とある魔術の天の住人 作:翔泳
こちらで完結させられるように頑張りたいと思います。
所々少し修正を加えつつ投稿していくつもりです。
七月二十日
時間は十四時過ぎ。
『学園都市』
東京都の三分の一ほどの大きさに人口二三〇万人もの人が住んでおり、その八割が学生である。最先端の科学技術が研究・運用されており、都市の内外では数十年以上の技術格差が存在する。また学園都市はそれぞれ特色のある二三の学区から構成されており、その第七学区のとある寮に彼はいた。
見た目はワンルームマンション、鉄格子の様な手すりに覗き防止用の板が張られていないのはここが男子寮だからだ。汗一杯になりながら両手に荷物をぶら提げ、エレベーターに乗り込む。工場にある搬入用のエレベーターよりも小さいと思われるそれは七階で止まりそのガラクタの様なドアがガコガコと開く。
隣接している建物の所為で七階と言うのにも関わらずビル風はなく夏の暑さを象徴する蒸し暑い空気が立ちこめていた。
直線通路にずらりと並ぶドアを一つずつ確認するように廊下を歩く。
(隣は上条って言うのか……)
上条と書かれてある部屋を通り過ぎ一つ奥のまだ表札のないドアを開けて彼は中に入る。すでに運び込まれている段ボールがいくつか積まれてあるが一人暮らしと言う事で然程多くも無い。支給されている小さなテレビとどこにでも有りそうなシングルベッド、生活するのに必要最低限のモノしか置かれてない部屋はまだどこか寂しい雰囲気があった。
彼、
人口二三〇万人、その八割の学生に『記憶術』や『暗記術』などと名前を誤魔化して『頭の開発』を
つまり誰もがマンガの主人公の様な存在になり得る可能性を秘めた場所でもある。ただその六割は
「ふぅ、片付けるか」
と殺風景な部屋を見渡し守越尊はそう呟いた。
衣装ケースの中に片っ端から衣服を詰め込んでいく。目覚まし時計はベッドの棚にセットし本棚には溢れんばかりのマンガと少量の参考書を並べ、奮発して買ったDVDレコーダーをテレビの下に設置なんかしてみる。
作業は一時間ほどで一段落し殺風景だった部屋はまぁ男子生徒が一人生活するにはぴったりの部屋になった。
2
「えぇっとこんなもんかな」
学園都市の街中を歩く守越尊は手に生活に必要な一セットの食器や少量のインスタント食品等をぶら提げていた。さすが学園都市と言わんばかりに辺りには地面にへばりつくガムも一瞬にして剥がしてしまうと言うドラム式掃除ロボットや警備ロボットが横を通り過ぎていく。道の真ん中には風力発電用の三枚のプロペラが夏の風に煽られクルクルと回っている。もう少しマジマジと見たい所であったがそんな事をしていては田舎モノ丸だしなのでチラチラと見る程度にする。
ドン、と誰かと肩がぶつかった。
「すみませ――ッ!?」
「おいテメぇ、どこ見て歩いてんだぁ??」
その明らかにがたいの良さそうで明らかに悪そうな男はぶつかるや否や守越尊の胸ぐらを掴んで来た。その勢いで荷物を落としてしまった守越尊はパリっと言う何かガラス系のモノが割れる音を聞いた。
あぁ、せっかく買った食器が……と残念がる暇も無く今にもその目の前の男は殴りかかって来そうだった。
「何をされているんですの?」
不意に後ろから聞こえて来た鈴の様な女の子の声に男と尊は一斉に振り返った。
茶色い髪をツインテールにした女の子は腕章を突き出すように
「
ちっ
「お怪我はありませんこと?」
ツインテールの女の子は胸の前で両手を組んで見上げるように、そしてやさしく声を掛けた。
「あ、あぁ、ありがとう」
「完全下校時刻ですし、この時間になりますとあの様なゴロツキがウヨウヨいますわ。早めの帰宅をオススメしますの」
などと話をしていると、甲高い警報音が遠くから聞こえて来た。
また事件ですの? と彼女は振り向き、私はこれで失礼しますの、と言うと
瞬! とその場から消えた。
