前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 作:遠野蜜柑
新幹線では結城優紗が持ってきたマグネットの将棋盤やオセロ、それから鳥谷先輩が持ってきたトランプほか『はじめてのウノ』をやって過ごした。
俺は最近将棋アプリで三級になった実力を駆使し、駒を動かせるだけで戦法も囲いも大して知らない結城優紗や駒の動きをようやく覚えたばかりの鳥谷先輩を叩きのめして心地よい勝利を味わった。
毎日地道にスマホでポチポチ指してきた成果が発揮できてとても楽しかったです。
新幹線から再び電車を乗り換え、やっとこさ地元の駅に繋がるローカル線に乗車する。
そういえば都会の電車と違ってこっちは電車の座席がほとんどボックス席なんだよな。
あと一駅ごとの停車時間が長い。
乗り込んでくる客の数が少ない。
そういう部分も違う。
上京したときは駅に電車がいる時間の短さや『電車が空いてる』の基準が異なりすぎて割とカルチャーショックだったっけ。
そろそろ地元の最寄り駅に着くなと思って俺は窓の外を見る。
確か、実家から駅まで迎えが来てくれるという話になっていたが――
「げっ……」
俺の視界にギョッとするような光景が入ってきた。
具体的に言うと、老人男性と中学生くらいの少女が横断幕を広げて得意満面の笑みを浮かべながらホームに立っている光景だった。
「お、なんだーあれ?」
「なんか書いてあるわね……」
「えーと……」
車窓から外を覗く将棋ボクシング文芸部の面々。
『熱烈歓迎怜央たち』
老人男性と少女――
ぶっちゃけ、俺の祖父と妹が掲げる横断幕にはそう書かれてあった。
「おい、じいちゃん!
電車を降りると俺は駅構内の踏切を渡り、二人が待つ改札側のホームに駆けて行った。
「おお! 怜央、よく戻ったな!」
「お兄ちゃん、おかえりー」
二人は横断幕の両端をそれぞれ持ってバサバサさせながら呑気に返事をしてくる。
「しばらく見ないうちに精悍な顔つきになったじゃねえの! 都会の荒波に揉まれてきたおかげかぁ?」
祖父が愉快そうに笑う。
まるで恥じる行為などしていないと言わんばかりの態度だ。
「すごいでしょこれ! 隣の家の幸一おじさんが書いてくれたんだよ!」
筆で書かれた横断幕の文字を突き出して妹――
隣の家の幸一おじさんは無職の38歳だが、書道初段なのである。
もっとも段位を習得したのは小学生の頃らしいけど。
「ちょっとー! なんで一人で行っちゃうのよあんた!」
「しんじょー、何がどうしたんだ?」
結城優紗と鳥谷先輩が軽めの駆け足で追ってきた。
他の面々も宿泊用の大きな荷物を背負いながらこっちのホームにやってくる。
いっけね……。
身内の斜め上の歓待に衝撃を受けたせいで皆を放置してきてしまった。
「うわ、わぁ……。すっごいかわいい人たちばっかだぁ……」
圭が将棋ボクシング文芸部の面々を見て圧倒されたように口を開ける。
「ほう、同じ部活の友達がくるって言ってたが……こりゃあ随分華やかなこった」
祖父も驚嘆したように息を吐いている。
そういや将棋ボクシング文芸部は男女比で言うと女子のほうが多いな。
酒井先輩と俺以外の四人は女子だ。
実家には男か女かは伝えてなかったから、まさかの比率だったのだろう。
「新庄君のご家族の方々ですか? わたしは新庄君と同じ部活の丸出真帆といいます。これから四日間お世話になります」
丸出さんがぺこりとお辞儀をして俺の祖父と妹に挨拶をする。
将棋ボクシング文芸部の合宿の予定は三泊四日だった。
「おお、こりゃご丁寧にどうも。孫がいつも世話になっとりますわ」
祖父は丸出さんの挨拶に会釈を返す。
「お世話になりますっ!」
「よろしくお願いします」
「お世話になるっス」
「よろしくお頼み申し上げる」
それぞれ挨拶をしていく将棋ボクシング文芸部のメンバーたち。
その間に妹は横断幕をクルクルと巻いて折りたたんでいた。
「あたしは妹の圭です。ささっ、長い旅路で疲れてるでしょうから皆さん早く車に乗っちゃって下さい!」
横断幕を小脇に抱えた圭が部のメンバーを先導する。
それ持って帰るのか……。
そんなもん駅のゴミ箱にでも捨てていけばいいのにと俺は思った。