前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第3話『花鳥風月』

 

 

 

 

「うわ、あの子、ツイてないな。入学して早々に四天王から目をつけられるなんてよ……」

 

 隣にいる須藤が声を潜めながら憐れむように言った。

 

「須藤、四天王ってなんだ?」

 

「はあっ? お前、馬飼(まかい)学園の四天王を知らね……ああそうか、新庄は最近こっちに来たんだもんな……」

 

 須藤はしょうがねえ、と俺に説明してくれた。

 

「この馬飼学園には花鳥風月(かちょうふうげつ)って総称の四天王たちがいるんだ。この辺りじゃとにかくヤバいって有名な四人の生徒でよ。あそこのピアスをつけてる金髪のヤツはその花鳥風月の一人、花園栄治《はなぞのえいじ》だ。花鳥風月には裏の業界に通じてるやつもいるから、痛い目に会いたくなきゃ絶対に関わるんじゃねえぞ?」

 

 須藤の表情はこの上なく真剣だった。

 

 かつて魔王軍四天王を率いていた俺からすると、たかが日本人の高校生が四天王とか言われてもそんなビビる対象なのかと疑問に思ってしまうのだが……。

 

 というか、学校に漫画みたいな四天王ってリアルでいるのかよ。

 

 本人たちは言われてて恥ずかしくないのだろうか?

 

「とにかく来いよ。その辺のやつらじゃ味わえない楽しい遊びを教えてやるからよ」

 

 須藤の説明を聞いている間に金髪不良……花園だっけ? は少女の腕を掴んでいた。

 

「あっ、痛いっ」

 

 強引に腕を引っ張られた少女は小さく悲鳴を上げる。

 周囲にいる新入生たちは誰も助けようとしない。

 目線を逸らしながら素通りして、そそくさと校門を出ていくだけ。

 

「新庄、オレたちもさっさと行こうぜ。関わったらマジでヤバいんだよ」

 

 須藤が立ち止まる俺の肩を突いて去ることを促す。

 彼は俺のことを案じて言ってくれているのだろう。

 しかし――

 

「ちょっと止めて来る。嫌がってるし、アレは放っておけない」

 

 同じ学校で同級生となった仲間を見捨てて、これから楽しい学校生活が送れるだろうか?

 

 いや、ない。

 

 それに、都会に行っても人を思いやる心は忘れたらいかんと、隣の家に住んでる幸一おじさん(無職・38歳)も言っていた。

 

「やめとけって! 怪我どころじゃ済まないぞ! 特に花園は――」

 

 後ろのほうで須藤が何か叫んでいたが……。

 

 何を聞いたって助けない理由にはならないと思ったのでスルーした。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ちょっとあんた。その子、嫌がってるだろ?」

 

 俺が四天王の花園に声をかけると、周りの空気がヒエッヒェッになった気がした。

 

「ああん?」

 

 ドスの効いた声で振り返る花園。

 

 しかし、

 

「……なんだ、一年坊主かよ」

 

 俺の姿を見ると彼は拍子抜けしたように溜息を吐いた。

 

 一年だと何かあるのだろうか?

 

「オレは何も知らない一年坊主にマジになるほど小物じゃねえんだよ。高校生になったばっかで全能感みたいなもんを持っちまってるのかもしれねえが、そいつは大きな勘違いだから大人しく引っ込んどけ」

 

 花園は俺を諭すように言ってくる。

 こいつは何が言いたいのか? 

 言い回しが遠回しすぎて全然理解できないのだが。

 

「ハア~。こういう勘違い君にはホント困っちまうわなぁ~」

 

 俺に引く気配がないと理解した花園は面倒臭そうに髪をポリポリ掻く。

 花園の子分たちがゲラゲラと笑い出した。

 ついでにお下げの少女と目が合う。

 

 彼女は涙目で俺を見ながら首を横に振っている。

 

 あ、もしかして逃げてと言ってるのか?

 

「ああ、あのバカ! だからやめろって言ったのに!」

 

 須藤の喚いている声が耳に届く。

 

「人生の先輩が世の中には歯向かっちゃいけない相手がいるってことを軽く教えてやんよ!」

 

 バチバチッ。

 花園がスタンガンを懐から素早く取り出して俺の腹部に強く押し付けてきた。

 なんという早業だっ!

 

 けど、これって……。

 

「な、なんで平気で立ってやがるんだテメェ!?」

 

「なんでって、こんな弱い電流じゃ……」

 

 よく見ると、花園だけでなく取り巻きの不良たちも唖然とした表情で俺を見ていた。

 これ、大したことないと思ってるのおかしいやつ?

 もしかして記憶を取り戻したことで身体の頑丈さが前世並みになってる?

 

 ぶっちゃけ、電気風呂より大したことない刺激に感じるんだけど。

 

「あー、やっぱ結構つらいっすわーぐえー(棒)」

 

 マズイと思った俺は不審に思われないよう効いてるフリをした。

 

 これで騙せるだろうか?

 

「くそっ、キメェ野郎だな! 舐めやがって! こいつでくたばりやがれ!」

 

 花園は舌打ちして蹴りを放ってきた。

 

 騙せたのか騙せてないのかどっちだ!?

 

 答えはわからなかったが、素直に食らってやるわけにもいかないので俺は花園の蹴りを片手で掴んで防ぎ、ブンッと放り投げた。

 

 はい、気持ちとしては体勢を崩れさせる程度に反撃したつもりだったんです……。

 おっとっとって、ケンケンしながら後退するくらいだと思ってたんです……。

 なのに――

 

 

「うああああああぁぁぁぁあっぁあぁぁぁぁぁ――」

 

 

 グワッシャァァァァンッ!!!!

 

 花園は綺麗な放物線を描いて空高く舞い上がり、校門の外に停めてあった黒塗りの高級車の上に落下した。

 

 

 や、やっちまったー! 腕力も戻ってたんかーい!

 

 

 こうして――

 

 

 花園は全身複雑骨折で病院送り。

 

 俺は一か月の停学処分になった。

 

 

 

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