前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第117話『九月一日』

 

 

 

 

 花火大会の終了時刻となり、鳥谷先輩宅での鑑賞会もお開きとなる。

 いやぁ、セレブの世界から見る花火はまた一味違うものがあったなぁ。

 貴重な経験をさせて頂いた。

 

 

 

 

「あ、やべっ。スマホ置きっぱなしにしてきた」

 

 マンションを出て、途中まで歩いてから俺はスマホを鳥谷先輩の家に忘れてきたことに気付く。

 

「すまん、先に帰っててくれ」

 

「了解」

 

「まったくおっちょこちょいねー」

 

 帰り道が同じ方向の江入さんと結城優紗に声をかけて俺は元来た道を一人で引き返す。

 

 

 

 

 

 インターフォンで忘れ物をしたことを伝えると、鳥谷先輩がわざわざエントランスまで降りてきてくれた。

 

「おう、スマホってこれだよな? あったぞ」

 

 鳥谷先輩は俺のスマホを手でプラプラさせながら姿を現わす。

 

「ありがとうございます。いやぁ、すみません。わざわざ降りてきてもらっちゃって」

 

 俺はエントランスホールの椅子から立ち上がってスマホを受け取りながら礼を言う。

 

「いいよ、お前が上まで入ってくるならまたカードキー発行してもらったりしなきゃだし」

 

「お高いマンションって入るのにも一苦労なんですねぇ」

 

「ハハハ、じいちゃんが日本で暮らすならセキュリティがそれなりにしっかりしたところじゃないとって探してきた物件だからな」

 

 鳥谷先輩は軽い感じで言っているが、マフィアの孫娘が単身他国で暮らすのだから確かに安全性は重要視されるわな。

 

「まあ、面倒ですけど綺麗だし設備も整ってていいマンションですよね」

 

「ふーん、しんじょーはこういうところに住んでみたいと思うか?」

 

「え? そりゃ憧れはしますかね。人生の勝利者って感じがしますし」

 

 俺は採光の優れた眺めのいい景色やディスポーザーつきだという最新のキッチンを思い返してそう答えた。

 

「ふっ、ひょっとしたらそれはお前の選択次第では叶うかもしれないぞ」

 

「え? どういう意味です?」

 

 俺は鳥谷先輩の含みありげな言葉に首を傾げる。

 

「さーて、どういう意味だろうな」

 

 鳥谷先輩は煙に巻くような返答をしながら悪戯っぽくクスクスと笑う。

 

 見た目はちっさいのにこういう駆け引きの一面がなんか歳上の余裕っぽさを感じさせるんだよなぁ。

 

 いや、前世含めたら俺が余裕で歳上っすけど。

 

 そういう無粋なことは言わないでくれな?

 

「じゃ、また二学期に学校で会おうぜ!」

 

 ニカッと並びのいい白い歯を見せると、鳥谷先輩はエレベーターホールのある方向に去って行き勝ち組たちの住まう世界に戻っていった。

 

「…………」

 

 で、どういう意味やったん?

 ま、いいか……。

 帰ろ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 九月一日になった。

 

 夏休みが終わっていよいよ二学期の到来である。

 

 俺は一学期にはできなかったクラスでの立ち位置改善を目標に新学期をスタートさせていこうと意気込んで登校した。

 

 二学期はクラス全体で協力して行なうイベント……文化祭もある。

 

 充実した青春を語る上で絶対に欠かせないそいつを十全に楽しむため、できれば今の浮いた状態は早々に脱出しておきたいところだ。

 

 下駄箱で靴を履き替え、花園一派の三人や鳥谷先輩の派閥の不良さんたちに声をかけられて挨拶を返したりしながら俺は階段を上って廊下を進んでいく。

 

 教室の扉の前に着いたとき、俺は言い知れぬ緊張感に襲われた。

 やべえ、なんか胸がドクドクするよ。

 かつて勇者たちが魔王城で俺の待ち受けるに居室に入ってくる直前はこんな気分だったのかな……。 

 

 今度、結城優紗に訊いてみるか。

 

 

 そして。

 

 俺は新たなる青春の1ページを求めて教室の扉を開けた――

 

 

 

 

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