とある魔術の天の住人 作:翔泳
11
尊は不思議な感覚に襲われていた。
何故、御坂美琴がこの位置にいる事が分かったのか自分でも良く分からない。
ただ脳が示していた。あそこに御坂美琴がいると。
尊は御坂美琴達に背を向けて
「あっちにいるもう一人のミサカも頼む」
そう言って尊は指差す方向には、もう一人のミサカが地面にうつ伏せで倒れていた。
「でも――」
「早く!」
ビクン、と御坂美琴の体が震える。それほど尊の言葉には威圧があった。
御坂美琴は砂利の上に倒れたままのミサカに駆け寄って行く。
それを確認すると同時に尊は歩を進める。
くっくっ、と
「イイねェ――」
発電能力を応用した移動能力、或いは肉体強化系による力なのか、
「――殺し甲斐あっぞォ、オマエ!」
ドン、と地面を踏みつけると同時に
ロケットの様に地面が爆発させると、その触れるだけで人を殺せる両手を突き出して一瞬にして尊との距離を詰める。
尊は御坂美琴達から離れる様にして横へ移動する。
大量の砂利が巻き上がった。
「逃げてンじゃねェぞ、三下!」
その言葉を聞いた事によるモノかあるいは初めからそうするつもりだったのか、尊は言葉と同時に立ち止まり振り返る。
その右目は一段と輝きを増して、その瞳には光りを放つ線が映し出される。
触れただけで体内の生体電気を逆流させ、内側から体を破壊するその手。
それが尊に触れようとした瞬間、
パン、とその双掌は尊の左手に弾かれた。
「な!?」
あらゆるモノを『反射』させるように設定してあるハズだった。
核兵器や超電磁砲すら問題ではない。
増してや、単なる人間の手ともなれば、触れるだけでその手は異様な方向へと曲がることになる。
はずなのに、
グシャ、と鈍い音と共に顔を殴られた
数十メートルを飛び、地面を幾度も転がった所でようやく止まる。
「な……ンだ? どうなって、やがる」
足が震えると言う感覚は
全ての
膝に手を付いてようやく立ち上がったのもつかの間、
瞬、と目の前に現れた尊は左手を振るう。
ミシミシ、何かが引き裂かれる様な音が体から聞こえる。
顔を捕らえたその左手。またも反射の効力を発揮せずに打撃が伝わる。
「が……ッ!」
仰け反るように飛ぶ
宙を舞いながら目を開くと同時に視界に入ってくるコンテナ。
ク、とそのコンテナにぶつかると同時に衝撃全てコンテナに向けると、
ガゴン、と言う音を立ててコンテナは後方へと弾け飛んだ。ガン、ゴン、と音を鳴らしながらコンテナは地面を転がる。
「なンで……反射が効かねェ!?」
『変換前のベクトル』と『変換後のベクトル』の計算は間違ってはいない。無意識下でも行える『反射』の計算を学園都市最強の能力者であり学園都市最高の優等生が間違えるハズが無かった。
ポツリ、と
「あン?」
それの正体に気がつくまでに二秒ほどかかった。他人のモノは数多く見て来たが自分のモノは初めてだった。
血
「調子に乗んじゃねェぞ、三下が!」
「誰が――」
その声は後ろから聞こえた。
「――三下だ!」
ブチブチ、と嫌な音を立てて尊が放った蹴りは
体をクの字に曲げてコンテナへと激突する。コンテナは無残にも形を変形させるが、それは
数個にも並ぶコンテナは衝撃をすべて向けられて激しく軋む。
「ご、ふ……」
口の中を鉄の味が支配する。
ジャリ、と地面を踏む音がすぐそこで聞こえた。
膝をつきながら見上げる先には尊が立っていた。
尊は左手を振り上げて、その瞳は
ここで全てが終わると確信した。
瞬間
ドクン
尊の振り抜いた拳が自分の顔を過ぎた辺りで止まった。
全身を強烈な痛みが走り抜ける。途端に全身の機能を失い、体は鉛の様に重くなり折れた右手が急に疼きだした。
膝を付く尊を前に
ふらつく足をどうにか動かして立ち上がると、尊に歩み寄る。
不気味に笑う
流れ出て来る情報もウソの様に動く体も、もう何も無い。全てがどこかに行ってしまった。
腕は痙攣し、足は脳の命令を効かない。もはや指一つ動かす事さえ儘ならない。
移動をする度、
後ろへ振り上げた足を、勢いよく振り下ろす。
ガゴ、とそのつま先は尊の顎へと突き刺さった。当たる瞬間に運動量の
「ぐ、あ……ッ!」
顎を蹴り上げられたその体は後ろに飛ばされて、まるで糸の切れた人形の様に地面に倒れる。
「ハッハァ! 何だよ何だ何ですかァそのザマは! イモムシみてェに転がりやがって、さっきまでの威勢はどうしたァ!? 結局デカイ口叩いてもその程度なンだよ!」
