とある魔術の天の住人   作:翔泳

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第二〇話 「神の目」

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 先に動いたのは巨大な石像だった。

 オイルパステルの動きに合わせる様にコンクリート、鉄パイプ、標識、瓦礫、そう言ったモノを折り重ねて作られた巨大な右腕を天上へと掲げて一気に振り下ろす。一直線ではなく緩いカーブを描く様に振るわれた腕は横殴りをする感覚で守越尊へと放たれた。

 しかしその塊が近づく中、守越尊はその場から動く事無く静かに左手を横へ出す。

 ゴドン! と小さな腕は巨大な鉄の塊を受け止めた。

 ギシギシと骨が軋む様な音が響く中、打ち負けたのは石像の方だった。全身に亀裂が走り、ガラガラと地面へと崩れ落ちる。

(やっぱり全く同じ術式をぶつけて相殺してる。理論的には聖書よりもハムラビの方をモチーフにされてるけど、根本的にちょっと違うかも)

 一瞬にして崩れ落ちる石像を前にシェリー=クロムウェルは表情を歪めた。

「こんな所で止まる訳にはいかねぇんだよ!」

 彼女がオイルパステルを走らせようとして、

 視界から守越尊が消えた。

「な!?」

 気がつけば、その拳は既に頬に向けて放たれていた。

「悪いけど時間がないんだ」

 ゴン! と拳は頬へと突き刺さった。地面を転がる様に飛び跳ねた体は建物の塀へと激突し、もたれ掛る形で漸く止まる。

 掴んでいたオイルパステルは彼女の手はから零れ落ちて体のすぐ隣に転がっていた。体はピクリとも動かない事から、気を失っているみたいだ。

 守越尊はインデックスへと駆け寄った。

 安全ピンだけで繋ぎとめている修道服は破れている個所はほとんどないが純白とは言い難く、所々に汚れが目立つ。露出している部分が顔だけなので他の部分がどうかは分からないが、頬は地面を転がった際に切ったらしく僅かに血が滲み出ていた。

「見た感じ、大丈夫そうだな」

「私は大丈夫だけど……」

 インデックスはそう言いながら再度守越尊の顔を覗き込むように見る。その右の瞳は今も尚青に染まっていた。

「うん、やっぱり『神の目』で間違いないんだよ」

 神の目? と守越尊は首を傾げる。

「気付いていないんだね、自分の中にあるモノに」

 神の目って言うのはね――とインデックスが言葉を続けようとした直後、守越尊は何かを感じ取った様に後ろを振り向く。

 インデックスもそれを追う様に視線を向けるが、

 瞬間、辺りを大きな揺れが襲った。

 地面から生え伸びる様に巨大な塊が姿を現す。

 それはシェリー=クロムウェルの魔術によって生み出されし石像だった。

 守越尊は今一度シェリー=クロムウェルへと視線を向ける。その手にはオイルパステルがしっかりを握られており、地面には数多の線が織りなす模様が映し出されていた。

 既に自動制御へと切り替えられてある石像はシェリー=クロムウェルの操作なしに両腕を合わせて守越尊とインデックスの二人へと叩きつける。

 瞬時に守越尊はインデックスを抱えて横へ跳んだ。

 巨大な腕が地面へと刺さり道路の破片が四方八方へと飛び散る。

(くそっ……もう来ちまったのかよ)

 守越尊を下にして地面へと倒れるインデックスはその身を退ける。

 明らかに先ほどとは状態が違っていた。

 地面に転がった守越尊は打って変わって動きが急激に落ち、その体を起こす事さえ困難な状態に陥っている。

「当たり前よ、能力者が魔術を使って、無事で済むはずがないの」

 壁にもたれ掛ったまま顔だけをこちらに向けたシェリー=クロムウェルは地面に倒れる守越尊を見てそんな言葉を発した。

 ――違う。

 インデックスは心の中でそう呟いた。

(膨大な力を完全に制御出来ていない。ううん、例え制御できたとしても、生身の人間に扱える力じゃないんだよ)

