八雲の相棒   作:陽灯

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伊吹萃香(いぶきすいか)と晩酌

「・・・」

 

紅魔館から帰宅後、私は自宅にて一人酒を飲んでいた。

 

「何しけた雰囲気で酒飲んでんのさ。」

 

「萃香。」

 

目の前に急に現れたのは大きな角を二つ持つ少女、鬼の伊吹萃香。

 

「何か用か?地下室の酒ならある程度自由に飲んで良いぞ。」

 

「それは嬉しいけど、そんなんじゃないよ。友人がしけた顔してひどい状態で一人寂しく酒飲んでんの見て行かないやつなんていないだろう?」

 

「・・・そんなしけた顔してるか?あとひどい?」

 

「とっても。ほら一緒に飲むぞ、足開けな。」

 

そう言って胡座をかく私の足の間に座り込む。萃香の体の小ささもありすっぽりと収まる。

 

「ほら飲みな、注いでやるから。」

 

「ありがとう。・・・やっぱり誰かと飲む酒が1番だな。」

 

「だろう?だから詠知ももっと宴会に参加しに来なよ、ここでやる宴会以外ほとんど参加しないじゃないか。」

 

「酒にそんな強くないの知ってるだろう?酔って迷惑でもかけてしまったら困るからな、気が向いたら行くよ。」

 

「そうかい・・・でも詠知にも参加してほしいって思ってる奴がたくさんいることは覚えておきなよ?」

 

「わかった。」

 

そうやってお互いに酒を注ぎ飲むことを繰り返し、ある程度の時間が経つ。私はある程度酒が回りはじめ頭が少しボーッとし始める。

 

「萃香は可愛いな。角でちょっと撫でにくいけど」(なでなで)

 

「鬼に可愛いって複雑な気分になるね・・・悪い気はしないけどさ。」

 

胡座の中に座っているため、非常に頭が撫でやすい位置にある。無意識に撫で始めてしまった。

 

「・・・で、どうしたんだい?何か悲しいことでもあった?」

 

「うーん・・・まぁ萃香になら話しても良いか。」

 

萃香との関わりは長い。それこそ幻想郷が成立する遙か昔、紫と出会う前からの知り合いだ。紫や幽々子の友人でもある萃香は信用できる存在であるのだ。

 

「最近、随分口が軽くなってる気がするんだ。すぐに本心が出てきてしまって腹芸が全く出来なくなってる。」

 

「・・・」

 

「ここ数年で周りと利害抜きの付き合いが増えて、内面の深いところまで知る機会が増えた。そうなってしまうと壁を作って話せなくなる、それが問題でな・・・」

 

美鈴との庭園での会話でも、沈黙に触発されるように美鈴に感じている魅力を無意識に発し始めてしまっていた。このままだといずれ失言してしまう可能性も出てくる、それは避けなければいけない。

 

「何が悪いのさ?正直なのは良いことじゃないか。」

 

「それで周りとの関係に軋轢が生じてしまうかもしれない、それは避けたいからな。」

 

「別に気にすることはないんじゃない?そもそも詠知は腹芸なんか全く出来ないじゃないか。」

 

「え?」

 

「嘘つくときもめちゃくちゃ目泳ぐし、不都合な事実も「公平な取引をしよう」とか言って普通に話しちゃうし、すぐに甘やかそうとするし押しに弱いし絶対に腹の探り合いとかできないタイプの人間だよ詠知は。皆知ってる。」

 

「・・・皆?」

 

「そう皆。妖怪の山でも私や勇儀、今の天魔とか文とかも皆。」

 

「・・・まぁ、なんとなく察しはついていた、私は紫みたいに駆け引きできるような人間ではないと」

 

「だけどそれが逆に良かったんだよ。鬼は正直なやつが大好きだし、それでいて強かった詠知は私たち鬼にとってこれ以上ない相手だった。他の妖怪連中も程度こそあれそういうタイプだったろうし、紫も分かってて詠知を派遣したんだろうね。それこそ元々知り合いだった私や勇儀以外の鬼にも「こんな人間がいるなら人間の里ができてもいいんじゃないか。」って思わせてくれる程度にはね。」

 

「・・・」

 

「でも、詠知はどんどん「自分の役割」ってのに固執していってしまった。人間の里を残すためにね、団結して妖怪に対抗するようになって私たち鬼が「人間との真剣勝負」ができないように変わっていった。」

 

「・・・実を言うと鬼が全員地底に行ってしまったことにも責任を感じているんだ。人妖が共に暮らせる世界を作るはずが、逆に追いやってしまったのではないかと。」

 

