とある魔術の天の住人   作:翔泳

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第一七話 「戦場へ」

 7

 

「白井、さっきの女は一体何なんだ?」

 守越尊、御坂美琴、白井黒子の三人は暗闇の地下街を走っていた。

「学園都市の侵入したテロリストですの。まさか外部の人間に能力者がいるとは思いもしませんでしたけど」

 白井黒子はそのまま話を続けた。

「どうやらこの地下街にあのテロリストが紛れ込んでいるみたいですの。ですからお姉様と貴方の様な一般の方は大人しく待機しておいて下さいと申しましたのに、お姉様に関してはあの殿方の姿が防犯カメラに映るや否やついて行くと言い出しますし、守越さんにしましても乗りかかった船とか言ってついてき来ますし」

 風紀委員(ジャッジメント)のお仕事と言っておりますのに、と白井黒子は軽くため息をつく。

「なんだ、御坂姉は当麻の事が気になってるのか」

「なっ!?」

 不意な尊の発言に御坂美琴は急に立ち止まると

「な、何で私があんな奴の事気にしないといけないのよ! まぁ、全く気にならないって訳でもないけど……て言うかその呼び方は止めなさい!」

 反応を見ていれば大体予想がつくんだけど、などと思いながら、

「じゃあ、あんたでいいのか? 御坂は被るし美琴じゃ自分の名前言ってるみたいだし」

 御坂美琴は白井黒子との距離を確認すると、内緒話をする様な小声で話しかける。

「(黒子は妹達(シスターズ)の事は知らないの、だから姉なんて言葉はつけないで!)」

「何の内緒話ですの?」

 何でもないわよ~、と笑顔で誤魔化す御坂美琴。

「(いい? 呼び方何て何でもいいからその呼び方だけはダメだからね)」

 確かに妹達(シスターズ)の存在が公になるのはマズイ事に違いない。増してやその内の一万人は既に殺されてしまった何て事が知られてしまっては大騒ぎになりかねない。

 じゃあ何て呼ぼうかな、と尊は顎に手を当てる様に数秒考えて、

「それじゃあ、みーちゃんで」

 バチン、と前方で火花が散ったと思うと

「だ・れ・が、みーちゃんよ!!」

 瞬間、尊の足元に電撃の槍が突き刺さる。

「ちょ、ちょっと待て! わ、分かった美琴にするから、それ以上電撃を飛ばさないでくれ!」

 バチバチと髪の毛の辺りから電気を飛ばす御坂美琴を宥める様に、尊は両手を前に出して交渉する。

 その様子を見ている白井黒子は再び軽くため息をつく。

 ふと一秒前までビリビリしていた御坂美琴が耳を傾けた。

「ねぇ黒子。猫の鳴き声がしない?」

「猫、ですの?」

 と、白井黒子も同じように暗闇の先に耳を向ける。

 すると確かにみゃーみゃーと何か助けを求める様な猫の鳴き声が聞こえて来る。

「すぐ近くですわね」

 ばっ、と白井黒子は体を反転させてその声の方向へと走り出す。

 続く様に御坂美琴と尊も後を追う。

 数十メートル走っただけで猫の声が大きくなり、地下街の一角を曲がった先に見えて来たのは

 何やらもつれ合う様に地面に倒れる上条当麻とインデックス、そしてそれを見つめる一人の女の子だった。

「アンタ、こんなトコで一体、何やってる訳?」

「……、あらあら。こんな時間から大胆ですこと」

「当麻……時と場所を考えろよ」

 御坂美琴は再び髪の毛の辺りからバチバチと火花を散らし、白井黒子は微妙に冷たい声で言葉を発する。尊に関しては最早冗談交じりだった。

「あれ? とうま、みことがいるんだよ」

 と、尊に気がつくが、インデックスは特に退く素振りも見せずに上条当麻の上に乗りっぱなしだ。

「あ~、インデックス? とりあえず退いてあげた方がいいんじゃないかな?」

 チラっと横を確認すると、やはり御坂美琴は少し、いや、かなりご機嫌斜めの表情で二人を睨みつけている。

 インデックスは尊の視線を追って御坂美琴に目を向けると、ムムと言う効果音付きで立ち上がる。

「あなた、とうまと知り合いみたいだけど一体どんな関係?」

「か、関係って言っても別に……そんなんじゃ……て言うかアンタは何なのよ?」

「……えぇっと、命の恩人だったりする」

「――もしかして頼んでないのに駆けつけてくれたクチ?」

 二人はほとんど同時に力が抜けたようにため息をつくと

「「とうま(アンタ)! どう言う事か説明して欲しいかも(もらうわよ)!」」

 もう一人その様子を見ているのは太股くらいまである長い髪に眼鏡姿の女の子。頭の横からは束ねられた髪が一房伸びており、かけている眼鏡は何故か微妙にズレ落ちている。

 尊はその女の子が着ている制服がどこのモノであるかなんて事は分からなかったが、二人と一緒にいたって事はどちらかの友達で有る事は間違いない。

 その少女はオドオドと挙動不審気味に辺りを見回して、御坂美琴の近くにいる白井黒子に元へと近づいて手を伸ばしたが、ボソボソと独り言を言う白井黒子の異様なオーラに負けてその手を引っ込めてしまう。

