プロローグ
私、
"長生きする程度の能力"
能力にしっかり名前がついたのは幻想郷に来てからであるが、私の生まれは3万年近く前になる。
狩りを中心とした集落で生まれた私は15才の際に成長が止まった。ただ実際に止まったわけではない。
その状態で数千年の時を過ごしている内に少しずつ身長や体格は大きくなっていった。かなり緩やかな速度で成長はしているらしい。実際に今の外見は20代後半くらいまでになっている。
そんな年老いる様子のほぼ見られない私は一カ所に定住することはできず各地を浮浪する生活を送ることになる。
ただそれが辛かったわけでは決してなかった。各所で様々な人間、それどころか今で言う妖怪や神のような存在と交流することもでき、加えて普通の人間では絶対にいけない領域にも何の奇跡か行くことも出来た。
一時的な旅の同行者としても人間に不死人、神等と行動することもあり一切退屈することのない毎日だった。
そしてその中の一人が後の"八雲紫"だったのである。
共に旅をする中で紫が抱いた理想に対してかねてより、「ありとあらゆる種族が住める世界」を夢見ていた私は即座に協力を申し出た。
今に至るまでの約500年間は最も濃密な時間だったことは間違いない。
人間という種族として出来ること全てを尽くして、人と妖が共存できる世界「幻想郷」が誕生の一端を担った。その道のりはよく今も五体満足でいられたものだと考える程度には苛烈だった。
いつしか「八雲の相棒」という肩書きがつけられたのは恐れ多さもあるが非常に誇りに思っている。
そして茨の道と言えるような行程を経た末に、"スペルカードルール"が制定されたことで殺し合いの世界が終わった。
人と妖が共存し大きな争いの少ない平和な世界。そんな理想郷が出来たのは念願だったのだが・・・
「紫、明日必要なものを調達するんだろ?私が行ってこようか?」
「ダメよ、もう十分に頑張った詠知は休んで良いの。」
「だが・・・」
「じゃあ仕事を与えるわ。私の昼寝の抱き枕役よ、さぁ寝室に行きましょう?」
「藍、忙しそうだな。幻想入りした漂着物の内容の調査か、じゃあこの仕事は私がやるから・・・」
「駄目です。詠知様はお好きにやりたいことをやっていてください。」
「皆が頑張っているのに私だけ好き放題しているのは情けないだろう?だからその仕事を・・・」
「だから駄目です。・・・そうですね、では最近細かい手入れができなかったので尻尾を櫛でといてもらってもいいですか?眠かったらそこに体を埋めて眠っても構いませんよ?」
・・・明らかに私を休ませようとしてくるのだ。一瞬私が無能でもう仕事を与えたくないのかと思ったが、そんなことはないと思いたい。
決してやるべきことが全くないわけではない。継続している仕事はしっかりやっている。しかし500年近くの多忙な生活と比べると明らかに時間が余りすぎている。
私の居住地である人間の里は大体平和なため、急な問題が発生して自発的に出張ることもほぼない。そして起こったとしても博麗の巫女や里の守護者が解決するため出番はない。だからこそ紫や藍の仕事を手伝いたかったのだが、この感じである。
そんな生活が数年続いたことでメリットはあった。余った時間で「八雲の相棒」としてではなく「詠知」という人間として周りと接する機会が大きく増えたのだ。個人的な理由で人里の外に出かけることも増え、非常に楽しかった。
だが私も幻想郷のために粉骨砕身の覚悟で取り組んできた立場だ、「私のためにも何か追加で役職を・・・」と懇願しまくる。本当に「八雲の相棒」か?と言われそうな様であるがそんなことは関係ない。
「じゃあ・・・詠知には「監査」の役職をしてもらうわ。」
「監査・・・各地の情勢を調査して問題があったら報告したり解決に動くということだな。」
「いや、いろんな所に遊びに行って元気かどうか聞いてくるだけよ。」
「それ仕事じゃなくないか!?しかも今空いてる日にやってることとそう変わらないし・・・」
「あら、これは立派な仕事よ?詠知が会うことで皆嬉しい、詠知は皆が嬉しそうだし仕事が出来て嬉しい、幻想郷にとってはストレスを抱える存在が減って問題が起こりづらくなって嬉しい。私はその報告を聞くために詠知に会う頻度を増やせて嬉しい。完璧よ。」
「えぇ・・・」
「さ、決まり。これ以上の仕事はあげないわ。貴方が幻想郷でどれだけ慕われているのか知る良い機会よ、幻想郷旅行を楽しんできなさい?ちなみに行きたいところに自由に行けばいいし、用事のついででもいい。向こうからの招待に応じる形で向かっても全然良いわ。」
・・・こうして私は名ばかり監査として各地へ向かうことになったのであった。
ストーリー性(あるかは不明)と各勢力へ向かう大義名分を持たせるためのプロローグです。