とある魔術の天の住人 作:翔泳
10
それが異能の力であれば神の奇跡さえも触れただけで無効化させる。
「「――ォおおっ!」」
守越尊と上条当麻は同時に地面を力強く蹴る。
砂利とレールが敷き詰められた大地を踏みしめて駆けだす。
ニヤリと笑みを見せて
ドン、と地面を踏みつける。
瞬間、
それに気がついた二人は慌てて腕で庇おうとするが、大量に飛び散る砂利は二人を容赦なく襲う。
無数の弾丸に襲われた様に体の至る所に小石が叩きつけられる。
それと共に訪れる衝撃で二人は後方へと飛ばされゴロゴロと地面を転がる。
「ンだよ口先だけかァ? 三下!」
宙へと投げだされた鋼鉄のレールをまるで風船を叩くくらいの感覚で殴り飛ばす。
弾く蹴る殴る、十数個に及ぶレールは銃の弾丸の様に一直線で二人に向かって行く。
二人は左右に飛び散る様にしてそのレールを避けるが、避けたレールは地面へと突き刺さると同時に小さな爆弾が破裂したように地面が爆発する。
左右に避けた二人を砂利が襲う。
一つ一つは小さな小石であっても弾丸の様に飛んでくる小石の威力はバカに出来ない。
全身を叩きつける小石は防ぐ腕の隙間を塗って尊に胸へと直撃する。
「がっ……!」
飛んだ勢いに上乗せされる様に後方へと飛ばされ、地面を二回三回と転がった所で止まる。
「尊!」
ガン、と言う金属音が辺りに響く。
「他人の心配なンざァしてる暇はねェぞ!」
上条当麻が見上げる上空には無数のレールが散りばめられ既に落下を始めていた。
「オラオラ、踊れよォ三下!」
地面へと急降下するそれは大きな爆音と共に砂利を巻き上げて地面へと突き刺さる。その間を掻い潜る様に上条当麻は地面を転がる様にしてその場から這い出る。
尊は這い蹲る地面から立ち上がると額の汗を拭う。
一撃を浴びせるどころか近づく事さえ出来なかった。
自分は囮。上条当麻に右手を振るうチャンスを作る事さえ出来れば
確認するかのように目をやると上条当麻も構えた所であった。
(――どうにかチャンスを)
そして地面を蹴って、勢いよく走りだす。
(何でもいい……何か)
ポケットに膨らむそれを手に取る。
(やけくそだ!)
右手でポケットに入っていた携帯電話を投げる。
もちろん何の効果も無い事は分かっている。ただ一瞬でも上条当麻から視線を外す事が出来れば良かった。
携帯電話は
目もくれずに
ゴキ、と殴りつけたその拳は嫌な音と共に変な方向へと曲がった。
「がぁぁぁ」
弾かれる様に後方へと倒れる尊を
と、
それでも
「オマエもアイツと一緒だってのが分かンねェのかァ!?」
何故なら知らないからだ。上条当麻の右手に秘められた力を。
反射出来ると思い込んでいた
吹っ飛んでコンテナへと激突した
「クッ、イテ、何だァ? ハハ、決まっちまったぞ、面白れェ。オマエら面白れェぞォ!!」
ゴン、と
どう
上条当麻は落ちて来るコンテナを回転する様に避ける。
それに対して地面に膝をついていた尊は回避の動作に遅れる。曲がった右手を庇いながら前方に死に物狂いで転がると、そのすぐ隣にコンテナは落下した。
何とか回避に成功した尊は反転して起き上がろうと右膝をついて、
見上げた瞬間、
既に
もう遅いと思った。
丁度、顔目掛けて飛んでくるそれはまるでコマ送りの様に鮮明に映り、そのポールが守越尊に刺さる直前に
尊の視界を何かが入った。
瞬間、ガン、と言う金属音と共に守越尊の視界が赤色に染まった。
「な、んで……」
すぐ後ろのコンテナにはポールが突き刺さり、ポツリポツリと先から赤いモノが滴り落ちている。
尊の声は震えていた。
その視線の先には
茶色い短髪に赤く染まったブラウス、灰色と呼べないプリーツスカート、頭には軍用ゴーグルをかけて。
そして腰にはポーチの様な物をぶら下げて。
両手を広げたその姿は支えの無くなった人形の様にドサッと地面へと倒れた。
「み、ミサカ!!」
尊はすぐさま駆け寄り、左手で支えながらミサカの上半身を起こす。
貫かれた右腹部から流れる血はブラウスを赤く染めている。
「何で……こんな所に来たんだよ!」
「分かりま……せん」
どうしてこんな所に来てしまったのか、ミサカにも分からなかった。
ただハッキリしている事は自分が他の
悪く言えば、自分一人だけ頭のネジが一本抜けてしまっている様に、考え方が変わってしまった。
