旅行中とか書きたくて書きたくてうずうずしてた。
どれ程の時間が経ったかは知らない。
街中から物や人が焼けた匂いがした。
僕は初めて
無力な僕じゃ、何も出来ないからと。
見ない振りをして、僕の目的の為に僕は走った。
助けを呼ぶ声が聞こえた
──騎士が助けてくれることを信じて走った。
救けを求める声が聞こえた
──僕のシキ君を信じて走った。
気付けばヘスティアはもう皇城の目の前にいた。
そして、赤く染った世界に、轟音と共に白い光の世界が訪れたのは、偶然にも同時だった。
「僕を信じてくれたシキ君を信じるぜ!」
皇城の扉を開けて待っていてくれたエレナとノンナを礼を言って、城の中へと進む。
「──だから、ちゃんと帰ってきてくれよ」
扉が閉じる直前、微かに見える光に向かって小さく願いを溢す。
─────────────────────
やはり、サモディヴィには余り意味が無かったな。
元々活動限界だったんだ。
それを早めただけに過ぎんな。
まぁ、これで懸念材料は減らした。
「随分と痛そうじゃないか。図体がデカくて助かるよ」
光が収束し、晴れた世界に現れた二体の様子を観察していた。
鎧が身体と一体化し、正しく鎧の巨人と言える男は、有り体に言ってしまえば、瀕死だった。
表皮となった鎧の炭化している箇所からボロボロと剥がれ落ちる。
『私ノ邪魔をするナ!!貴様ニコの国を守ル理由など無イ筈だ!』
「そう吠えるなよ」
奴の言う通りだった。
俺にこの国を守る義理も使命もない。
「確かにお前の言う通りだ。救けを求められたとはいえ、命を賭ける程では無いだろうよ」
元よりこの国に根付く闇に興味は無い。
コシンがこの国を復讐することを止める理由は無い。
此奴は国の人間に対して復讐したいのであって、赤の他人の俺たちに危害を加える気などないのだから。
邪魔をしようとしたから攻撃しただけだ。
「俺の目的はサモディヴィが齎す災厄を是正すること」
『なンダとっ!?!』
人肌が焼ける匂いで辺りが充満していた。
先程の魔法の威力の凄惨さを物語っていた。
ボコボコと吹き出るように泥を吹き出し、己の修復を終えたコシンは精霊に向き直る。
そこには既に嵐の繭に閉じ篭り機能停止しているサモディヴィがいた。
『精霊ガナんダと言ウノデすかッ!』
「世界には人類悪と呼ばれる人の産んだ獣性を持った災厄が存在する。サモディヴィがルサールカ、リーシーの二柱を飲み込んだ存在が、その人類悪だと俺は睨んでいる」
『フハハハハッ!!!人ノ獣性?!
───であれば、この私こソガ!その人類悪トナり、何も救イヲ齎すこトナく平和を享受すルコの世界を滅ぼシテみせマしょう!』
「だから、そうさせない為に、全力でお前を叩くって言ってんだろ。ウスノロが」
───
『──ッ?!!』
──
白い光柱がコシンを包み込む。
声にならない悲鳴を上げ、その身に降りかかる雷撃から少しでも逃れようと身体をのたうち回る。
大きくなり、再生の力を持ってしても痛いものは痛い。
───
悪魔の声が痛みで震え上がる脳に届く。
電撃で麻痺する身体を酷使して声の魔力が迸る方へ鎌を振り下ろす。
「ゲームじゃないんだ。ターン制なんてある訳ないだろ」
極光は収束する──
魔法の祈りが響く。
二柱目の光が天から降ろされた。
「脅威と分かっているのなら、攻撃の手を緩める理由はない」
───
再三の詠唱が始まる。
絶えず焼き続ける雷光、思うように動かせない電撃、身体の水分を根刮ぎ蒸発させにくる熱。
そのどれもが不完全なコシンを死に至らしめる凶器に他ならない。
──
光の柱が三本、鎧の巨人を飲み込むように貫いた。
光に飲み込まれ、身体を蝕まれ、意識が闇に導かれていく最中、彼は一つの狂気に辿り着いた。
己を蝕む黒泥に汚染された精霊が、その狂気の答えを教えてくれた。
“全テ呑ミ干セ”
“己ノ全テヲ賭シテデモ”
“憎悪ニ、渇望ニ、身ヲ任セロ”
『───ァァ──ッッァ──』
言うなれば一瞬の気絶。
だが、その本質は穢れた精霊の側面が表層に上ってきただけ。
───ドクンッ───ドクンッ──
体内のマナが脈動する。
精霊の
コシンを形成していた魔力値が変動を開始した。
辛うじて人間だった規格は、此度の変体によって精霊へと変貌を遂げていた。
魔力密度は
存在規模は
「──魔力の暴走?!
