前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第56.50話『元勇者VS四天王最強②』

 

 

 

 

 

 優紗を待ち受けていたのは両者とも身長180センチを軽く越えていると見受けられる大柄な男たちだった。

 

 バンダナのほうが若干大きいだろうか……?

 ひょっとしたら彼は190センチ半ばくらいあるかもしれない。

 これは優紗にとって完全に意表を突かれた状況だった。

 

 迎えに来たのが常識的な体格の高校生男子であったため、その仲間も似たような一般的な体躯を想像していた。

 

 まさか、野生に先祖返りしかけたゴリラの擬人化どもが待っていようとは……。

 

不動(ふどう)、そいつが風魔や鳥谷以上にすげえ動きをしてたっていう一年の女子か? なんかアイドルとかモデルみてーだなぁ?」

 

 灰色の髪の男が優紗に不躾な視線を送りながら言う。

 恐らく、会話のやり取りから察するにこちらの灰色ゴリラが四天王の月光雷鳳だろう。

 

「…………」

 

 もう一人のバンダナゴリラは腕を組んだまま口を固く結んで何も言わない。

 こっちのゴリラは寡黙らしい。

 

「容姿こそ可憐ですが彼女の動きはとんでもないですよ。僕は実際に見ましたからね。というかほとんど見えなかったですからね、すごすぎて」

 

 優紗を連れてきた優男眼鏡もとい――不動と呼ばれた男は新庄怜央との勝負をどこかで覗いていたらしい。

 

 人の目はないと思っていたが、この男は随分気配を隠すのが上手いようだ。

 

「おっと、そういやまだ名乗ってなかったよな? 知っているかもしれないが、オレの名前は月光雷鳳。馬飼学園四天王の……なんだっけ……『課長壊れる』の一人だ!」

 

 灰色の髪のゴリラが適当な自己紹介をしてくる。

 

「雷鳳、花鳥風月ですよ」

 

 不動が慣れた様子で月光に突っ込む。

 月光雷鳳という男は普段からあまり物覚えがよくないのかもしれない。

 

「わざわざこんなところまで来てもらって悪かったな? ここはあんまり人が来ないからやり合うにはもってこいの場所なんだ」

 

 どうやら、ここは月光にとってホームグラウンドのようなものらしかった。

 

「オレは強いヤツと戦うのが生き甲斐みたいなところがあってよ。お前は風魔以上にやるかもしれないって聞いたから来てもらった」

 

「強いヤツと戦いたいのに、新庄じゃなくてあたしを呼んだの? 新庄にはビビって手を出せないから、あたしをシメてあいつを牽制しようってことかしら?」

 

 優紗が挑発混じりに言うと、

 

「フフフッ」

 

 不動が堪えるように笑い、

 

 そして、

 

「はははっ! おもしれえことを言うやつだな! なんで牽制なんかする必要あるんだ? 強いって言われてるヤツと戦う選択肢を自分で消そうとする意味がわかんねえよ!」

 

 月光も腹を抱えて盛大に笑い出した。

 

「まあ、雷鳳をよく知らなければそういう考えに至ってもおかしくはないですね。結城さん、彼はそんな駆け引きをする性分ではありませんよ」

 

「じゃあ、どういうことなのよッ!」

 

 不動のしたり顔がそこはかとかく鼻についた優紗は目を吊り上げながら問う。

 

「なんつーか、これは本番前の前菜ってところだな。新庄はお前より強いんだろ? もし順番が逆だったらお前とやっても落差があって物足りなくなっちまうじゃねえか。せっかくそこそこ強いってハナシのやつを二人も見つけたのに、それじゃもったいないだろ?」

 

 月光は不遜にもそう言い放つ。

 

「なっ……」

 

 要するに、月光は新庄怜央と戦った後では優紗を相手にする気が起きないと言っているのだ。

 

 そして、それは同時に――

 

「あんた、あたしや新庄と戦ってどちらにも勝てるつもりでいるの?」

 

「そりゃまあな? どうせ、オレと本気で戦える人間はいねえからよ。そこそこ緊張感のある勝負ができれば御の字ってとこだ」

 

 気に入らない。

 

 自分が勝って当たり前だと思っていながら暴力を楽しんでいるこいつのような思い上がった男はどうにもいけ好かない。

 

「大きく出たわね……! だったら、その勘違いを正してあげるわ」

 

「ほう?」

 

「モデルやアイドルみたいな女子にやられちゃったら、その天狗になった鼻も折れるでしょ?」

 

 

「お前が……? オレを――?」

 

 

 月光が真顔になると、凄まじい殺気が溢れ出てきた。

 

 

(え? なんなのこいつ、急に迫力が……)

 

 

 優紗は異世界で初めて魔物と戦ったときの記憶を思い出していた。

 

 なぜ、日本に住む不良の高校生を見てそんな情景が喚起されたのか……。

 

「ふ、ふん……! あんたなんか新庄が相手をするまでもないわ。あたしがここでケチョンケチョンにしてやるんだから!」

 

 優紗は魔力を身体に行き渡らせファイティングポーズを取った。

 

「ケチョンケチョンか……頼もしいことを言ってくれるじゃねえの。そんならどっからでもかかってきなァ!」

 

 月光は大きく両手を掲げた構えで愉快そうに笑った。

 

(大丈夫……相手は普通の高校生。四天王で最強とか言われてる不良でも、勇者の力を持っているあたしが負けるわけない……)

 

 優紗はそう自分に言い聞かせて『最強』の名を持つ男と向き合った。

 

 

 

 

 

「くっ……」

 

「おらおら! ヌルすぎるぞ、一撃がよぉ! もっと全力でこいよ!」

 

 月光との勝負は優紗にとって予想外の苦戦を強いられていた。

 魔法で強化したはずの身体能力を以てしてもまるで打撃が届かない。

 殴っても蹴っても、簡単に防がれ、いなされる。

 

 そのくせ、月光のほうにはまだまだ余裕があるように見受けられた。

 

 

『あいつ、異常に身体が頑丈なんだよなぁ。トンファーでいくら殴っても全然効かなくてさ』

 

『実力を測るかのように終始技を受け流されて――』

 

 

 月光と戦ったことのある先輩二人の言葉を思い出す。

 

 

(確かにその通り……。全然効いてる気がしない。この微塵も力が届かない感覚はまるで……いや、そんなのありえないわ!)

 

 

 優紗の頭に魔のつく前世を持つ同級生の姿が思い浮かぶ……が、それをすぐさま打ち消す。

 

 

「確かに早いが対応できないほどじゃねえな……。身体能力は風魔や鳥谷より上みたいだが、立ち回りの技量は風魔以下で本能的な直感力は鳥谷以下か……」

 

「なんですって!?」

 

 月光の批評じみた呟きが耳に入ってきた。

 

「これじゃ、あんまり楽しめそうもないな」

 

「…………!」

 

 優紗はその言葉で本気になることを決めた。魔力の量をセーブすることをやめ、完全に魔物を倒すときと同じ加減で月光に向かっていく。

 

 とはいえ、本来の優紗のスタイルは聖剣を使う魔法剣士なので十全の力が発揮できているとは言いがたいのだが。

 

 聖剣は新庄怜央に窃盗されたままなので致し方ない。

 

 

 

 

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