とある魔術の天の住人   作:翔泳

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第二話 「二人の関係」

4

 

 辺りは救急車と消防車のサイレンが鳴り響いている。

 ルーンを破壊するために使用した火災報知機の為、寮は消防車と野次馬で溢れかえりほぼ無人であった寮は人で埋め尽くされてしまった。

 彼はインデックスと名乗る少女を抱えて路地裏を歩き尊はその後ろをついて行くように歩いていた。

 彼の名は上条当麻というらしい。

 裏路地を歩きながらお互い名前を知らないと言う事で軽い自己紹介をした。

 最初は敬語混じりだったが同じ高校一年なのでこれからは敬語は無しと言うことになった。

「あんた、これからどうするつもりなんだ?」

 上条当麻は分からないと答えた。

 彼が言うにはその少女を救急車に乗せる事は出来ないと言う。インデックスにはIDがないからだ。

 魔術師ステイル=マグヌスが言っていた、僕は外の住人だと。上条当麻彼自身もまだ信じる事が出来ないみたいだが、つまりインデックスも魔術師と言う事らしい。

 どうやって入って来たのかは上条当麻にも分からない状態であり、学園都市と言う所は『外の人間』を嫌う傾向がある様でIDを持たないインデックスが入院したとなるとその情報はすぐに漏れてしまう。

 ただ、だからと言ってこのままほっておく訳にはいかなかった。

 インデックスは先ほどの機械的な冷静さは無く度々発せられる声は弱々しいモノであった。先ほどまでの彼女は一体何だったのかと疑問に思う事は山ほどあるが今はそんな事を言っている暇はない。

 上条当麻は意を決したようにインデックスに言葉を発した。

「インデックス、お前の一〇万三〇〇〇冊の中に、傷を治すような魔術はねぇのか?」

 傷を癒す魔術、そんなモノがあるのだろうか? と尊は疑問に思う。

 ステイル=マグヌスは自分を魔術師だと言った。その魔術も目の当たりにした。正直魔術と能力の違いなんて尊には分からなかったが、彼が魔術と言ったのだからあれは魔術だったのだろう。そしてインデックスと名乗るこの彼女も魔術師、どうやら彼女は知識に長けている部分があるようなのでそう言った魔術を知っているのかもしれない。

「……ある、けど」

 二人は一瞬喜びかけたが『けど』と言う言葉が気にかかって、

「君には……無理」

 インデックスはそう言った。

「例え私が術式を教えたとしても……痛っ、君の能力(チカラ)がきっと邪魔をする」

 上条当麻は自分の右手を見て、またこの右手がわるいのかよ……、と歯を食いしばっている。

 インデックスは付け加える様に言葉を続ける。

「君の右手じゃなくて……『能力者』っていうのがもう……ダメなの」

 インデックスは真夏の夜にも関わらずまるで雪山に居るかの様に声を震わせてそれでも続ける。

「魔術っていうのは……君たちみたいに『才能ある人間』が使うためのモノじゃなくて……『才能ない人間』がそれでも『才能ある人間』と同じ事がしたいからって……生み出された術式と儀式の名が、魔術」

 インデックスはその後も説明を続けた。

 『才能ある人間』と『才能ない人間』では回路が違うらしい。つまりは『才能ない人間』の為に作られた魔術(システム)を『才能ある人間』が使う事は不可能だと言う事。

 その話を聞いて上条当麻は絶句した。

 尊には完全には理解できなかったが、要するに学園都市の時間割(カリキュラム)を受けた人間は『脳の開発』が行われているため普通の人間と脳の回路が違うと言う事は分かった。ここはそう言う場所なのだから。