 震える体をようやく起こした守越尊の視界には、目の前で心配そうに見つめるインデックスの姿が映し出される。そして、それと同時に映し出されたモノは

「く、……インデックス。逃げるんだ」

 ハッとインデックスが振り返った先には既に石像が巨大は腕を振り上げた所だった。

 遠隔操作なら術者の命令を混乱させる強制詠唱(スペルインターセプト)で石像の攻撃を捌く事が出来る。しかし自動制御に切り替えられた石像ではインデックスにはどうする事も出来なかった。

 空を切り裂く様な轟音と共に巨大な塊が二人へと放たれる。

 守越尊はインデックスだけでも、と体を突き飛ばそうとしたが思う様に体が動かない。

 そうしている間にも石像の腕は二人へ突き刺さる。

 グシャリ、と何かが潰れる様な音が辺りに響く。

 しかしそれはインデックスと守越尊が潰れる音では無かった。

 その音は石像にとび蹴りを喰らわせた少女から放たれた音だった。

「ひょう、か……?」

 石像は衝撃と共に後方へと大きく傾き地面へと倒れた。

 ふわりと宙を舞い、風斬氷華は地面へと着地する。インデックスはその後ろ姿に声を掛けようとした所で動きが止まった。

 風斬氷華が蹴りを放った右足は膝上から木端微塵に吹き飛んでいた。重量数トンの塊をなぎ倒す一撃。守越尊は相殺する事であの巨人を打ち崩したのに対して、風斬氷華はただ力だけで巨体をなぎ倒した。

 そんな衝撃を生身の体が受け切れるハズがない、と思っていたのだが。

 インデックスはその傷口を見る。しかしそこにはあるハズの骨が無く、神経が無く、全くの空洞。

 膨大な知識の中に死者をも操る魔術の技術や知識が詰め込まれてある。インデックスはそれでも目の前にある光景を説明する事が出来なかった。

 その足は壊れたパズルを直すかの様に修復されていく。

「その人と一緒に逃げて」

 彼女は振り向かずに言葉を放つ。

 目の前では起き上がった巨体が傷を修復するために、辺りのモノを片っ端から吸収し始めた。

「どうやら……シェムを掠っちまったようだな。再生機能の暴走か……フフ、殺っちまいなエリス。それで私の目標は達成だ」

 腹部の再生に必要な量を超した吸収は石像を二倍もの大きさにまで膨れ上がらせた。その石像は自動制御で動いているのにも関わらず、シェリー=クロムウェルの声に反応するかの様に動きをみせる。

