内容細かく詰めて言ったら、気づけば貯蓄がなくなってました
暫く、説明回です。
所々動きは散りばめますが、ダレるかも……
甘美な誘惑
地獄があった。
燃え盛る大地に響く無数の悲鳴による合唱。
狂気渦巻く世界に救世主は居ない。
ただ人々は暗い暗い闇に堕ちていく。
高らかに笑う魔女は三つの杯で蜜を啜る。
新たな国を築き、辺獄を創った。
傀儡の暮らしは快楽だろう。
逃走か、敗北か、放逐か。
宿業の元に、其の願いを棄却しよう。
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レルネーから旅立ってひと月半。シキとヘスティアは巨大な都市国家に行き着いた。
極東から見て真西にあるレルネー。そこから北西にある山岳を二つ超えた先にある、
カザヌ・キーテッジの建築様式は独特で、その文化的構想が代々引き継がれてきた。
北南西に巨大な険しい山岳が三つ重なるおかげで、それらの方向から入国するには少し困難。
東は東で巨大な湖が目の前にあるので、入国する道が限られている。
更に、カザヌ・キーテッジの国土は典型的な寒冷気候にあり、1年のうち8ヶ月が厳寒な冬となるほどである。
真冬となる内4ヶ月は平均気温が-35℃にもなる極寒な土地。
それ故にカザヌ・キーテッジは自然の要塞とも言われ、これまで何度も戦争で攻め入られそうになっても、標高が高く険しい山道を越えることが出来ず、氷河漂う極寒な湖を乗り越えることも出来ず、ようやく辿り着いても既に戦意など削がれてしまう状況になる。
そんなカザヌ・キーテッジは極度の宗教国家であり、統治するのは教皇と言われる王様が支配している。
枢要機関がその政治体制を支えていて、都市の街区間ごとに教会を設置することで、カザヌ・キーテッジの巨大都市を細分化して統治している。
カザヌ・キーテッジで広まっている宗派というのが、創造神スヴァトヴィートを信仰していると言う。
なんでもスヴァトヴィートという神は神々の“神”であり、カザヌ・キーテッジに住まう者が豊穣と武の神として遥か太古より信じてきた神らしい。
ヘスティアに聞いてみたら「スヴァトヴィートなんて神はいない」と言っていたので、小人族が偶像の神を崇拝していたものと同じだろうと思ったのだが、どうやら200年あまり前から、カザヌ・キーテッジの地に一柱の神が降臨したというのだ。
その神の名が「ベロボーグ」。
ヘスティアに確認したら「神格としてはボクらやアマテラスなんかとは劣るけど、神の一柱であることは確かだよ。関わりなんてないけどね」と返ってきたので、嘘では無いらしい。
行商人が言うには、そのベロボーグという神が降臨して直ぐ、
「我は天界スラヴで
と名乗り、カザヌ・キーテッジの住民たちはその神の信仰を続けているという。
教皇の一宗派政治ではなく、
旧神スヴァトヴィートを信仰する旧信仰派閥スヴァクト
と、
現神ベロボーグを信仰する現信仰派閥ボーグル
に分かれて政治を行っている二宗派政治らしい。
さて、今はカザヌ・キーテッジがちょうど初冬を迎えて数日経った頃だ。
真冬に向けて備蓄を蓄える時期となり商人の出入りが増えるので、乗り合い馬車として俺たちはカザヌまでやってきたのだ。
カザヌ・キーテッジは中心地に聖都があり、その周りを囲うように木造の民家で村を形成している。
聖都へと入国する道は右手に湖が、左手には険しい雪山が聳えている隙間を通るような形にある。
聖都周辺外縁にある民家は、湖で漁業を営む家系や船による運送業、山林に猟をするためのセーフハウス、農家だったりと、一般的に下民と呼ばれる地位の人が住む領域となっている。
下民と言っても、聖都に住む一般人と同じ権利を所有している。
カザヌ・キーテッジの権利地位は大まかに分けて四つに分かれている。ピラミッドの一番下から下民、市民、下級聖職者、上級聖職者に分かれている。
下民というのが、主に聖都外に住居を置いている市民のことで、下民とは言われているが権利関係で言えば、ただ単に聖都外に住んだ方が稼業の効率がいいからって理由で、そこに住居を置いてる市民。
市民というのが、聖都内に住居を置いている一般市民。
下級聖職者というのが、各地区に設置されている教会や王城に仕えているシスターやメイド、執事。
上級聖職者というのが、教会の神父たる司教や司祭。それとは他に王城で働く公職の役人などがいる。