地面に倒れる尊の右手を
「がぁぁああああああ」
グシャ、と嫌な音と共に尊の声が辺りを覆う。
「ンなとこに転がってンのが悪いンじゃねェかァ? だがこンなンじゃ割に合わねェ、おらもっと苦しめよォ、三下!」
容赦なくその右手を踏みつける。
「へへ」
尊が苦痛に顔を歪めながら力無く笑う。
「最強さんよ。あんた、俺ばっかりで遊んでるけど……何か忘れてないか?」
ザ、と地面を靴が擦る音が聞こえた。
「俺を忘れてもらっちゃ困るよな、
しかし既にその先には拳を振り上げる上条当麻の姿があった。
ガツン、と
殴られた瞬間にさらに思い出す。上条当麻の拳も『反射』が通用しない事。そしてもはや尊に与えられたダメージが大きすぎて体が言う事を効かない事。
負ける。それがどんな事なのかは分からない。一度も負けたと事がない、負けると思った事すらない。
ただ、負ける事は嫌な事だと体が訴えている。
「はは、面白ェ――」
だから立ち上がった。地面を這う様に立ち上がる。
「――オマエら、最高に面白ェぞ!」
「悪いな尊、ミサカの手当に手間取っちまった」
「あぁ、いいさ。最後は当麻が決めるって手はずだっただろ。決めちまってくれ、当麻」
振るう右手を身を屈めて避け、追い打ちを掛ける左手を右手で払いのける。
「歯を食いしばれよ、
上条当麻の拳が
もはやボロボロの体に打ちつけられた衝撃は芯まで届き、その体は手足を投げ出しながら地面を転がっていった。
その様子を確かめると同時に尊の瞼は閉じられ、視界は真っ暗になった。
12
「本当、君たちは病院が好きなんだね? それともやっぱり目当てはナースなのかな?」
お馴染みのカエル顔の医師は二人に向けてそんな言葉を発する。
相変わらずの白い部屋。前回までとの違いと言えば、隣併せに並べられたベッドが二つ。
どうやら今回は二人部屋に入院する破目になった尊と上条当麻。
あの後、尊は上条当麻に抱えられてこの病院に送られ、その上条当麻も病院に着いた途端に崩れ落ちる様に意識を失ったそうだ。
聞く話しでは
正直、このカエル顔の医師はどれだけ凄いんだ、と感心してしまった尊であった。
「いや、好き好んで看護婦に会う為に態々右手を骨折しますか?」
尊はグルグルに巻かれた右手の包帯を指さして言う。
カエル顔の医師が言うにはこの右手は手首及び小指から人差し指までの複雑骨折だったそうだ。ただそんな酷い状態であってもこの医者からすれば問題ないそうだ。
改めて感心する。
まだ動かす事がやっとの左手を使って、今朝早くに訪れた御坂美琴が持って来たクッキー手に取る。
上条当麻曰く「手作りクッキーが一番」みたいだが、御坂美琴がそんなキャラには見えない。
そんな御坂美琴が作るクッキーだからこそいいんじゃないか、と言っていたがそんな日が訪れる事は難しいだろう。と尊は心の中で思う。
御坂美琴も
そんな彼女も上条当麻の言葉で最後には小さな笑顔を見せて帰っていった。
ちなみに実験は
ガラガラ、とドアの開く音が部屋に響いた。
「お客さんのようだね?」
テクテクと頭に猫を乗せた純白のシスターさんがドア側にある上条当麻のベッドに一直線に向かい。
「とうま、何か言う事は?」
超至近距離で顔を覗き込むインデックスに少々顔を赤めながら上条当麻は答える。
「………………は、腹減ったのか?」
瞬間、いつもの悲鳴が病室に響き渡った。
噛みついたインデックスはまるでマンガに出て来る番犬の様に上条当麻の頭から離れない。
これを見ると日常に帰って来たと思う。
そんな中、尊には一つだけ気がかりな事があった。
窓の方に振り向くとそこに薄らに見える自分の顔。そこに映っているのは間違いなく尊である。
しかし、
頭の中に突如入りこんで来る情報、人間ではありえないほどの身体能力。
あれは一体何だったのか?
「――みことも何か言ってあげて。とうまがまた女の子に……て、みこと?」
窓の外を眺めて上の空の守越尊にインデックスは心配そうに訊ねる。
「……あ、あぁ、悪い悪い。で、どうしたって?」
「ううん、もういいんだよ。それより、みことどうかしたの?」
傾げるインデックスの頭から猫がベッドに飛び降りる。
インデックスに上条当麻以外の心配ごとを増やす訳にはいかない。
だから
「いや、空が綺麗だなぁって」
雲一つ無い空に降り注ぐ太陽の光。
夏休みも残り一週間。その一週間も病院で過ごす事になった尊。
そして、ようやく尊の学園都市初の学校生活が始まろうとしていた。