無窮の果てに   作:雀盆

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正義だ、悪だ、と人は決めつけるが、明確な線引って何処だろうか…


専属鍛冶師

 

 

 あれから二週間が経った。

 俺はオラリオで“雷霆(ウリエル)”の二つ名を貰った。

 熾天使の一柱であるウリエルからそのまま取ったらしい。

 神の光、神の炎の異名を持つ天使で、俺の使用魔法から相応しいと決まったらしい。

 

 そして、この発案者が夜の女神ニュクスだった。

 ヘスティアも司会をしていたゼウスも警戒はしていたし、最初は却下する予定だった。

 だが、理路整然と並べられた命名理由に反論を返すことが出来ず、代案も用意出来ないとなれば、そのまま決定したと言う。

 

 因みにレグナントは“鬼姫”に決まったらしく、ここ最近は機嫌が悪い。理由は二つ名が可愛くて威厳が無いとかなんとか。

 ヘラ・ファミリアのお姉さん方に揶揄われて、辟易としているらしい。

 

 

 「今日から暫くレグナントが居ないから、ソロになるんだよなぁ」

 

 

 今日からヘラ・ファミリアは遠征に出るとの事で、レグナントは深層攻略編成に組み込まれている関係上、一時的にシキはソロになる。

 

 ホームの掃除や必要な物の買い出しなどを済ませ、気づけば昼の鐘が終わった頃。

 ファミリア運営にあたり、経費書類やギルドに提出する報告書等の処理に追われていた。

 ヘスティアとシキの私室となる部屋で、書類のまとめ作業をしていると、ヘスティアが軽食と飲み物を持って部屋に戻ってきた。

 

 

「あれから寄生虫の報告はあったかい? 」

 

 「何もないな…。ダンジョン産の新種であれば、報告がちらほら上がってきておかしく無い。だが、出てないとすれば、人為的であると結論付けた方が良さそうだ」

 

 

 ロイマンにも寄生虫に関しての目撃証言を集めるよう報酬をチラつかせて協力を求めた。

 書類に纏めて貰ったのが手元にあるが、如何せん報酬に目が眩んだ“見間違い”が多い。

 

 

 「闇派閥の動きもキナ臭い」

 

 「闇派閥?」

 

 「ゼウスとヘラに抑圧された闇派閥がオラリオで暴れれば即時沈静化される。だから、オラリオ外での活動を活発化するだろうと踏んで、情報収集していたんだ」

 

 

 ゼウスとヘラに情報収集に詳しいファミリアが無いか尋ねた際に、紹介された神ヘルメスに頼ってみたが、ここまで卓越した収集能力を持っているとは思わなかった。

 胡散臭くて神らしい神で、余り関わらない方が身の為と思ったがな。

 

 

 「あぁ、ヘルメスの…」

 

 「闇派閥が関係しているかは未確定だが、魔物の流通が秘密裏に行われているらしい。対象は王族や貴族を中心としているが……」

 

 「どうしたんだい?」

 

 「──いや、ここ最近は国家系ファミリアへの流通を行っているとのことだ」

 

 

 場所は2つ。

 1つは、俺達が先日まで滞在していたカザヌ・キーテッジ。

 そして、闘国テルスキュラ。

 

 

 「偶然だと思うか」

 

 「確かアマゾネスだけの国なんだっけ」

 

 「ああ。だが、カザヌは魔物の悪用やペットとして飼うっていうより、騎士達の経験値用として取引していたと見ていいだろう」

 

 騎士の中にレベル2が多数いた理由として説明が着く。魔物の流通に際して、黒泥の提供等があった可能性は高い。

 対してテルスキュラはどうだ。

 あそこは闘争の国と謡い聴く。

 魔物と眷属を戦わせることで死の闘争を行わせているとすれば、納得のいく取引内容と言えるだろう。

 

 

 「魔物取引と同時に何か他の取引が行われているか、調べてもらう必要がありそうだな」

 

 「もし、テルスキュラが関係していると分かったら、僕も付いていくから」

 

 「そりゃ、もちろん来てくれたら嬉しいが、良いのか?ヘスティアは国柄やアマゾネス脳は余り好きじゃないだろ」

 

 「うん。正直な話、余り好きではないさ。でも、シキ君を一番近くで感じていたいから」

 

 

 シキは一瞬だけ、言葉を失った。

 軽く言われたはずの一言が、妙に重く胸に残る。

 ヘスティアは少しだけ首を傾げた。

 

