俺の可愛い可愛い可愛い娘がC家に嫁ぐことになったんだが   作:とくめ一

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たった一度の叱られた記憶

 

 それからその人は、私を育ててくれると言った。

 本当に嬉しかったけど、きっといつかは気味悪がられて捨てられる。これまでずっとそうだった。

 

 でもその人があんまりにも優しくてあたたかい人だったから、嫌われたくなくて、捨てられたくなくて、お別れしたくなくて、一生懸命頑張った。

 なのに「そんなことしなくていい」と頭を撫でてくれて、ずっとずっと優しい目のままだから、いつの間にか大丈夫なんだって安心してしまって。

 

 拾われて一年が経つ頃に私の過去を話しても全く怖がらず「それは不運だったね。でもハピィのせいじゃないよ」と頭を撫でてくれたものだから、それでこの人は──パパは私を捨てないんだとハッキリ理解した。

 その後初めて『パパ』と呼んだらパパは泣いてしまったけれど、抱き締めて優しく撫でてくれた時の方がよく覚えている。

 だってパパが泣くのなんて、それからは特に珍しくもなくなったし。親馬鹿という言葉はきっとパパのためにあるのだろうとすら思う。

 

 

 しかしそんなパパが、たった一度私を叱りつけたことがある。

 私が、私を大嫌いになった時だ。

 

 あの日はパパはいつものように仕事に行っていて、駄目だと言われていたのにその間に出かけた私が人攫いに捕らえられてしまった。

 

 私を縛り上げて、倉庫みたいな場所に閉じ込めて、運が良いと笑って、気持ちの悪い目をこちらに向けて。

 

 パパに会いたかった。

 こんな冷たい場所がイヤ。

 私をこんな場所に押し込める人たちなんて嫌い。大嫌い。

 

 もう乗り越えた筈の過去がぞわぞわと喉元を這うのが気持ち悪くって、酷く不快で、こんな状況にしてきたこの人たちがどこまでも憎ましく思えて。

 

 ──その瞬間、男たちは死んでしまった。

 

 たまたま海賊か何かの放った砲弾が男たちのいる場所に着弾して、呆気なく吹き飛んだ。

 男たちにとっては()()な事故だったけれど、()()()()()()()私は無傷で済んで。

 

 ここまで分かりやすければ、十歳になったばかりの私にも流石に分かった。

 

 異常なのは私の不運ではなくて、私の周りの、嫌いな人間たちの不運だ。

 

 私を引き取った私の保護者たちも、私が内心で嫌ってしまったから、嫌だと思ってしまったから、あんな風に不幸に見舞われて、最後には死んだのではないだろうか。

 

 それに気が付いたら急に自分のことが怖くなって、いつかまた周りを損なう可能性が恐ろしくて、迎えに来てくれたパパに私は言った。

 

『パパ。私のこと、捨ててもいいよ』

 

 大丈夫、憎まないから。

 

 そう言ったら、パパは初めて、私を怒鳴りつけた。

 

『俺は自分の子を捨てるような甘い覚悟で親を名乗った覚えはない!!! 

 二度と、ッ二度とそんなバカなことを言うな!!!』

 

 パパに怒られたことなんて一度もなかったからとても驚いて、でもどうしようもなく嬉しくて、絞り出すようにまた声を出す。

 

『……でもあの人たちは、私のせいで死んじゃったんでしょ?』

 

 そしたらパパは自分を落ち着かせるように少し考え込んで、それから教えてくれた。

 

『……ハピィ。君は多分、“ラック族”の生き残りだよ』

『らっくぞく……?』

『白と黒だけで彩られたその綺麗な目と美しい金の髪はね、ラック族の特徴なんだ。

 ラック族は嫌いな相手からは幸運を奪い、好きな相手にその奪った幸運を分け与える。希少な種族だから存在を知る人間も少なかったけれど、その少ない人間が蹂躙したせいで、今ではラック族は絶滅している……と言われているらしい。

 ……つまり、ハピィの周りで不幸になった人たちは──』

 

 あぁ、やっぱり。

 

『──完全に、自業自得で死んだんだよ』

 

『……え?』

『え?』

 

 え?? 

 

『だって可愛い可愛い可愛いハピィが理由もなく相手を嫌うわけないし……』

『だ、だけど不幸にしちゃったのは私で……』

『あはは。因果応報だし、ハピィの体質で死んでなかったら今頃私が殺しに行っていたから結果は変わらないよ。

 寧ろ嫌いな相手を苦しめずに殺してあげた上、そのことを後悔するハピィはやっぱり天使だね』

 

 そして、パパは私を縛る縄を切って私を抱き締めた。

 

『第一、だ。ハピィ。

 自分のことを気遣わない相手を傷付きながらも気遣うなんて、馬鹿らしいと思わないかい? 

 奪う者は奪われる覚悟を持つ。それがこの世界の常識だよ?』

 

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

 

 ………………確かに────!! 

 

 

 ──ハピィは、この数年親馬鹿にアホほど溺愛されて、更には伯父たちや年上のいとこ達に可愛い可愛いと愛でられて自己肯定感が爆上がりしていた。

 

 

「そういえば、パパはどうしてラック族のことを知ってたの?」

「一昨年、初めて大きい方の伯父さんがウチに来ただろう? 

 その時にラック族の話を聞いたんだよ」

 

 

 なんて会話をしたその事件から約十年。

 私はこれまでの一切のコンプレックスから開放されたし、自身の希少さを理解してパパや伯父さんたちに修行をつけてもらうようにもなった。

 

 お陰で大分強くなって、まだパパや伯父さんたちには敵わないとはいえ、足手まといにならないくらいの実力はついたと自信を持って言える。

 

 今では一人での買い物どころか、お仕事だって安心して行くことが出来る。

 ……まぁ、それでもパパはたまにこっそりついてきてるみたいだけど。

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