無窮の果てに   作:雀盆

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……いや、忘れてた訳じゃないんだ
ただ……鳴潮にハマりすぎて仕事もプライベートも手がつかなくなったんだ。

✋  


悪辣なる殺意

 

 

「レグナ!そっちに一体行ったぞ!」

 

「問題ない!」

 

 

 ダンジョン“最初の死線(ファーストライン)”19階層。

 19~24階層は『大樹の迷宮』とも呼ばれ、特に毒系統の魔物や罠が増える階層となっている。

 シキとレグナントはバクベアーの“怪物の宴(モンスター・パーティ)”に遭遇していた。

 

 シキのレグナントへの呼び方が「レグナ」になっているのは、彼女からそう呼べと強制されたからである。

 

 

「ラスト一体だな」

 

 

 神影に紫電を走らせ、一閃。

 絶命した個体が魔石と灰だけ残して消えていく。

 

 

「レグナ、怪我は?」

 

「はっ!この程度で怪我する程、軟ではない」

 

「元気そうでなによりだ」

 

 

 熟々(つくづく)怪物の宴(モンスター・パーティ)”に愛されるのが俺達らしい。

 本日三回の出来事に内心溜息を付きつつも、問題なく対処をしたが、流石にハズレを引きすぎだと思う。

 

 多少の違和感はダンジョンに潜っていれば、微かに感じ取れる一般的な常識のようなものだ。

 その違和感を見て見ぬふりをするのか、警戒するのかは個人の自由であり、生死を分けるタイミングでもある。

 しかし、───

 

 

「クソッ!それにしてもなんだ、この気色悪い感覚はっ」

 

 

 そう、何より今二人を支配している違和感は先日の寄生されたミノタウロスの時と似たような感覚に近かった。

 加えて、ジメッとした舐めとるような視線も感じていた。

 

 

「嫌なもんはこの先から来てるようだな」

 

「ゼウスんとこがアンフィス・バエナは討伐している。目標は26階層『巨蒼の滝(グレート・フォール)』で折り返す。階層主とやり合うことはない」

 

 

 『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』の復活インターバルは通常モンスターとは異なる。彼らが復活するまでの猶予は期間的に十分あった。

 余裕があったからシキとレグナントは、26階層への小規模遠征を行ったのだ。

 

 

「警戒はしておくべきだろう」

 

 

 魔石を拾い終え、20階層へと降りる階段に向かう。

 ヘラ・ファミリアから提供されたダンジョンのマッピング情報のおかげで、階段を探す部屋や食糧庫(バントリー)、行き止まりの通路等を予め把握出来ていた。

 だから、俺達は特に迷うことなくスムーズに攻略を進めることが出来る。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 27階層、とある未発見領域。

 フードを目深く被った黒装束の人影が数人、一つの小瓶を見て話し合っていた。

 小瓶の中には黒い泥と数十匹の蠕虫(ぜんちゅう)

 

 

「アベルさん。本当にこんなもので双頭竜が操れるんですかい?」

 

「あ?知るかよっ。クソッ!この俺様をこんな雑用に使いっ走りやがって」

 

「へへっへへっ。俺たちゃには絶対触れるなって言われやしたが、何なんすか?この気味悪いもん」

 

「さぁな。上の連中が連んでやがる奴らの研究って話だ。通常モンスター共のデータは取り終わったから階層主だとどうなるか実験をしたいらしい」

 

 

 黒装束のうちの一人、アベルと呼ばれたスキンヘッドの男。浅黒な肌で、頭部半分を占める刺青が入った悪人顔が印象的な男だ。

 この集団の中ではリーダー格にあたるのか、他のメンバーとは異なり、装備は上等な物を身に付けている。

 

 

「アンフィス・バエナが出てきたら、お前はコレを持って所定の位置で待機だ」

 

「は、はい。ほ、本当に大丈夫なんですよね」

 

「だァから大丈夫だって。お前のことは助けてやるから……だからよ、しっかり役目果たせよ。上手く誘導してやるから」

 

 