 

 「嫌だったかい」

 

 「いや、そうじゃねぇよ」

 

 

 彼女が「シキの傍で彼の紡ぐ物語を見届けたい」と日々伝えてきていたことから、彼女の想いは理解していた。

 

「下手すりゃ、前みたいに国家丸々一つ、巻き込まれる規模になる恐れがある。今度はより脅威となる存在が出現する可能性もある」

 

 「僕の安全が心配?なら心配は無用さ!確かにオラリオに残ってゼウスやヘラのとこに匿って貰えれば安全と言えるかもしれない。

 けれど、僕にとって一番安全な場所は──君の隣だから」

 

 「──…分かった分かった。俺の負けだ。だけど、ヘスティアは自分の命優先でな」

 

 

 最初からヘスティアを連れて行かない選択肢は元から考えてはいなかった。彼女の神としての在り方が嫌悪するのでは、と考えていたが杞憂だった。

 

 

「直ぐにここを発つ訳じゃないからな。それなりに準備をしてから向かうつもりだ」

 

 資料を纏め終え、明日からの買い出しの内容をヘスティアにメモを手渡す。

 ヘルメスに追加で調査する内容を手紙に記し、ギルドに持っていく為に私室を離れる。

 

 

「ついでに、ヘファイストス・ファミリアに武器のメンテナンスが出来るか確認しに行くか」

 

 

────────────────────────

 

 

 

 ギルドにヘルメス・ファミリアへの仕事を依頼したシキは、バベルのヘファイストス・ファミリアのテナントがある、4階から8階を順に見て回っていた。

 シキの武器を扱っても問題ない鍛冶師を探して順に見て回っているのだが、納得のいく武器がショーケースに並べられていない現実に肩を落とす。

 

 

「はぁ…」

 

「あら、失礼ね」

 

 

 凛とした声がシキの耳に届く。

 声のした方に目を向けると、赤紙で右目に眼帯を付けている女性がジト目で立っていた。

 

 

「ああ、すまない。余り良さそうな武器が無いもんで」

 

「うちのテナントを物見遊山している冒険者がいるって、連絡があったから様子を見に来てみたら、随分な物言いをするのね。ウェーブの英雄さん」

 

 

 ……この女性…女神か。

 ということは、女神ヘファイストス様ってことか。

 ふむ…俺の対応はだいぶ失礼だな。

 

 

「心象を悪くしたなら謝ります。俺の武器を見てくれる鍛冶師を探して見て回っていたのですが……」

 

 「ふーん…そんなに言うなら、貴方の武器を見せて頂戴」

 

 

 どうやらヘファイストス本神が武器を見てくれるらしい。めちゃくちゃ不本意な雰囲気を出している。

 彼女の眷属の作った作品を前に溜息をつく男に、その理由が買えないからではなく、実力が至ってないと否定されたのだ。

 至って正常に怒っていいことだ。完全に俺が悪い。

 

 ヘファイストスの後ろを付いて歩き、先程までの振る舞いを回想していたシキは、テナントがあった場所とは異なるところに来ていたことに気づく。

 シキはヘファイストスの私室と見られる部屋を通り、その先にある鍛冶場へと連れてこられた。

 

 

「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はヘファイストス。硬っ苦しいのは好きじゃないから、敬語はいいわ」

 

「シキ・アンブロシウス・ウェールズだ。シキでいい」

 

「それで、改めて確認するけど、貴方は自分の武器を整備して欲しい鍛冶師を探しているということでいいかしら」

 

「ああ、その認識であっている。俺の武器は少々特殊で、普通の鍛冶師じゃ手に余ると考えて、優秀な鍛冶師を探していたんだ」

 

 

 シキは神影(みかげ)虚飾(ヴァニティ)を鍛冶場にある机の上にのせる。

 神影はアメノマヒトツ神によって鍛造されたもので、虚飾に関しては精霊より賜った鞘であることを伝えた。

 ヘファイストスは2つの作品を見て、久しく働いてなかった鍛治に対しての気持ちの昂りに火がついた感覚に陥った。

 

 

「こ、これは神器とも呼ぶべき代物よ!」

 

「そうだろうよ。俺の為に一年かけて鍛え上げた作品だと、アメノマヒトツ神も言っていた」

 

