無窮の果てに   作:雀盆

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じぃじではないよ。
モデルはじぃじだけど、全然言動も考え方も違うよ。


未完の英雄

 

 

 

 迷宮の空気が再び張り詰めた。

 

 ニュクス・ファミリアの団長ザラム・ライル。二つ名は告死冥翁(アズライール)

 ヘラから注意しておくべきファミリアを教えて貰ってから個人的に気になった人物の1人だ。

 

 レベル7でありながら、対人戦においては上位レベル含めても負け無し。

 魔物相手には全て首を刎ねて一撃で終わらせる。

 いつの間にか背後に立っていた。

 独自の暗殺組織を育てているだとか、そこの教祖だとか。

 色々と言われていたので、より警戒していたのだ。

 

 

「その剣を俺に向けてるってことは助けに来てくれた訳ではないようだな」

 

 

 三竦みのように互い離れた位置にいるが、ザラムはシキに向けて剣を構えていた。

 この場において、それが意味することは明確な敵意。

 

 

「神命より、貴様が英雄足り得るか見定めよう」

 

 

 状況は好転するどころか悪化した。

 ザラムが大剣を振り下ろし、続け様に地面を抉り取りながら肉薄する。

 屍竜は2人の戦闘に関係なく双頭から熱線を何発も放つ。

 場外から熱線が定期的に降り注ぐギミックのような戦場と化していた。

 シキは苦悶な表情で防戦を強いられているが、ザラムは涼しい顔で降り注ぐ熱線を捌いていた。

 

 

「(こいつ…ただのレベル7じゃねぇ!対人戦闘に特化しているスタイルだ)」

 

 

 ジリ貧なんて言葉が生温いと感じるくらい劣悪な状況に等しい。

 熱線を捌くザラムは上手いことシキの回避先に向かって弾いてるので、シキは余計に思考のリソースを消費していた。

 

 

「女神ニュクスが何故俺を狙う?」

 

 

 右上から振り下ろしてくる大剣を受け止め、ニュクスの神意を問う。

 

 

「貴様が人類救済を成す英雄足り得るか、その真価を推し測ろうとしているのだ。貴様が世界を破滅に導くか、救いを齎すか」

 

 

 横から飛んできた熱線を、大剣の受け流しの反動を利用して躱す。続けて三発流れてきたのを神影(みかげ)で切り捨てる。

 

 各所で熱線が炸裂し、三者を爆風が覆い隠す。

 シキの魔眼でザラムと屍竜の位置は視えるので、煙塵の中でも問題はない。

 ザラムは超人的な感覚と長年の経験において培われた技術を持ってして、それぞれの気配を特定していた。故に、シキが視界不良の隙を付いた死角から一閃を、難なく防いで見せたのだ。

 

 

「惰弱、脆弱、軟弱、貧弱!はっ!その程度で英雄?嗤わせるな、道化!」

 

 

 一振一振が更に重くなり、受け止めることが出来なくなる。

 彼が振り下ろした大剣により、ダンジョンの其処彼処で大きな陥没を生み出していた。

 

 

「貴様は何を持って英雄足らんとする」

 

 

 問い掛けと共に振り下ろされた大剣を、シキは神影で辛うじて受け流す。

 

 甲高い金属音が残響する。

 

 衝撃を殺し切れず、地面を滑るように数十メートル吹き飛ばされた。

 靴底が岩盤を削り、止まった頃には腕の感覚が殆ど残っていなかった。

 

 だが、休息は許されない。

 双頭の屍竜が、まるで機を見計らったように咆哮を轟かせた。

 二つの口腔より迸る灼熱。

 左右から迫る熱線を前に、シキは反射的に雷を纏って駆ける。

 

 頬を掠めた熱線が背後の岩壁を蒸発させた。

 その着地点には既に黒衣の男が立っている。

 大剣が静かに横薙ぎに振り上げられた。

 

 シキは身を沈め、刃の下を潜る。

 直後、頭上を通り過ぎた斬撃だけで岩盤が裂けた。

 

 

「貴様は何を背負い、英雄を名乗る」

 

 

 記憶の隅にずっと追いやっていた事実。

 俺が英雄を目指した理由とは何なのか。

 その明確な答えは、終ぞ出なかったのだ。

 

 魔眼を開眼し、故郷の滅びを知った時?

 『人類悪』によって滅ぼされる世界を視てしまった時?