「ひょうかも逃げなきゃダメだよ!」

「私は……あの化け物を止めないと」

「無理だよ、ひょうか! あんな化け物と戦おうと思っちゃダメだよ! そんな事をしたらひょうかは助からない!」

 彼女はそんな叫びに笑みを浮かべる。うれしさの笑みでは無い。今にも泣きだしそうな表情でそれでも彼女は笑って振り返った。

「大丈夫……私も、人間じゃないから」

 何かを覚悟したように彼女はギシギシと奥歯を噛みしめる。

 石像は弾けんばかりに膨れ上がった腕を振り下ろした。

 轟! と空気が押しつぶされ、まるでビルが飛んできているかの様なイメージさえ連想させる巨大な塊。

 少女が受け止めるにはあまりにも違いすぎる大きさ。

 ゴガン! と巨大な衝撃と轟音が響き、風斬氷華はその塊を受け止めた。

 ギギガガガ、とその小さな腕が悲鳴をあげる。巨大な力によって押しつぶされそうになった腕はガラスに罅が入った様な亀裂が走る。

 しかし離す事は出来ない。彼女の後ろには守りたいと思った少女がいる。

 化け物の相手は同じ化け物がしなくてはならない。

 少女はこんな自分をみたらもう二度と一緒に歩いてはくれない。一緒に笑ってくれない。そして一緒に過ごした時間はもう帰って来ない。

「(だからって……見捨てられるハズがない……ッ!)」

 その想いに答える様に小さな体が巨体を僅かに押し返した。

 力を込めた体は外から押しつぶそうとする石像の力と内から傷を治そうとする力がぶつかり合い、ギシギシと不気味な音をたてる。

 ギギギ、と石像が軋む音が響く。

 それはもう一つの腕を天上へと掲げた音だった。

 一つの腕を支えるのが一杯の風斬氷華にもう一つを防ぐだけの余裕が無かった。

「ひょうか!」

 少女の叫ぶ声が風斬氷華の耳に届く。

「(守って……みせる!)」

 この身を盾にしてでも守ると彼女は決意を固めた。

 守越尊はインデックスに体を預ける様な形で上半身を起こしている。

 言う事を聞かない体をどうにか動かしたかったが、どうにもうまくいかない。だからその光景を見ている事しか出来なかった。

 しかし、どうしてここまで自分自身が冷静でいる事が出来たのか理解できない部分がある。それは助からないと言う開き直りなのか、もしくはこの状況を覆す何かを知っているのか、

 その答えは一つの全力疾走の足音と共に導き出される。

(まぁ、ヒーローってのは遅れて登場するモノだけど……)

 僅かに笑みを作り、

「これほどそれが似合うヤツはあんたくらいだよ、当麻」

「風――――斬ィィイイいいいいいい!」

 振り下ろされた石像の腕目掛けて上条当麻は飛び出す。

 呆然とする彼女の隣を槍の様に駆け抜け、自分の最大の武器である右手を天上へと突き上げる。

 ガゴン! と二つの拳が激突する。

 通常の二倍以上の大きさに巨大化した石像はビルが倒壊するように大量の土砂と粉塵を巻き上げて崩れ落ちた。

「エ……リス。くそ、まだよ。私はまだやらなくちゃならない!」

 守越尊の一撃によって未だに体の自由が聞かないシェリー=クロムウェルは壁伝いに立ち上がり、再びオイルパステルを走らせようとしたが、それよりも先に上条当麻が動いていた。

 彼女の右手に握られてあるオイルパステルを右手で触ったのだ。

 シェリー=クロムウェルは壁に手を当てたまま数歩後退りをする。しかし、その目に光はまだ失われていなかった。

「何でお前はそこまでして戦争を起こす必要があるんだ? 今はまだ科学も魔術も均衡が取れてんだろ!?」

 彼女は壁に体を預けて言葉を発する。

「能力者が魔術を使うと、肉体が破壊されてしまう。聞いた事はないかしら」

 かつてインデックスが口にした言葉だ。才能の無い人間のために作られた魔術を才能のある能力者が使う事は出来ない。それは脳の回路が違うから、と言う事らしいが。

「不思議に思わなかったのか? 一体、どうしてそんな事が分かるのかって。……試したんだよ、今から二〇年ほど前にイギリス清教と学園都市の一部の人間がな。ある施設に集まって魔術と能力、二つの力を持った新たな術者を作るためにね」

 スッとシェリー=クロムウェルは視線を守越尊へ向けると

「カミゴエのガキ、あなたは母親から何も聞かなかったのか? 学園都市から連れて来られた超能力者の一人がエリス、彼は私の友達だった。そしてその中にはカミゴエナツキ、あなたの母親もいたのよ」

(母さんが……超能力者だった……?)

 インデックスに体を預けたままその言葉に驚く守越尊だったが、シェリー=クロムウェルはそのまま話しを続けた。

「エリスは……エリスは私の教えた術式によって血まみれになったわ。そして施設を潰そうとやって来た『騎士』から私達を逃がすためにエリスは……棍棒(メイス)で打たれて死んだの」

