無窮の果てに   作:雀盆

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エタッテナイデス。
木曜は飲み会。
華金も飲み会。
帰り道から投稿。


望みの果てに

 

 

 泥の侵食が早い。

 このままだと周りへの被害が取り返し付かなくなる。

 俺の残存魔力的にも、次の魔法が最後になるだろう。

 首を全て切り落としても、こいつは死なない。

 殺すためには、首の他に彼奴の魔石と融合してる精霊の種子を破壊するしかない。

 

【貴様ラ脆キ人間ガ神タル私ニ歯向カウノガ間違ッテイタノダ!】

 

「どうにも理解出来んな」

 

【何ダト?】

 

「随分と安っぽい神がいたもんだな」

 

【貴様!!!愚弄スルカ!】

 

「お前はただの引きこもりだろう? お前は最初から神なんて崇高な存在じゃない。ただの獣だ」

 

 そう、最初からこの竜は獣だった。神が適当に作った失敗作。

 ただ───

 

「ただこいつは『簒奪者(ウバウモノ)』とあれ、と勝手に生み出された余興もの。どうして今更出てきたんだ? そんなに怒るならもっと早く、それこそかつての友が殺された時に出てくればよかったものを──」

 

 ナルキソスは耐えきれなくなったのか、怒りに身を任せシキに火を吹き出す。

 それを嘲笑うかのようにシキは屋根から屋根へ、余裕綽々と移動する。

 

【黙レ!私ニ友ナドイナイ!世迷言デ惑ワスナ!!】

 

「お前は変わらずこの沼に引き篭っておけば、神などと傲慢にも名乗らずに済んだのになぁ」

 

【ソウダ!私ハ神トナッタ!信仰ヲ失ッタ貴様ラニ裁キヲ下ス機会ヲ得ラレタノダカラナ!】

 

「ふざけんな!! 何が神だ!」

 

「そうだ! お前なんかただの怪物だ!」

 

 ナルキソスが自らの高揚感に酔いしれる中、シキの元には街を守るために傭兵たちが集まってきた。

 アンドラも少し遅れてシキの元に来て、一緒に戦わせてくれと。

 

「シキ! すまねぇ。この街は俺たちが守らなきゃいけねぇのに」

 

「アンドラ……」

 

「もう……もう逃げるのだけは辞めたんだ」

 

 アンドラ含む傭兵達にとって、生まれ育った街が崩壊するさまを黙って見ていることなんてできなかった。

 たまたまこの街に訪れた旅人がたまたま神の眷属で、たまたま善良な心を持ち合わせたハイエルフだったおかげで、被害を抑えることが出来ていた。

 数刻前に一緒に飲み遊んでた人が、関係もないこの街を守ろうとしてくれている。

 

 それだけで男たちは立ち上がる。

 恐怖はある。

 未だ目の前で唸る怪物相手に睨まれる度に足が竦む。

 それでも、もう他の人間にこの街を守らせるわけにはいかない、と覚悟を持ってこの場まで出てきた。

 

「頼っていいんだな?」

 

「任せてくれ! これは俺たちの戦いなんだ!」

 

「奴の泥には触れるな。触れたら溶かされて同質化していく」

 

「なるほどな。それで攻略法は?」

 

「簡単だよ。あいつの首全てと、腹ん中にある核を破壊すること」

 

「そりゃ簡単なこった。ダハハハ!」

「よっしゃ! 攻略法が分かれば、あとは切るだけよ! 首は俺たちに任せろ!」

「俺たちゃのことは気にせず(あん)ちゃんにフィニッシュは任せる」

「情けねぇけどよ。俺たちゃ全員でかかって漸くだからよ」

 

「この街は必ず守る。力を貸してくれ」

 

 シキを除いて10人の傭兵、狙うは8本の首。

 何も問題がなければ6本までは落とせるだろう。残り2本は死ぬ気で落とす。

 その心意気でアンドラたちは移動を始める。

 シキも己の狙いを外さないために魔法を練り始める。

 

【作戦会議ハモウ終ワリカ?何ヲシヨウト貴様ラハ皆殺シダァ!】

 

