とある魔術の天の住人   作:翔泳

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第九話 「二人のミコト」

 5

 

「まだ少し腫れてるな」

 後頭部の辺りを右手を触れて出っ張りを確認する。

 日付は二一日、時刻は午後の六時二〇分。

 尊は夕暮れの街中を歩いていた。

 あの日、目が覚めた尊がいた場所はコンクリートの筒が砂の山の中を横断するように作られたトンネルみたいな所だ。大きさはもちろん小学生用に作られているモノである為、高校生がそんな中に入っていれば窮屈であるのは分かりきった事である。

 そんな中でボーっとする頭でミサカの事を思い出し、飛び起きる様に頭を上げた尊はコンクリートに頭突きをクリティカルヒットさせる事になる。

 三日たった今日でもまだその場所は腫れている様だ。

 この三日、尊はミサカについて出来るだけの事を調べたのだがネットで検索をかけてみてもヒットは無し。辛うじてある能力者を元にした軍用のクローンが作られているらしい、と言う噂が流れていると言った情報のみであった。

 街中も歩き回った。

 ミサカの居場所が分からないのであれば探すしかない。それでもこの三日間成果は無かった。

 三日連続で御坂美琴に会う為に常盤台中学の学生寮にも出向いた。

 一日目は同部屋の白井黒子になんだかんだ言われていたが三日目にもなると逆に呆れられて

『また貴方ですのね、残念ながらお姉様は寮におられませんの』

 なんて風にワーワー喚く事も無く対応して来るようになった。

 しかしミサカに会えないのは仕方がない事なのかもしれないが、御坂美琴にこれほどまで会えないとは思っていなかった。

 白井黒子の話しではここ数日ほとんど寮に戻っていないと言う。

 そしてここ数日の間に生まれた一つの疑問。

 御坂美琴は妹達(シスターズ)についてどこまで知っているのか?

 ミサカの話しでは、妹達(シスターズ)は御坂美琴をモデルとして作られた単細胞クローンと言っていた。

 単細胞クローンを作るのに必要なのは髪の毛一本と血液一滴。それらから遺伝子を抜き取しクローンを作るらしい。

 つまりはクローンを作る為には元になるDNAが必要な訳であって、御坂美琴をモデルとしていることは、

(御坂美琴は自分のDNAを提供した?)

 提供しなくとも髪の毛一本や血液の一滴なんてモノはどうにかすれば手に入れる事は出来るかもしれない。とにかく真相を知る為には

「ミサカか御坂美琴のどちらかに会わないと始まらないな」

 そう考えながら歩く事数分、尊は高台の様な場所に辿りついた。

 そこからは学園都市の大半が見えそうなくらい眺めが良く、夕焼けのオレンジ色の光を反射した建物が幻想的な風景を作り出している。

 その眺めを見ながら策沿いに歩いていると、何となく見た事がある様な後ろ姿が目に入った。

 黒のズボンに白のワイシャツ、と言うどこにでもありそうな制服を身に纏い、ツンツンした黒い髪形に鞄を肩からぶら下げる様に持って。

 上条当麻がいた。

(そう言えば、補習がどうこう言ってたっけ?)

 どうやら上条当麻も誰かと丁度出会ったらしく鞄を上に挙げて挨拶をしている様であったが、

 上条当麻の視線の先には探し求めていた人物の姿があった。

 白い半袖のブラウスにサマーセーターとプリーツスカート。常盤台中学の制服に茶色い髪を揺らして、ゴーグルが無い事からミサカでは無く

 ――御坂美琴。

 彼女は手すりに両手を掛けて夕日を浴びる学園都市を眺めていた。そして上条当麻に気がつくとこちらを振り向き、それと同時に尊にも気がついた様だ。

 上条当麻もその目線に気がつきこちらを振り返る。

「お、尊じゃねぇか。こんなとこで何してんだ?」

「単なる散歩、当麻は補習か?」

「あぁ、漸く今日で補習終わりだ」

 なんて話していると

 ハァ、と上条当麻の後ろからため息が聞こえて来た。

 御坂美琴は手すりに背を向けて両肘を置く形で、何やら疲れた表情をしていた。

「何だ? お前疲れてんのか?」

「そう言う事、だから今日はビリビリも勘弁してあげるわ」

 三人の横を一機の掃除ロボットが通過して行く。辺りでは風力発電用のプロペラが夕日を浴びながらクルクルと回っていて、その夕暮れの空を大画面を付けた飛行船が飛んでいる。