え!? と守越尊は辺りを見回すが先ほどの女の子はどこにも見当たらなかった。
「あれが能力……」
初めて能力と呼ばれるモノを目の当たりにした守越尊は一瞬ボーとしていたが、ゆっくりと荷物を持ち立ち上がると荷物をチラっと見てハァとため息をつき夕焼けに紛れるように寮へと向かった。
寮に着いたころには辺りは暗くなりかけていた。オートロック式のドアを抜けてエレベーターに乗り込む。その中でも再び荷物を見てため息をつく。余分なお金を持って言っていなかった守越尊は、また明日買いに行かなくちゃな、と呟き七階に着いたエレベーターから重い一歩を踏み出す。
「ん?」
と守越尊は廊下の直線的な向こうに何やら白いモノが床に転がっているのが見えた。
自室の一つ手前、お隣さんの部屋の前だ。
近づいて行くにつれてそれが人である事に気が付いた。そしてその白い服の背中は血のように赤く
「!!」
守越尊は今度は自分で荷物を落とすと駆け出していた。さらにパリんと言う音が聞こえたがそんな事を言っている暇は無い。
白い服はおそらく修道服、と言うことはシスターだろうか。
顔を見る感じでは十四か十五歳くらいの女の子。銀色の髪を見る限り外国人と見られるその少女は背中から大量の血を流し倒れていた。
「おい! あんた大丈夫か!?」
声をかけるが返事はない。この部屋の前で倒れていると言う事はこの『上条』と言う人の知り合いか何かなのだろうが、チャイムを鳴らそうがソックをしようが部屋からは何の応答もない。彼女の背中には何かとてつもない刃物で切りつけられた様な傷。銀色の髪もその溢れ出す血液によって赤く染められていた。
「誰がこんな事を……」
「僕たち『魔術師』だけど?」
カツっと言う足音。
振り向く先には白人の二メートルはあろう身長の男。背丈の割に幼く見えるその顔、おそらくこの少女と同じ十四か十五歳であろう。服装は教会の神父が来ているような漆黒の修道服。ただその姿は『神父』と呼べるものでは無く、鼻に匂う甘い香水の香り、そして肩まである燃えるような赤髪、両手の指には銀の指輪がメリケンのように並んでいる。そして耳には数個のピアスを付け、煙草を銜えたその姿は不良と呼んだ方が良いだろう。
この彼女を見る視線からこの子を知っている事は無違いないだろうがこの状況を見て何も感じないと言うのはおかしい。知り合いがこんな状況で平然としていられる訳がない。まるでこうなっていることを知っているかのようにその男は見ていた。
「ま、魔術師? 学園都市には魔術師もいるのか!?」
なに、心配ない。僕たちは外の住人さ。と、さらっと言ってのける魔術師と名乗る男。ただおかしい。都市の周囲は高さ五メートル・厚さ三メートルの壁に囲まれ、外部から隔離されている。都市への出入りは厳重な審査があり外部の人間が簡単に入れる訳がない。
だがそんな事はどうでもいい。
「これはあんたがやったのか?」
「うん? まぁ半分半分てとこだね。僕がやった訳じゃないが『僕たち』がやったって事に変わりはないからね」
守越尊は理解不能であった。こんな状況を目の前にして平然と自分たちがやったと言ってのけるこの男、そしてこんなことをやっておいて平然と表情一つ変える事無く立っているこの男の心が理解できなかった。
「うん、そろそろいいかな? それ、回収したいんだけど」
回収?? その言葉の意味が分からない。治療ではなく回収? こんな状態である女の子を前にしてまるでただの荷物を取りに来たと言わんばかりの発言に最早言葉もでない。
「正確に言うとそれの持っている一〇万三〇〇〇冊の魔道書なんだけどね、まぁ君には関係のない話だよ」
「インデックス!!」
その直後に魔術師の後ろから叫ぶ声が聞こえた。
「また変なのが現れた見たいだけど、どうやらそれとは面識があるみたいだね」
魔術師は煙草を揺らしながら言葉を発した。
「お前何者だ!?」
「ステイル=マグヌスと言いたい所だけど、ここはFortis931と言っておこうかな」