そして例外として存在しているのが、カザヌ・キーテッジを守護する聖王騎士団。
独自の組織体制でカザヌを守護している。
騎士団の所有する権利は上級聖職者と同程度であり、警察や検察、行政機関などの職員がこれらに該当する。
カザヌ・キーテッジの全国民はスヴァクトとボーグルを信徒とするが、聖職者に該当する者の権威はとても強い故に、他所からカザヌへと訪れる旅人や流れてくる難民や移住民に対する警戒度は高くなっている。
まぁ、何かを信仰している人にとって、何も信仰していない、若しくは別の存在を信仰している人は異端な存在に見える。
今俺とヘスティアが直面している問題というのが、聖都へと入ろうとしたら関所に停められた。
正確には、二人して取調室のような場所に連れていかれた、というのが正しい。
ではなぜ、俺たちがこうして連行されているのか。
別に関所でなにかやらかした訳でも、乗せてもらった馬車が闇商人の荷馬車で仲間だと思われた、とかでは無い。
ヘスティアが女神だった故に、こうして連行されているのだ。
カザヌの人たちは絶対的神という存在が明確だった。
カザヌの人たちはベロボーグと名乗る創造神の他に神が多数存在しているのは、なんとなく分かっている。
神が大地に降りる時代ゆえに理解している者もいる。
ただそれでも、信徒にとって神という存在はベロボーグのみで、その他の神はベロボーグ以下の存在という認識である。
つまり、ベロボーグの信徒である自分たちは、ベロボーグが他の神よりも偉い存在であるから、他神格であるヘスティアが果たしてこの聖都へと入国してもいいのか、という審議が始まったのである。
「随分と待たせてしまったみたいで、申し訳ありません。本来、観光で訪れてくださった方にこのようなことはしないのですが、貴女様が女神であるのならば、それは例外となってしまうのです。どうかご理解の程を」
俺たちがこの部屋に連れられて10分程待たされた後、奥の扉から部下を連れて入室してきたのは、関所に務めている聖騎士の兵士らしい格好よりも豪華な、如何にも上級職についてそうな若い男の聖騎士だった。
彼は入ってくるなりこちらに謝罪をすると共に、お茶を出すように部下に促した。
「それであなたは?」
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。
スヴァクト聖王騎士団特務外交機関所属、リュエル・アルスートです。一応、団長を務めさせて頂いてます。御二人がこのカザヌに滞在する間、担当することになりました」
「特務外交機関? それに担当というのはどういう意味で?」
スヴァクト聖王騎士団というのは前述した通り、このカザヌ・キーテッジを守護する騎士の組織名であり、シキの目の前に座っている20代の男は、その組織の中に存在する特務外交機関と呼ばれるところに配属されている。
軍隊で言う空軍や陸軍、海軍などと同じ組織体系を敷いている。
「まずは疑問から解消した方がいいみたいですね。
僕が所属している特務外交機関というのは、主に外からこの国にやってくる神と、その神と契約してる人間を国に滞在している間、表向きは招聘する機関です。
本来の役目は、このカザヌ・キーテッジの神聖国家に外部の神によって体制が崩されないように監視する、というのが正しいです」
「それを俺たちにバラしていいのか?」
「最初からお伝えしておいた方が反感は買われませんからね。
そして担当というのは、僕が基本的に御二人がカザヌでの滞在中にフォローする人だと思って貰えたら分かりやすいかと」
「何もしないと主張しても意味無いのだろう?」
「えぇ、特例は認められませんからね。それに御二人は特に気をつけなければならないとして、特務外交機関の長である僕が直々に担当することになりました」
「そんなに危険人物に見えるか?」
「ははは、冗談が上手いですね。貴方のその全身真っ白ローブに包まれた姿じゃ怪しさ満点ですよ。
それに───シキ・アンブロシウス・ウェールズ。ウェールズ最後の王であり、精霊に愛され世界にも愛された悲劇の王子。
ウェールズでのことは聞き及んでます。
そんな貴方が女神を連れてこの土地に訪れたら、自ずと警戒度は上がりますよ」
「俺のことを随分と調べているようだな、リュエル・アルスート」