 ただ考えてみる。つまり学園都市の時間割(カリキュラム)を受けていない人間なら魔術を使えると言う事。

「なぁ? 俺じゃダメなのか?」

 そう尊は学生だが今日引っ越して来た学生。つまりまだ『脳の開発』の時間割(カリキュラム)を受けていない。脳の回路は普通の人間と変わらないのだ。

「俺は今日引っ越して来たばかりだ、つまりここの時間割(カリキュラム)は受けていない。だから俺が指示に従って魔術を使えば――」

「――――めだ」

「え??」

「ダメだ。これ以上関係の無いお前を巻き込む訳にはいかない」

 尊が言葉を言い終わる前に上条当麻はそう言った。

 なんで……と守越尊は聞き返した。

「お前はインデックスを守ってくれた、そんな相手をこれ以上危険に巻き込む訳にはいかない」

「関係の無い? 俺はもう既に関わった! 魔術師も見た、魔術も目の当たりにした! これでどうして関係無いなんて言える?」

 確かにまだ出会って数時間。関係の無い人と言われればそうかもしれないが、目の前に可能性があるのに、それを前にしてどうして指を銜えて待たなければならない? そう言う気持ちだった。

「あんたら二人の関係がどんなモノかは知らないけど、俺だって傷ついた女の子を目の前にして、はいそうですか、なんて言って帰れる訳ないだろ!」

 上条当麻は少しの間黙ってから言葉を発した。

「インデックスとは今日知り合った」

「じゃあなんで!?」

「インデックスは俺に地獄の底までついてきてくれるかって聞いたんだ」

「じゃああんたはその子と一緒に地獄まで行くっていうのか!?」

 違う、と上条当麻は言った。

「俺はインデックスを地獄の底から引きずり上げてやる」

 その目に迷いは無かった。それは男が何か心に決めた時の目。

 それにと上条当麻は言った。俺が一番に関わっちまったから、と。上条当麻とインデックスが出会わなければ尊は巻き込まれる事はなかった、だからこれ以上巻き込めないと。

 ――関係の無い人を巻き込むのはこれが最後だ

 そう言ってインデックスを背に歩いて行く姿を尊は見送るしかなかった。

 

 5

 

 体が重い、いや心が重いのだろうか。自室のベッドで起きた尊はそんな感覚に襲われていた。

 昨日、尊は(ほとぼり)が冷めるのを待って寮に帰宅した。部屋前の廊下は手すりが曲がっていたり溶けたりしていたがあれだけの炎にも関わらず被害はそれほど大きいモノでは無かった。

 グーっと自分のお腹の鳴る音が聞こえた。思い出してみれば昨晩から何も食べていない。

 現在は十一時を少し過ぎた頃、朝食にも昼食しも中途半端な時間ではあったがとりあえず何か食べようと台所へ向かったが

「な、何も無い……」

 昨日買ったインスタント食品も、そう言えば魔術師との戦いの前に廊下に落としたんだ、と思い出したが、それからどうなったかかは分からない。

 もちろん冷蔵庫の中にも何も無い。

「食べに出るか」

 尊は部屋を出る。

 上条当麻の部屋の前を通るが人気は無い。

 下から確認してみたがルーンは全て回収されていた。あれだけの枚数を一体どうやって一晩で回収したのか気になるがその辺はやはり『魔術』なのだろう。

 そう、尊は『魔術』と言うモノに出会ってしまった。

 あの時自分が魔術を使えばあの場でインデックスを救える事が出来たかもしれない。だが上条当麻はダメだと言った。関係の無い人間を巻き込めない、そう言って彼はどこかへ行った。

 隣の部屋にはどうやら戻って来てはいないようだ。つまりは誰かの所で一夜を過ごしたと言うことだろう。

 ただ、もし彼が戻って来た時一体どうすれば良いのか? 単なる隣の住人として日々を過ごしていくのだろうか? あんな危険な目に遭っている彼らに目を向けずにいられるのだろうか?

