俺の可愛い可愛い可愛い娘がC家に嫁ぐことになったんだが 作:とくめ一
『パパだーいすき!
わたし、大きくなったらパパとけっこんする!』
私にそんなことを言って笑う可愛い可愛い可愛い娘。
寒い冬の日に拾った小さな子どもは、いつしか私にとって唯一無二の愛しい娘となっていた。
はじめはまた捨てられるのではないかと震えていたあの子も、私にそんな気がないと分かると段々と甘えるようになり、齢が七になったころにはこんな可愛らしいことを言いながら抱きつくようになってきて。
脳内を駆け巡る娘に関する記憶に、俺はぼんやりと理解した。
──なるほど、これが走馬灯というやつか。
◆
私は娘が好きだ。
誤解無きように言うが、決して恋愛的や意味や性的な意味はなく、ただ己の娘として、守るべき存在として愛しているのだ。
だからこそいつか娘に添い遂げたい人間が出来るだろうことも理解しているし、私がいなくなった後で娘を守ってくれる素敵なパートナーが現れることを願ってすらいるわけで。
娘は四歳ほどの頃に拾い、今やもう二十五歳。
だのに反抗期もなく、パパ、パパと気遣ってくれる優しい子に育ってくれた。
しかしいつか、私と天秤にかけてもそちらを選びたくなるような相手を──アッ想像しただけでちょっとしんどい、タイム。
なんて思っていたある日、娘が神妙な顔で告げてきた。
「パパ。あのね、私……その、付き合ってる人が、いるの」
結論から言おう。俺は血を吹いた。
すぐにでも「俺は認めません!!!!!!」と叫びたかったが、そのセリフを何とか血と一緒に飲み込んで、ついでに脳内で崩れた一人称も整える。
恐らく落ち着くのに三分ほどかかったと思うが、愛娘に恋人が出来たという報告を聞いて気絶しなかっただけでも褒めてほしい。
「……そうか、おめでとう!」
「! ありがとう!」
祝いの言葉を告げることの出来た俺はノーベル平和賞受賞待ったナシではないだろうか。即座に相手の名前を聞き出し重火器を持ち出したりしなかったのだ、平和主義者すぎる。
なんて自画自賛しないと正気を保てない。つらい。
しかし恋人が出来たことを受け入れてもらえた娘は幸せそうなので、まだ感情を爆発させるわけにはいかない。
ステイだ私。落ち着け。
「そ、それで、お相手さんはどんな方なんだい?」
「えへへ……素敵な殿方でね、とっても優しいのよ。痛いのが嫌いで注射を嫌がったりする可愛らしい一面もあって……なのに何かあれば前に出て私を守ってくれる人。この間島で海賊に絡まれた時も、あの人が守ってくれたの。
お菓子作りも上手で……とにかく、素敵な方よ」
頬を染めながら少し恥ずかしそうに恋人──彼氏のことを教えてくれる娘に、私はまた血を吹いた。
ちょっと待ってくれ。…………待ってくれ。
そういうの……ちょっと、まだ耐性出来てないから…………。
これまで娘に彼氏がいたことはなかった。
こんなに可愛い娘なのに何故、という疑問ももっともだろうが、告白も全て断ってきたそうなのだ。
それもその筈、娘は二mを少し超えたくらいの身長も相まって、力も戦闘力も飛び抜けている。
好きな男性のタイプを訊かれた時「強い人!」と迷いなく答える娘にとっては、そもそも恋愛対象となる相手があまり現れなかったのだろう。
『いいもん、私にはパパがいるでしょう?』
二年前、中々好い人に出会えないと悲しげだった娘に「素敵な人がいないか知り合いにあたって見ようか?」と訊いた時の反応がこれである。可愛すぎる。
……あれ、おかしいな。目から汁が………………。
なんて醜態からどれほど経っただろうか。
あの後結局娘の前で大号泣をかましながら「幸゙ぜに゙な゙る゙ん゙だよ゙」と伝えた私に娘が「認めてくれてありがとう」と言いながら泣きだしたのを見て更に泣いた。
良かった……突然結婚のご挨拶とかじゃなくて本当に良かった……そんなことになったら俺は……正気を保てなかった………………。
という内容をオブラートにふんわり包んで伝えたところ、「そうだと思ったからこうやって先に付き合ってる人がいるって伝えたのよ」と笑われた。やはり娘は天才である。
でもそれってつまり結婚を考えてる相手ってことで、いつか娘は……と理解してまた血を吹きかけたことは説明するまでもないだろう。
そんな思いをしながらもここまでの期間に娘から聞いた話を総合して、大分俺の中で彼氏くんのイメージが出来上がってきた。
痛いのは嫌いだが、いざとなったら前に出て娘を守ってくれる。
料理も出来るがお菓子作りの方が得意で、一番好きなのはビスケット作り。
それから優しくて家族想いで、少しワンコっぽいところがあって可愛い人。
…………ふむ。きっと物腰柔らかで家庭的で、戦闘は不得手ながらも身を挺して娘を守る度胸のある、心の美しい青年なのだろう。
頭の中でぼんやりと姿を想像して、それから、
『お義父様、娘さんを僕にください!』
「誰がやるかぶっ殺すぞ!!!!!!!!!」
これまで六十四回してきたイメトレも虚しく、またサンドバッグが吹き飛んだ。
◆
「来週の土曜日、彼を家に呼んでもいいかしら」
「ぷぁ」
ある日たてられたそんな唐突なお伺いに、思わず失敗したラッパのような声が出た。待ってくれ。
「……いいいいい、いえに、呼ぶ?ここに??」
「うん」
「そそそっそ、そっそそ、それは、その、所謂、けけけけ、けっこ、けっこん、の、ガフッ、ご挨拶のような……???」
「………………うん」
懸命に、『そ』の並びをボーボボみたいにしながらも何とか絞り出した問いを肯定され、俺は倒れた。かろうじて意識は失わなかったのでもしかしたら来世は英雄かもしれない。
「ッフーーーーーー…………。
……らいしゅう……」
息を吐きながら呟いた言葉に、娘がコクリと頷く。
「…………………………分かった、準備をしておこう」
その答えに、娘は表情を明るくして喜んだ。
………………………………娘が幸せならオーケーです!!!!!!
……お墓の予約とか、しておいた方がいいかな…………。
『だのに』は誤字ではないです。