ステイル=マグヌスと名乗る男はさらに言葉を続ける。
「魔法名だよ、聞きなれないかな? 僕たち魔術師って生き物はどうやら魔法を使用するときに真名を名乗ってはいけない古い習慣みたいなものがあってね」
まぁと言うよりも
――殺し名だよ
ステイル=マグヌスは煙草を指で弾く。回転しながら火の粉を飛ばすそれは
「炎よ――――――」
ステイル=マグヌスが呟いた瞬間、轟! と爆発した。
炎はまるで踊る様に噴き出し炎の剣が生み出される。
「こ、これが……魔術」
ドサっと尻餅をつく守越尊を鼻で笑うとステイル=マグヌスはその炎剣をもう一人の彼目掛けて叩きつけた。
「――――――巨人に苦痛の贈り物を」
咄嗟に彼は手で顔を庇ったがそれは彼に当たると激しく爆発し爆音と炎を巻き上げた。
「やりすぎたかな?」
と魔術師、ステイル=マグヌスは笑っている。
魔術師じゃなくても分かる。あの炎は生身の人間が耐えれる様な代物ではない。その近くでは金属の手すりが飴細工のように融けている。きっとあの中の彼も……
そう考えた瞬間吐き気に襲われる。目の前で人が焼き殺される瞬間を目撃してしまった。
必死でそれを飲み込み抑え込む。
さて、とステイル=マグヌスはこちらを振り向く。人一人を殺したと言うのにその表情は全く変わる事がない。
「それ、回収したいんだけどいいかな?」
ステイル=マグヌスはゆっくりと近づく。
魔術師の後ろで燃える炎の暑さで汗が出ているのか、それとも別の冷たい何かが背中を伝っているのか。守越尊は有りもしない唾を必死で飲み込んだ。
後ろには傷ついた見ず知らずの女の子、そして目の前には人一人殺す事に何の躊躇いも無い魔術師。
だからその拳に震えながらも強く握られた。
「へぇ、よく逃げないんだね。まぁ君たちみたいなのが何回戦おうが勝てないんだけどね」
「誰が勝てねぇって?」
ギクリ、と炎の中から聞こえた声に二人の動きは止まる。
その炎の中心から全てを吹き飛ばすように彼は姿を現した。
一瞬思考回路が停止する。それぐらい衝撃的な出来事だった。
魔術、能力、そう言った類の事は全く分からない守越尊だったが、あの炎だ人を死に至らしめるであろうことは見て分かった。しかし、彼はその中から無傷で現れた。
だがそれ以上に魔術師ステイル=マグヌスはそれ以上に動揺していた。
ステイル=マグヌスは自分が放った炎がどれだけの威力であるかを知っている。その男がこれほど動揺するほど今の出来事は異常だったのだ。
彼は勢いよく走りだす
「チッ!」
ステイル=マグヌスは右手を水平に振るう。生み出された炎剣を再び彼に叩きつける。だが彼の放った拳はその炎をかき消し魔術師の頬に突き刺さる。
大きく後ろに仰け反る魔術師を見て彼が叫ぶ。
「インデックスを!!」
尊は悟る様にその女の子の傷に触れぬように背中に担ぐ、そして予想以上に軽いその女の子を背に勢いよく走り出した。
彼も同時に走る。一刻も魔術師から離れるように
「
魔術師が何かを叫んだ。と同時に魔術師の服の中から炎が飛び出し二人の前に燃え上がった。ただそれは単なる炎の塊では無く、真紅に燃え上がる炎の中で黒くドロドロとしたモノが『芯』になっている。
それはまるで生きている様に人の形を成していた。
その炎の巨神は人間を磔にするかのような十字架を片手にそれをツルハシでも振るうかのように叩きつける。
「……っ!!」
目をつぶり顔を横に向ける尊であったが、その十字架が尊に届く事は無かった。
瞑った目を開くと左手で右手を支えるようにその十字架を押さえつける彼の姿が守越尊の目に入った。
「右手が通用しない!? クッ、お前! インデックスを連れて逃げろ!」
「あんたはど――」
「いいから逃げろ!!」
尊は階段を駆け降りる。自分がいても何の出来ない事は分かっている。それに彼はあの炎の中でも生きていた。きっと大丈夫。そう心に言い聞かせてながら、最悪の状況を考えないようにだけしていた。