少年と離れた後、ミサカは後を追うべきかしばらく考えていた。
ミサカネットワークと通じて他の
しかしミサカはこの少年との出来事で自分の中に生まれた新しい何かが追うべきだと訴えていた。
それがどういったモノであるかは完全には分からないが、ミサカは他の
「自分が実験動物だからとかまた思ってるんじゃ――」
「違います、とミサカは否定、ッ……いたします」
それは違うとミサカは強く思った。
この少年によってミサカは自分が人間なのだと教えられた。それも恐らく
だから自分の命を大切にしなければならない事もそれなりに分かっている。
だたそれ以上に
「貴方を……助けたかったのだと、ミサカは推測します」
この場所に到着して一番に目に入った光景。それは
そしてその先にはそれに気が付いていない少年。
ミサカは自分でも分かっていない。気がつけば地面を蹴っていたのだ。
自分の命がどうでもいいと言う事はもう無い。下手をすればこの一撃で命を落としていたかもしれない。それでもこの少年の傷つく所を見たくないと、自分の中の何かが訴えていたのだ。
「テメェ!」
その様子を見ていた上条当麻は拳を振るい上げて駆けだし、
地雷が爆発した様に地面が破裂し砂利と共に吹き上がる衝撃で上条当麻は宙へと投げ出され、地面に叩きつけられる。
「ご、は……ッ!」
背中を撃ちつける地面が肺の酸素を空気中へと吐き出させる。
「高が乱造品一匹傷ついたくれェで喚くンじゃねェよ」
ドクン
尊の心音が大きく体を伝う。
「なん……だと」
「所詮、俺に殺される為に作られたモノでしかねぇンだよ」
ドクン
心臓が耳元にある様にその音は鳴り響く。
全身の血液が暴れる様に駆け巡り、何かが溢れ出して来る様な感覚。
丁度いい、と
「死ンでな、二人まとめてなァ!」
放たれたレールは弾丸の様に一直線に二人へ向かう。
レールが舞い上がる瞬間、
だから自分を置いてこの場を離れて下さい、そう目の前の少年に向かって言葉を発しようして、
(な、にを――)
ゴォン、と言う教会の鐘を鳴らす様な轟音が響き渡る。
レールは二人に突き刺さる事は無かった。
ミサカはそのレールがどこに行ったのか分からなかった。何故ならそれはミサカの頭上側のコンテナに深々と突き刺さっているからだ。
尊はミサカの肩と膝下を抱えると、スッと立ち上がる。
「チッ、調子に乗ってンじゃねェぞ、三下!」
ダン、と
しかし、触れただけで人を殺せる両手を前に突き出して飛んでくる
何事も無い様に尊は通過した。
「ハァ?」
瞬時にして視界から消えた相手に
グルンと振り向いた先、さっきまで自分がいた場所に尊は立っていた。
「ク、ざけンじゃねェぞ!」
尊に抱きかかえられているミサカはレールの行く末を見た。
一直線に飛んで来たレールは目の前で、何かに弾き飛ばされた。
向きが変わったのではなく、弾き飛ばされたのだ。
弾き飛ばされたレールは回転しながら離れた場所にある建物へと激突する。
ミサカは気がついた。少年の左手の甲が赤に染まっている事を。つまりはレールを左手で弾き飛ばした。
抱えているミサカを落とす事無い一瞬の動作。ミサカの肩から手が離れた事すら分からないほどの一瞬。
さっきもそうだった。
この場所まで来る時もこの少年はただ移動しただけ、レールもただ弾き飛ばしただけ。
弾いた左手の甲からは赤く血に染まっている。
生身の体で鋼鉄に当たれば当然そうなってしまう。それでも尊の表情を歪める事は無かった。
「――御坂美琴、そこにいるんだろ?」
コンテナとコンテナの隙間から御坂美琴が姿を現した。
「……なんで分かったのよ」
尊は御坂美琴へと歩み寄る。
「当麻から話は聞いてる。
この戦いは最強の
上条当麻の
尊が参加している理由も、彼はまだ能力開発すら受けていない一般人と言う扱いになるからだ。
「だから、ミサカを頼む」
尊はミサカをゆっくりとコンテナを背もたれにする様に座らせる。
御坂美琴は気がつく。尊の右手が変な方向に曲がっている事に。
「アンタそんな手で――え?」
御坂美琴は見た。
尊はミサカを下ろすとゆっくりと立ち上がる。その体は右手が曲がり服はボロボロ、体の至る所に傷が見える。
しかしそれよりも
「アンタ……一体何なの?」
立ち上がった守越尊の右の瞳はまるでどこまでも続く大空の様な青で、夜のこの場所では一際異様な色を放っていた。