魔力爆発を起こせば、この国どころか周囲の山脈ごと更地にするレベルだ。
「此奴……身体から溢れる泥を飲み込んで、その都度更新を繰り返している」
杖を握る手に汗が滲む。
推定レベル不明。
人類悪ですらない、取るに足らない鎧の巨人。
シキは恐怖していた。だが、それは決して勝てないという思い込みからでは無かった。
怨恨を募らせ、憎悪を膨らませ、全てを奪った国への復讐に囚われた一人の男に対して、死力を尽くさないといけない状況に興奮している自分に恐怖していた。
そう、シキもまたカザヌの狂気の中に囚われていたのだ。
『邪魔をするのなら、貴様諸共世界を滅ぼそう』
「ハハハハっ!!──さて、第2ラウンドと行こうか」
コシンは先程までのようなおかしな言動ではなくなった。
人間でも、精霊でもなくなった存在に残された『カザヌ・キーテッジに復讐する』想いだけが巨人を動かしていた。
彼の身体に、シキに傷つけられた雷撃の痕は無い。
整えられた巨大化した鎧騎士が大鎌を振り下ろす。
その一撃は光柱の中から無理やり繰り出した時のようなものではなく、鋭く、重く、目標を確実に殺す為の攻撃。
「デケェ図体の癖してその初速は反則だろ!」
一撃受けただけで全身が痺れるような重さに舌打ちが溢れる。
巨人にも拘らず、それを感じさせない速度で動く鎧の巨人。
シキは速度で上回る為に雷霆を纏い、雷速で駆け回る。
「
これまで常に眼に頼って魔法行使していた為、思いの外、雑になっていることに気付く。
再度使用したいところだが、過剰な魔力密度と更新される情報に脳の処理が追いつかなくなっては本末転倒だ。
「鎧はオリハルコン製か。刀じゃ鎧を傷つける程度か!」
『その程度か!英雄!!!』
一撫で。
屈んで避けた一閃は、カザヌ聖都の壁を軽く両断した。
レベル1のシキがまともに喰らえば上下の身体泣き別れるなんてすぐに理解する。
「ハハハ!図体に比例して気も大きくなったようだな!」
───
『またそれか!何度も同じ攻撃が効くと思うな!!』
───星辰を巡る天の王よ 我が叡智に応え 我が意志に従え
高速戦闘中に行われる並行詠唱。
シキの右手に収束し、雷槍を象り始める。
雷と雷を無理矢理掛け合わせ、ひとつの形に落とし込めていく。
雷光が渦を巻き、急速に一点へ凝縮していく。
共振を繰り返し、空気が甲高く軋み、世界が針の先ほどの一点へと絞られていった。
───その名は
それは万物を貫く神の槍を模した雷槍。
ある英雄が言った。
槍とは刺し穿つだけではない、と。
「精々死ぬなよ、復讐鬼!!」
シキの手元に収束する魔力を警戒し、大鎌を振り下ろそうする。
しかし、それよりも遥か早くに魔法が完了した。
重心を低くし、大地を踏み砕いて、雷槍を投擲した。
雷放電によって空気が急激に加熱され、膨張した結果、発生した衝撃波が大鎌を弾き飛ばし、雷槍はコシンの懐に穿ち迫る。
『───ッ?!!!!!』
白雷が鎧に衝突した。
捻れ廻る雷槍は、金属を溶かし削り取る。
「刃は乱回転してお前の身体を穿つ。俺の雷霆はお前の芯へと届く」
『────グアアア゙ア゙ッッ!!!!こん、な──ものでっ!!』
「──咲け『
天雷の本懐は槍では無い。
彼岸花、別名曼珠沙華と呼ばれる花がある。
花茎の先に強く反り返った鮮やかに咲く花だ。
この魔法は、穿った槍をそのまま爆裂させ、放射状に雷撃を解き放つ。
その末路は槍の穂先から彼岸花が咲くように稲光が閃く。
「最初からこの程度で死ぬと思ってはいなかったが……成程、これがステータスの差か」
