ギュルスの店から出たヘスティアとシキは、宿オススメの定食屋で早めの昼食を済ました後、大沼の中心に位置する竜の祠へと向かっていた。
蛇の口のような形の洞穴の先に見えるのが、このレルネーの守り神として祀られている竜の祠。
守り神として信仰されているので、街の住民は一日に1度、この場所に訪れてお供物と祈りを捧げると言う。
奥から祈りを捧げ終わったと思われる男女とすれ違いながら洞穴の中を進む。
「本物の神として、偶像崇拝についてはどう思ってるだ?嫌悪感を抱くものなのか?」
「人が何を信仰するかは自由だ。子どもたちが神を神聖視しても、実際はろくでもない
ヘスティアがどこの男神をイメージしているか、何となく読めてしまったシキは確かにそうだな、と肯定する。
洞穴の中は松明が等間隔に並び、暗い洞穴の中を照らしている。
薄暗い洞穴内を2分ほど進んだ先には、小さな石造りの祭壇が
この要石の前に人々は供物を供え祈りを捧げる。
今は正確な祈祷時間である昼よりも少し早いため、供物の数は少なかった。
先程、すれ違った男女が置いていったと見られる綺麗な宝石のような石と、布に包まれた丸い物体の2つが供えられていた。
「これは……綺麗だね」
地底湖の水は外の沼地とは異なり、透き通るような綺麗さがあり、広がる鍾乳洞も合わさって幻想的な風景を写していた。
シキはウェールズの森で取れた木の実を供え、祈りを捧げる。その最中、何かが湧き出るような音が微かに聞こえた。
「ん?」
「シキ君?」
「いや、なんでもない」
シキの視線の先には湖の底からゴポッゴポッと空気が水を押し出すように湧き出ていた。
しかし、水底を覗いて見ても特に何も見えず水泡もすぐ止まった。シキの眼からしても特に情報は得られなかった。
シキの視線の先の更に先、巨大な蛇のような何かが蠢いていたが、薄暗い洞穴内ということもあり、ただの岩肌しか見えなかった。
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──沼沢都市レルネー 薄暗いスラム『ロドス』
ここはレルネーの中でも貧民層の更に下の貧民が住む闇市とも呼ばれる場所。そこに蠢く闇が2つ。
真っ黒のローブに身を包んだ男は同じローブに身を包んだ部下の女に自分たちが動かす計画の再確認を行っていた。
「例のものは持ってきたか?」
「はい、主から託されたコレがあれば、私たちの願いが叶うのですね」
女が持っているのは黒い液体の入った瓶。女は見ているだけでも悍ましいオーラを放っているそれを男に見せる。
「あぁ、ソレがあれば晴れて俺たちは、あの方に認められる。計画は順調だ。今日の夜、酒に酔わせた傭兵共に美味い話があると部屋に誘え。そいつらに
「あの、ほんとに成功すると思いますか?」
「あ?成功させるんだよ!それしか俺達にはないんだ。分かったらさっさと行動に移せ!」
離れていった女が見えなくなったのを確認した男は狂気的な笑い声をあげた。
「ギャハハハハハハハハ!!!これでこれで漸く俺は幹部になれる!あの方に気に入られる!今日は最高の日だ!こんなとこで神に出会うなんてなァ!」
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洞穴から出たシキたちはレルネーの町を観光し、すっかり辺りが暗くなった。仕事が終わったアンドラと遭遇し一緒に夜ご飯を共にすることになった。
アンドラ一押しの酒場は傭兵たちの間でも人気で活気溢れるように盛り上がっていた。
「ダハハ!飲め飲め!今日は無礼講だ!」
「ねぇ〜この後どうかしら」
「ぐっへへ…楽しませてやるよ」
「明日まで呑みまくれぇー!」
「あんた、もうやめときなって」
呑んだくれの傭兵たちの声をBGMにアンドラとヘスティアの3人でテーブル席を囲っていた。卓上には豪勢な肉料理や麺料理が並んでいた。
「え?!明日お祭りなのかい?!」
「あん?そうだぜ!1年に1度のレルネーの無事を祝杯する祭りさ!街中で酒飲んで踊って食べるって祭りだ」
「明日祭りなのに今のうちに飲んじゃって大丈夫かい?」
「ダッハハハ!いいんだよ!宴は毎日開いても減るもんじゃねぇだろ!なぁ!そうだろ、お前ら!」
「「「「「
イシギアとは、ここレルネーにおいて乾杯を意味するらしい。
「ヘスティア、酒好きだろう?」
なんだかんだ楽しい雰囲気にウズウズしているヘスティアの前にエールをおき、自身の持つジョッキを掲げる。
シキの様子を見たアンドラとヘスティアは、シキと同じようにジョッキを掲げた。
「「「イシギア!」」」
酒場では酔っ払った傭兵たちが、力比べや酒飲み勝負を始めることで更に活気を魅せるなか、数名の男女は酒場で仲良くなり、夜の街へと消えて行く。
彼らが向かう先は竜の祠。
彼らの目は虚ろに、フラフラしながら指定された場所へと歩いていた。
酒場では変わらず、男共が騒いでいる。
女はバカ騒ぎしている様子を面白がる。
男の酒飲み勝負を見て、自分たちもやろうと目線を合わせる女たち。
「よーし、ボクと勝負するやつはいるか!」
その意思を汲み取ったヘスティアが椅子に片足を置いてエールが入ったジョッキを掲げる。
女の傭兵が何人かがその挑発に乗り、盛り上がりを見せる酒場で、女将は働く店員にも宴に参加したければしてこい、と視線を向ける。
シキはシキで明日のヘスティアを心配するが、自身の神が楽しんでる様子を肴にエールを、酒を呷る。
夜の帳がすっかり落ちた。
十分宴を楽しんだシキは眠ったヘスティアを背負い、宿への道を歩いていく。
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──堕ちていく 堕ちていく 闇は突如として世界を覆う
─許されよ 許されよ 我らの罪を許されよ
─永き眠りについた精霊 穢れた運命を呪った精霊よ
─汝らの罪過を積み上げて
─昇華せよ
───
洞穴に眠る竜に、十分な供物は捧げられた。
人々は手を叩く。
信仰される存在は泥に犯されて、人々に猛威を振るうだろう。
闇は踊る。
人々は酒を飲む。
鼓動する大地。
祈りを捧げた憐れなレルネーの住民を、絶望の地へと突き落とす。
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「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
酔った身体に突き刺す悲鳴は静寂な夜に響いた。
悲鳴とともに現れた強大な気配に、シキの全身の毛が逆立った。
咆哮の発生源。
そこには確かに八岐大蛇がいた。
オーガの様な咆哮とともに、竜の祠がある沼に現れた存在は、その8つの首から火を吐き、近くの家屋を燃やし始めた。
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木こり。