 自身の運命を受け入れ、人類救済の使命を請け負って尚、(シキ)にとっては答えではなかった。

 

 誰かがやらなければいけなかった。

 知ってしまった以上、見過ごす訳にはいかなかった。

 根拠も無く、自分には成せる力があると疑わなかった。

 

 

 燃え盛る故郷を必死になって逃げた運命の日。

 家族や仲間の声を背に俺は走り続けた。

 

『我──い──どうか!』

『シ─様!─があ──も振り返らずに!』

 

 多くの犠牲の果てに今の俺がいる。

 忘れていた過去が思い起こされる。

 

 お兄ちゃん!私ね───

『何で見捨てたの?』

 

 英雄ってすごいね!───

『凄い痛かったんだよ』

 

 俺は決して世界が求めた英雄なんかじゃない。

 最初から理解していたことだ。

 そもそも俺の感情や精神は英雄に向いちゃいない。

 

 夢で見たから。

 そう、この眼で未来を識ってしまったから。

 自分に出来るかは分からない。

 幾千の未来を見通して、自壊する結末を受け入れておきながら──その男は、何一つ根拠を持ち合わせていないのに、未来(最善)の為に英雄となる道を選んだのだ。

 

 

「やはりな…貴様には英雄になる明確な答えがない。漠然とした願いだけが今のお前を形作っている」 

 

 

 あぁ。全くその通りだ。

 俺は何の為に、誰の為に英雄になると誓ったのか。

 

 故郷の仲間が俺を英雄の子と持て囃した。

 天の大神が英雄の器と称した。

 死んでいく同胞が未来の為に犠牲となった。

 

 俺自身、ずっと心の奥底で考えていたことだ。

 あのロクデナシ夢魔は『いつか答えを得る時が来るさ』と笑っていたが、いざ旅を始めても何も実感が湧かなかった。

 だけど───

 

 

「お前のその才能は重すぎる枷となった」

 

「ははは、はははははは!!」

 

 

 突如として笑い出したシキに怪訝な表情を浮かべる。

 乗せられている音色から感情が決壊した訳では無いのが感じ取れたのだ。

 ザラムの内心は一抹の恐怖心が芽生えた。

 余りにも不気味なソレは、ザラムの鉄の心に罅を入れるかのように冷や汗を浮かべさせた。

 

 

「な…何を笑っている」

 

「ははは…あぁ、いやぁ、ちょっとな。別に…ただ──お前の質問が余りにも馬鹿馬鹿しすぎてな。真面目に考え込んでしまった自分に笑っていたんだ」

 

「……」

 

「全てお前が言った通りだ。俺は英雄の子だとか、英雄の器だとか持て囃されて生きてきた。

 稀有な生まれ。特殊な能力。精霊。アマテラス様から太鼓判を押される程の才能。

 そりゃあ自分のことを周りはそう呼ぶし、俺もそう認識するだろうよ」

 

 

 周りから英雄になれると言われたからといって、別にシキは自分が世界を救う英雄だなんて思ったことは一度もない。

 シキにとっての英雄像は一貫して『万能な善人であること』が絶対条件だ。

 しかし、そんな英雄は過去現在探しても何処にもいない。

 

 

「ザラム。お前は一つ勘違いしているぞ。お前の根底にある英雄像が、お前の主神の英才教育のおかげかどうか知らんがな」

 

「お前はさっきから何を言っているんだ?」

 

「英雄は全能じゃないんだ」

 

 

 伝承に残された英雄譚然り、別世界の魔術という概念がある世界の英雄と称された者たちであってもだ。

 彼らが全能や万能であるのなら、英雄譚に悲劇は語られないはずだ。

 脚色され、光のみ伝えられることはあっても、その実は喜劇ばかりではないことを知っていた。

 

 

「そも、英雄とは悲劇の中からしか誕生しない」

 

 

 彼等も英雄になる為に世界を駆け巡った訳じゃない。取り零したものは数え知れない筈だ。

 それでは余りにも傲慢だ。俺が英雄なら、故郷は救えている筈だ。

 最初から悲劇の結果を知っていていたのだ。

 英雄ならその理不尽な結果を是が非でも喜劇へと塗り替えることが出来ただろう。

 だが、結果はどうだ?同胞は俺を生かすために犠牲になった。

 英雄の器と謳われたガキが何も出来ず、同胞が無惨に殺されていくところを眺めていることしか出来なかった。

 

 何度繰り返し悲劇の結末を見届けても、俺にその覚悟がなかったんだ。

 英雄になったつもりでいた男が何の意味もなしに、漠然と周りに持ち上げられただけの虚像だっただけ。

 

 

 身体の中で魔力が湧き上がってくるのを感じる。

発展アビリティ『星癒』によって徐々に魔力が生成されていた。

 

