とある魔術の天の住人   作:翔泳

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第一四話 「九月最初の日」

1

 

 九月一日

 夏休みは終わったが残暑厳しく、朝だと言うのにほぼ快晴と思われる空から太陽が道行く人たちを照らしている。

「えぇっと、この大通りを真っすぐ進んで、それから――」

 守越尊は片手に地図らしき紙を持って道順を確かめる様に呟く。

 皺一つ無い黒いズボンに純白のカッターシャツ、埃一つ被っていない鞄を肩から提げる様に手で持って尊は大通りを歩いていた。

 辺りにもちらほらと同じように制服に身を包んだ学生が道を歩いている。何故なら今日から二学期が始まるからだ。

 尊にとっては学園都市において初めての登校となる。

 本来ならば夏休み中に学校の場所を把握しておけばよかったのだが、夏休みの八割以上を病院で過ごす事になってしまった尊にそんな時間は無かった。

 お陰で明らかに今日が登校初日ですオーラを全開に、地図を確認しながらの登校となっている。

「やっぱプリントにある通り、スクールバスに乗った方が良かったかなぁ?」

 どうやら尊がこれから向かう高校は電車通学を禁止し、スクールバスを推薦している様だ。

 どうしてそのスクールバスを利用しなかったかと言うのは、単に登校初日くらいは歩いて登校したいと言う尊の変な考えの所為である。

 しばらくするとその高校が見えて来た。

 地図から見る限りではその校舎は『工』の形をしている。学校紹介のパンフレットにも目を通したが、どうやら校舎は二つにわかれており、その中央を渡り廊下が繋いでいる。その校舎を挟むように右手にはプールがあり左手には体育館があるようだ。

 校舎に入り下駄箱に来た所で、

「俺の下駄箱ってまだ無い……よな?」

 そう呟きながら鞄から新品の下履きを取りだす。仕方が無いので履いて来た靴はそのまま手に持って職員室に向かう事にする。

 職員室に向かう間、通り過ぎる学校の生徒の中に守越尊にチラチラと目線を向ける者がいる。

 尊はあまり気にはしない。理由は大体分かっているからだ。

 恐らくそれは右手に巻かれた包帯の所為である。

 とは言っても、動かないほどグルグルに巻かれているモノでは無く、指一つ一つが動く様に包帯は巻かれてある。それに痛みはそれほど無く、動かすにも問題は無い。

 カエル顔の医師曰く、君たち二人の丈夫さには驚かされるね? だそうだ。

 もう一人と言うのはもちろん上条当麻の事である。

 上条当麻は以前にも尊の知らない所で一戦交えていたらしく、その際に切られた腕が一日でくっ付いたと言うファンタジーな体の持ち主みたいだ。

 尊は部屋の前で立ち止まった。

 札には職員室と書かれている。高校生とは言え、職員室に入る時は多少緊張する。軽く咳をし、そのドアをノックしようと手を伸ばした所で

「あれ? 尊、何でこんなとこに居んの?」

 聞きなれた声が廊下の向こうから聞こえて来た。

 振り向く先にはツンツン頭の少年上条当麻と、見た目一二歳くらいで身長一三五センチの月詠小萌が両手に封筒を抱えて歩いて来た。

「守越ちゃんは今日からこの学校で勉強するのですよ上条ちゃん。転校生なのです」

「なんだよ、それなら言ってくれれば良かったのに」

「まぁそうだけど、俺は昨日退院した所だしそれに当麻、昨日昼間と夜いなかっただろ?」

 あぁ、昨日は色々とあってな。と言いながら頭を数回かく。

「じゃあまたあとでな」

 と上条当麻はそのまま自分の教室へと向かい、尊は月詠小萌に連れられて職員室へと入った。

「黄泉川先生、今日から転入の生徒さんが来たのですよ~」

 お、と小さく声を上げて立ち上がって近くまで来たその先生は、月詠小萌とは正反対の一言でいえばナイスなボディの持ち主だ。長い髪を後ろで縛って、月詠小萌の頭ほどありそうな豊富な胸は歩く度に上下に揺れて思わず目のやり場に困ってしまう。ただ体育の教師だろうか、緑色のジャージ姿と言うのが実にもったいない。