俺がリュエル・アルスートに睨みをつけながら返すと、目の前の男は一瞬だけ視線を外し、威圧感から逃れながらこちらに視線を返してきた。
俺たちの間に流れた微妙な駆け引きは、数秒の無音な空間に空気が軋むような圧力が掛かる。
「ウェールズの伝説は真実の伝説として有名です。
ベロボーグ様を信仰する我が国にでも根強く残る程の童話ですから。
僕は恐れながら、ウェールズの童話のファンなんですよ」
シキの発する王者の風格に取調室内にいる関所の従士やリュエルが連れてきた騎士たちは思わず息を飲んだ。
しかし、リュエルは何でもないような笑顔でシキに言葉を返す。
「───はぁ。その作った笑顔と気持ち悪い敬語はやめてくれ。
普通に気持ち悪くて鳥肌が立つ。
ヘスティアには敬語で構わんがな」
シキはリュエルの笑顔の底に隠れる思惑を引き摺り出そうと、魔眼を持って覗き込もうとしたが、何かしらの防御機構が働いたのかノイズとモザイクが掛かり、上手く覗くことができなかった。
分かったのは、俺たちを
「こちらこそ助かるよ。部下にも同期にも、作りすぎてて気持ち悪いと言われているからね。
では、ここで長々と話していても意味ないから街を案内するよ。
そういえばこの街には7日間滞在するとあったけど、7日分の宿はこちらが用意してもいいかな?」
「俺はいいがヘスティアは? そもそもこの男が監視に付くことが反対なら、別にカザヌに入国する必要が無いから、嫌なら言ってくれていい。ヘスティア?」
ずっと俺とリュエルが話していたせいでヘスティアが蚊帳の外になっていたが、ヘスティア自身もなにか思うことがあったらしく、珍しく口を挟むことなく、左手を顎に当てるような形で黙って考えていた。
「──ぅえ?! あ、うん。ボクも構わないよ。よろしく頼むよ、リュエル君」
リュエルが一番前を歩き、その後ろを俺たち二人が付いていく。リュエルの連れてきた部下は俺たちの後ろに控えて、護送のようなボディガードのような感じで目的の場所へと向かう。
道すがら俺とヘスティアを見る人たちの目は、色々と懐疑的な視線を送られてきたけど、なんとなくだけど察することは出来た。
彼らにとっての絶対神とはベロボーグであって、ヘスティアを同列の神として認識しづらいのだろう。
魔眼曰く、知名度も神格もベロボーグは大したことないらしい。
ベロボーグはスラヴにおける最高神ではあるが、オリュンポスの神々や高天原の神々と比べたら、規模の大きさに負けてしまうようだ。
だからこそ、オリュンポス十二神の一柱であるヘスティアがカザヌに来るということは、田舎の村長の元に大国の大臣と秘書が訪問してくるようなものなのだ。
「さて、ここがカザヌ・キーテッジで最高級のおもてなしを提供するベルモンド・サンクトメルク=パレス。滞在中は専属の使用人と朝昼夜の食事の提供を約束します」
「そんな金は持ち合わせていないんだが」
リュエルに紹介されたホテルはカザヌ・キーテッジの中で一番の最高クラスのホテルで、外見からしても白と金を基調とした豪華絢爛な建築、約4000坪の7階建てと、設置面積だけで言えば各地区に設置されている教会よりも大きい建物となっている。
カザヌ・キーテッジは宗教国家故に閉鎖的に見えるし、立地的にも人を遠ざけているように思われがちだが、実際は観光名所が各地にある。
文化的景観による美しい街景色や教会、一日に1度必ず行われる礼拝の儀式など、観光客が訪れる理由がほかの小国よりもある。
そのため、カザヌ・キーテッジの各地区にはホテルや宿屋などが置かれている区画がある。
「はは、お金は気にしなくていい。このホテルの宿泊料やサービス料は特務外交機関から提供するからね」
リュエルの思惑がどうあれ、ここまで好待遇してもらえるのならそれに与る方が得策か。
関所にいた従士も後ろに控えている騎士も今回のことを何も知らされてない様子な時点で、何かしらの守護を持っているリュエル以外から現状、何も引き出せないだろう。
「では僕はここで失礼するよ。
基本的にホテルから出る時は、専属にする使用人に一声かけて欲しい。
御二人の滞在に迷惑をかけない程度で見守らせてもらう。
では、改めて───ようこそ、光満ちる幸福の都市へ。迷いなき旅人に祝福を」
ホテルに入ると、リュエルは支配人と思われる老人に少し会話を行うと、その老人に案内を任せることにしたらしい。