 

「英雄に憧憬を抱く。極々自然なことだ。だから目指すことにしたんだ。宝の持ち腐れは嫌だからよ。

 もう変えられない結末を選ばないように。

 俺自身が後悔しない為に。

 誓いを忘れない為に。

 捥がき苦しみ、それでも手を伸ばし続ける。 

 救えなかったことを仕方ないなんて言いたくない。自分には無理だったって納得したくもない。──そんな風に割り切れるほど、俺は出来た人間じゃないんだよ」

 

 

 脳裏を過ぎるのは、燃え盛る故郷。

 背中に浴びた声。

 伸ばすことすら出来なかった、小さな手。

 どれほど未来を見通せようとも、あの日だけは変えられない。

 

 

「英雄だって失敗する。間違える。怖くなって逃げることだってある。大切なものを守れず、後悔して、死ぬまで引き摺ることだってあるだろうさ」

 

 

 だからこそ。

 

 

「それでも立ち上がる奴を、俺は英雄って呼びたい」

 

 

 ザラムの瞳が僅かに細められた。

 

 

「取り零したものを忘れず、次こそはって手を伸ばす。自分が傷付こうが、泥塗れになろうが、理想を嗤われようが知ったことか。それでも目の前に救える奴がいるなら、救うさ」

 

 

 万能ではない。 全能でもない。

 誰も彼もを救済する聖人でもない。

 それでも。

 

 

「救えないかもしれないから救わない奴より、救う為に手を伸ばす馬鹿の方が──俺はずっと格好いいと思った」

 

「それが、貴様の英雄(答え)か」

 

「さあな」

 

 

 即答だった。

 

 

「俺はまだ、そんな大層な答えを語れるほど英雄じゃない。だから、今は──」

 

  

 あの夜の日を思い出す。

 月明かりに照らされて美しく咲き誇る月下美人の丘の中、神々しい降臨の光と共に現れた黒髪の女神。

 彼女と出会い、誓ったんだ。

 

 

「──俺は、あの女神()の為にこの命を燃やそう」

 

「ッ──?!魔力はもう尽きた筈だ!」

 

「『纏雷』」

 

 

 多少回復したとはいえ、風前の灯火に等しい魔力量。

 チリチリと全身の内部から焼くような痛みが走る。

 魔力が励起する度に魔術回路を焼け焦がす感覚だ。

 精神力枯渇による倦怠感も頭痛も酷い。

 ──それでもシキは止まらない。

 

 しかし、元より無いものは無い。自然回復量より消費量が多い以上、魔力行使は下策に等しい。

 彼の限界まで酷使された脳や身体が出した解答は一つ。

 

 足りないのであれば、別のモノで補えばよい。

 

 ここで1つ、スキルの話をしよう。

星霊王印・始源(ガイアス・レギナ)』 。

 シキに発現したスキルの一つではあるが、ステイタスを刻むより以前からこのスキルはシキの中に存在していた。

 

 星と契約した瞬間に密かに埋め込まれた星の炉。

 体内に人類規格の星の炉を埋め込まれたことによって強制発現したスキルだ。

 

 無尽蔵な魔力を生み出す星の炉。星を運営する為に用意されるべき炉心。

 シキはこれ迄、無意識の内にここから魔力を引き出しているが、無意識故にシキと星の炉との魔力的繋がりは大変薄い。

 本来何十本も管が有るのに、一本しか繋げずに 運営しているような状態だ。

 

 

「この感覚は…」

 

 

 今この時、限界を迎えたシキだからこそ、シキと星の炉の繋がりが補強された。

 体内から溢れんばかりの魔力が湧き上がるのを感じる。

 嵐のように吹き荒ぶ魔力の奔流に一瞬飲み込まれそうになるも、気合いで耐え抜く。

 

 

「これが本来のスキルの力…今まで十全に使えてなかったんだな」

 

「死の淵で極致に至ったか?だが、それでどうする。貴様のそれは辛うじて保っている状態。己の器に見合っていない力は自傷行為に他ならない!」

 

 

 今の俺は無尽蔵に溢れる魔力に対して受け止める器が成っていない。

 レベル更新時の魔力のステイタス値はカンストして限界突破しているとはいえ、所詮レベル1。

 本来のポテンシャルはレベル10以上で漸く十全に機能するスキルだ。

 根拠は無いが、神域に足を踏み入れた数々の英雄はレベル10以上の存在だ。

 

 

「か細くも灯った生命だ。一矢報いる程度はして見せよう」

 

 

