とある魔術の天の住人 作:翔泳
1
第七学区のとあるファミリーレストランのテーブル席に四人は陣取っていた。
「ここの日替わりランチは没確定ね。今度から弁当買って来ようかな?」
店内と言うのに秋物らしい明るい色の半袖コートを着込み、ストッキングに覆われた足を徐に組み変えている彼女、麦野沈利は目の前の半分ほどになったランチセットを眺めながらそんな事を呟いている。
「結局、冷凍レトルトフリーズドライのオンパレードって訳ですよ。そうとなればカレー、カレーが最高」
麦野沈利の横に座っている金髪碧眼のフレンダと言う女子高生はカレーにスプーンを突きながら口へと運んでいる。つまり同じレトルトならカレーが一番と言う事をアピールしているみたいだ。
「あのドナルド=ムーン監督のウルトラC級の大作が近日公開……前回の作品は超駄作でしたからね、今回は逆に超気になります」
要チェック要チェック、と何やら映画のパンフレットに目を通しているのは絹旗最愛。フワフワとしたニットのワンピースを着た一二歳くらいの少女だ。
そしてもう一人、窓際で日光浴でもしているかの様にソファー状の椅子に身を委ねているのが滝壺理后と言う脱力系の少女。
――『アイテム』
学園都市の非公式組織で、主な業務は統括理事会を含む『上層部』暴走の阻止。
たった四人で、この街を左右させるメンツでもある。
「んでね」
と、没確定の日替わりランチを食べ終えた麦野沈利は話を切り出した。
「今日は珍しく二つも依頼が来てしまっているんだけど、ギャラは悪くないし両方やっちゃおうって話しな訳。どう?」
「まず二つがどんな内容なのか超知りたいですね」
麦野沈利は服のポケットから携帯電話を取り出して、
「一つはいつもながらッて感じ。まぁ掃除と言ったところね。もう一つはある人物の確保。こっちは不明瞭なモノだけど、要するに一人捕まえてくればいいって話し」
そう言って残りの三人に情報を転送する。
「で、結局どっちから手を付ける訳?」
カラン、と使い終わったスプーンを皿に置いて、フレンダは携帯電話に送られてきた情報を見ながら呟いた。
「二つまとめてでいいんじゃないかな? やる事は二つとも単純だし」
「つまり、二組に分けるって事だね」
ソファー状の椅子に身を委ねていた滝壺理后はぼんやりした声で続いた。
「私は捕獲よりも掃除の方がいいから、あと一人は――」
麦野沈利は三人の顔を順に見回す様に視線を移動させて、滝壺理后と目が合う、絹旗最愛と目が合う、フレンダと……
「――フレンダ掃除確定ね」
「結局私な訳!?」
「私と目合わさなかったでしょ」
……
「それとも、私とじゃ嫌なのかしら」
ぶんぶん、と左右に高速で首を振るフレンダ。
「じゃあ決まりね。それじゃ出発しましょうか。時間もったいないし」
フレンダは麦野沈利に押し出される様に席を立ち、首根っこを掴まれた子猫の様に連れて行かれる。そこへ滝壺理后は一言、
「大丈夫だよフレンダ。私はそんなフレンダを応援してる」
二人の姿が見えなくなった所で絹旗最愛は映画のパンフレットを揃えると携帯電話を開いた。そこには麦野沈利から送られてきた確保すべき人物の画像が映し出されている。
机に伏せた状態で顔だけを向けた滝壺理后は
「この学生、何なのかな?」
「さぁ? 私たちが余計な詮索をした所で超無駄なだけです」
さて、と絹旗最愛は腰を上げると
「私たちも動き始めましょう。超めんどくさそうな事は早く終わらせるに限ります」
2
九月一四日
辺りには未だに学生たちで賑わっているが、早くも空は夕暮れへと変わろうとしている。
「くそ~、腹が減ったなぁ」
そんな言葉を口から漏らしながら守越尊は寮へと帰る途中であった。本来ならば既に寮へ着いていてもよい時間なのだが、今は大覇星祭一週間前と言う事もあってその準備をしていたのだ。