「守越尊だな。担任の黄泉川愛穂だ、よろしくじゃん」

「あ、よろしくお願いします」

 軽く会釈をして顔を上げると何やら黄泉川愛穂は両手を組んで、うんうんと頷いて

「いや~、やっとウチのクラスにも面白そうなガキが来たって感じじゃん」

 と覗き込むように前屈みに守越尊に顔を近づけると

「守越、何でも夏休み中に一騒動やらかしたみたいじゃんよ」

 ギクリ、と守越尊の体が反応する。一騒動と言うのは一方通行との事件であろう。

(ヤバ、いくらなんでもあれはやり過ぎたのか――)

「まぁ、それくらいヤンチャな方がこっちとしても遣り甲斐があるじゃん」

 ほら、教室に案内するじゃん。と尊の肩に手をポンと置き黄泉川愛穂は職員室を出る。

 尊も後を追う様に、軽く月詠小萌に頭を下げて歩を進める。

 と、ドアを開けると同時に一人の生徒が職員室に入って来た。

(おっと)

 レディーファーストと言う言葉がある様にその女子生徒に道を譲る。特に会話は無く互いに会釈するだけ。

 黒く長い髪が印象の女子生徒だ。もう一つ印象に残ったとすればそれは首から下げられた十字架のアクセサリー。

(宗教か何かのモノか?)

「早くするじゃんよ」

 振り返って女子生徒を見ていた守越尊に、廊下の向こうから黄泉川愛穂が呼び掛ける。

 少し気になったが職員室のドアを閉めて黄泉川愛穂が待つ所まで少し小走りで向かった。

 ドアを閉める直前に月詠小萌の声が僅かに耳に届く。

「――姫神ちゃん、こっちなのですよ」

 

 2

 

 学園都市には窓の無いビルがある。

 ドアも窓も廊下もないビルは最早建物としての機能を失っている。大能力者の一つである空間移動(テレポート)を使わない限り出入りも出来ない。

 その密室の中心に佇む直径四メートル、全長一〇メートルを超す強化ガラスの円筒の中に『人間』は浮かんでいた。

 それは男にも女にも見え、大人にも子供にも聖人にも囚人にも見える。学園都市総括理事長、アレイスター。

 その人間は赤い液体に満たされた円筒の中で逆さまに浮いていた。

「警備が甘すぎるぞ。遊んでいるのか」

 その強化ガラスの前に立つ男は、短い金髪をツンツンに尖らせ、青いサングラスで視線を隠し、アフロシャツにハーフパンツと言う姿。

 土御門元春。上条当麻のクラスメイトにしてイギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師でもある。

「構わぬよ。侵入者の所在はこちらでも追跡している。」

「シェリー=クロムウェル。こいつは流れの魔術師では無くイギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師だ。今までの様にはいかないぞ」

 魔術師は同じ魔術師が裁かなければならない。それは『科学』と『魔術』互いがそれぞれの技術を独占することでアドバンテージが取れている様に、科学側の人間が魔術師を潰してしまう事によってその均衡に亀裂が出来てしまうからだ。

 これまでこの学園都市は何度か魔術師の侵入を許している。そしてその魔術師たちを倒して来たのは上条当麻だ。しかしそれは事前に教会との取引があったり、魔術師が流れ者だったりとそれほど波風が立たなかった。