「私、あの飛行船って嫌いなのよね」

 御坂美琴がボソリと呟いた。

 何でだ? と上条当麻が訊ねると

「機械が決めた政策に人間が従っているからよ」

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)

 世界最高のスーパーコンピューターと言われる究極の予言機械(シミュレーター)である。

 より完全な天気予報を行う為に、との名目で人工衛星『おりひめⅠ号』に搭載され打ち上げられたモノで、世界中に流れる全ての空気の粒子の動きを完全に予測することで天気予報を天気予言に変えてしまったと言う。

「何だ? お前チェスとかで人間が機械に負けるのが許せないタイプの人間か?」

 そうね。と如何にも適当な返事を返して来る御坂美琴であったが、少し空を見上げて何かを考えている様に目を瞑ると、

「じゃ、私こっちだがら」

 と言ってその場を後にしてしまう。

 その後ろを眺めていた尊であったが、目的を忘れてしまった訳ではない。

「悪い当麻、俺も用事あるから」

 軽く上条当麻に手を上げると御坂美琴がいる方へ歩いて行く。

 その姿を見送った上条当麻は指で頭をポリポリとかいてその場を後にした。

 

 6

 

(これじゃ本当にストーカーかもな)

 尊は御坂美琴との距離を一定に保つようにして街中を歩いていた。

 空はすでに夜へと変わり、街行く人の数も減って来ている。

 御坂美琴の歩くスピードは変わらない。

 店、街行く人、全てに興味を示すことなくずっと正面を向いたまま、淡々と歩いている。

 初めは声を掛けようかと思った尊であったが、彼女がどこへ向かっているのかが知りたかった。寮に帰ってしまうならそれで寮についてから話を聞けばいいと思っていた。

 しかし御坂美琴が歩いている方向は寮とは全く逆の方向で、街の外れに向かっているみたいであった。

 時間が経つにつれて辺りに人影が無くなってくる。

 二〇メートルほどの距離を開けていたが、見る限りではほとんど二人と言ってよいかもしれない。それほど急激に人数が減った。

(もう少し距離を取った方がいいか?)

 そんな考え事をしていると、ふと御坂美琴が少し狭めの道へと入って行った。

 大通りと違い入り組んだ道に入られてしまうと追跡が困難になってしまう。そう思った尊は小走りで角まで走ると隠れる様にその道を覗き込んで

(――え?)

 そこに御坂美琴の姿は無かった。

 その道は建物と建物の間にある小さな道だ。幅は七メートルくらいの一直線な道でどこかに横に入れるスペースなど見当たらない。

(一体どこに――)

