前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第62話『衝撃を受け流す奥義』

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「おーい、月光! 生きてるか!? 呼吸してるか?」

 

 俺は大慌てで橋を渡って反対側の岸に向かい、月光の安否を確認しに行く。

 

 これでアレになってたらソレでえらいこっちゃだぞ……。

 

 

「あ……」

 

 傾斜を下って河川敷に降りると、大の字になって寝そべる水浸しの月光がいた。

 

 俺は恐る恐る近づいていく。

 

 

「お、おい月光――」

 

「いやぁ、危なかった! 昔行った中国で達人から衝撃を受け流す奥義を教わってなかったら顔面が爆発四散してたところだったぜ!」

 

 

 ガバッと何事もなかったかのように上体を起こす月光。

 うわ! 生きてた!?

 月光は鼻血こそ垂らしているが、特に目立った大きい怪我はしていない模様である。

 

 腕輪の効果で腕力を七割減しているとはいえ、俺の本気で殴ったパンチをモロに受けて鼻血程度で済ますって……。

 

 その受け流す奥義すごいな。

 いや、こいつ自身が頑丈だったおかげか?

 うっかりやらかしてしまったが、月光の身体能力に救われたらしい。

 

 マジでよかった……。

 

 

『河川敷で男子高校生が決闘!』

『顔面を殴打され相手は死亡!』

『息子は都会に行って変わってしまった……』

 

 

 こんな感じのテロップでニュースにならなくて済んだよ。

 

 

「雷鳳、よかった! 生きていたんですね! まあ、君があれくらいで死ぬとは思いませんでしたけど」

 

 俺と一緒に反対側の河川敷にやってきた月光の友人の片割れ、茶髪眼鏡がレンズの淵をクイッとやりながら言った。

 

 あれで人が死なないと思ってるコイツも大概やべえやつだな。

 

 

「なんだよ、わざわざこっち側まで追いかけてきてくれたのか? フハハ、ありがてえ……そんなら続きをやろうぜ……って、ありゃ……おっとっと……」

 

 

 立ち上がろうとした月光はバランスを崩し、フラフラと地面に手を着いた。

 

 

「ハハハ……やべーわ。意外と身体にキてたみたいだな……ハハハハッ!」

 

 

 そして、とっても愉快げに笑うのだった。

 

 こいつ、やっぱり変態だなぁ。

 

 

 

 

「そういえば……お前はオレが結城優紗に何をしたのか気にしてたよな?」

 

 立ち上がれない月光は四つん這い状態のまま俺に訊いてきた。

 

「なんだ? 話す気になったのか?」

 

 恐らく時間稼ぎか何かのつもりだろうが、正直に話すというなら乗ってやろう――と思っていたら、

 

「そう言われてもなぁ……マジで心当たりがねえんだよなぁ」

 

「は……?」

 

 この後に及んでまだとぼけるつもりなのかこいつは。

 

「雷鳳、さっき君が言っていたように何を辱めと感じるかは人それぞれです。とりあえず新庄君に先日のことを最初から話してみるのはいかがですか?」

 

 俺の剣呑とした雰囲気を感じ取ったのか、茶髪眼鏡が月光にそう提案した。

 

「ああ、そうだな、それでどれが該当するのか確認してくれや」

 

 茶髪眼鏡に促された月光は結城優紗とのやり取りを話し出した。

 

「とはいえ、そんなに大した内容もねえけど……。変に警戒されないよう見た目が無難な不動に迎えに行ってもらって、勝負して、オレが勝って、そんでタクシー呼んでそれに乗って帰ってもらっただけだぜ……。ああ、もちろんタクシー代はオレが出したからな?」

 

 月光の口から語られる衝撃の事実。

 

「なんでタクシー?」

 

「そりゃ、あの時はもう暗くなってたし。未成年の女子が一人でフラフラしていい時間帯じゃなかったからよ。こっちの都合で呼んだ手前、安全に帰れる手段を用意するのは年上の男として当然のことだろ?」

 

 年上の男でも、高校生の身分でタクシー代まで普通は出さないと思うけど……。

 

「ええと、それだけか? なんかこう、少年誌に載せられない不埒な行いをしたとか」

 

「おいおい! そんなお天道様に顔向けできないようなことするかよ! 愛と勝利は自力で掴み取らなきゃ意味がねえんだぞ!」

 

 月光は全力で否定してくる。

 その目は人類の進化について持論を述べていたときと同じ本気の目だった。

 嘘は言っていないように思えるが……。

 

「マジなん……?」

 

「ああ、マジだ。オレの言ってることはあってるよな?」

 

 月光は友人の二人にも確認を取る。

 

「はい、概ねその流れでしたし、雷鳳はもちろん僕らもみだらな行為などはしていません」

 

「間違いないナリ」

 

 正直、俺はこいつらの言っている話がとても信じられなかった。

 

 いや、だって、それはあまりにも――

 

「ちょっと待て……結城に確認してみる……」

 

 俺はスマホを操作して電話をかけた。

 コール音が数回鳴り、結城優紗が着信に出てくる。

 

『はい、もしもし?』

 

「あのさ、今ちょっと話せる?」

 

『えー? どうしたの? 改まっちゃって』

 

 なんか暢気そうだな……。

 

「実は今日、月光と勝負したんだけどさ」

 

『へえ、そうなの! 当然、勝ったのよね? ボコボコにしてやったんでしょ?』

 

「それはまだ途中……みたいな感じだけど。それより、月光から聞いた話とお前の言ってたこと、少し印象が違うなって思って……」

 

『はあ? 何の話?』

 

「ほら、お前が辱めを受けたとか、そういう……」

 

『なによ、あたしより月光の話を信じるっていうの!?』

 

「じゃあ、違うのか?」

 

 俺は月光たちの主張を伝え、相違点を訊ねた。

 すると、

 

『くっ……いいわよ! そんなに言うならあたしの口からも説明してやろうじゃないの! あたしが連中から受けたとてつもない……えげつない仕打ちの詳細を!』

 

 そして、結城優紗は月光が省いた仔細部分を彼女の視点から綿密に語り出した。

 

 

 

 

 

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