 アベルが懐が取り出したのは黒い水晶玉の様な宝玉。

 禍々しい気配をひしひしと感じる得体の知れないもの、と定義して問題ない代物を、玉遊びするかのように扱う彼は怖いもの知らずなのか、その代物の価値を見抜けない凡愚なのか。

 ただ、分かることはアベルらを遣わせた存在は、彼らをただの捨て駒程度にしか認識していないということだ。

 アベルは眼下にある滝壺を捉えると、その宝玉を部下の1人に投げ渡す。

 

 

「よし、ポイントに着いた。各自配置につけよ」

 

 

 大瀑布『巨蒼の滝(グレート・フォール)』と呼ばれる由縁はダンジョン内に存在する階層を射抜いたような構造とそこに流れる巨大な滝。

 階層を無視して上下層を行き交う水生魔物は、迷宮の孤王(モンスター・レックス)であっても例外ではない。

 27階層に現れる迷宮の孤王(モンスター・レックス)は、推定レベル5以上のアンフィス・バエナ。

 周期的に見れば、もう復活してもおかしくない時期。

 

 アベルは滝壺近くまで降りてくると湿った地面に、懐から取り出した銀色の液体を垂らし始めた。

 

 ダンジョン全体が震動し、鈍い音が響かせていた。

 彼は構わず垂らした液体で魔法陣のようなものを描き続ける。

 完成に近づくにつれ、徐々に魔力のようなモノが流れ、描かれた魔法陣を辿るように淡い赤の発色を帯び始めた。

 

 そして、シキとレグナントが27階層のこの場に丁度到着したのは、滝壺の底から巨大な双頭竜が姿を現した瞬間であった。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 おかしな魔力の流れを辿り、元凶と思われる場所に到着したと思えば、丁度アンフィス・バエナが復活した瞬間でもあった。

 黒いローブの装備で全体を覆った謎のパーティを視線の先に捉え、一人離れた位置で地面に何か描いている人物を注視する。

 

 

「あれは魔法陣?魔力の性質からして魔石を媒体にしたものか。何をしてんだ、あいつら」

 

「シキ!コイツら闇派閥(イヴィルス)だ」

 

 

 一瞬、レグナントは隣で復活したアンフィス・バエナに気を取られていた。だが、直ぐに黒いローブの集団に気づくと、驚愕の声を上げて背負った大剣を構えた。

 

 

「待て、レグナ!一旦様子を見るべきだ。奴らは幸いにも此方には気づいていない」

 

「アンフィス・バエナも居るのにか?!速攻で片せばあのデカブツに気取られる前に離脱出来る!」

 

「だからこそだ。自分達から不利になるような状況を作るなって意味だ。奴らの目的が分からない以上、賭けになる要素は出来るだけ減らしておくべきだ」

 

 

 レグナントは今すぐにでも飛び出したい気持ちを無理やり抑えていた。その為、吐き出す音は荒く、押し殺しきれない衝動が呼吸に滲んでいた。

 シキはこの状況でも冷静に現在のパーティの状態を分析していた。

 

 レグナは普段勝気で強気な性格をしているが、自己分析の高さは相当なものだ。自分が勝てない相手・勝てる相手は明確にしている。

 戦い方次第で辛勝出来る相手には、糧となるので楽しそうに突っ込む。

 しかし、絶対的に勝てない相手には恐怖を感じている側面があった。

 完全当社比ならぬ、当自比になるが、ヘラ・ファミリアの団長や副団長には戦っても勝てないと認識しているようだ。

 良く口では反抗したりしているが、模擬戦となると足が子鹿のようにブルブルしている時があると、ヘラが笑いながら話していたのを覚えている。

 だが、───

 

 

「アンフィス・バエナはそっちの対象なんだな」

 

「ああ?なにが」

 

「いや、独り言だ」

 

 

 以前戦った寄生ミノタウロスの推定レベルは3~4。対して、アンフィス・バエナは通常でレベル5、水中戦でレベル6になると言われている。

 

 彼女が双頭竜を格上の相手と認めていた事実に、若干の驚きがあったのだ。

 いつもの狂犬振りは鳴りを潜めているが、内心は嵐のようだろう。

 敵視している闇派閥に飛び出したい激情と、双頭竜に対する恐怖心が犇めき合っているとみえる。

 

