前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 作:遠野蜜柑
俺は庭の裏手に回って鳥谷先輩の姿を探す。
どうにも鳥谷先輩と江入さんは祖母と一緒に薪割りをやっているらしい。
我が家の薪割りは祖母が担当しているのだ。
若い頃に剣術を嗜んでいた祖母は振り下ろすのが好きという、関連性があるのかよくわからない理由で自らその役目を買って出ていた。
「おいしょー!」
パッカーン!
「おいしょー!」
パッカーン!
「おいしょー!」
パッカーン!
薪割り場に近づくと、軽快な木の割れる音と掛け声が聞こえてくる。
鳥谷先輩は斧を豪快に振り下ろし、一刀のもとに薪を両断していた。
江入さんはしゃがみ込んで淡々と木材を切り株の上に載せている。
祖母は傍らに立ち、二人を静かに見守っている――かと思いきや、
「すごいわぁケイティちゃん! 力強くも柔らかい振り下ろし! 全身のバネに天性のものを感じるよ!」
鳥谷先輩の身体能力を目の当たりにして声を張り上げていた。鳥谷先輩はその小柄な体格からは想像できないくらい意外な力がある。きっと身体の使い方が上手いから最大効率で出力が出せるのだろう――と俺は思っているが。
「おいしょー!」
パッカーン!
綺麗に真っ二つになる木材。
「やはり逸材! こりゃあ一族秘伝の奥義を授けてもいい素質だわぁ!」
…………。
振り下ろすことが関わると語気が強くなり饒舌になるのが我が祖母なのだった。
目を見開いてめちゃくちゃに興奮している。
奥義ってなんだよ。
我が家の薪割りにそんなのあるとか初耳だわ。
鳥谷先輩の掛け声と祖母のハイテンションに挟まれながら、黙々と木材をセットし続けている江入さん微妙にいたたまれない。
まあ、彼女のことだから気にしてないと思うけど。
「ありゃ、怜央じゃないの。なんだい? 朝餉の準備ができたのかい?」
祖母が佇む俺の存在に気がつき声をかけてきた。
「いや、それはまだ……まあ、もうすぐみたいだけど。ちょっと鳥谷先輩に用があって」
「ああそうかい。それならここからは私がやろうかねぇ」
俺が言うと、祖母は腕まくりをして鳥谷先輩から斧を取り上げた。
これは母と同じく祖母も何か察してた感じか。
多分、俺じゃなくて鳥谷先輩の様子がおかしかったんだろうな。
「し、しんじょー……」
鳥谷先輩は薪割りによって掻いた汗の雫を拭いながら気まずそうにこちらを見ている。
ミディアムの髪をポニテ風に結んだ新鮮なヘアスタイルの彼女は、らしからぬ狭い歩幅でちょこちょこと歩み寄ってきた。
俺たちは祖母や江入さんから少し距離を置いた場所に移動。
さて、どういうふうに切り出せばいいものか……と俺が思考していると、鳥谷先輩がギュンッと高速で頭を下げてきた。
70度を超える深い角度で沈んだ後頭部が俺の眼下に曝け出される。
ホワイ!?
「昨晩はすまん! あんなふて腐れたような態度を取って……先輩としてみっともない姿を見せてしまった!」
汗で湿ったブロンドの頭頂がハキハキとした声で謝罪をしてくる。
謝ろうと思ってきたのに先に謝られてしまった。
「別にお前を困らせようと思ったわけじゃないんだ。ただ、ちょっと自分が不甲斐なくてさ。優紗は信頼されてるのに、わたしはしんじょーから頼りにされてないんだなって思ったらモヤモヤしちゃって……」
もしょもしょとトーンダウンしていく鳥谷先輩。
まずい! 俺は追撃で落ち込ませるために話をしにきたのではない!
「月光や風魔すら退けるお前からしたら確かにわたしは力不足かもしれない。でも、先輩として困ったときに頼って貰えるくらいの信頼はあると思ってたんだ。けど、実際は全然で……優紗との差を見せられて勝手にショックを受けてしまった」
「いや、あれは結城を信頼してて鳥谷先輩を信頼してないとか、そういうことでは……。実はあいつも特殊な力があってそれで――」
「ああ、昨日優紗からあの後聞いたよ。でも、しんじょーはその力がある優紗なら大丈夫って思ったから一緒に来ていいって言ったんだろ? わたしと違って危険なことにはならないって考えたからそう言えたってことだよな?」
…………。
否定しきれないのが詰んでいる。
というか、結城優紗は鳥谷先輩に自分の力のことを話したのか。
そのことに軽く驚く。
まあ、あいつも別に必死に隠そうとはしてなかったもんな。
自分から喧伝するようなことじゃないから言いふらさないだけで。
「わたしが危なくならないようにってしんじょーが思いやってくれてるのはよーくわかってる。出美留高校の件もそうだったからな」
ん? 出美留高校?
悪魔のダンタリオンが段田理恩に取り憑いて番長をやっているあの学校?
なぜ今その話が出てくる?
そもそも鳥谷先輩は出美留高校のことを知ってたの?
「出美留高校の馬飼攻めについて、わたしがどんな出方をすべきか考えてるうちにしんじょーはいつの間にか一人でケリをつけてたよな。いつその話をしてくれるのかと思ってたけど、結局お前はそんなことおくびにも出さず、何事もなかったかのように振る舞ってる」
「ああ――」
「聞けば、段田理恩は花園一派の次にわたしをターゲットにする予定だったらしいじゃないか。しんじょーはわたしを不安にさせないために黙ってカタをつけたんだろ?」
「…………」
それは違うんすよ……。
段田理恩をボコしたのは完全に成り行きである。
鳥谷先輩に言ってなかったのはいちいち話題にするようなおもしろエピソードだと思ってなかったから忘れて記憶の彼方に飛ばしてただけ。