そんな帰り道、何故か腹の虫がよく鳴いている。全ては昼飯を食べ損ねたのが原因だ。
そしてその原因を作ったのは言うまでも無く上条当麻の一言だった。
『尊、男の勝負をやらねぇか?』
わざわざ隣のクラスまで呼びに来たのだから何事かと思いきや、それは単なる昼ご飯を掛けたジャンケン大会だった。
参加者は守越尊、上条当麻、さらに上条当麻のクラスメイトであり『
しかも四人の内、昼ご飯を持参しているのは守越尊だけと言う始末。最近また入院したと言う上条当麻曰く、インデックスにすべて摘み食いされてしまったそうだが後の二人の理由は不明だ。ちなみに守越尊の弁当はコンビニで購入したモノである。
ルールは簡単。先に三回勝った者が弁当を食べる事が出来ると言うシンプルなモノだ。そして唯一の持参者である守越尊には予め一ポイント与えられると言う特典付きでジャンケン大会は始まった。
今さらであるが、どうしてこんな事に参加してしまったのかと後悔していた。何故なら、弁当を持参している守越尊にはジャンケンをする理由など無かったからだ。一つあるとすれば『男の勝負』と言われて引く訳にはいかなかったと言う変な理由が存在するかもしれない。
ただ、結果として守越尊は危なげなく勝利し、賞品として出されていた弁当は無事に守越尊の手に戻って来るハズだったのだ。そう、ハズだった。
上条当麻の一つの行動。ジャンケンに負けて「あ~あ」と椅子の背もたれに体重を乗せた瞬間、恰も漫才を見ているかの様に体勢を崩した上条当麻の大きく跳ね上げた足が弁当へと直撃し、みごとな弧を描いて窓の外へと飛び立ったのだ。
手を伸ばすが時すでに遅く、弁当はウルトラD難度級の回転技を決めながら宙を舞っていた。後は言うまでもなく、弁当は華麗な着地を決める事なく無残な最後を遂げてしまったのである。
つまりは守越尊は昼飯に在り付けていないのだ。
「絶対にいつか当麻に奢ってもらおう」
そんなこんなで現在に至る守越尊であったが、何気に振り向いたファーストフード店のガラスには自分の姿が映し出されていた。ガラスに映る姿を眺め、自分の右目へと手を当てる。
『神の目』
それは神の体の一部とされ、それを宿した人間を『天人』と言うらしい。
インデックスにその事を告げられてから一〇日ほど経過しているが、一向に実感が湧かない。
「って言うか、そんな事いきなり言われてもなぁ」
右目に当てていた手をそのまま頭へと持っていき、指で数回頭をかく。今に思って見れば、神裂火織に会った次の日の全身の痛み、
ただ改めて自分の中にあるモノがそんな代物だと考えてみると、どうして自分にそんな力があるのか疑問に思う部分もある。別に幼い頃から学園都市で能力開発を受けていた訳でもなく、かと言って魔術を知っていた訳でもない。普通の少年として生きて来た自分に宿る力とは思えない。
気になる事としては、母親である守越無月が超能力者であったと言う事実。
(母さんが能力者だったって事が影響しているとか? でも俺はレベル0だし。あぁ当麻も
う~ん、とその場で考え込んでいる守越尊はそこで腹の虫が鳴いている事を思い出した。
「腹が減っては頭の回転も悪いに決まってるか。とりあえず軽く何か食べるかな」
そう言って守越尊は目の前のファーストフード店へと入って行った。
店内は完全下校時刻が近いと言う事もあって客足は少なく、注文の際にも待つ事無くすんなりと食べ物を確保する事が出来た。後は席について食べるだけとなった所で、
「ねぇお願いだよ。たった一〇〇円なんだからさぁ」
何やら隣で一人の少女が前のめりになって店員にお願いをしていた。
「困りますお客様。きちんとお金は払って頂かないと」
「どうかしましたか?」
「いや~ありがとう! お陰で無事に食事に在り付けたよぉ。今度絶対に返すからね」