 再びキョロキョロと辺りを確認して、ふと尊とその少女の目線があった。そして尊に近づいてきて

「あ、あの……助けてあげなくても大丈夫なんですか?」

 少女の指差す方向には、噛みつき魔とビリビリ魔、二つの脅威の威圧に押し潰されそうな上条当麻の姿があった。

 どうやら少女は上条当麻を助けてあげたいみたいだが、あの中に割って入るだけの勇気がないみたいだ。

 確かにあの修羅場とも言える中に入り込む事はこの少女には難しいかもしれない。

「そうだな、そろそろ助けてあげないとな」

 そう言って尊は気合を入れて三人の中へと割り込んでいった。

 

 8

 

「じゃあ白井、先に風斬とインデックスを頼む」

 二つの脅威から開放された上条当麻は簡単な事情の説明した。色々な情報を交換した結果、風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子の判断によって避難を優先させる事になったのだが、

「とうま、つまりこの短髪ともっと一緒にいたいって事なんだね?」

 上条当麻は幻想殺し(イマジンブレイカー)の力の影響で空間移動(テレポート)出来ない為に残る事が決定している。

 どうやら白井黒子に能力は同時に二人を空間移動(テレポート)させるのが限界らしく、空間移動(テレポート)する順番を決めているのだが、色々と問題発生中のようだ。

「じゃあ……風斬と美琴でいいや」

「ほう。アンタはその小っこいのと残りたいって訳ね」

 暗闇の中でビリビリと御坂美琴の前髪の辺りで火花が散る。対するインデックスもいつでも準備万端の様に犬歯がキラリと光っている。

「ああ分かった! 白井、インデックスと御坂を先にやってくれ!」

 白井黒子はスッといがみ合う二人の肩に手を置くと

「それではお二方いいですわね」

 瞬、と言葉が終わるのと同時に三人の姿は一瞬にして消えた。何やら消える間際にいくつか言葉が聞こえた気がしたが、余韻すら残っていなかった。

 フウ、と息を漏らす上条当麻に尊は、当麻、と軽く呼びかけて

「両手に花も色々と大変だな」

「はぁ? 何言ってんだよ尊。毎度毎度噛みつかれるわビリビリされるわ、こっちの身にもなってみろよ」

(――鈍感と言うか、実際の所こう言ったモノが当麻の本当の不幸なのかもしれないな)

「それより当麻、やっぱり外部からの侵入者って事は――」

「あぁ、どうやら魔術師みたいだな」

 やっぱり、と尊は呟く。

 白井黒子や御坂美琴が言うには外部に天然の能力者がいても不思議ではないみたいなのだが、政府のUFO陰謀説と同じくらい信憑性に欠けるみたいだ。

 そう言った事から考えるとしたら魔術師しかなかった。

 ゴガン! と大きな揺れが地下街を襲う。

 共に爆発音や銃声が暗闇の向こうから聞こえて来た。

「お出ましみたいだな。尊、お前はここで風斬と一緒に白井を待っててくれ。俺はあれを止めて来る」

 そう言うと上条当麻は二人に背を向けて走りだそうと足を踏み出す。

 しかし、次の一歩を踏み出す前に視界の端に何かが入り込んだ為にその体は止まってしまう。

「悪いが当麻、それは出来ない。俺もあの女に用があるんだ。それに何でも一人で解決しようとするなよな、少しくらい俺も頼ってくれてもいいんじゃないか?」

 上条当麻の前を行くように既に尊は歩き出していた。

 上条当麻はその行動を止めるどころか逆にへへっと笑い

「それじゃあ仕方ねぇな。まぁ味方は多いに越した事はねぇし」

 その言葉に尊は振り返り少しだけ笑みを見せると闇の中へ向かって走り出す。

「悪いな風斬。お前は白井が来るのをここで待っててくれ」

「ぇ……でも……」

 ゴン! と再び大きく地下街が揺れる。先ほどよりも震源は近い。

 上条当麻は暗闇の先を見つめた。銃声や爆発音はさっきよりも鮮明に聞こえて来るようになっている。

 そして後ろには風斬氷華がいる。その更に後方には逃げ遅れた他の学生達が塞がれた入口の近くに殺到していた。

 もしも魔術師がここまで来てしまったら大勢の犠牲者が出てしまう。それだけはどうしても避けなければならない事だった。

「俺たちはあれを止めて来るから」

 そう言って上条当麻は暗闇の中へと走って行った。

 

 

 一足先に行った尊は暗闇を走りながらあの女が発した言葉を思い出していた。

『まさかテメェがあのカミゴエナツキの子供だったとはね』

 何故あの女が母の名前を知っているのか? それは尊にとっての二番目の疑問だった。

(つまりあの女は母さんの知り合いなのか? それとも名前だけ? いや、あの言い方は会った事のある口調だった)

 そして何と言っても一番の疑問は、

 何故『魔術師』が母の名前を知っているのか

 と言う事。

 自分の母親にどんな交友関係があったかなんて事は知らない。正確には知る機会が無かったと言うのが正しいかもしれない。

 なぜなら――

「尊!」

 思考の間を縫う様に声が聞こえる。

 後から追ってきた上条当麻が尊に追いついたのだ。

 すでに銃声や地面を叩きつける様な振動のすぐそこまで来ていた。目の前に見える角の先で大きな爆発と共に黒い煙が風に乗って宙を舞って来る。

「当麻、あの向こうみたいだぞ」

「あぁ分かってる。無理すんじゃねぇぞ尊」

「それはお互い様だろ」

 何かの合図の様にお互い僅かに笑みを作ると、同時に曲がり角の先へと突き進む。

 その先は戦場だった。

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