前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第119話『協定』

 

 

 

 教室と同じフロアにある男子トイレ。

 

 俺はそこに設置してある小便器の前で佇み、尿管から老廃物を含んだ水分を排出する作業をしていた。

 

 作業を開始してからコンマ数秒。

 ぞろぞろと五人くらいの男子生徒がトイレに立て続きに入室してくる。

 おっ、連れションか?

 

 だが、申し訳ないね。

 このトイレに小便器は5つのみ。

 今は俺が真ん中の一台を使用しているので全員が一斉に済ませるのは不可能だ。

 

 悪いけど、ちょっと待っててくんな。

 心の中で謝罪してから俺は気がつく。

 待てよ……!?

 

 彼らが全員同じタイミングですることに固執せず、一人を残して四人だけが先に使い始めたらどうなる……?

 

 両サイドをよく知らないやつらに挟まれてしまうのでは……!?

 俺は一転して緊張感に襲われた。

 どっちも他人同士ならば構わない。

 

 だが、右側に立ったやつと左側に立ったやつが知り合い同士で俺がその二人をよく知らないというのはダメだ……。

 

 そういう状況はなんか落ち着かない。

 

 もし彼らが会話し始めたら、彼らの言葉のキャッチボールの間にサンドイッチされてる俺はどんな気持ちでいればいい?

 

 くう……誰もいないからって贅沢に真ん中の便器を使うんじゃなかった。

 まあ、気にしない人もいるんだろうけど。

 俺はちょっと気になっちゃうんよ。

 

 彼らの選択にそわそわしながら水分を解き放ち続けていると、なぜか彼らは便器には向き合わず、俺の背後に立ってぐるっと囲んできた。

 

「よう、新庄くーん」

「やあっと一人になりやがったなぁ?」

「へへっ、こうなるタイミングを待ってたんだぜぇ」

 

 右肩に肘を乗せて馴れ馴れしく話しかけてくるやつ。

 ガムをくちゃくちゃ噛みながら左肩に手を乗せて強く掴んでくるやつ。

 謎の距離感で謎のスキンシップをされてしまった。

 

 え? なにこいつら? マジなに……? あーん、なんなのぉ~!?

 ちょ、トイレで一人になる瞬間を待っていた?

 触ってくるやつもいて、そこはかとなくニヤニヤ笑っている……。

 

 まさか!?

 

 俺はぞわっとしつつも、動じていないフリで水分放出作業を継続する。

 

 体内から湧き出すこれは途中で停止することができないものだ。

 いや、やろうと思えばできるけどツライじゃん。

 あと少し、あと少しで終わる……! 早く、早く――!

 

「おいおい、どうしちゃったの新庄くーん? そんな固まっちゃってさぁ。クラスメートが話しかけてるんだから無視すんなよぉ」

 

 よく見れば五人のうちの二人――両サイドで俺の肩に触れている二人は見覚えがある生徒だった。

 

 確か同じクラスの池永(いけなが)君と沼地(ぬまち)君。

 

 二人は男女混合の仲良しグループに所属し、休み時間などは教室でワイワイしている陽の者だったと記憶している。

 

 他の三人は知らないな……。

 

 だが、合同授業の体育で顔を見た覚えがあるので恐らく他クラスの同級生だろう。

 

「まったくよぉ、一学期に抜け駆けしやがったと思ったら、二学期はクラスであの結城ちゃんをクラスに呼びつけて見せつけてくれちゃったりよぉ。ラッキーパンチで馬王になれたからって調子扱きすぎじゃない?」

 

 池永君は教室とは微妙に雰囲気の違うオラついた態度で俺にそう言ってくる。

 なぜ俺はこんな因縁をつけられているのだろう。

 あれ?

 

 というか、馬王になった俺にここまで強気で絡んでくるってどうなってる?

 あとラッキーパンチとは?

 彼は俺が花園を放り投げた瞬間を見ていなかったのだろうか?

 

 あるいは見ていたが、現実離れしすぎていたので心の平穏を保つために記憶から抹消してしまったか……。

 

 覚えていたならあれをラッキーパンチとは言わないはずだもんな。

 

「せっかく今年の一年生で協定を結んで、三年生の四天王たちが卒業するまでは大人しくしてようって取り決めてたのによぉ。中学時代まで無名だった高校デビューヤローにすべてを持って行かれるとは想定外だったぜ」

 

 池永君がそう言うと、他の面子が頷いた。

 

「協定……? 取り決め……?」

 

 意味がわからず俺が繰り返すと、

 

「ああそうだよ。四天王は四分の三が最高学年だろ? 現三年の三人がいなくなる来年まで待てば上の学年は鳥谷ケイティしか主立った派閥がない不作の世代だけになる。下手に一年生のうちから動いて四天王に潰されたらたまらねえからよ。今年いっぱいはシャバい生徒のフリしてようぜってオレらは入学式の日に校舎裏で集まって話し合ってたんだよ」

 

 池永君が俺を睨みながらペッと床に噛みきったガムを吐く。

 

 うわ、きちゃない。

 

 

「なのに! そんなオレらの我慢を全部台無しにしてくれやがって!」

「ハッタリや騙し討ちで月光や花園を負かしただけで馬王を掠め取りやがって!」

「オレらはお前が学年トップだなんて認めてねえからな!」

 

 

 名も知らぬ他クラスの同級生三人が俺を罵ってくる。

 ふむ。

 要約すると……。

 

 こいつらは普通の生徒のフリをしていたヤンキーということなのか? 同学年にヤンキーっぽいやつらをあまり見かけなかったのは、協定とやらに基づいて四天王に目を付けられないよう身を潜めていたからだったと?

 

 

「あのさ、一つ気になったんだけど、集まるって……入学式でなんでいきなりそんな団結力が?」

 

 

 俺は話を聞いていて思った疑問を彼らにぶつける。

 

 お互い初顔合わせで自己紹介もしていない入学式でどうやってヤンキーかそうでないかを認識して集まれたのだろう?

 

 

「はあ? 今時は入学前にSNSとかで繋がっておくもんだろ?」

 

 当然のように言われて俺はヘコんだ。

 そ、そうなんだ……。

 そういうので事前に交友関係育むんだ……。

 

 ヤンキーでも知ってることを俺は知らなかった。

 

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