前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第61話『普通の人間』

 

 

 

 

 

「インターバルはそろそろ終わりでいいよな? 続きをやろうぜ!」

 

 そう言って月光は俺に突っ込んでくる。

 

 そして、今度は妙な角度をつけて俺の顎付近を狙って殴ってきた。

 

 コキン。

 

 俺の首が勢いよく越えちゃいけない角度で右側に捻れた。

 月光のパンチは俺を浮かせるほどの威力がある。

 さすがの俺も首の力だけでは頭の回転を止められなかったのだ。

 

「いってぇ!」

 

 変な方向に捻られて首が寝違えたみたいな痛みを覚える。

 これ、ムチウチとかそういうやつになったりしないよな?

 というか、痛み……?

 

 魔王の記憶を取り戻してからは頑丈そのもので、そういうのとは無縁だった俺が?

 

 江入さんの剣や斧で殴られても何ともなかった俺が痛いと思ったのか?

 

「へへっ、やっぱそうか。普通に殴っても効かねえが、痛覚がないわけじゃないらしい。関節の可動域を越えたらきちんと痛みは感じるわけだ」

 

「…………!」

 

 こいつ、見た目がゴリラっぽいから脳味噌まで筋肉かと思ってたけどバカじゃねえ。

 ちゃんと考えて戦っているんだ。

 一矢報いるために俺ですら気づいていなかった生物としての構造に目をつけるとは。

 

「ふん……面白い着眼点だが、首をちょっと痛くするだけで勝てると思ってるわけじゃないよな? 痛い目にあうとわかってんなら俺は普通に避けて戦うぞ?」

 

 別に痛い思いをしたいから避けなかったわけじゃないからね。

 避ける必要がないから無駄な動作を省いてたってだけで。

 痛いなら普通に躱しますよ。

 

「構わねえよ。そうやって本気できてくれればそれだけオレは次のステージに行ける……」

 

 月光は半身になって構え、心の底から楽しそうに笑った。

 こいつ、今でさえ十分に人間をやめてる感じなのにまだ上を目指すつもりか。

 勇者を倒し、魔王に挑もうとする一般人か……。

 

「お前、本当に人間? 勇者だったり前世があったり、悪魔だったりしない?」

 

 俺が訊ねると、月光は露骨に落胆したような表情になった。

 

「これは結城優紗にも言ったけどよ。普通の人間が強くあったらダメなのか……?」

 

「なんだと?」

 

「人間が強くあるためにはチートだの前世だの、そういう理由がないといけないのか?」

 

 月光が冷めた目つきを向けながら俺に言う。

 

 先程までのウキウキな態度が嘘みたいだった。

 

「オレは……絶対にそんなことはないと思ってる。将棋然り、野球然り……その他の競技や学問だってそう。いつだって、人間はそれまでの常識を打ち破って進歩を遂げてきた。ありえないと思われてきたことを繰り返してヒトは限界を先に先にと伸ばしてきた。だから、オレが人間であったとしても、人類の強さという常識を越えていっていいはずだ。違うか?」

 

「それは……」

 

 そうなんだろうか?

 言いたいことの理屈は何となくわかるけど……。

 

「誰だって、一度くらいは思い描いたはずだ! 自分が誰よりも強い存在でありたいと! テレビに出てくる超人ヒーローのような力を手に入れてみたいと! だけど、誰もが成長していくほどにそうなることを諦めていく。そうなる想像すらもバカバカしいとやめていく……! けど、オレは諦めたくなかった。人間だって諦めなければどこまでも強くなっていけるはずだと。岩を砕き、木を蹴り倒し、高い位置から飛び降りたり登ったり。野生の動物すら退けることができる……。そんな最強の生物になれるはずだと思い続けた!」

 

 月光は瞳に再び強い意志を灯し、俺を鋭く睨んできた。

 

 そして、拳を握りしめて向かってくる。

 

「強い存在であるために理由はいらねえんだよ! 裏付けの設定がなきゃいけないなんてことはねえんだ! ただオレが強くありたいから! それだけで理由は十分だろうが! 一足飛びを越えた、百足飛びくらいの進化をオレが一人で成し遂げようとして何がおかしい!」

 

 月光の動きは先程までとは比べものにならないくらい格段にキレが上がっていた。

 

「オレは嬉しかったんだぜ? お前という、オレの理想とする到達点のような存在に出会えて! まだまだオレは限界じゃない、お前はそう思わせてくれる希望になった! だから、あんまりガッカリさせるようなことを言ってくれるんじゃねえよ!」

 

 ボカボカと殴ってきながらいろいろ言ってくる月光。

 一発ごとに威力を増していく彼の拳。

 俺を浮かせた渾身の一撃の威力が平均値の威力になりつつあった。

 

 俺はそれを避けて捌いて弾いて……。

 

 ぶっちゃけ、ぶっ殺……コロ助しないように加減して戦うには少々面倒臭い程度に月光という男は強かった。

 

 というか、強くなっていった。

 

 戦いの中で成長している……というより、俺と戦うことで無意識に制限していた力が解き放たれていっているような、そういう感じだった。

 

 江入さんが彼を評した『可能性におけるイレギュラー』とはよく言ったものである。

 

 この男はチートも前世もない人間だ。

 悪魔も憑依してない純正の人間だ。

 不思議な異能もない。

 

 ただ、人類の進化の限界を爆速で塗り替えていってるだけの、普通の人間なのだ……。

 

 …………。

 

「ええーい、しゃらくせえんじゃあああああああああ――――っ!」

 

 進化の持論を聞かされたり、なんか小賢しい痛みを首に与えられたり。今も鬱陶しいパンチを繰り返してきて――そういうイライラが積み重なって、俺は月光の顔面に思いっきりグーパンを叩き込んでしまった。

 

「あ、やべっ……」

 

 月光は、川の水面をバウンドしながら反対側の河川敷に吹っ飛んでいった。

 

 

 

 

 

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