とある魔術の天の住人 作:翔泳
15
守越尊は地下街を走っていた。
シェリー=クロムウェルは逃げたのではなく、ターゲットを変えただけ。そして次のターゲットであるインデックスは既に地上に避難してしまっている。
ただでさえ外からの侵入者を探しているのに、学園都市の系列とは別の組織に属しているインデックスを放っておくハズがないのだ。
ここから先は
その為に守越尊は走っていた。
これは上条当麻以外の者でなければならない。
上条当麻を右手、
だからこそあの時残ると言ったのだから。
「白井!」
地下街と地上とを繋ぐ出入り口は封鎖されている為、逃げ遅れた学生達がその出入り口へと殺到していたのだが、今ではその人数もあと数名になっていた。
「守越さん、一体今までどこに行っていましたの? それにあとのお二方はどこに?」
膝に手を当てて、深呼吸を数回して呼吸を整えてから守越尊は言葉を発した。
「二人なら別の方法で外へ出ようとしてる」
「でしたら私がそちらへ行って
「いや、ダメなんだ。時間がない。俺を今すぐに地上へ
状況が今一つ理解できない白井黒子であったが、あまりの守越尊の真剣な表情に何かを察した様で、
「分かりましたわ。準備はよろしいですの?」
あぁ、という言葉と同時に守越尊と白井黒子の姿が地下街から消えた。
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「こら、スフィンクス! あんまり聞き分けない事言ってるとホントにお仕置きしちゃうかも!」
インデックスは
白井黒子によって御坂美琴と一緒に地上へと
みゃーみゃーと鳴く
追いかけていくつもの裏路地を抜けて来た場所はまさに廃墟だった。
周囲にあるビルは既に取り壊しが決まっているようで、看板は下ろされ窓は全て外されていた。その窓からは内装がなくむき出しにされたコンクリートの柱が見える。
「ほらスフィンクス、短髪の所に戻るよ」
未だに腕の中で暴れる
パラパラと頭に何かが落ちて来た。インデックスがその何かを手で触ると、それはコンクリートの粉だった。
インデックスは首を傾げて空を見上げる。すると今も尚廃墟と化した建物からコンクリートの粉が降り注いでいた。
さらに足元にあるマンホールがカタカタと震えている事に気がつく。
僅かに震える程度だったそのマンホールは次第に大きく飛び跳ねる様に震えだし、
「!?」
瞬間、巨大な腕が地面から生える様に伸びる。平手を打つように腕は地面を叩き、その衝撃でインデックスは尻餅をついてしまった。
まるで墓場から這い出る亡霊のように巨大な石像が姿を現した。
「久しいな禁書目録。まぁあなたは初対面だろうけどね」
聳え立つ石像の陰から薄汚れたドレスを引きずる様に金髪の女、シェリー=クロムウェルが姿を見せる。
「あなたが侵入したって言う魔術師?」
「まるで自分は違うみたいな言い方だけど、あなたも同じようなモノじゃない。まぁテメェはここで死ぬんだから関係ねぇけどな!」
シェリー=クロムウェルがオイルパステルを横に振るうと、石像はゆっくりと振り上げた腕を振り下ろす。
インデックスはとっさに後ろへと飛んだ。
突き刺さった腕が撒き散らした道路の破片が周囲に飛び散る。三毛猫をお腹の下に抱える様に身を屈めると、その上をいくつもの破片が通り過ぎた。
腕を引き抜いた石像は再び腕を振り下ろさんとゆっくりと動き始める。
(基礎理論はカバラ、主要用途は防衛・敵性の排除、抽出年度一六世紀、オリジナルにイギリス清教術式を混合、言語系統はヘブライから英語へ変更)
「エリス」
言葉と同時に石像は空気を切り裂く様に腕を振り下ろす。
(外からの妨害に対処してるけど、いける)
「
瞬間、石像の放った拳は無理やり軌道を逸らされた様に建物を叩きつける。
「エリス何をしてる!」
オイルパステルを一閃すると、その動きに合わせる様に石像は振り向きざまに腕を横殴りにするが、
「
インデックスの鼻を掠める様に拳は空を切り、そしてその拳はシェリー=クロムウェルへと向かって行った。
く、とシェリー=クロムウェルは横へ飛び、地面を転がる様に避ける。拳は遠心力で止まらなくなったハンマーの様に地面へと突き刺さった。
起き上がったシェリー=クロムウェルはドレスに付いた埃を掃う様な仕草をすると、
「なるほど、
その呟きに、でも、を付け加えて
「こうしちまえばいいんじゃねぇか?」
パチン、と何かが切り替わった様に石像は雄叫びを上げる。
シェリー=クロムウェルはオイルパステルを振るわない。石像はそれでもまるで行動をインプットされたロボットの様に歩を進める。
「
しかし石像はそのまま前進する。
(自動制御に変更された!?)
