前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 作:遠野蜜柑
「ふふん! そういうことならあたしも力を貸してあげる!」
結城優紗はグッと拳を握りしめて言った。
「えー」
「えーってなによ!」
こいつがいてもいなくても別に大差ないだろうが……。
一応、結城優紗は魔王城にいる俺のところまで辿り着けるくらいの力はあるもんな。
勇者のチートがあればその辺のやつには負けないだろうし手数としては役に立つか。
「ま、勝手にしてくれや」
俺は貸しを作らせたと思われないようあっさりと対応する。
しかし、俺はここでひとつ失念していた。
俺は先程――
「おい、しんじょー! どういうことだ! 何で優紗のことは止めないんだ!」
「え?」
俺は慌てて鳥谷先輩のほうを向く。
「お前、さっきは危険だから一人で行くって言ってたじゃないか! 人知を越えた存在と戦うことになるから残れって!」
そうだった。
俺は鳥谷先輩に危ないからついてくるなと言ったばかりだった。
それなのに結城優紗には警告もせずすんなりと同行を許可。
これはあまりに不公平。
というか、相対的に鳥谷先輩より結城優紗のほうが戦力になると言っているようなもの。
実際、チート持ちの結城優紗と比べたら地力の差はあって当然なのだが……。
鳥谷先輩はそんな事情知らないだろうし。
鳥谷先輩から見た結城優紗はモデル体型のただの美少女な後輩でしかない。
「わたしはお前くらい強かったら下手な加勢は邪魔だと思ったから納得したんだぞ! なのに、どうして優紗はいいんだよ!」
興奮気味にぐいぐいと詰め寄ってくる鳥谷先輩。
「あの……あたしなんかやっちゃった?」
鳥谷先輩の醸し出す剣幕にキョロキョロと戸惑いを見せる結城優紗。
くそっ、この女が余計なことを言い出さなければ……。
彼女も厚意から申し出たのだろうが、なんとも間の悪いやつである。
「鳥谷先輩、違うんですよこれは――」
「へえ? 何が違うんだ?」
鳥谷先輩は胡乱な目でジトッと見てくる。
「…………」
とりあえず焦って否定したものの。
結城優紗なら問題ないと考え、鳥谷先輩では実力的に不安であると判断した事実を馬鹿正直に本人に伝えるのは憚られる。
やべえ、上手い言い訳が出てこねぇ……。
できれば嘘は吐かず、角を立てないで納得させられる理屈をこねることが望ましい。
俺が口から先に生まれてきたような男であればこの窮地も容易く切り抜けられただろう。
しかし、残念ながら俺は質実剛健を地で行く日本男児な性格。
こじれた修羅場を丸め込むトークスキルなどありはしない。
俺はこの事態を招いた結城優紗にフォローを求める視線を送った。
……が、彼女は出来損ないのパントマイムのようにアワアワと手を虚空に彷徨わせて目を泳がせているだけだった。
俺より動揺してるねぇ。
こいつ、機転が利きそうな有能風のツラしてるのにホントこういう状況に弱いわ。
まあ、そこまでアテにしていたわけじゃないから別にいいけど。
「はあ……もういいさ……。しんじょーがそう決めたってことはそれが正しいんだろ?」
「あ、鳥谷先輩!」
鳥谷先輩は溜息を吐いてそう言うと、一人で先に玄関の扉を開けて家に入ってしまった。
その背中はいつも以上に小さく見える。
いや、違う――
いつもは実物より大きく見えているんだ。
それが今は消沈して原寸大のまま認識できている……。
鳥谷先輩はメンツをとても大事にする不良という生き物。
しかもその中でボス的な存在だ。
面目を潰されたら一般人より遥かに傷つくに違いない。
俺は鳥谷先輩の派閥に庇護して貰った立場でありながら、彼女が目指していた『馬王』という馬飼学園最強の座を掠め取った存在である。
そんな俺を鳥谷先輩は複雑な思いもあるだろうに祝福して、以降も後輩として変わらず接してくれた。
なのに今回、俺は結果として彼女を蔑ろにするようなことをしてしまった。
くそ、どうしたらいいんだ……。
とにかく連れて行って俺がさりげなく守ってやればいいのか?
いや、鳥谷先輩はそんなことで喜んだりはしないだろう。
そういう話ではないはずだ。
とりあえず話をしなければ――
俺が鳥谷先輩を追いかけるために踏み出すと、背後から肩を掴まれて止められた。
俺の肩を掴んでいたのは情報のキャパオーバーから復帰していた酒井先輩だった。
「あいつは意地になってるだけだ。一晩寝たら落ち着いて話せるようになるだろうから今はせっかちに突っついてやるな」
「そういうもんですか……?」
「そういうもんだ。少し頭が冷えればあいつなら客観的に考えて話ができるはずさ」
よくわからないが、俺は酒井先輩の助言に従うことにする。
田舎で同世代と関わってこなかった俺より、酒井先輩のほうが人間関係の機微についてはよく知っているだろうだから。
とはいえ、やはり大丈夫なのかと心許ない気持ちにはなる。
「ねえねえ、それであたしは何かやっちゃったのかな……?」
「…………」
俺の服の裾を引っ張りながら不安げに言う結城優紗の声が俺を余計に心細くさせた。