「お前は確かに異常だ。この地上で神の力を行使するお前は神そのものと言える。だがお前は1つ過ちを犯した」

 

 シキはナルキソスを見た当初から気になっていたことがあった。

 神や精霊、神の眷属を吸収した割には、ナルキソスの存在規模は大して変わっていないのだ。

 魔物としての強度が強くなったのは事実。

 実際、体表の硬度や新しい権能の付与、上位存在を取り込むことで会話出来るまでの言語能力を身につけた。

 それでも存在規模は魔物の格が揺るがない。

 

 シキの魔法によって殺されかけ、泥を被った時、神性の格が一瞬だけ上昇したが、脅威となるようなレベルになることは無かった。

 普通の魔物が強化種になった程度の変化。

 

 史実におけるアンタレスはアルテミスを吸収したことで、その力は神が束になっても受け止められない程の規模になったとされている。

 取り込んだ神の力(アルカナム)を十全に使用することが出来る存在となっていた。

 それ故に、ナルキソスは不完全な存在という印象が抜けきれずにいた。

 

 シキからすれば、神性を持っているのに存在規模が全知零能のヘスティアよりも規模が低いことに違和感を抱いていた。

 まるで上っ面の神性を持っている、神性という名の仮面を纏ったような感覚。

 

「この街で守り神として祀られて来たが、その役目を果たさなかった。お前はただ、友だと思っていた男が死に、あの沼に引きこもった。それ以来お前はなにかしたのか?」

 

【ゴミ共ヲ守ル理由ナドナイ!勝手ニ神格化サセテキタノハソッチダ!!】

 

 神ってのは本来、信仰故に成り立つ存在だ。

 たとえ偶像崇拝だとしても、信心深い信者がいれば世間からはソレが神と認められることはある。

 

「あぁ、そうだ。レルネーの住人が勝手にお前を神としてあの祠を作り、毎日参拝する文化を作り上げた。それ故にお前は今、その神性が認められた。だがよ……気づいてるか?」

 

「……」

 

 自らを曲がりなりにも信仰していたレルネーの民を殺し蹂躙したのは、紛れも無いナルキソス本人。

 

「お前のクソみたいなメッキはとうに捨て去られた。故にお前の魔性は確定した。簒奪者(ナルキソス)アルゴリス!」

 

【黙レエェェェ!!!】

 

 シキを叩き潰すためにその首を振り下ろす。

 赤閃と蒼閃によって綺麗に装飾された黒眼をフル活用して難なく対処し、避けざまに神影(みかげ)を振り抜く。

 霊源の淨眼(プロビデンス)によって死の線を見抜き、その線を辿るように首を断ち切る。

 

 屋根に叩きつけられたことで建物は崩壊し、泥に飲まれていく。

 アンドラたちはシキの作った好機に応えるように、1本また1本と首を切りに行く。

 

「てめえは俺たちの神様なんかじゃねぇ!」

 

【何ヲ勝手ナコトヲ】

 

「俺が生まれてからこのレルネーはずっと、ずっと! 傭兵の俺たちが守ってきたんだ!」

 

「そうだ! それを今更ノコノコ現れて自分は神だァ? てめぇなんか必要ねぇんだよ! この街は今も昔もこれからも! 俺たちがこの手で守り抜く!」

 

【ダッタラ守ッテミセロ!傲慢ナ人間共ヨ!!】

 

 率いる傭兵隊が各々に秘めたナルキソスに対する鬱憤をぶつけて覚悟を示す。

 ナルキソスは残された6本の首を自在に動かして、散らばる傭兵を殺しに掛かる。

 

【──()ゲル 地獄ノ祭壇 冥府ノ杯 死ノ呪イヲ汝ニ捧グ 不貞ノ虚遇 支配セヨ恩讐ノ番人 暗キ世界ニ救済ヲ 原初ノ海 原初ノ(ソラ) 原初ノ炎デ焦土トナレ──】

 

 6つの首から同時に唱えられる連鎖魔法。

 傭兵たちに引く考えはない。

 ただひたすら首を断ち切らんとする意志のみで竜へと走る。

 

