前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第27話『わかってなさそう』

 

 

 

「もう、幽霊部員からのフェードアウトで楽になっちゃえば?」

 

 俺としてはそっちのほうがありがたいのだが。

 

「何言ってるの! 入部すると決めたからにはきちんと参加して最後までやり遂げるのがスジってものでしょ!」

 

「ふーん?」

 

「……って思ってたんだけど」

 

 実行には移せなかったと。

 

 人は追い詰められると理想通りに行動できない生き物である。

 

「将棋の駒の動かし方を覚えたり、蛍光灯の紐でシャドーボクシングしたりして準備はバッチリなの! 後は部室に行けるかどうかだけなの!」

 

 そんなことやってるんだ……。

 彼女は建前上籍を置いただけで、まともに活動するつもりはないと思ってたから意外だった。

 きっと根は真面目なのだろう。

 

 でも、蛍光灯の紐でボクシングはよくわからんわ……。

 

 というか、将棋ボクシング文芸部は好き勝手なことやってる溜まり場みたいな感じだから別にガチになる必要はないと思うが。

 

「まあ、俺を監視できればいいってだけで入部届を出したんじゃないことはよくわかったよ」

 

「えっ……じゃあ――」

 

「だが、断る!」

 

 結城優紗が瞳に期待を宿しかけたので素早くシャットアウト。

 

 芽は早いうちに摘む、先手先手の水際作戦。

 

「ねえ……あんた、あたしにはちょっと態度がキツくない? 他の人にはもっと優しい雰囲気で接してるじゃない」

 

 なぜ、自分の命を狙ってきた輩に気を遣わなきゃいかんのだ?

 俺の心が狭いみたいな方向に持って行こうとするのはやめろ。

 俺が最強じゃなかったらシャレになってなかったんだからな?

 

 そこんとこ、わかってます?

 

「ううっ……でも、一人で行こうとするといろいろ思い出してムガーってなっちゃうの! どうやって入ればいいかわからなくなっちゃうの! だから……ね?」

 

 わかってなさそう。

 

「俺をつけてたのは部室に入りやすいように協力して欲しいってこと?」

 

「その通り!」

 

 結城優紗は頷いた。

 

 こいつ、討伐するって言ってた相手に頼るとか恥ずかしくないの?

 

 

 

 

 

 放課後。

 俺は結城優紗と二人で部室に向かっていた。

 誰かと一緒ならノリで行けるだろうっていう安直なプランです。

 

「そういえば将棋ボクシング文芸部に江入さんっているでしょ?」

 

「ああ、いるな」

 

 俺は同級生に扮したエイリアンの顔を思い浮かべた。

 あれから彼女は侵略者らしい活動を行なっている雰囲気はない。

 俺に襲いかかってくる前と何ら変わりない様子で高校生をやっている。

 

 返り討ちにされて、すっかり諦めてくれたのなら安心できるのだが……。

 

「あれれ、なんか素っ気ないわね? フフ、もしかしてあの子のことも雑な扱いしてるの?」

 

 なんでちょっと嬉しそうなんだよ。

 

「雑に扱ってはいないけど……ま、いろいろあってな」

 

 お前と同じ、俺の命を取りにきた同類ですから。

 

「で、江入さんがどうしたんだ?」

 

「あの子、あたしと同じクラスなのよ。それで気がついたんだけど、江入さんって最近様子がおかしくない?」

 

「おかしい……とは?」

 

 おかしいのはお前の距離感だよ。

 何を以てして妙に馴れ馴れしい態度なのか。

 監視とか何とか言ってたくせに。

 

 でも、このまま普通の同級生っぽい関係に落ち着いてくれたほうが俺にとっては好都合なのか……? いきなり命を狙ってきたやべーやつではあるけれど。それを除けば彼女は同学年でモテモテな高嶺の花ポジの美少女。

 

 いわゆる、リア充・陽キャ・パリピなどと呼ばれるカーストに位置する存在である。

 

 そんな彼女と同じ部活で共に過ごす。

 

 それは客観的に見れば充実した青春としてポイントの高い部類に入るのではないか?

 

 変に襲ってこないなら、なあなあで曖昧にしていくのもアリなのでは……?

 いや、だけど結城優紗だしな……。

 俺が葛藤していると――

 

「おーい、しんじょー!」

 

 どどどどどどどっ。

 ぼすんっ!

 勢いよく廊下を走ってきた鳥谷先輩が背後から俺の腰に飛びついてきた。

 

「先輩、危ないですって」

 

「あはは! すまんすまん。でも、しんじょーはビクともしてなかったぞ?」

 

 金髪碧眼で学ランを着た、ちっちゃな先輩は今日も元気で表情豊か。

 

 実家がマフィアで不良さんたちを従えてなければ、彼女は俺の癒やしとなっていただろう。

 

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