 シェリー=クロムウェルはまるでその光景を思い出したかの様にギリ、と奥歯を噛みしめる。

 だから戦争を起こす必要があった。手を取り合うと言う想いすら時に牙となる。その想いすら浮かばなくなる様に科学と魔術を遠ざける必要があった。

 その為の戦争。

 お互いの領分を決めて住み分けをして、互いのエリアから他勢力を締め出すしか悲劇を防ぐ方法はない。彼女はそう言い放った。

「だからって、風斬やインデックス、尊が何をしたって言うんだ!? 矛先を他人に向けちまったらそれこそテメェ防ぎたいと思ってる戦争が起きちまうじゃねぇか!」

「どうすればいいかなんて分かんねぇんだよ。エリスを殺した人間は憎くい……憎くてみんな殺してやりたいと思ってるわよ! 科学者も魔術師もみんなぶっ殺したくなるんだよ! でも……もう二度とあんな悲劇を起こしたくないとも思ってる! 本当に魔術師と能力者を争わせたくないとも思ってんだよ! 信念なんて星の数ほどありすぎて、始めから頭の中なんてぐちゃぐちゃなんだよ!」

 まるで苦痛に身を引き裂く様な声で彼女は叫んでいた。体は言う事を聞かず、そしていつの間にか心も引き裂かれた様な状態で。

「何で分からねぇんだよ?」

「何……?」

「確かにお前の言ってる事は正反対で、想いも沢山あって、やりたい事も沢山ある。でもお前の根本的な信念って言うのは、一つだけなんじゃねぇのかよ。お前は、大切な友達を失いたくなかっただけなんじゃねぇのか?」

 シェリー=クロムウェルの根本的なモノはそれだ。

 様々な信念が交差し、それが矛盾した内容であっても、友達に対する想いだけは揺るがずに心の中にあったのだ。

「そこを踏まえて考えろ。テメェの目には俺とインデックスが住み分けしないといけない様に見えたのかよ!? そうしないと争いを起こす様に見えたのか! 俺達はな、そんな事しなくても一緒にやって行けるんだ! お前は知ってんだろ? 大切な友達が失う悲しみを。だから――」

 ――俺から大切な友達を奪わないでくれ!

 シェリー=クロムウェルの肩がびくりと震える。

 彼女自身の願いはもう叶わなくても、それがどれだけ大切なモノだったは覚えている。そしてそれが失われる痛みも。

 シェリー=クロムウェルの表情は苦痛に耐える様に歪んでいた。

 彼女は寄りかかる壁から離れると懐から何かを取りだした、それは所持している最後のオイルパステル。

 その少年が放った言葉がシェリー=クロムウェルに届かないハズが無かった。何故ならそれはかつて自分自身が叫んだ言葉であったハズだから。

「――Intimus115!!」

 放たれたるは魔法名。

 我が身の全ては亡き友のために。

 振りかざしたオイルパステルが閃きを放つ。

 瞬間、彼女のすぐ横のビルの壁に紋様が走り、その部分がガラガラと崩れ落ちた。

 粉塵が視界を遮る中、灰色のカーテンを切り裂く様にシェリー=クロムウェルがオイルパステルを手に上条当麻の懐へ飛び込もうとする。

「死んでしまえ、超能力者!」

 それは最後に残しておいた切り札の様に、しかしその顔は今にも泣き出す寸前の子供の様に見えた。

 上条当麻は右の拳を握りしめながら思う。

 恐らくこれは切り札でも何でもない。彼女は常にゴーレムを操っていた。それ以外の方法で仕留める事が出来るなら初めからその方法を取っているハズだ。

「(ああ、そうか。信念が星の数ほどあるって事は――)」

「――自分の中にある、自分を止めて欲しいって気持ちも理解出来てるって訳か」

 ゴン! と上条当麻の右手はオイルパステルを粉々に砕く。その拳は軌道を僅かに歪めて、シェリー=クロムウェルの顔面へと突き刺さった。

 ゴロゴロと地面を転がったシェリー=クロムウェルは瓦礫の塊に当たった所で漸く止まる。その瓦礫はゴーレム・エリスを作り出していた残骸だった。

 

 