「極東にこれ程の腕がある鍛治神がいたなんて知らなかったわ。確かにこの太刀を子供達が整備することは難しい。貴方の溜息も納得がいったわ」

 

 

 食い入るように刀と鞘の細部まで確認している様は、使われている技術を自身に落とし込もうとしているように見えた。

 根っからの職人としての表現がピッタリと合わさったような女神であると思えた。

 

 

「神匠にそう言って貰えると彼神も喜ぶだろう」

 

「それにこの鞘の方も素晴らしいわ。杖の役割もあり、特にこの特殊武装(スペリオルズ)が異常ね。収納のという未知の能力を宿しているし、使用者の魔法威力や効率を大幅に向上させる仕掛けが施されている。

 これの作成者は人でも地上に降りた神でもないわね。精霊が権能を持ってして創り出した、という話は本当のようね。

 それにしても、2つとも不壊属性付きなんて価値は考えたくもないわね」

 

 

 完全に自身の世界に入り込んで神影と虚飾の評価をしている。

 彼女に今話しかけても無意味だろうと思い、鍛冶場であるこの部屋を見渡す。

 テナントにあった商品とは異なり、一目で分かるほどの一級武装が壁に掛け並べられていた。

 武器の状態や質からして、ヘファイストス本神が鍛えた武器で間違いないのだろう。

 上級冒険者が使っても遜色ない代物だ。

 

 

「シキ。私から提案があるんだけど、いいかしら」

 

 

 鑑賞が終わったのか陳列されている武器を眺めていたシキに問い掛ける。

 

 

「なんだ」

 

「貴方の思う通り、この2つを完璧に整備することが出来るのは私くらい。だから、貴方の専属鍛冶師の契約を結ぶ。どうかしら?」

 

「それは願ってもないことだが、良いのか?」

 

「ええ、それに契約を結ぶ上で、幾つか私の方から条件を付けさせてもらうけど」

 

「無理な条件でないなら、別に構わない」

 

 

 ヘファイストスは下界に降りてから一度も専属鍛冶師になったことはないそうだ。

 神の力を抑え込まれ、天界にいた頃のように神造兵器をポンポン作れなくなった状態でも、鍛え上げた作品はどれも一級品以上の価値と真価を発揮する。

 加えて、自身が専属契約をしてしまえば、その分、眷属が契約するはずだった冒険者を奪っていることにもなる。

 彼女にとっては、自身の武器を使ってもらうよりも、眷属が鍛えた武器を冒険者が使って欲しいという思いの方が強いのだとか。

 

 そこで、俺の専属鍛冶師の契約は少しだけ特殊だった。

 神影や虚飾、彼女の作る武装、調達した武装に関して、整備するのはヘファイストス。

 それ以外の武装の調達は、売り出されている商品やヘファイストス自身が推薦した鍛冶師の武器となった。

 無論、調達する武装も上級鍛冶師の鍛えたものになる。

 

 ヘファイストス・ファミリアの眷属に対しての配慮も出来ている素晴らしい契約内容になった。

 武器で必要なものがあれば、ヘファイストスに直接申し出て、後日ヘファイストスの元に伺って受け取りをすることになった。

 つまり、ヘファイストスの私室への立ち入り許可を貰ったも同然である。

 

 神影と虚飾をこのまま整備に出すことにはなったので、序でに必要な武器を取り寄せてもらうようお願いした。

 魔法が伝わりやすい投げナイフを複数(針でも可)、魔導師向けのローブをお願いした。

 鎧系は重くなるので不要だ。

 

 

「それじゃあ一週間後に取りに来て頂戴」

 

「了解した」

 

「あ、それと、ヘスティアにも宜しく言っておいて」

 

 

 ヘファイストスの鍛冶場を出て、バベルのエレベーターへと向かっていく。

 バベルの外はすっかりと夕陽が夜空に溶け込んでおり、綺麗な星空が広がっていた。

 

 バベルの塔、ダンジョン入口となる広場には、ちらほら帰宅中の冒険者が談笑していた。

 彼らの視線はシキに注がれており、ヒソヒソと話しているのが聞こえた。

 

 

「別に興味は無いが、こうも注目されるとはな…」

 

 

 異国での武勇を上げた人間が、オラリオで冒険者登録をしたことが注目される一つだが、レベル2にあがって二つ名が決まったことで、更に注目を浴びてしまった。

 好意的な視線もあれば、嫉妬や劣等感から来る視線も感じる。

 

 