ドン! と踏みつけた足は地面を震動させ破壊し、瓦礫を飛ばす衝撃がインデックスを襲う。
「きゃあ」
インデックスは突き飛ばされた様に後方へ飛ばされる。
胸に
石像はそのまま腕を天上に振り上げる。
インデックスの
「終わりのようね、禁書目録」
その攻撃は容赦なく振り下ろされた。
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白井黒子によって示された場所には御坂美琴しかいなかった。どうやらインデックスは逃げた猫を探すために裏路地へと入っていってしまったらしく、正確な居場所が分からない状態だった。
インデックスの後を追うためにその裏路地へと足を踏み入れて間もなく、守越尊は大きな揺れに襲われる。
「くそ、もう見つかっちまったのか!」
辺りに鳴り響く轟音や地響きは既にインデックスが襲われていると言う事を示している様なモノだ。
守越尊はとにかくそういった音や振動を頼りに走る。
いつくもの裏路地を抜けて辿りついた場所は廃墟の様な所だった。
その直後、近くで大きな衝撃が起きた。
それは地面に何か巨大で硬いモノが激突した様な衝撃。轟音と地響きでビルの壁からコンクリートの粉がパラパラと上から降って来る。
「近い!」
守越尊はその衝撃の元を探して、数十メートル先の角を曲がった所で目にしたのは、
魔術師シェリー=クロムウェルと腕を天上へと上げ、今にもそれを叩きつけそうな巨大な石像。
その足元には白い修道服を纏った少女が地面に倒れている。
「終わりのようね、禁書目録」
シェリー=クロムウェルがそう言葉を発した。
考えるよりも先に行動していた。
体中に熱い何かが駆け巡り、心臓が高鳴る。
地面を力強く蹴り飛ばし、空気を切り裂く様に地面を走る。
ガゴン! 振り下ろされた拳は大きな轟音と衝撃を伝える。
しかしその衝撃はインデックスに伝わる事はなかった。
「当麻じゃないけど、助けに来たぞ。インデックス」
インデックスが目を開くと、そこには守越尊の姿があった。
目の前の少年は石像と同じように拳を突き出して、その巨大な腕を受け止めている。
「なっ、エリスを素手で受け止めるだと!? カミゴエのガキが!」
受け止めるだけでなく、振り下ろした石像の腕は大きく後ろに弾き飛ばされる。それはボクシングで拳と拳がぶつかって力負けした方が押し負ける感じに似ている。
押し負けた腕は破壊されるのではなく、先からボロボロと崩れ始めていた。
「チィッ! 『
オイルパステルを走らせ、空気中に歪んだ十字架を書き現す。
崩れた建物の残骸が吸い込まれる様に石像の腕へと集まり粘土を継ぎ足す様に修復されていき、数秒足らずで石像は元の姿へと戻った。
石像は治った腕を再び守越尊に対して振り下ろす。
守越尊もそれに対して地面を蹴って、右手を突き上げる様に振り切る。
実際に石像の体はコンクリートや鉄パイプ、タイルそう言ったモノが織り混ざって作られている。そんなモノを生身の体で殴っていては人間の体が負けるに決まっていた。増してその塊が自ら動いて攻撃を加えればその衝撃は凄まじいモノである。
ゴドン! と衝撃波に近いさざ波が空気を震わせ、交わった拳はギシギシと音をたてた。
普通なら巨大な石像が小さな拳を飲み込んで地面を叩きつけるだろうが、
しかし、小さな拳は巨大な石の塊を打ち砕いていた。
石像はボロボロと支えが無くなった様に崩れ去っていく。
(ゴーレムを素手で打ち崩すなんて……いや、違うかも。――――基礎理論はカバラ、それに相手オリジナルのイギリス清教の術式まで混合させてる。まさか……同じ術式をぶつけてゴーレムを相殺した!?)
インデックスは自分の持ち合わせている膨大な知識で目の前で起こる光景を分析し整理する。
シェリー=クロムウェルはボロボロと崩れていく石像の向こうに立ちふさがる少年を見つめて驚愕を露わにしていた。
その少年の右の瞳は青に染まり、そしてその目に浮かび上がる光の線は
「バカなッ、魔法陣!? ありえない、ありえないわ。科学側の人間が魔術を使うなんて、そんな事は絶対にありえない!」
それは自分自身が一番分かっている事。能力者が魔術を使うとどうなるか、それは肉体の破壊を意味する。かつてその為に友を失ったシェリー=クロムウェルには目の前で起きている事が理解できない。
「くッ、エリス! 禁書目録を殺れ!」
オイルパステルを殴る様に走らせると、巨大な腕が地面を飲み込む様に生える。それは初めから行動を決めていたかの様にすぐさまインデックスへと拳を振りかざした。
シェリー=クロムウェルがオイルパステルを一閃する姿から自動制御でない事を確認したインデックスは、再び
不意に腕の中の
(しまった、間に合わないかも……ッ)
ワンテンポ遅れた事によって
轟音と共に衝撃が走る。
振り下ろされた腕は地面を砕き、亀裂が走り、しかしそこにインデックスの姿は無い。
地面が割れたその数メートル隣でインデックスは守越尊に抱えられた状態でいた。
「言ったろ? 助けに来たって。当麻が来るまでは俺が守ってやる」
目をパチパチさせて驚いた様な表情をするインデックスを地面へと下ろし、守越尊はインデックスの前に立つ。
インデックスはその少年の後姿を見つめたまま時間が止まった様に立ちつくしている。
それは助けられた事に驚いているとか、驚異的な身体能力に驚いているとか、そういうモノではない。
確かにあの状態からインデックスを助けた驚異的な身体能力には驚かされるが、問題はその後目にしたモノだった。
インデックスは自分の頭の中にある膨大な知識から僅かな情報を取り出し、そして呟く。
「まさか――か、神の目……!?」