「人攫いができなくなった、それは確かに地底に行く理由にはなった。でもそれはしょうがないと思うよ?そうじゃないと幻想郷が出来なかったんだし、必要なことだった。それに責任を感じる必要はないよ。」

 

「萃香にそう言ってもらえるとありがたいな。」

 

かつて妖怪の山の支配者の一人であり、鬼の中でもほぼトップに君臨していた萃香の言葉は私にとって慰めとなる。

 

「だから嬉しいんだよ、しがらみがなくなって正直な詠知が戻ってきてるのが。今度勇儀に会いに行ってやりな。寂しそうにしてたよ。」

 

「なら今度向かおうか、ありがとう。気持ちが晴れたよ。」

 

正直者が好きな鬼である萃香は私の悩みに肯定的な返事を返してくれるだろう、そんな察しはついていたものの実際にそういった返答をもらえると嬉しく気持ちも楽になるものだ。

 

「じゃ今度は私の番ね。」

 

「萃香も悩みがあるのか?」

 

普段あっけらかんとしている萃香が悩み?全く想像がつかない。

 

「詠知なら分かるんじゃない?」

 

「・・・何かあったか?」

 

「ふ~ん・・・」

 

萃香が立ち上がり、こちらの顔を覗き込んでくる。

 

「・・・嘘はついてないみたいだね・・・本当に鈍感なやつだ。傷はほぼ塞がってそうだし、これはいらないね。」

 

そしてこちらの首に手を伸ばし・・・巻かれていた包帯を引きちぎった。

 

「何を・・・」

 

「吸血鬼如きが、鬼が認めた男にわざとらしく噛み跡を残している。こんなに腹立たしいことはないよ。」

 

「だからといって引きちぎる必要は・・・」

 

「これだけ嫌だってことさ。・・・別に詠知のすることに文句をつけたいわけじゃない。だけど、吸血鬼に絆されるなら話は別だ。そうなるくらいなら紫には悪いけど無理矢理にでも地底に引っ張って鬼と一緒に生きてもらうからね。「人攫い」は鬼が大の得意なんだ。」

 


 

夜が更け、酒が回った詠知がその場で眠りについた後も萃香は酒を飲んでいた。

 

「傷は吸血鬼のものだけど、この包帯についてる口紅の跡は多分別物だね・・・。吸血鬼の館の誰かしらか、何にしろ詠知は気付いてなかったみたいだし別にいいか。それにしても、相棒にこんな傷をつけられていいのかい。紫?」

 

「詠知に役割を与え自由にしていいって言った手前そう簡単に口出しするものじゃないわ。」

 

萃香が呼びかけるとスキマが開き紫が現れる。

 

「それで詠知が死んだらどうするのさ、能力で死ににくいっていっても蓬莱人と違って死ぬ時は死ぬんだよ。」

 

「本当は危険になった時に伝えたり詠知の身体能力を上げるよう普段着ている服に仕掛けをしてるのよ、でも吸血鬼の気まぐれで服が変わって気付くのが遅れた。まあ吸血鬼も殺したいわけではないでしょうし死ぬことはなかっただろうけど。」

 

「ふーん。」

 

「それより聞きたいのは萃香、貴方の事よ。詠知が自分で選ぶならまだしも無理矢理連れて行くのを許すことはできないわよ。」

 

「もしもの話だよ。吸血鬼に限らずどこかに住み始めて一切会えなくなるくらいなら連れ去って地底で鬼と共に生きてもらうって話、今すぐの話じゃないさ。」

 

「・・・鬼にとっては確かに詠知は魅力的な人間。だけど地上に暮らす人間よ、もし地底に連れ去るとなればいくら地上と地底の不可侵が緩くなったとはいえ確実に対立、争いが起こる。それを分かっているんでしょうね。」

 

「勿論、詠知には鬼にとってそれだけの価値がある。「鬼を拳だけで沈められる人間」なんてもうどこを探しても幻想郷で詠知しか残っていないんだ、何が何でも失いたくないのさ。改めて言うが一切会えなくなる場合での話、定期的に地底に来て鬼と遊んでくれれば行動は起こさないよ。」

 

「・・・そう。その時が来ないことを願うのみね。」

 

「そうかい?一人の男を取り合って戦争が起きる、これくらい面白いことはそうなさそうだけどね。」




吸血鬼と鬼は絶対因縁ある(確信)

500お気に入りありがとうございます。
ちょくちょく読み返して読みづらい点やなんかおかしくない?って思った部分書き換えてますが、ほとんど変化はないので気にしないでください。

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