 上条当麻とインデックスは姿を消した風斬氷華を探しにとあるビルへと入って行き、守越尊はその二人の姿を見送る形で地面へと座り込んでいた。

 本来ならば一緒に行ってあげるべきなのかもしれないが、正直普通に歩くだけで一杯一杯の状態だ。

 未だに悲鳴を上げている体に鞭を打ってようやく地面から立ち上がる。

 目の前には巨大な石像を作り出していた大量の瓦礫とその隣で体を預ける様に横たわる魔術師シェリー=クロムウェルの姿があった。

 守越尊はその近くまでゆっくりと歩を進めた。

「カミゴエの……ガキか」

「あんた、意識があったのか」

 それは意識の途切れる寸前の弱々しい声だった。それでも警戒をして守越尊は言う事を聞かない体で構えようとするが

「もういい……最後のオイルパステルを壊された今の私には、何も出来ないわ。止めでも刺しに来たのか?」

「そんな事はしない。……意識があるなら聞きたい事があるんだ」

 なに? とシェリー=クロムウェルも今にも途切れそうな声で答える。

「俺の……俺の母さんってどんな人だったんだ?」

「どうして、そんな事を訊くのかしら? 直接本人に――」

 そう言いかけてシェリー=クロムウェルの声は止まった。彼女の脳裏に浮かんだのは、

「母さんは俺を産んですぐに死んだんだ。だから……俺は母さんがどんな人だったかを知らない」

 少しの間沈黙が続き、そしてシェリー=クロムウェルは静かに言葉を発した。

「カミゴエナツキは……暖かい女性だったわ。全ての人を温かく包み込んでくれるような、そんな優しさを持っていた。エリスも姉の様に慕っていたわ。当時の私からすれば……それに嫉妬していたのかもな」

「そっか……」

 シェリー=クロムウェルは改めて守越尊を見た。

(よく見りゃ……面影あるじゃない。なるほど……あの女の……想いは変わらなかったって……事ね。つまり……このガキは……アイ……ツらの……)

 守越尊はシェリー=クロムウェルに目をやるがどうやら正真正銘今度こそ気を失ったようだ。まだ訊きたい事はあったが、それも無理そうだ。シェリー=クロムウェルが気を失ってしまったと言う事もあるが、どうやらこちらの方も限界の様だった。

 ガク、と全身の力が行けたように膝が折れて地面へと倒れる。緊張が解けた所為か津波の様に押し寄せた疲労は瞬く間に守越尊の意識を奪って行った。

 

 19

 

「よう、目覚めたみたいだな」

 守越尊が最初に目にしたのは良く見なれた白い天井。そして一番に耳に入って来たのはどうやら今回はベッドに横たわらずに済んだ上条当麻の声だった。

 窓の外から入って来る光りはオレンジ色に染まっている事からどうやら数時間だけ眠っていたようだ。

「そっか俺、意識失って……あの魔術師はどうしたんだ?」

「俺が戻った時にはお前しかいなかった。でも捕まってどうこうされる心配はないと思う」

 ガラガラ、とドアを開ける音が部屋に響いた。

 そこには、白い修道服を纏ったインデックスがどうしてか目の周りを少し赤らめた状態で入って来た。

「もう良いのかインデックス」

「うん、もう会えない訳じゃないから」

 インデックスは上条当麻の横にある椅子に座ると、スイッチを切り替える様にキリッとした表情で守越尊を見つめた。守越尊もインデックスが座るなり上半身を起こして座る形でインデックスと視線を合わせる。

 何を言いたいのか伝わったらしく、インデックスはゆっくりと話し始めた。

「みことが聞きたい事は分かってるんだよ。『神の目』についてだよね?」

 神の目? と、聞きなれない言葉に上条当麻は首を傾げる。

「うん。みことの中にある力の事だよ」

 上条当麻は初めて聞く言葉だったが、思い当たる節はある。それは一方通行《アクセラレータ》戦で見せた力であろう。

「聖人って言っても分からないよね?」

 はい! と上条当麻が授業中の優等生の様に挙手をした。

「聖人ってのはあれだろ、世界に二〇人ほどしかいなくて、一時的に人間を超えた力が使えるってヤツだろ?」

 ムッとインデックスは上条当麻に視線を移して、

「とうまにしては上出来だけど、そもそもどうしてとうまが聖人について知っているのかが知りたいんだよ」

 それはちょっと色々とありまして……

 などと弁解しているがこのままではまた痴話喧嘩が始まりそうだったので、守越尊は意図的に咳をして無言で仲裁に入る。

「聖人っていうのは生まれながらにして神の力を宿した人間の事を言うんだよ。神の子に似た身体的特徴や魔術的記号を持つ人間で、世界に二〇人といない存在なの。そして聖人の証『聖痕(スティグマ)』を開放する事によって一時的に人間を超えた力を使うことが出来る」