「白髪ハイエルフの時点でどの道変わらないか」

 

 

 同胞(エルフ)から注がれる視線は好意的な畏敬な視線と、意心地が悪い気がしないでもない。

 

 

「これからオラリオで暮らすんだ。慣れるしかないな」

 

 

 シキは白煌宮(アルバ・レギナ)への帰路に着く。

 

 余談だが、帰りの途中でヘラに絡まれているゼウスがいたが、関わったら負けの精神で、気配を消してその場を離れた。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

「やぁやぁ、久しぶりだねぇ〜。元気だったかい☆」

 

 

 視界に広がるのは地面一杯の花畑、視線の先にあるのは杖のような白い城。

 どこか聞き覚えのある懐かしい腹立つロクデナシの声。

 

 

「不干渉が規則(ルール)じゃなかったか?」

 

 

 夕飯を終え、風呂にも入り、ヘスティアと共に床についた記憶がある。

 そのまま寝た筈だから、俺が夢遊病でも患っていなければ、ここは夢の世界ということだ。

 傍迷惑な夢魔様からの過大な干渉の気配を感じる。

 

 

「君の言う通りさ。この世界に干渉することは普通は出来ない決まりだ。

 でも、私は違うのさ!

 制約はあるけれど、嘗て血を与えた家族だから多少の無理は通るんだよ」

 

 

 仁王立ちしながら、ドヤ顔で語る彼女の顔を殴りたい気持ちを抑え込んだ俺を褒めて欲しい。

 

 

「お前の力じゃなくてキャスパリーグのお陰だろって言葉はよしてくれよ☆」

 

 

 ウェールズの伝説にある白い小さな魔物というのは、別次元の別時空に存在する謎の生物。リスやネコ、ウサギ等で喩えられる生命体であり、『比較』の理を持つ第四の獣──ビーストIV。

 彼がどういう因果でこの世界に流れ着いたのかは、マーリンでさえその真義は不明。

 だが、彼を治療した初代様はベストコミュニケーションを取ったおかげで、彼を通じて一応の主人であるマーリンがこの世界に干渉するに至ったのだ。

 と言っても、目の前にいるこのマーリンはこの世界におけるマーリンであり、勿論この星の内海に存在する。

 俺の眼が観測したことのある別世界のマーリンとは、発生起源も考え方も在り方も多少ズレている。本人も自覚しているし、その事自体を面白がっている節がある。

 

 マーリンが内海の管理者である以上、この世界に直接干渉するのは規則(ルール)で禁止されている。

 神の力の制限を掛けられた超越存在と同様の規則だ。

 しかし、件のキャスパリーグと呼ばれる白い魔物を介すことで、夢魔の血を継承する人間であれば干渉が可能になる。

 それでも、現実に出現は出来ないので、こうして夢に出てきている訳だ。夢魔の力の一端だから出来ること、とも言える。

 因みにこの場所は夢の回廊と言うらしい。

 

  

「……はぁ…それで、一体なんの用だ?わざわざ思念体を飛ばしてきやがって」

 

「ふふふ、私の可愛い可愛い愛弟子の成長した姿を見に来たって言ったら君は喜ぶかな?」

 

「いや、全く」

 

「つれないねぇ。まぁ、冗談はさておき。君は人類悪を一つ討伐した。これは紛れもない偉業であり、人類の救済とも言える。

 本来であれば、後二つほど討伐できたら、こうして逢瀬しようと思っていたんだけれど……ちょっと想定外な事が起きたんだ」

 

 

 彼女は杖で地面を3回叩くと、波紋のようなものが広がり、映像が投影された。

 内容は、俺が以前2つの街で対峙した魔物との戦闘シーン。

 

 

「君がレルネーで対峙したビーストのなり損ないであるナルキソス、カザヌで対峙したビーストI。両者に関係していることさ。分かるかい?」

 

「黒泥…ケイオスタイドか」

 




次話は15日か16日に投稿します。

3章が一番長い章になりそうな予感…
アルフィアとの邂逅や黒龍討伐遠征も描くとなるとボリュームが凄いことになりそう

ヘスティア・ファミリアに新規団員を追加しても良いか(あくまで見解の募集です。100%そうなる訳では無いのでご了承ください)

  • OK:原作・オリキャラ両方共問題無
  • OK:原作キャラのみ
  • OK:オリジナルキャラキャラのみ
  • NooO:ベル君が来るまで絶対入れるな!
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