前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 作:遠野蜜柑
やがて、俺たちを隔離していた空間が崩壊を始めた。
灰色の景色がバラバラと剥がれ落ちていく。
やっと部室に帰ってこれた……。
まあ、本気で暴れたら自力で脱出できたと思うけど。
それでうっかり部室まで吹き飛ばしたらまずかったし。
「部室に戻してくれたってことは、降参ということでいいのかな?」
「別に……タグなしでフィールドを維持することが不可能なだけ……」
ふらつきながら立ち上がる江入さん。
まだ負けを認めないと?
「…………」
無言。
やらないみたい。
俺と戦っても無駄だというのは理解できたようだ。
よかったよかった。
まだ短い付き合いとはいえ、同じ部活の仲間にトドメを刺すのは気が進まなかったからな。
一回くらいは見逃してやろう。
「タグを壊されて本星との連絡も取れない。私はこれからどうすれば――」
江入さんは死んだ目をしながらブツブツ言っている。
絶望で表情が失われていた。
もともと無表情なのにさらに失ってるのがわかるレベルってすごいよね。
それだけショックが半端ないんだろうけど。
「ねえ、諦めて宇宙に帰ったら?」
「それができるなら苦労はしない」
「じゃあ、今まで通り普通に高校生をやっていればいいんじゃない?」
「…………」
恨めしげな視線を送られた。
確かに命令で来たんなら簡単には帰れないよね。
でも、俺には関係のないことだから……。
「じゃ、また明日ね、鍵はよろしく!」
「…………」
江入さんを残して俺は部室を後にした。
部室を出ると外は夕暮れでオレンジ色の空になっていた。
下校時刻ギリギリくらいか?
それなりに長いこと異空間に拘束されていたらしい。
しかし、まさかリアルに宇宙人と邂逅することになるとはな……。
あれ? よく考えたらこれって割と貴重な体験じゃない?
興奮が後から押し寄せてきた俺は堪らず本屋に寄って月刊ムゥを購入した。
この後、俺に未確認飛行物体のプチブームが訪れたのはまた別の話である。
江入さんに襲撃されてから一週間ほど経った、とある日の昼休み。
缶コーヒーを買いに行くために廊下を歩いていると背後に人の気配を感じた。
いや、人の気配っていうか俺を追跡してるやつの気配だ。
「おい、何の用だ? 隠れてないで出てこいよ」
「よ、よく気がついたわね……」
俺に言われて廊下の曲がり角から出てきたのは赤みがかった茶髪の美少女。
久しぶりに会う結城優紗だった。
「やれやれ、部室に顔も見せずストーカーとは。それが元勇者のやることか?」
俺が冷めた視線を送ると、
「しょ、しょうがないでしょ。あんな感じで出て行ったから、何か顔を出しづらくって……」
しどろもどろ、結城優紗は言い訳をしてくる。
「ふーん?」
そりゃまあねって思う逃走っぷりだったけど。
言い訳は見苦しいぞ?
「違うの! 明日行こう。明日こそはってずっと思ってたの! そしたら、どんどん間が空いちゃったのよ!」
あーわかるわかる。
そうやって先延ばしにしていると、ますます行きにくくなるんだよな。
「で、お前、どうして部活に来ないんだ? 丸出さんが気にしてたぞ」
「いやいや! だから言ったでしょ! あんな感じのまま帰ったから行きづらいんだって! しかも、また来るって言ってから二週間以上も経っちゃってるし!」
「はあ……」
「これも全部あんたのせいよ! あんたがあたしを嘘つきみたいにしたから!」
なんでだよ。
俺は不当に貶められそうだった評判を守るために抗っただけだぞ。
加害者が謎の被害者意識を持つんじゃねえわ。
「というか、俺と同じ部にいる必要ある? 俺をストーカーするなら今もやってたわけだし」
「ストーカーとは何よ!」
お前がやってることだよ。