前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 作:遠野蜜柑
「鳥谷先輩も部室に行く途中ですか?」
「おうとも! 今日はベンチプレスの日だからな!」
部室には準業務用のパワーラックがあるのだ。
ウェイトスタック式のラットプルダウン? とかいうのもついていて、いろんなトレーニングができるらしい。
俺は使ってないから詳しくないけど。
ボクシング部の設備で健康な身体作りに勤しんでいるのが近頃の鳥谷先輩であった。
「明日はデッドリフト! 明後日はスクワットだ!」
今、彼女にはフィットネスブームが到来していた。
「ん? こいつ、どっかで見た覚えあるぞ?」
鳥谷先輩が俺の隣にいる結城優紗に気づいた。
「あ、あたしはその……」
「あ! 思い出した! ずっとサボり続けてる一年じゃないか! どうして部室に顔見せないんだ? 真帆が気にしてたぞ?」
「………………」
上級生に直球でサボっていると言われ、理由を問いただされるとかキッツいなぁ……。
鳥谷先輩は嫌味で威圧してるのではなく、単純に気になってるだけだろうけど。
……ん?
「あ、あたし今日はやっぱ――」
「待てよ」
返答に困窮して逃げだそうとした結城優紗の行動を察知した俺は彼女の腕を掴む。
「いやっ、離してっ!」
「うるせえ、暴れんじゃねえ!」
ここで帰らせたら、こいつは日を改めて俺に話を持ちかけてくるだろう。
諦めるのならいい。
だが、二度手間を掛けさせられるとわかっていて逃がすわけにはいかん。
「今日はやめとく! なんか無理っぽいの!」
「やめるのなら『今日は』じゃなくて『永遠に』だ! 大人しく幽霊部員になって、なだらかに消え去っていけ!」
「そんな無責任なことできないわ! あんたを野放しにもできないし!」
メンタル弱っちいくせに変なところだけ頑固なの面倒なんですけど!
お前は初志を貫徹できる器じゃないよ!
身の程を知りなさい。
「どうしてあんたそんなにしつこいのよ!」
「だって、お前が頼んできたんだろ!」
「頼まれただけでそこまで律儀になるなんて意味わかんない! あんたホント腹立つ!」
逆ギレしだしたぞ。
こっちが意味わかんないわ!
「…………」
鳥谷先輩は俺たちが揉めてる様子をぽけーっと眺めていた。
そして、
「お前たち、仲いいな!」
「…………」
「…………」
そういう古典的なボケは勘弁してもらっていいですか?
「おい、そこで何をやっている!」
抵抗する結城優紗の腕を掴んで引き留めていると、廊下の向こうから黒髪の女子生徒がずんずんと歩いてきた。
「げっ、あいつは……!」
鳥谷先輩が焦った様子でコソコソと俺の背後に身を隠す。
なんだ? どうしたんだ?
近づいてきているのは長い黒髪をポニーテールに結んだ美人。
リボンの色から推測するに三年生だろうか?
キリッとした鋭い目つき。しゃんと伸びた姿勢のいい背筋。
女子の割にそこそこ身長が高く、ウエスト部分は括れているのに出るところは出たスタイル。
「貴様……一年生の新庄怜央だな?」
俺の前で立ち止まった女子生徒は俺の名前を知っていて、どういうわけか敵意むき出しの視線を送ってきた。
こういう、凜とした雰囲気の美人から睨まれると何とも言いがたい圧を感じるぜ……。