前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第19話『椎茸を食べる程度には嫌だった』

 

 

 

「おい、こんなところで魔力を全力解放とか何考えてるんだ?」

 

「うるさい! うるさい! もういいわ! こうなったら討伐してやる!」

 

 砂埃を巻き上げて、結城優紗が立っていた位置から姿を消した。

 これは魔力を全身に行き渡らせて発動させる身体強化だ。

 高速で移動して俺を翻弄しようって魂胆か。

 

「くたばれっ!」

 

 俺の背後を取った結城優紗が魔力を纏った拳で殴りかかってきた。

 

 全部見えてるけどね。

 

「よいしょっ」

 

 手の平で易々とキャッチ。

 

「なっ! 受け止めた!? あんた、聖なる魔力が効かないの!?」

 

「あっちの世界でも効かなかったからお前は負けたのでは?」

 

 本音を言えば、前世では少し脱力する程度には効いていた。

 椎茸を食べる程度には嫌だった。

 でも、今は本当になんともない。

 

 身体が人間になったからだろうか?

 

「弱い魔族には効くけど、俺には効かないってあっちでも説明したよな?」

 

 結城優紗に説明したのは覚えてないが。

 多分してると思う。

 聖なる魔力を攻撃の軸に使う勇者にはいつも教えてたはずだから。

 

「ぐぬぬ……」

 

 俺の言葉に結城優紗は唸っていた。

 しまった。

 こういう正論はロジハラって非難されるんじゃなかったか?

 

 この前、ネットで見たんだよね……。

 

 恐ろしいよね……。

 

「パラライズ」

 

 俺は『とんっ』と結城優紗の首元を指で突いて麻痺させる魔法を食らわせた。

 

「ぐぎゃっ……」

 

 叫びながら倒れ込む結城優紗をそっと支えて地面に寝かせてやる。

 ほら、痣とか残したらまた停学になっちゃうかもなんで……。

 まったく、生きづらい世の中だよ。

 

「ぐっ……くそぅ……負けた……ふぐぅ……」

 

 結城優紗はビクンビクンと地面で痙攣している。

 

 意識はあるけど身体は自由に動かないっぽい。

 

「あのさ、さっきも言ったけど、俺は普通に高校生活を楽しみたいだけだから。お前が心配するようなことは何もないからさ。だから、もう関わってこないでくれるとありがたいな?」

 

「なんで……トドメを刺さないのよ……魔王なんだから殺せばいいじゃない……!」

 

 結城優紗はギリリッと歯軋りしながら恨めしそうに言った。

 

 それは潔さや覚悟というより、俺がそういう輩であってくれと願う意味の言葉に聞こえた。

 

 俺が非道な魔王なら、俺の言葉はすべて戯れ言と流すことができるから。

 召喚魔法に関わる事柄を信じなくて済むから。

 けど、そんな事情は俺の知ったこっちゃない。

 

「俺が人殺しになったら家族にも迷惑かかるから無理!」

 

 俺と結城優紗が二人で出て行ったのは大勢に見られてるわけで。

 真っ先に疑われるのがわかってて、そんなことをやれるはずがなかろう。

 ここは法治国家日本なのだ。

 

 盗賊や魔物がたくさんいて、剣や魔法で乱世なファンキー世界じゃない。

 

 指先で突いただけで逮捕されちゃうくらい暴力に厳しい社会なのである。

 

「アハハッ……魔王が家族に迷惑って……もうただの現代人じゃないのよ……」

 

 結城優紗が乾いた笑い声を上げた。

 笑っているのに心が泣いている……。

 少し詩的に表現してみた。

 

「なあ、結城、お前は俺が許せないかもしれないが、違う世界の諍いを持ち込んでいがみあうのはやめないか? お互い不干渉でいこうぜ? 俺はこっちで魔王として世界をどうこうするつもりはないし……。そのほうがきっと両方にとって有意義だと思うんだ」

 

 向こうでも世界をどうこうするつもりはなかったけどね。

 あれは人間側が勝手に因縁つけて絡んできてただけだから……。

 でも、それを彼女にここで説明する必要はない。

 

 別に優しさとかじゃないよ?

 だって、あっちの世界ですでに説明してるはずですし。

 俺は魔王城まで来た勇者には必ず真実を告げてたから。

 

 誰も信じなかったけど。ぴえん。

 

「ねえ、あんたが言ってた召喚魔法の……本当なの……?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「…………」

 

 俺が答えると、結城優紗は虚ろな目になって何も言わなくなった。

 

 

 …………。

 

 

 彼女は異世界を救えず帰還したことを負い目に感じていたのかもしれない。

 

 しかし、騙されたまま戦いに駆り出されていた事実を知って、気持ちの整理をどうつければいいのかわからなくなってしまったのではないか? 

 

 だとすれば少しだけ同情できなくもない。

 

 だからといって、行き場のなくなった感情を俺に襲いかかることで解消しようとするのは勘弁してほしいが……。

 

「あのさ、他に用がないなら俺もう教室に帰るから……」

 

 こんな状態の彼女を置いていくのはどうかと思ったけど、そろそろ昼休み終了のチャイムが鳴るんだよね。

 

 今の俺は真面目さをアピールしなくちゃいけない立場。

 授業に遅れるなどもってのほか……ッ!

 襲いかかってきた相手と天秤にかけたら比べるまでもなく自分の評判が大事でしょう。

 

 そういうわけで、アディオッス!

 

 

 

 

 放課後。

 

 俺は入部届を握りしめて将棋ボクシング文芸部の部室に向かっていた。

 

「……げっ!?」

 

 部室に入ると、そこには入部希望者の先客がいた。

 

「あたしもこの部に入るから! あんたが本当に危険じゃないか監視するためにねっ!」

 

 先客は結城優紗だった。

 

 な、なんでこいつが……。

 

 

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