……?

 じゃあ鳥谷父は学校の先輩であり、馬王の先輩でもあるということか。

 なるほど、娘の後輩かつ自分の旦那の後釜がどんなもんか興味が沸いたって感じなのね。

 

「この子……ケイティは父親が語る高校時代の武勇伝を聞いて育ったから、自分も馬飼学園でトップになるんだーって聞かなくって。それで高校は日本で過ごすことになったのよ。お供の使用人も厳選して付けさせないといけなくて大変だったわぁ」

 

 おお……。

 実家がイタリアな鳥谷先輩がどういう経緯で馬飼学園にとは思っていたけど。

 まさか不良のトップを取るためはるばるやってきていたとは……。

 

 鳥谷先輩は想像していたより遥かに馬王ガチ勢だったらしい。

 

「去年までは『誰が強い』とか『あいつに勝ちたい』とか、そういう話をよくしてくれたんだけど最近は『しんじょーがすごい!』しか言わなくなって――」

 

「わーわー! やめろ! 変なこと言うなよぉ!」

 

 それまで母親に話をさせるがままにしていた鳥谷先輩が、慌てた様子で鳥谷母の口を塞ぎに行った。

 

「でも、しんじょー君はすごいんでしょう?」

 

 鳥谷母は鳥谷先輩をいなしながら面白がった様子で言う。

 

「ああそうだ! しんじょーはすごいんだ! 絶対にパパより強いぞ!」

 

 鳥谷先輩はなぜか鼻高々にそうのたまった。

 それってそんなドヤ顔で喧伝することか?

 まあ、あなたが俺を誇れる後輩だと思ってくれるなら別にいいですけど。

 

「あらあら、ケイティ、しんじょー君がお父さんよりも強いと思ったの? あんなにお父さんっ子だったのに。父親が娘の一番を取って代わられる……青春だわ……」

 

 鳥谷母……カルロッタさんはフンスと鼻を鳴らしている鳥谷先輩を眺めながら、うっとりとした表情を浮かべる。

 

 それはどこか過去を懐かしんでいるようにも見えた。

 

「けど、あの人が今日の話を聞いたらきっと大変ね……」

 

 …………。

 カルロッタさんがポツリと漏らした言葉に俺は面倒事の予感がしたが――

 いや、そんな学校の先輩の父親に会う機会なぞそうそうあることではない。

 

 そう思い直し、気に留めないようにした。

 

 

 

 

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