精霊の力を介しても推定レベル5のコシン相手には即死ダメージは与えられないか。
これならヘスティアにレベル上げて貰っとけば良かったな。
コシンの腹に大きな穴を穿ち、再び空は暗い夜を映す。
黒泥が修復せんとボコボコと湧き出るように噴き出すが、断面が焼け焦げており、修復速度が遅くなっていた。
明らかにコシンが弱っている証拠だ。
『──ッこの程度で私を殺せるとでも思いましたか?!』
「ハハハハ!!余裕の振りか?!腹の穴を塞ぐのが遅いみたいだが、これは俺の見間違いかっ?!」
シキは帯電し自身の身体を浮かすことで、鎌の薙ぎ払いを躱す。
穹を縦横無尽に駆け巡り、乱撃を躱す。
『ちょこまかと!!』
「長生きした割に構えがなってないな」
右手に
『一体…なんだと言うのですか!!何故我が宿願を邪魔立てする?!この国が滅ぼうともっ…貴方にはなんも関係が無いはずだ!!』
彼の一振一振が周囲を傷付ける。
今朝までの綺麗な街並みは見る影もなく、カザヌは崩壊したと言ってもいい。
至る所から悲鳴が聞こえ、火が上がるのが見える。
『貴方には分かるまい!精霊を信仰していた平和な日常を、突如知りもしない大義名分で…親も、友も、隣人も、長老も!全てを奪い去り!奴隷のように扱われてきた非現実を!!部族を支える人間でありながら何も出来なかった不条理が!』
彼の怒りはカザヌで暮らしていた部族の怒り。
初代教皇とベロボーグが犯した罪過。
200年を超えた妄執。
『信仰心を弄ばれていた我々を誰も助けはしなかったッ!暗い部屋に閉じ込められ、家畜同然の暮らしを強制されっ!辱めを受けてきた屈辱をっ!』
「……」
シキは答えない。
答える必要が無いと判断した。
コシンの言葉は全て事実なのだろう。
奪われ、踏み躙られ、救われなかった過去。
それを否定する資格など、シキには無い。
──ただ、理解することは出来た。
シキもまた故郷を外部の人間によって滅ぼされた境遇なのだから。
オラリオから来た
醜悪な連中に引き摺り回され、全てを陵辱され嬲られた姿を見て、逃げることしか出来なかった。
予め知っていて、この結末を受け入れたシキもまた、全てを破壊する復讐の狂気に至る可能性を秘めていた。
「───だからといって、全部壊していい訳ないだろ」
その一言と同時に、雷が爆ぜる。
地を蹴り、雷霆を纏った身体が閃光となって空を裂く。
「復讐の先には何も無い。復讐して良いことなんて何一つ無いんだから」
コシンの瞳が揺れた。
『ッ───!!』
振り上げられる大鎌。
だが、その軌道よりも速く、懐へと潜り込んだ。
『では、この怒りは!この怨嗟は!一体何処に吐き出せばよかった?!』
「お前の怒りは正しいさ」
振り抜かれる刃を紙一重で躱す。
頬が裂け、血が散る。
雷を纏った刃が、鎧へと叩き込まれる。
鈍い衝撃音が一度。
「それで救われる奴が…他に一人でもいんのかよ!!」
爆ぜる雷光。
至近距離での雷撃が炸裂し、鎧を焼き切る。
『黙れェェェエッ!!!』
咆哮。
全身の傷から黒泥が噴き上がる。
緩慢な再生と同時に質量が膨張する。
「お前が復讐したいのはお前のエゴだろ!何も出来ず、地面を這い蹲ることしか出来なかったお前が悲劇のヒーローにでもなったつもりか?!」
膨張した部分に天雷を打ち込み、華を咲かせる。
痛撃に、遂に膝を着く。
「復讐したいなら当時の人間に復讐しておけば良かったものを。この国の人間だけならまだしも、貧民街に暮らすお前の子孫まで巻き込んでどうすんだよ」
『戯言を!!!』
振るわれる大鎌は、正に嵐と呼ぶべきものだ。
空間ごと一切合切を薙ぎ払う一撃。
──ガギィンッ!!