「舞台は整った! 黒塗りの歴史を捨て去り、新たな時代を紡ぐ英雄たちに星の加護を!」

 

 星霊王印・始源(ガイアス・レギナ)による階位昇華にも等しい力の補正。

 一般人がこの加護を受ければ、ステータスを刻んだかのように能力が底上げされる。

 怪物を前にした恐怖心も、この加護の前には型なし。

 アンドラたちの心には既に恐れなど消え去っていた。

 

 ステイタスが刻まれていない人間とは思えないほど軽やかにナルキソスを翻弄し、残りの首へと肉迫する。

 ナルキソスは焦ったのか、本来込めるべき魔力よりも少なめで魔法を発動した。

 

【───天地開闢ノ祖 『スコターディ・エクリクス』!!!】

 

 ナルキソスを中心に拡がる黒色のオーラは、触れたものを全て蝕む闇として拡大していく。

 合計7つの首を落とされて疲弊したナルキソスに引導を渡すかのようにシキは神影を右手で握り、詠唱(うた)を紡ぐ。

 想起するはある1人の王様の物語。

 

──Anfang

「星の光よ 月と星を円環する主よ 我が叡智 真理を問い質す 我は裁定者 己が罪を認めぬ敵に終幕を 是は世界を救う戦いである 励起せよ────事象解放雷霆(ケラウノス)天津甕星(ネビュラス・ノヴァ)』」

 

 神影に集う超高密度の雷霆の魔力は次第に目視するのも難しい程、雷光による眩い光と耳を劈く轟音が鳴動する。

 

「お前の敗因は、お前を神と崇めた者たちの信仰心を自ら奪ったことだ。故にお前は酷く脆い。

 街の守り神として世界に簒奪者の称号を貰い、神となった貴様は守る者から排斥された。

 それ故にお前の神格は上がらなかった。ただ精霊と神の力を取り込んだだけの紛い物なんだよ」

 

「貴様ァァァァァァ!!!」

 

「さらばだ! 簒奪者アルゴリス。訣別の時だ」

 

 大振りで縦に振り切った刀から、極光の柱とともに打ち出された魔法は、シキの出せる最高の切り札。

 かの英雄アーサー王が繰り出すエクスカリバーを参考に思いついた必殺の刃。

 全てを焼き尽くし、全てを打ち消すための勝利の魔法。

 

 天津甕星(ネビュラス・ノヴァ)は蔓延る泥ごと地面を抉り、アルゴリスの元へと辿り着くと魔法はそのまま上に打ち上げられた。

 暫くの間、魔法の光が闇夜を照らし、舞い上がった砂埃が晴れるとアルゴリスの姿はなく、魔石ごと消滅したことを視覚情報として知らせる。

 

 シキの魔法を前に皆、息を飲む中、アンドラの目はキラキラと輝いていた。

 

「勝っ……たのか?」

 

 誰かの言ったフラグのようなセリフにシキとヘスティアは一瞬だけヒヤッとしたが、泥の存在や神の気配がヘスティア以外に感じないことが分かると、シキは神影を天に向けて掲げた。

 

「この勝利! この栄誉! レルネーの英雄が成し遂げたぞ!!」

 

 その様子を見たアンドラは大声で勝利の報せを告げる。

 アンドラの声で正気に戻った男たちは「オォォォオ!!」と街中に轟かすほどの勝利の雄叫びをあげた。

 

 

 

 




『簒奪者アルゴリス』
元々レルネーいた竜=祠の伝説の主=アルゴリス
穢れた精霊が混じったアルゴリス=ナルキソス
ナルキソスに神の力が与えられたことで簒奪者の称号を得た。

竜と言うが、元はどこにでもいるトカゲ。
魔石を持つ魔物や精霊の祝福を受けた人間を殺したことで、竜へ昇華。
なんやかんやあって気づけば8つ首になっていた。
この世界における、人類悪でもその幼体でもない。

【裏設定】
シキは神の力だけではなく、精霊の祝福・加護も受けているため、Lv.1だとしても、2か3つ上の相手とも同格のように戦える。


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