 

「寄生虫の気配があの男からする」

 

「寄生虫って…ミノタウロスの件のか?」

 

「やはり闇派閥が関係していたとみてよさそうだ」

 

 

 これで確信した。

 まだ書面的情報でしか判断出来なかったが、この目で直接見て情報を確定出来たのは僥倖と言える。

 と言うことは、奴らの目的は『アンフィス・バエナに寄生虫を植え込む』こと。

 

 モンスターを調教ではなく、触媒を利用した手中に収めることであれば、無尽蔵な戦力の補充を可能にする。

 既にミノタウロスでその実地試験は突破している。

 階層主も対象にすることが出来てしまえば、オラリオで対処出来る冒険者は限られる。

 

 

「───さぁ!いざ(そら)を仰ぐ時だ」

 

 

 地面に魔法陣描いていたローブの男が両手を天に掲げると、呼応するように魔法陣から泥のような黒い液体が湧き出し、アンフィス・バエナに絡みつく。

 続いて、手前の高台にいる集団の一人が黒い水晶玉を露わにすると、黒い泥が淡く紫紺に輝きを持ち始めた。

 

 泥に覆われるのではなく、アンフィス・バエナの体皮を侵食するように内側へと浸透を始め、苦悶の悲鳴を上げている。

 侵食による痛みなのか、中身が喰い荒らされる様な痛みに悶え、一歩、また一歩と導かれるように、紫の光の元へとゆっくりと進んで行く。

 その歩みは確かなものではなく、漠然とした認識によるものだった。

 

 

黒泥(ケイオスタイド)の侵蝕と起源を同じとした寄生虫の注入か」

 

 

 ローブの連中が何か話しているが、距離があるせいで聞き取るのは難しいな。

 これは不味いな。

 レグナと二人で何とか出来るレベルを超えてる。

 ここで放置しても他に被害が生まれる。

 

 

「今、ここで殺す必要が有りそうだ」

 

「…は?正気か?」

 

 

 レグナントは目の前で起きている事実を受け入れることが、まだ出来ていないようだった。

 戦闘狂集団のヘラ・ファミリアの一員ではあるが、彼女はまだ13歳だ。

 ダンジョン攻略の遠征メンバーに選ばれて、イレギュラーはもう何度も見てきた。

 その時、感じなかった恐怖。

 姉達との鍛錬ではなく、モンスターによる初めての恐怖が彼女を支配していた。

 

 

「私たちでアレを討伐出来ると本気で思ってんのか?!」

 

「ああ、無理だ。だから、レグナには地上に急いで戻ってギルドとヘラ・ファミリアに事態を伝えてきてくれ」

 

 

 戦意喪失しているレグナと一緒に戦って、生き残れるなんて傲慢なことは言わない。

 彼女は俺よりも脚が早い。

 リヴィラを含め、地上にイレギュラーが発生したことを、誰かが報せる必要があった。

 

 レグナントが言葉に詰まっている間に事態は思わぬ方向へと動いていた。

 

 

「───ぎゃあああああっ!!」

「アベルさん!!助け…てっ…ください」

 

 

 ダンジョン内に突如悲鳴のような声が響き、そちらに視線を向けた。

 そこには、アンフィス・バエナが黒い水晶玉を掲げていたローブを丸ごと捕食している場面だった。

 残った2人はその巨躯を持って踏み潰していた。

 

 黒い水晶玉を体内に取り込んだアンフィス・バエナは、その場で動きを停止させ、全身が脈動を始めた。

 胸元に位置する場所に体内からその水晶玉がボコっと浮き出て、体表は黒竜のように黒く染め上がった。

 

 霊源の淨眼(プロビデンス)を持ってして、禍々しい魔力に身を包んだ解析不能な何かが顕現した。

 荒々しいノイズが奔り、増幅していく情報にシキの脳が処理を停止したレベル。

 

 

「ああ……ああ…お前たちの無念は俺が晴らしてやるから安心して死んでいけ。ギャッハハハハハハ!!!」

 

 