 吹き荒ぶ嵐のように。

 魔力が視覚化するほど濃密に膨れ上がっていく。

 屍竜やザラムには、締め付けられる圧力のように感じられた。

 

 状態はさっきよりはマシになったが、状況は最悪なままだ。

 短期決戦は変わらず、俺が大盤振る舞い出来るのは束の間の一時に等しい。

 ザラムを斃すことは出来ない。

 屍竜を討伐することは出来ない。

 連奏(レゾナンス)を整える隙は無い。

 

 

「──Anfang(セット) 事象解放(システム)

雷霆(ケラウノス) 『纏雷』」

 

「死ぬ気か?」

 

「はははっ、ほざけ。どう転んでも死ぬだろ、こりゃあ」

 

 

 どうせ死ぬなら死力を尽くして生き延びる可能性が高い方を選ぶ。

 簡単なことだ。

 持って1分。

 ニチャニチャ嗤ってやがる屍竜の双首を叩き斬り、ドヤ顔で先導者振ってるオッサンを斃す。

 はは!簡単だな!

 

 

「限界なんて知るか」

 

 

 ───Anfang(セット)

 

 彼の喉から紡がれるのは雷霆の詠歌。

 彼の限界はとうに過ぎている。

 精神力枯渇に源泉を無理矢理励起させて、無茶苦茶に接続を行い、一時的に回復させただけ。

 

 

「今ここで越えなければ──」

 

───紫電の光閃 汝を喰らう闇を祓い 冥界を照らす光明

 

 今の彼に正確な魔力操作は行えない。

 故に、たった一度きりの攻撃に未来を賭けた。

 詠唱や魔力の起こりから、魔法を阻止せんと熱線が迫り、大剣が振り下ろされる。

 

 

「俺は…人理の英雄にはなれない!」

 

 

 俺に止まることは許されない。

 止まれば死。動けば死。

 並列詠唱は死ぬ気で続ろっ。

 

 魔力爆発(イグニス・ファトゥス)が起こることも厭わず目的達成の為に駆動し続ける。

 一番良いタイミングで、一番最善の戦果を残す為に。

 

───静寂は此処に 虚飾に塗られた魂を祭壇に我は願う 事象解放 雷霆(ケラウノス)霹靂神震霆(ハタタガミノシンテイ)』 

 

 此れは、レルネーで使用した際の多連精霊魔法から防御する為に対抗魔法として編み出した魔法。

 特徴としては広域発散型の魔法ではあるが、その実は雷霆の核から広がる雷霆を周囲に振り撒く爆散系魔法とも言える。

 此度はその応用。

 

 ダンジョン階層が再び巻き込まれる形で雷霆の空間が世界を呑み込んだ。

 それは、雷霆故の一瞬の出来事だった。

 雷霆が荒び空間全体が爆ぜ、眩い光だけが音を置き去りにしてダンジョンを駆け抜けた。

 

 レベル3に届くレベル2の男。

 潜在値で言えば、レベル4,5はある白銀の王子。

 今この時限定でシキの放った魔法はレベル7の頂きに届き得る威力を誇っていた。

 

 現場には悲鳴も雄叫びも勝利の喜声も聞こえない。

 ダンジョン全体を焼け焦がすプスプスという音と、絶縁体な筈の壁や地面からバチバチと雷が跳ねる光景だけが残っていた。

 

 

「クッハハハハハ!!!そうか。これが、これこそが『英雄の一撃』!──ニュクスよ。お前の見立ては間違っていなかった。()()()()()なれど、その(しん)は英雄足り得る!クハハハハ!!」

 

 

 ふつふつと滾る地獄の様相をした26階層。

 シキは全力の一撃を放ち、精神力枯渇(マインドダウン)もあり、意識不明の重体。

 この一撃を持ってしても、ザラムと屍竜には重度の熱傷を与える程度に留まっていた。

 とはいえ、両者にとっては防御体勢を整えたから、この程度に治まっただけで、内心は一歩間違えれば斃れていたのは自分達側であったと驚愕していた。

 

 屍竜はザラムに対象を変え、熱線を放つが簡単に躱され、カウンターで胸元に大きな一閃を貰ってしまう。

 ザラムは満足したのか、近付いてくる多数の気配を察知したのか、上の階層へと続く通路へと消えていった。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

ヘスティア・ファミリアに新規団員を追加しても良いか(あくまで見解の募集です。100%そうなる訳では無いのでご了承ください)

  • OK:原作・オリキャラ両方共問題無
  • OK:原作キャラのみ
  • OK:オリジナルキャラキャラのみ
  • NooO:ベル君が来るまで絶対入れるな!
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