目の前に座っている少女は、腰の所まで伸びた髪はどちらかと言うと赤みがかった茶色で、服装は半袖のブラウスに青色のスカート。さらには赤いネクタイを付けた格好だ。どうやら注文した品物の代金に残金が一〇〇円ほど足りなかったみたいで、値下げの交渉を行っていたみたいだ。
「あぁいいよいいよ一〇〇円くらい」
別に知り合いでもなかったが、何故かああ言った場面では声を掛けずにいられないのは性格上の問題らしい。
「うぅ、一〇〇円をバカにすると一〇〇円に泣くんだぞ。私みたいにね、って私は君のお陰で無事に助かったんだけど」
そう言って少女は御馳走を頂く様な満面の笑みでハンバーガーを口へと運んでいる。一〇〇円をバカにしている訳でもない。もちろんたった一〇〇円と言う事もあるが、こんなにもおいしそうに食べている姿を見ていたら、逆に一〇〇円出してあげて良かったと思えて来る。
食事を終えた少女は何やら話を切り出そうとした所で口の周りに付いているケチャップを指摘され、にゃははは、と少し顔を赤らめながらそれを拭き取った。
「自己紹介がまだだよね? 私は
「ええっと、俺は守越尊。あんたと同じ高一」
「へぇ~尊君かぁ、よろしくね」
何とも明るい子だなぁ、なんて思いながら守越尊は改めてその姿を見ていると
(そう言えばこの制服、この前に風斬氷華が来ていたモノと同じ制服だよな? って事は同じ学校って事か?)
「所で所で尊君、どうして君はこんな所でご飯を食べ様と思ったの? 時間も中途半端だし、まさかこれで夕食終わりって言う寂しげなパターン?」
氷の残ったジュースのパックをクルクルと回しながら和音はそんな事訊ねて来た。
「いや、ちょっと理由で昼飯を食べ損ねたから、まぁ軽い間食ってところかな。そう言うあんたはどうなんだ?」
「ん、私? 私は、『幸せ』を探してる途中にお腹が空いちゃって、尊君と同じ間食ってヤツですな」
「幸せ?」
守越尊は少し首を傾げる。
「そう『幸せ』。それはどんな小さなモノでもいいの。例えば占いの運勢で自分の星座や血液型が一位だったり、道端で一〇〇円を拾ったり。あ、でも学園都市じゃドラム式ロボットが清掃してるから拾えたら超ラッキーかも。それに今だって尊君に一〇〇円貸して貰えてこうやってご飯が食べれてる、これも小さな幸せだよね」
周りには小さな幸せが沢山隠れている。ちょっと意識して探せばすぐに見つかるくらい。
「そんなに近くにあるんだったらそんな出歩いて探さなくてもいいんじゃないか?」
それは違うよ、と和音は首を横に振る。
「幸せはやって来るなんて言うけどそんな事無い。幸せ自分で見つけてあげないとダメなんだよ、ううん、気付いてあげないといけないの。例え幸せが傍に来ていてもそれに気がつかなかったらそれは幸せじゃないんだよ。そう、悲しみや苦しみって言うのは望まなくてもやって来るのにね」
一瞬和音の表情が暗くなった気がした。しかし見間違えと思うほど一瞬にしてその表情はかき消されて明るい笑みを取り戻していた。
「まぁあまり気にせず趣味と思っておくんなせぇ」
あ、片付けるね、と和音はテーブルに置かれてあったゴミを自分のトレイに乗せ、守越尊の分も合わせてゴミ箱へと捨てに行く。
その後も少しの間テーブルに腰をかけて雑談をしたが、和音の明るさが消える事はなかった。
だから守越尊の記憶にインプットされたのは、和音と言う少女は明るくて、そしてよく笑う女の子というモノだった。
話しを終えた二人は店を出る事にした。
空は日が落ちて始め、街灯の光や店の明かりが道を照らしている。辺りには颯爽と歩くカップルの姿や仲間で騒いでいる学生の姿もちらほら見えていた。
そんな中、守越尊の目に入ったのは違う人影だった。カップルでもなく、仲間で騒いでいる訳でもない。二人の女の子らしい人影。
その二人はある程度近づくと守越尊と和音を見て
「見つけました。抵抗しないでもらえると超助かります」