「私になんか用でもあんの?」

 突如としてその声は『上』から聞こえた。

 見上げた先には足元に電気を帯びながら重力を無視した様に壁に立つ御坂美琴の姿があった。

「そう言えばあんた、超能力者(レベル5)超電磁砲(レールガン)だったんだっけ」

 御坂美琴は壁を歩いて降りて来ると

「で、その私に何か用なの? アイツの友達の、みことさん。変な感じよね、なんか自分の名前呼んでるみたいで」

 右手を腰に当てて左手で髪を払う。

「アイツを別れてからずっとついて来てたみたいだけど、尾行するならもっとうまくやりなさい。バレバレよ」

「別にここまでついて来る必要もなかったんだけど、一つ訊きたい事があってね」

 と、尊は少し呼吸を置いて言葉を発した。

妹達(シスターズ)に会った」

 ビク、と御坂美琴の体が少し動いて、瞬間その表情は険しいモノへと変わっていった。

「アンタ、何であの子達の事知ってるのよ」

「やっぱり知ってるんだなミサカの事。何だよ妹達(シスターズ)って、実験て何なんだよ!?」

 二人は数秒ほど睨み合って、先に御坂美琴が口を開いた。

「それを知ってアンタはどうするつもり?」

 その口調は鋭く尖ったモノだった。

「助けてみせるさ」

 ハハ、と御坂美琴は笑った。

「どうやって? 実験の内容もしらないのに?」

 彼女は続けて

「いいわ、教えてあげる。あの子達が何をされているか」

『絶対能力進化計画』

 樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算結果に従い、まだ誰も到達しえない絶対能力者(レベル6)への領域に到達する者を生み出す計画。

 七人のレベル5の中で唯一レベル6へ辿りつける者を一方通行(アクセラレータ)と言う。

 樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の予想演算の結果、一二八通りの戦闘環境を用意し一二八回超電磁砲(レールガン)を殺害する事で一方通行(アクセラレータ)はレベル6へと進化(シフト)する事が判明。

 しかし、超電磁砲(レールガン)を一二八人も用意する事が出来ない。そこで増産型能力者計画(レディオノイズけいかく)妹達(シスターズ)を用いて、一方通行(アクセラレータ)に二万通りの戦闘環境を用意し妹達(シスターズ)を二万回殺害する事で同様の結果となる。

 そこまで聞いて尊は愕然とする。

 説明は続けられるが、全てが異常なモノであった。

 一方通行(アクセラレータ)。その名前を思い浮かべて出て来たのは、あの暗闇の中にいた一人の少年。あの不気味な口元。

 自然と拳に力が入った。

「あんたはこれだけの事を知っていながら何も思わなかったのか!? 何でDNAなんか提供したんだよ!?」

 御坂美琴は歯を食いしばる。手に力が入る。

「……んな訳ないでしょ」

 彼女はボソリと呟き

「そんな訳ないでしょ!! 既に一万人の妹達(シスターズ)が殺されているのよ!」

 その声は怒りに満ち溢れていた。

「序列第一位の一方通行(アクセラレータ)は有らゆるベクトルの向き操る。アイツは私たちと根本的に力が違いすぎるの! 最強なの! 同じレベル5の私でさえ手も足も出なかった……だから私は実験に関わる全ての研究所を破壊したわ! それでも……実験は終わらなかった。私だって……こんな事に使われるのが分かっていたらDNAマップなんて提供しなかった!」

 それは悲痛の叫びに聞こえた。

 御坂美琴は実験に関わっている訳では無かった。

 自分の蒔いた種は自分で何とかする。そう言わんばかりに彼女は一人で戦っていたのだ。

 最強と言われる能力者に挑んだ、それがダメなら研究所を破壊した。誰にも知られない所で御坂美琴は妹達(シスターズ)を守る為に戦っていた。

「これだけ話してもう一度訊いてあげる。アンタに何が出来るの? これでもまだ助けるなんて言える?」

 尊は喉まで来ている『助ける』と言う言葉がそこからなかなか出て来なかった。

 尊には力が無い。能力も無ければ魔術も使えない。ただの高校生。

 自分みたいな人間が首を突っ込んでいい話しでは無い事は分かる。

 でも自分を犠牲にしてでも人を助けに行く少年を尊は知っていた。

 自分の記憶が無くなってもそれを隠してある少女の笑顔を守った少年を知っていた。

 もし彼がここにいたなら何て答えただろうか?

 そんな事は決まっている。

「助けるさ」

 御坂美琴の時間が一瞬止まった気がした。

 そして驚きの表情を隠しながら、

「無理よ、普通の人にはあの実験を止める事は出来ない。あの子達を救うには普通じゃ無理なの……だから私は――」

 と御坂美琴の言葉が止まった。

 何かを見て表情を歪めて。

 その視線の先には

「何をしているのでしょうか? とミサカは質問します」

 尊が振り向いた先にはミサカがいた。

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