前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第13話『丸出真帆』

 

 

 

 放課後。

 

「あの、新庄君? ちょっといいかな……?」

 

 俺が帰り支度をしていると、綺麗な黒髪をしたクラスの女子が声をかけてきた。

 

 うーん、この子、どっかで見たような?

 

 彼女が俺に話しかけたことで教室に残っていた生徒たちがギョッとしたのがわかった。

 

 やめなよーとか、骨を粉々にされるとか、ママになっちゃうとか。

 散々なことを囁かれている。

 俺ってもうそこまでの存在に昇華したのね……。

 

「新庄君、しょ、将棋はお好きですか!」

 

 風評を実感してナイーブな気持ちになってきた俺に黒髪の女子は謎な質問をしてきた。

 

「いえ、別にそこまでは」

 

「そ、そうですか……」

 

 正直に答えると、少女はすごすごと去っていった……と思いきやUターンして戻って来て、

 

「ボクシングはお好きですか!」

 

 また別の質問をしてきた。

 

「特に興味ないです」

 

「あう……」

 

 再びすごすごと去って……いや、さっきよりも早く切り返して戻ってきた!

 一体、なんだというのだ? 都会で流行っている遊びなのか?

 

「読書は好きですかっ!」

 

「それは割と好きです」

 

 村じゃやることがなかったからね。

 図書館とかで本はそれなりに読んでた。

 最近はインターネッツにハマってるから疎遠になってるけど。

 

 黒髪の彼女は俺の返事が望むものだったのか、小さくガッツポーズをして、

 

「だったら、私の所属している部活に入りませんか?」

 

 そんな誘いをかけてきたのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 部活に勧誘された俺は教室を出て彼女と二人並びながら廊下を歩く。

 

 とりあえず部室に来て欲しいのだという。

 

「えーと、その……」

 

 どうしよう、俺は彼女の名前を知らないのだ。

 

 多分、他の人たちは入学式の翌日に自己紹介とかをしたんだろうけど。

 

 俺はそこに参加していなかったから、クラスメートの名前を覚える機会を得られずに終わっているのである。

 

「あ、そっか、まだ自己紹介してなかったね。私は丸出真帆(まるでまほ)です。ほら、入学式の日に助けてもらった……」

 

 ああ! あの時のお下げの彼女か!

 髪の毛を下ろしてストレートにしていたからすぐ気づけなかった。

 同じクラスの子だったんだな。

 

「ごめんね、新庄君。本当は昨日すぐに声をかけなきゃって思ってたんだけど……。あの花園って人にまた絡まれたらと思うと勇気が出なくて……」

 

 俯いて申し訳なさそうに言う丸出さん。

 

「いや、それは仕方ないよ」

 

 実際、鳥谷先輩が介入してこなかったら花園の子分たちは俺にちょっかいをかけ続けていただろうし。

 

「あの時、新庄君が助けにきてくれてすごくホッとしたの。周りの人たちは知らんぷりで通り過ぎていくだけだったから。ちゃんとお礼も言いたくて……」

 

 彼女がこうやって救われたと感じてくれてるなら、俺の行動も無駄じゃなかったと思える。

 

 もしあそこでスルーしていたら、丸出さんは今のように平穏な学園生活を送れていたかわからなかったのだ。

 

「ところで部活って、どうして俺を……?」

 

「えーと、ほら、新庄君はまだ部活に入ってないと思ったから? もちろん新庄君が他に入りたい部活があるなら無理にとは言わないけど……」

 

 丸出さんは少し心を痛めたような面持ちで、取って付けたような理由を述べた。

 

 もしや、彼女は教室で孤立している俺に居場所を作る機会を与えてくれているのか?

 

 そして俺の現状が自分のせいだと思って責任を感じているのだろうか?

 

「けど、いいの? 俺ってあんまいい噂されてなさそうだし」

 

「大丈夫! 部員の皆は私が連れてきたい人ならいいって言ってくれたから!」

 

 丸出さんの部は心の広い人たちばかりなんだな……。

 

 それとも丸出さんが信頼されているのか。

 

「じゃあ、ちょっと見に行くだけさせてもらおうかな」

 

「本当? 見に来たらきっと新庄君も気に入ると思う! 居心地だけはいい部だから!」

 

 居心地だけは……?

 そこはかとなく含みを持たせた言い回しである。

 でも、丸出さんが所属している部だし。

 

 俺を受け入れてくれるような優しい人たちが揃っているならヤバいことはないだろう。

 

「そういえば今日はお下げじゃないんだね」

 

「あ、うん……あの人に気づかれたらまた絡まれるかもって思うと何かね……」

 

 丸出さんは髪を摘まみながら表情を暗くして言った。

 花園め……。

 こんな優しい女の子にトラウマを植え付けるとは。

 

 まったくもって許せん。

 

 全身複雑骨折はさすがに可哀想かもと思っていたけど何か妥当な気がしてきた。

 

「……もしかして新庄君は前の髪型のほうが好きだった?」

 

「え?」

 

 唐突に訊かれた質問に俺は間の抜けた声を出す。

 

「ごめん、やっぱり今のなしで……!」

 

 ほんのりと頬を染めながら早足で先に行ってしまう丸出さん。

 はあ……? 解答はしなくていいの?

 都会の女子はよくわからん。

 

 

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