「ッぐ……!」
体勢を崩したシキに追撃するように、コシンの巨体が前へ出た。
『黙れ、黙れ黙れ黙れェェェッ!!』
大鎌が吼える。
横薙ぎに振るわれた刃が、地面ごと抉り飛ばす。
シキは咄嗟に跳ぶ。
だが遅い。
衝撃だけで身体が持っていかれ、廃墟と化した建物の壁へ叩きつけられた。
「がっ───!!」
肺の中の空気が強制的に吐き出される。
視界が揺れる。
それでも───
「っハ……ハハハ!図体だけは反則だって言ってんだろ」
血を吐き捨て、笑う。
コシンの鎧の隙間から、黒泥が脈打つように溢れていた。それは修復の為ではない。
怒りに呼応するように。
憎悪を喰らって膨れ上がるように。
『貴様は何も知らない!!何一つ奪われたこともないッ!!全てを失った者の絶望を、貴様のような英雄気取りに分かるものか!!!』
「知ってるさ」
即答だった。
コシンが、止まった。
僅か一瞬。
その一瞬が、致命的だった。
───
白い火花が空気を灼く。
「故郷は焼かれたし、家族も殺された。大事な友も同胞も、ウェールズは何もかも失ったさ」
───星辰を巡る天の王よ
詠唱と共に、雷が右腕へ収束していく。
「救えない命しか無かった。未来の為に、目の前で見捨てた命もある。俺だって、立場が違えば堕ちていたさ」
───我が叡智に応え
僅かな光が揺れた。
「何度も視た。どのルートを辿っても帰結する未来は一緒だった」
───我が意志に従え
雷光が収束する。
細く、鋭く、槍の穂先のように。
「その先には、何も無かった」
───その名は
天が鳴く。
雷神が如き、雷光を纏い、穹を裂く雷槍を形成する。
「復讐の果てには復讐の種しか生まれない」
───事象解放
白雷の槍が、一直線に走る。
コシンが大鎌で迎え撃つ。
しかし、雷槍は大鎌を貫き砕いた。
雷槍は左肩を裂き、そのまま斜めに肉を抉りながら、奥深く穿たれた。
そして、追加詠唱と共に、雷が爆ぜ、右脇の背へと雷華を咲かせて突き抜けた。
雷撃が内部で暴れ回る。
黒泥が悲鳴のように弾け飛ぶ。
『ォォォォオオオオオッッ!!!』
絶叫と共に、巨人の身体が仰け反る。
その隙を逃さず、シキが踏み込んだ。
「復讐したいなら、勝手にしろよ」
雷を纏った刃が閃く。
「でもな───」
一閃。
二閃。
三閃。
コシンの身体からはプスプスと焼き焦がす音が聞こえていた。
鎧が壊され、肉体が露出している箇所から正確に裂かれる。
切り裂いた傍から雷で焼き、泥による修復の遅延も忘れない。
「200年の時が経ったこの国でやる事じゃない。こんなのはただの八つ当たりだ」
コシンの胸元へ蹴りを叩き込む。
巨体がぐらつき、そのまま背面に倒れ始める。
「ただの被害者だったお前は最悪な加害者に堕ちた」
『……ッ!!!』
その言葉が、一番深く刺さったらしい。
コシンの全身から黒泥が爆発的に噴き出した。
否定されたことへの拒絶だ。
『私は……!私は被害者だっ!奪われたのは私だ!!踏み躙られたのは私だ!!』
「くどい!被害者だと?都合の悪いことから目を背けんなよ」
「お前は全て他人が悪いと責め続けるだけ。故郷を救えなかったんじゃない。救おうとしなかった世界を憎んだ。
お前は根本的に間違えてんだよ。
──この世の全ての不利益は当人の能力不足。憎むなら無力な自分を憎め」
『なっ!!……なにを…』
俺の故郷を滅ぼした奴らを恨まないなんてことはなかった。Xデーまで何度も恨んだし、回避しようと試行した。
だが、結局は自分の能力が足りなかった。感情論では滅びの末路を変えることは出来ない。
俺に故郷を守る力がないから、大切な同胞を失くした。
「後から恨み言を言うのは誰だって簡単だ。この悪意が満ちている世界で平和を感じている間にも、何処かで悪意は蠢いている。
何処からかやってくる悪意に、今平和だからと甘えていた自分に責任が無いと言えるのか?」
故郷を守りたいのなら、守れるだけの力を持っておけばよかったんだ。
全て壊された後に言い訳のように、恨み言を垂れ流し、もう関係のない人間にまで被害が及ぶのであればそれは害悪に他ならない。
「俺はウェールズが滅んだ責任に、闇派閥を責めるつもりは無い。言い訳を連ねる気もない。
──これは、英雄となる俺が背負うべき罪業だ」
シキは戦闘中ハイになると口調が崩れてナチュラルに煽りカスになる…。
ていうかシキの魔法無法過ぎでは?
私が作った設定なのに、強すぎて笑う。
実質レフィーヤ。シキはレフィーヤだった?───あ、違う。すみません。
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