前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい   作:遠野蜜柑

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第74話『大物配信者・38歳』

 

 

 

 

 

 

「おいっすー! 怜央が帰ってるって聞いたから差し入れ持って来たぞー!」

 

 縁側のほうからハスキーでダンディな男の声がした。

 振り返ると、でっかいスイカを二玉持ったヒゲ面のおっさんが庭に佇んでいた。

 隣の家の幸一おじさん(無職・38歳)であった。

 

 隣の家といっても数十メートルくらい距離はあるけど。

 

「あらぁ。コウちゃん、わざわざありがとうねえ」

 

 母が腰を上げてスイカを受け取りに行く。

 俺が帰ってきたから持って来たとのことなので、俺も挨拶に赴く。

 

「おじさん、久しぶり」

 

「おお、怜央! その様子だと元気そうだな! 都会でできた友達も一緒なんだってぇ? 楽しそうで何よりじゃないの」

 

「まあ、それなりによくやってるよ」

 

「そうか、そいつはとてもいいことだ。好きなことを一心不乱に打ち込めるのは若いうちだけだからよ。後悔のないよう、ただボンヤリ過ごすんじゃなくて学生のうちにやりたいことはやっておくんだぞ! 大人になるとしがらみが増えて自由な時間は減っていくもんだからな」

 

「幸一おじさん……」

 

 人生の先輩としてもっともらしいことを言ってくるおじさん。

 しかし、無職のおじさんに何のしがらみがあるのだろう?

 自由な時間はむしろ増えてるのではないか? という疑問が俺を苛む。

 

「まったくよぉ! お前は口ばっかり達者でいつまでも働かねーで! いい加減しっかりしろってんだ!」

 

 祖父は昔から知る隣の家の子供(無職の38歳)を叱咤する。

 

 これは幸一おじさんが俺に年上風を吹かせたアドバイスをするたびに行なうやり取りで特段珍しい光景ではなかった。

 

 いつもなら『そ、そのうちなんとかするつもりなんだ!』と言いながらおじさんが退散するところであったが……。

 

 今回はどうもおじさんの様子が違った。

 むしろよく言ってくれたとばかりに口元をニヤけさせる。

 

「ハハン、悪いな新庄のおっちゃん! 実は最近、オレは配信者として成功を収めたのよ! どうにも俺ってばイケボってやつだったらしくてな? バーチャルな絵の皮を被ってネットの配信をしたら広告収入ガッポガッポになったんだぜ!」

 

 …………!?

 

 何と言うことだろう。

 

 俺が都会に行っている間に隣の家の幸一おじさん(無職・38歳)は幸一おじさん(大物配信者・38歳)になっていたらしい。

 

 すごい一発逆転ではないか。

 おじさんが中年無職から一気に進化してしまった。

 ワープ進化だ。

 

 しかし、昨今のネット事情に疎い祖父は、

 

「なにおぅ! ハイシンシャだと!? お前ってやつは! お天道様に顔向けできねえことはすぐやめろ! お袋さんが泣くぞ!」

 

 祖父が険しい表情になって幸一おじさんに掴みかからんとする。

 いや、背信者じゃねえからよ、じいちゃん……。

 俺はどうどうとネットを知らない老人を宥める。

 

「配信……それ、詳しく聞きたい……」

 

 江入さんが食事を中断してトコトコと前に出てきた。

 

「なんだ嬢ちゃん、YouTubeの配信に興味あるのか?」

 

 おじさんは自分の仕事について語れるのが嬉しいのか機嫌よさそうに答える。

 

「是。いろいろ調べてはいるが、必要な機材や編集の仕方がイマイチわからない」

 

「へえ。じゃあ、もし時間があったら明日か明後日にでもウチにきな! 収録部屋を見せてやるよ! いろいろ教えてやっからさ!」

 

「それは助かる」

 

 元無職のおっさんが現役女子高生を部屋に呼ぶ事案がここに発生した。

 

 というか、江入さん、最近パソコンでやたら動画を見てると思ってたけど自分で配信することにも興味持ってたのね。

 

 

 その後、幸一おじさんが持って来たスイカをみんなで食し、夕飯兼プチ歓迎会は終了した。

 

 

 

 

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