六階、五階と螺旋階段を確実に一歩ずつ下っていく。
「!?」
その最中、妙なモノを見つけた。
あるフロアの壁や天井一面にテレフォンカードの様な大きさの紙が貼られてある。
「あれは……」
「――――――ルーン」
と背中の少女が声を発した。
「――――――『神秘』『秘密』を示す二四の文字にして、ゲルマン民族により二世紀から使われていた魔術言語で、古代英語のルーツとされます」
尊は信じられなかった。先ほどまで意識すらなかった彼女がそれもこんな怪我をしてここまで冷静に話せるのだろうか? ただ彼女はそのまま話を続ける。
「――――――『
「なっ!?」
なら上にいる彼はあの炎の巨神を倒す事が出来ない。つまりこのままだと彼は……
それ以上は考える事を止める。
彼は今上にいて『
彼女の傷は深い、しかし彼女は現にこうやって喋っている。
その言葉は機械のように冷たいモノであったがまだ話せるだけの余裕があると言う事だ。
それとは違い、不死身の敵を前にして彼は間違いなく殺られる。
「――なぁあんたインデックスでよかったよな?」
「はい。私はイギリス清教内、第零聖堂区『
「このルーンってヤツをどうにかすればあの『
はい、と少女は言う。
ならば、やることは決まっている。
このルーンと呼ばれる紙をどうにかして、上で戦う彼を助ける。
とは言ったモノの、寮の天井、階段、壁、あらゆる場所に張り付けてある。恐らくは数万とこのルーンは張り付けられてある。
尊は一枚を剥がし手に取った。
一体どうすれば……
ポツリっと守越尊の汗が紙に落ちる。ジワっと怪しげな記号の文字が僅かに歪んだ。
3
少年は追い込まれていた。
向かう先には『
ステイル=マグヌスは笑う。
「どうやら『
十字架を振り下ろす炎の巨神に彼は右手突き出しそれを防ぐ。ただそれは防ぐ止まりだ。
「灰は灰に――――――」
ステイル=マグヌスは右手に炎剣を生みだす。
「――――――塵は塵に――――――」
さらにもう一本、左手に炎剣が伸びる。
「――――――――――――吸血殺しの――――!?」
言葉が終わる前に建物中にある火災報知機が鳴り響いた。
嵐のようにスプリンクラーの水が天井から降り注ぐ。
そして変化を彼はいち早く感じた。
明らかに目の前の巨神の様子がおかしい。
チーンと電子レンジの様な音が聞こえてエレベーターがこの階に到着した。
勢いよく飛び出して来た二人にステイル=マグヌスと彼は驚いた。背中の女の子に自分の衣服を掛け、アンダーシャツ姿の守越尊の姿があった。
何で戻って来た!? という言葉よりも先に守越尊の言葉が発せられた。
「そいつはもう無敵じゃない!」
その言葉に彼は右手をその巨神に振りかざした。
『魔女狩りの王』は呆気ないほどの音を立てて辺りに散らばる。その炎は再生される事無くモゾモゾと動くだけであった。
「ば、バカな……僕の『
「なら、そのルーンをずべて破壊したってだけの話しだ」
「まさか、あれだけの数のルーンをいったいどうやって……」
そう考えて、魔術師ステイル=マグヌスはハッとする。
「このスプリンクラーは……」
「インクは水に弱かったみたいだな」
スプリンクラーの水によってインクが流されるのに比例するように『魔女狩りの王(イノケンティウス)』は力を失い溶けるように消えていった。
少年はゆっくりと魔術師との差を詰めて行った。
「は、灰は灰に――――――」
魔術師は焦る様に唱える。
少年は拳に力を込める。
「――――――ち、塵は塵に――――――」
そして力強くその足を踏み込む。
「――――――――――――吸血殺しの紅十字!」
左右からオオバサミの様な炎剣が少年を襲う。しかし彼がその右手で触れるとその炎は跡形も無く消え去り、
その拳は魔術師の頬へと突き刺さった。
人形の様に飛んで行った魔術師は後頭部から金属の手すりへと激突した。