 だが今回は違う。シェリー=クロムウェルはイギリス清教の魔術師であり、教会との取引があった訳ではない。

 つまりは最悪の場合、科学世界と、教会世界の戦争となる恐れがある。

「とにかく、俺はシェリーを討つぞ。魔術師の手で魔術師を打てば少しは波も小さくなる。それから――」

「君は手を出さなくて良い」

 その言葉に一瞬土御門元春の顔が凍った。

「……本気で言っているのか?」

 土御門元春は相手の正気を窺う様に言った。

「アレイスター、お前は何を考えている? 上条当麻を魔術師にぶつける事がそんなに魅力か。確かにあれは魔術に対するジョーカーだが、それだけでは教会全体を破壊する事は出来ないぞ!」

「プラン二〇八二から二三七七までを短縮出来る。」

「虚数学区・五行機関の制御法か」

 学園都市の裏側からその全権を掌握していると考えられているが、本当に有るのかも分からない幻の存在と言われている。

 魔術側ではこのビルを指しているとされているが、実際はその存在が、誰にも制御出来ずに何の為にあるのかも分からぬままこの学園都市に潜んでいるのだ。

 恐らくアレイスターは既にこの五行機関の御し方を掴んでいる。ただそれを実行する為のキーが不十分なのだ。

 そしてその中心の一つには一人の少年がいる。

 上条当麻。

 アレイスターは何かしらイレギュラーが起きる度に計画を組みかえ、それを利用して手順を短縮しようとする。

(今回のシェリー=クロムウェルの件にしてもアレイスターに取ってプランを短縮する為のモノでしかないと言うことか)

「アレイスター。お前はそんなモノの為に科学と魔術がぶつかってもいいと言うのか?」

「そうならない為に裏舞台を飛び回るのが君の役目だ。君の努力次第では水面下の工作戦にしても死者を出さずに済むかもしれんぞ」

 ちくしょうが、と土御門元春は吐き捨てる。

 強化ガラスの背を向けて歩を進めると同時に思い出した様に振り返る。

「アレイスター、もう一つ訊きたい事がある。あの外部から引っ越して来た守越尊、あれは何者だ?」

「知りたければ調べると良い」

 そうさせてもらう。と土御門元春は言い放ち、迎えに来た空間移動能力者(テレポーター)と共に部屋を後にする。

 赤い液体の中に逆さで浮かぶアレイスターは呟く。

「さて、手に入れたアレはどう言う成長を見せてくれるのやら」

 

 3

 

「ん~。これは仕方が無い事なんだよな?」

 学校初日を終えた守越尊はプリント一枚を手に街中を歩いていた。

 既に日は僅かに西に傾き始めている。

 始業式と言う事もあり午前中に学校は終了となったのだが、学校初日と言う事もあって守越尊は放課後、月詠小萌に呼び出された。

 内容は今手に持っているプリントにも書かれてある様に、

 身体検査(システムスキャン)

 外部からの転校と言う事で身体検査(システムスキャン)が臨時に行われた。

 知られている様に、学園都市は無能力者から超能力者までの六段階に分けられており、この身体検査(システムスキャン)によって能力のレベルや系統等が分かるらしい。

 その結果表を手に持ち歩いているのだが、そのプリントには

 ――身体検査(システムスキャン)における能力測定の結果――

 貴方の総合評価は――――――レベル0

 小萌先生が言うには

『まだ時間割り(カリキュラム)も受けていないんですから仕方がないんですよ。これから超能力者目指してバリバリ頑張って下さい」

 だそうだ。

 ちなみに担任の黄泉川先生は所属している警備員(アンチスキル)の仕事で出かけてしまったそうだ。

 ただ守越尊からすれば気になる部分がある。それは一方通行(アクセラレータ)戦で見せた力の事だ。

 あれが無能力とは到底思えないが、実際は身体検査(システムスキャン)がレベル0を指している。実際の所、あれから特に変わった事も無く、あの感覚に陥る事は無い。

 上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)が無能力者の部類に入っている事から、自分にも何らかの要因があるのかもしれない。

 そんな事を考えている間に目的の建物が見えて来た。

 見なれた建物、尊が夏休みの八割を過ごす事となった白い建物。

 尊は病院の前に立っていた。

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