 ここまで話して守越尊は自分の体を眺めた。

(この体のダメージは人間の限界を超えてしまった為に受けたモノって事か?)

「って事は、俺は聖人なのか?」

 と言う、分かりきった質問を投げかけたが、返って来た答えは意外なモノで、インデックスは首を横に振った。

「ううん、違う。みことは聖人じゃないんだよ。聖人は神の力を宿しているけど、みことに宿っているのは『神の目』、それは神の体の一部って言われてるんだよ。そしてその神の体の一部を宿した者はこう呼ばれているの」

 ――天人(てんじん)

 

 20

 

「これで満足か」

 ドアも窓も廊下も階段も無いビルの一室で土御門元春は巨大なガラスの中に逆さに浮かぶアレイスターに呟いた。

「これで虚数学区・五行機関を掌握するための鍵の完成に近づいたと言う訳だ」

 虚数学区・五行機関

「まさかその正体がAIM拡散力場そのものだなんて誰も思わぬだろう。そんなモノに幻想殺しを使って自我を与えるなど正気の沙汰とは思えない。そして、まさかあんなモノまで手中に収めるているとはな。正直、オレにはお前が化け物に見えるぞ」

 男にも女にも見え、大人にも子供にも見え、聖人にも囚人にも見えるアレイスターは静かに口を開いた。

「あれは偶然見つけたモノに過ぎない。」

 何が偶然だ、と土御門元春は吐き捨てる。

「あんなモノを偶然見つけられる訳がない。それに何故あんなモノが科学側にある? 魔術側の人間が脳開発を受ければどうなるかくらい分かっているだろう?」

 魔術師が能力を使えば肉体が破壊される。能力者が魔術を使えば肉体が破壊させる。それは二〇年前にある実験において証明された事。

 しかしアレイスターはそんな事は分かっていると言わんばかりにうっすらと笑っている。

「そもそもあれが魔術側のモノと言う保証はない。それにそうであったとしてもあれの事なら心配する事はない。考えてみたまえ、簡単な事であろう」

 実際に土御門元春は魔術師でありながら能力者でもある。その能力は無能力者(レベル0)肉体再生(オートリバース)。魔術を使用した際に起こる拒絶反応。それによって破壊された体をその能力によって僅かであるが修復させる事が出来るからこそ土御門元春は魔術を使用できる。しかし危険な事には変わりない。一度の魔術で体全体が破裂する様な拒絶反応が起こってしまえばそれで終わりだからである。

(待て、よ……)

 土御門元春はしばらく考えた後に微かな可能性を見出す。

「まさか……二〇年前の事件はそんな事まで考えて起こされたのか!?」

「さてね」

 アレイスターは表情一つ変えずに素っ気ない口調で答える。

「ふ、そんな事がイギリス清教に知れたら即開戦だな」

 土御門元春はそれでも眉一つ動かす事の無いアレイスターを見つめ、数秒沈黙した後に言葉を続ける。

「オレにはお前の考えている事など分からない。だがオレの考えている事が本当に正しいのであれば、あれの存在に魔術サイドが気づいた時、黙ってはいないぞ」 

「まだ不完全とは言え、あれはそんな柔なモノではなかろう」

 土御門元春は巨大なガラスに背を向けるとゆっくりと歩き出し、そして去り際に言葉を放った。

「幻想殺し、そしてあの『神の目』すら利用しようと言うのなら気を付ける事だ、魔術師アレイスター=クロウリー」

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