前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第56.75話『元勇者VS四天王最強③』

 

 

 

 

 ザッ!

 

 優紗は魔力で強化したスピードで激しく動く。

 月光が視線で追い切れなくなって見失うよう縦横無尽に駆け巡る。

 月光の目の焦点が自分に合っていないと判断したところで優紗は間合いを詰めた。

 

 

(ふん、偉そうなこと言ってたくせに全然見えてないじゃない。この魔法で強化した速度で背後を取られて反応できるのなんて地球じゃ魔王のあいつくらいよ!)

 

 

 優紗は高く跳び上がり、月光の後頭部めがけて空中から蹴りを放つ。

 

 

「たああぁあっ!」

 

「よっと」

 

 パシッ。

 

 月光は優紗の蹴りを片手で容易く受け止めた。

 

「ええっ!?」

 

 想定外の動作に優紗は声を上げる。

 月光は完全に見切っていた。

 目にもとまらぬ早さで背後を取ったはずなのに。

 

 まるで新庄怜央と戦ったときのようにあっさりと止められてしまった。

 

「つまんねぇ……。もうちょっとやるかと思ったが期待外れだったわ。悪かった、無駄に呼んじまってよ」

 

「バカにしてんじゃないわよ!」

 

 月光に足首を掴まれて身動きの取れなくなった優紗は月光を射殺さんばかりに睨みつける。

 

「え? バカになんかしてねえぞ。素直に謝ってるだけだぜ? 弱いのに無理に付き合わせちまって本当に悪かったなって」

 

「こっ……このおおおおおッ!」

 

 優紗は身体をよじって追撃を試みようとした。どうにか拘束を解かなければと思い、がむしゃらに動いて反撃の糸口を模索する。ところが――優紗が効果的な何かをする前に月光は自分からポイッと彼女の足を手放した。

 

「は……?」

 

 肩透かしを食らった格好の優紗が月光を見やると、彼は興味を失ったような冷めた目で優紗を眺めていた。

 

「お前、もう帰っていいぞ。これ以上やっても意味ねえし」

 

「はあ!? まだ途中でしょ!」

 

「だって、このままやったら力の差がありすぎてイジメみたいになるじゃねえか。もともと後輩の女子とやんのは少し抵抗があったんだよ。規格外に強いならそういう枠を越えてアリかなって思ってたんだが……。大したことないなら御免被る」

 

「すまない雷鳳、僕の見込み違いだったみたいだ。正直、君たちレベルの連中だと凡人の僕らには実力の見分けがつきにくくてね」

 

 ギャラリーに徹していた不動が月光に声をかける。

 

 優紗は屈辱のあまりプルプルと全身を震えさせた。

 

 勇者として、人間の国を救う最高戦力として前線に立ってきた自分がただの不良からここまでコケにされるなんて……。

 

「舐めるなぁ!」

 

 優紗は勢いよく駆けていって跳び蹴りをかます。

 だが、最低限の動作で月光に避けられてしまいそのまま廃材の山に突っ込んでいく。

 

「イタタタ……けど、まだまだぁ!」

 

 大きく音を立てて崩れ落ちてくる廃材。

 崩れてきたタイヤやドラム缶を弾き飛ばし、優紗は魔力を込めた全力の拳を月光に叩き込もうとするが――

 

「あーもうめんどくせえな!」

 

 腹部を狙った拳をがっしりと掴まれ、そのまま背負い投げで優紗は地面に転ばされた。

 

「…………ッ!」

 

 そして、顔面に特大の拳を寸止めで突きつけられ『まだやるか?』と言われた。

 

「な? もういいだろ? おめーじゃ役者不足だ」

 

「あんた何者よ……。ここまでやるなんて、もしかしてあんたもチートを貰った元勇者? それともあいつみたいに前世があるの?」

 

「は? チート? 勇者? 前世? いや、なにソレ? お前さん、そういう設定になりきって遊ぶのが好きなタイプ?」

 

 優紗の質問に真顔で応対してくる月光。

 これは……本当に心当たりがないように見える。

 彼はその類いには関わっていない一般人ということなのだろうか?

 

「どういうこと? あんたは普通の人間でそんなに強いっていうの?」

 

 ここまで戦える人間が何も特殊な背景を抱えていないなんて、ありえるわけが―――

 

「なんだよ、普通の人間が強くあったらダメなのか?」

 

「…………」

 

 月光の素朴な問いは一片の嘘も混じっていないことの証左だった。

 

 

 

 

 

「ああ、こんなんじゃ本命の新庄怜央ってやつも大したことねえのかなぁ」

 

 月光がつまらなそうにボヤく。

 

「待ちなさいよ」

 

 自分がどれほど見下されようとも、圧倒的な力の差を認めざるを得なくても。

 

 優紗は今の言葉だけは捨て置くことができなかった。

 

「あいつはあたしなんか目じゃないくらい本気で強いわよ。マジモンよ? あんたなんか、あいつにとったら耳の奥に詰まった耳クソを取るほうが難しいってレベルで雑魚よ! 新庄怜央とやったら、あんたなんかワンパンでイチコロなんだから!」

 

「オレがワンパン……? へえ、随分と新庄怜央のことを信頼してんだな? あれ……? お前らって仲いいの? 不動の報告じゃバチバチに揉めてたって話だが」

 

「そ、それは……いや、まあ悪いやつではないことがわかったというか普通に同級生としてやっていくぶんには問題ないと思ってるだけで――」

 

 ゴニョゴニョとまとまりのないことを言う優紗を月光はしばらく眺めた後、

 

「まあ、なんでもいいや。とりあえず、神門(かんど)、アレ頼んでいいか?」

 

「承ったナリ」

 

 ずっと黙っていたバンダナゴリラが返事をして頷いた。

 

(今の語尾は一体……? 聞き間違えかしら……?)

 

 優紗がぼんやり眺めていると、神門と呼ばれたバンダナ付きゴリラはスマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。

 

「彼に何を指示したの?」

 

「ああ、車をこっちに呼ばせたんだよ」

 

「車? なんで?」

 

「ハハッ、おかしなことを言うヤツだな。今はもう夜といっていい大人な時間だぜ? だったら――理由はわかるだろ? クク……まあ、遠慮するなよ……」

 

 月光はそう言って優紗に近づいてくる。

 

「いや! やめて! こないで!」

 

「暴れんなよ……暴れんなよ……」

 

 優紗に伸びてくる大きな手の平。

 

「いやああああああああ――――っ!」

 

 この後、優紗は月光たちが呼んだ車に無理やり乗せられてしまうのだった。

 

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