老人は一度ロビーの受付に戻ると、奥からメイド服を着た二人の女性を連れてこちらに歩いてきた。
「ではヘスティア様、シキ様。私はベルモンド・サンクトメルク=パレスの総支配人のジィルバと申します。そしてこちらの二名が本日より、このホテル内で御二方のお世話を致します」
「私は宮廷修道第二階梯シスター・エレナです」
「私は宮廷修道第二階梯シスター・ノンナです」
二人のメイドの綺麗なお辞儀に、思わず故郷の家人を思い出す。
三人に案内された部屋はこのホテルの最上階、それも一際大きな部屋であるスイートルームだった。
天蓋付きキングサイズのベッドが置いてある寝室と、応接間やリビングルームなどがついてる、如何にもVIPな部屋って感じだ。
「私たちは基本的にこのリビングルームと、左手にあります客間、それと浴室にダイニングルームへの立ち入りとなります。
そのため、メイキングと掃除以外で寝室と応接間への立ち入りはしません。
また、客間の利用は私たちが寝食するため利用することになっております」
「当ホテルにはクラブラウンジや一等シェフによるビュッフェレストラン、カジノハウスなどがございますので、そちらの利用も可能でございます。
先程、アルスート様が仰っておりましたが、観光する際は私共も一緒に付き添わせて貰います。
不明な点や変更して欲しい点などございましたら、気軽にお声掛けください」
「そうか……それなら少しここで待っていて欲しい。
望んでもいないのにこうして対応されると嫌でも勘繰ってしまうんでな。
何も無いと思うが、ちょっと部屋を調べさせてくれ」
「畏まりました。では私共は一旦外で待機しておりますので、用事が済みましたらお声掛けください。
失礼致します」
盗聴や盗撮出来る魔導具を検知する方法は、普通はそれらを探す魔導具を扱うのが一般的だ。
他には手当り次第、それらが仕掛けられているであろう箇所を脳筋で探すことも出来る。
俺はどうするかと言うと、俺に付き従ってくれる精霊を使役して、この部屋と時間を掛けてホテル全域を調べるつもりだ。
ホテルに関しては細工はしてこないと思うが、生活圏内となるこの部屋には少なからず仕掛けはあるだろうと踏んでいる。
「シキくん、どうだい? なにか見つかった?」
小精霊が飛び交い部屋中の隅々まで調べ尽くすシキに、ヘスティアは早く休みたかったのかベッドに寝転がりながら話しかける。
「いや、特に何も。念の為、防音と集音疎外の結界を張っといた。ここまで警戒されると動きも制限されそうだ」
「ボクたちは別にただ観光しにきただけなのにね。
全く困ったもんだよ。
それにしてもシキくんの未来視は相変わらず凄いね。
その力が無かったら、今頃ボクたちはこの好待遇に甘々に蕩かされていたよ」
シキは寝室の地面に魔術陣を書き込みながら、ここに来るまでの経緯を思い出す。
シキとヘスティアがカザヌへと訪れる理由はただの観光である。その事実は変わらない。
しかし、いざカザヌへと向かう道中、シキはその眼で未来を観てしまったのだ。
空に浮かぶ巨大な魔法陣。
死を嘆くように大地を震わす巨人の進撃。
湖の水面に写る燃え盛る街並み。
死を祝福する悦びの歌声。
蠢く暗い昏らい森の暗躍。
場面場面で映し出されるその光景に、シキは「あぁ、またか」と内心溜息をついた。
未来を観測した中に、この好待遇の場面もあった。
それ故にシキは最初からリュエルを警戒していたし、内容もヘスティアには教えていた。
ヘスティアの眷属になってからシキは未来視で得た情報を掻い摘んで伝えている。
特に重要なことだと思ったことは、詳細に伝えるようにしている。
俺が観測した未来でもリュエルの時同様、曖昧でノイズが掛かっていた。
分かっていたのは、荒れた映像の中に映る荒廃した街の景観だった。
まるでゲームのPVを見るかのように断片的な内容だった為、シキ自身も無意識のうちに警戒度が上がっていた。
「まぁ今日一日は旅の疲れを癒したいからゆっくり休もう。俺はあの二人に声を掛けてくるよ」
防音と守護の結界と聖護の刻印を組み合わせた工房を作り終え、精霊に隠蔽の魔法をかけるよう働きかける。
魔法が確実に機能していることを確認した後、スイートルームの外で待機している二人を呼びに行く。
感想と高評価お待ちしております。
モチベがほちい…ほてい