「はぁ、関わるなってのが無理だよなぁ……ん?」

 何気ない路上にポツンと立つ自動販売機。

 その前で何やら女の子が一人、華麗なステップワークからの――

「ちぇいさーっ!」

「ってえぇぇ!?」

 見事なまでの上段蹴りを叩きこんでいた。ズドンっと轟音に次いでガタゴトと中で何かが落下する音。

 これが普通ですよ、と何食わぬ顔で取り出し口から缶ジュースを取り出す。

 おっラッキー、みたいな顔をして『ヤシの実サイダー』と書かれたジュースを開け一口飲む。

 日常とはちょっと離れた光景につい見とれてしまっていた。

 肩まである茶色い髪に半袖の白いブラウス、サマーセーターとプリーツスカートに身を包んだ女の子は、何見てんのよ、とばかりに守越尊に睨みをきかせていた。

 チラッと見えたがスカートの中には短パンを穿いている。

「何夢を砕かれたって顔してんのよ」

 どんな顔か尊は訊きたくなったがまぁ要するに唖然としていると言う事なのだろう。

 それに女の子が自販機に蹴りを入れる姿なんてみれば誰だって驚くに決まっている。ただ、平然とやっている姿からは普段からもこんな事をしているに違いない。

「いやぁ、科学の最先端と言わる学園都市の自動販売機がこんなモノだとは思わなかったからさ」

「あぁ、この自販機ジュース固定してるバネが緩んでんのよねぇ。まぁ何のジュースが出て来るか選べないのが難点なんだけど」

 と言いながらグイグイとジュースを飲む。

 化粧は必要ない程度にデフォルトで整った顔立ちに少しはときめいたりしても良いはずなのだが、先ほどの蹴りを見てしまった所為かそんな感情は浮かんで来なかった。

 寧ろ何か本能が危険を知らせているような感じもした。

 そんな事を考えたりしていると、

「おねぇ様~」

 フッと一瞬にして女の子は現れた。

 茶色い髪をツインテールにした彼女は後ろから覆いかぶさるように抱きついていた。

(おねぇさまって……あれ? どこかで……)

「は、離れなさい黒子。こんな道の真ん中で――」

 顔をぐいぐい押されても一向に離れようとしない黒子と呼ばれる女の子。

 寧ろ押し返されることを望むかのように止めようとしない。

「わたくしとおねぇ様の『愛』を周囲に見せつけるチャンスですのよ」

 バチンっと火花が飛んだ気がしたが

「いい加減に……しなさい!!」

 気がしたのでは無く、瞬間、彼女の体から雷撃の槍が発射される。

 が、その青白い火花がツインテールの女の子に直撃する事無く彼女は消え、すぐに地面へと着地する。

 もうおねぇ様ったら~、なんて言いながらようやく尊の存在に気が付いたようだ。

「あら、あなたは……昨日の、またお会い致しましたわね」

 あぁ、と尊もそこまで来てようやく思い出した。昨日不良に絡まれた時に現れた、

「確か……風紀委員(ジャッジメント)、だったっけ?」

「えぇ、わたくし風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部、白井黒子といいますの。で、あなたはおねぇ様とはどう言ったご関係で?」

 何か視線が痛い様な気もしたが

「今初めて会ったばかりなんだけど……さっきの電気は能力なのかな?」

 まぁ、と驚いた様な顔をして

「おねぇ様をご存じなくて?? この方こそ学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人、常盤台中学のエース、超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴おねぇ様ですわ」

 とまるで自分の事のように力説してみせた。

 学園都市内の事情は全く分からない尊であったが、この学園都市に七人しかいないと言う事から凄い能力者なんだなぁと感心していた。

「で、黒子はなんでここにいんの?」

「わたくしはただおねぇ様レーダーが反応したので立ち寄っただけですわ。お仕事中ですので」

 と盾の腕章をポンポンと叩く。

「そのレーダーってのもあんたの能力なのか?」

「いえいえレーダーと申しますのは、わたくしとおねぇ様の愛し合う心が呼び合う運命の赤い糸と――」

 ガツン、と言う見事な音と共にものの見事な拳骨が白井黒子に降り注いだ。

 もちろん放ったのは御坂美琴だ。

「見ず知らずの人の前で何有りもしない事言ってんの! 本当に勘違いしたらどうすんのよ!」

 まったく、もう。と言いながらスタスタと歩いて行く御坂美琴を追いかけるように白井黒子を駆けて行く。

 まるでコントを見ているようであった。

 それに仕事がどうとかこうとか言っていた気がしたが……

 何て考えるが

 それよりも

「飯……食べないと」

 訴えかける様に鳴り響く腹の虫に急かされるようにその場を後にした。

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