 魔法陣を描いていたアベルと呼ばれていた男。

 彼は停止中のアンフィス・バエナに近づくとその身体によじ登り始めた。

 懐から紫紺の石を嵌め込んだカフスブレスレットを右手に取り付け、26階層へと続く大穴に目を向ける。

 

 

「ギャッハハハ!おやおや、丁度いい羽虫が二匹いるようだなぁ!」

 

 

 空気が、ガラリと変わった。

 それまで感じていた階層主の気配が、生温いものだったと理解させられる。

 

 

「………なん…だよ、アレ…」

 

 

 レグナントの声が、明確に震えた。

 黒く染め上げた双頭竜に、血脈のように脈動する黒い筋と胸元から覗く紫紺の核。

 かの竜の眼に生気は残っておらず、無数の虫が蠢いていた。

 

 

「レグナ、お前は地上にこのことを伝えにいけ。俺はここで出来るだけ情報と足止めをする」

 

「無茶言うな!いくらお前でもあんな奴にっ!せめて…せめて、一緒に────」

 

「二人纏めて全滅する可能性より、余計な被害者を出さないように地上にイレギュラーを伝えに行く方が確実だ」

 

「だがっ!」

 

「誰かがやらなきゃいけない役目だ。俺とレグナ二人しかいない状況なら、継戦能力に長けている俺が残るのがベストだ」

 

 

 アベルの目的は分からない。

 少なくとも、寄生されたアンフィス・バエナと共に地上を目指すことは明確だ。

 寄生した階層主を傀儡として操ることは主体目標であり、その実験としてデータを取る必要があるはずだ。

 

 

「それに…俺の方が歳上なんだ。少しくらい格好つけさせろ」

 

 

 アンフィス・バエナは、もうシキ達のいる高台まで登り詰めていた。

 黒く染まった鱗が軋む。

 胸元の紫紺の核が脈打つ度、周囲の魔力が濁っていく。

 

 

「リヴィラに着けば誰かいる。

 そこから先はヘラ・ファミリアでもギルドでも好きな所へ駆け込め」

 

「お前はどうするんだよ」

 

「決まってるだろ」

 

 

 刀を肩に担ぐ。

 視線はアンフィス・バエナから外さない。

 

 

「死力を尽くして足止めくらいはするさ」

 

「────っ!」

 

 

 何を言われたのか理解できなかった。

 理解したくなかった。

 

 眼前にはアンフィス・バエナ。

 その身体を侵す黒泥。

 蠢く無数の寄生虫。

 

 そして、それら全てを内包した、理解不能の怪物。

 

 勝てない。

 そんなことは最初から分かっている。

 理解しているからこそ、ここに留まることが最悪な結果になることも分かってしまう。

「勝てる訳がない」

 そう───だからこそ、その言葉を口にした瞬間、本当にそうなってしまいそうだった。

 

 

「まぁ、信じろって」

 

 

 しかし、シキの表情から、それが無謀な戦いに挑む蛮勇では無いことが読み取れた。

 勇猛果敢に絶対的強者に挑む勇者を気取っている訳でもない。

 

 

「世界を救うって決めたんだ。こんな所で逃げて、どう世界を救うっていうんだよ」

 

 

 そうだ。

 目の前にいるアンフィス・バエナはただの階層主だ。

 この先、此奴よりも強い存在なんて幾らでも出てくる。 

 

 

「───Anfang(セット)

 

「殺るなら速攻だ。───極光は収束する 事象解放(システム) 雷霆(ケラウノス)白雷望星(びゃくらいほうせい)

 

 

 眩い白光が屍竜を包み込む。

 屍竜と英雄の戦いの火蓋が今落とされた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エタッテナイヨ
ホントダヨッ
書き溜めしてるものを放置してエタる訳にはいかないんだっち

ヘスティア・ファミリアに新規団員を追加しても良いか(あくまで見解の募集です。100%そうなる訳では無いのでご了承ください)

  • OK:原作・オリキャラ両方共問題無
  • OK:原作キャラのみ
  • OK:オリジナルキャラキャラのみ
  • NooO:ベル君が来るまで絶対入れるな!
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