ギリギリ18時に間に合った。
「鈴仙やてゐと戯れるのは結構だけど、節度は保ちなさいよ?詠知。」
「すまない、予想外のことばかりで少しはしゃぎすぎてしまった。」
永琳や他の妖怪兎の手助けを得て、穴から脱出した私は永琳に診療室で注意を受けていた。状況が状況だったのと詐欺師と名高いてゐ相手だったのでちょっとはしゃぎすぎてしまった、反省。ちなみに鈴仙の誤解はなんとか解けたし耳に関しても謝罪した。
「てゐと鈴仙はどこ行ったんだ?」
「てゐは兎と一緒に何処かに行ったわ。鈴仙は報告書を急いで書きに行った、帰りが予定より遅くなったからね。」
「そうか、鈴仙が遅れたのは私にも責任があるから少しは多めに見てくれないか?」
「事情は分かってるから普段よりは余裕を持たせてるわ。」
「それは良かった。」
鈴仙が私の責任で折檻をくらわなくて良かった、永琳の鈴仙への教育はスパルタなのだ。
カルテらしきものをまとめていた永琳が作業が終わったようでこちらに向き直る。
「で、何の用で今日はここへ?」
「何個か用事があるんだが。そうだな・・・まずは紅魔館に関する件だな。咲夜を診察してくれたそうじゃないか、そのお礼を言いたかった、ありがとう。」
「そんなこと?普通の風邪だったから薬を処方しただけよ。」
「医者の永琳に言うのもなんだが"風邪は万病の元"だから、何かあった後だと遅い。咲夜は紅魔館にとって重要な存在だし、大事な友人だからな。」
「相変わらず本当にお人好しね。」
「そうか?・・・それにしても、風邪の時以来だがこの頻度でここに来るのは久しぶりな気がするな。」
人間を大っぴらに受け入れるようになる前から、昔からのよしみとして定期検診や怪我、病気になった場合に永遠亭には世話になってきた。
ただ最近は怪我をしたり病気になる機会が減り、世話になる頻度は減ったことで訪れることは減った気がする。異変の際や輝夜の月都万象展の際には訪れることになったものの、その分を差し引いても訪れる頻度はマイナスだろう。スペルカードルール制定後に色々な場所に訪れるようになったが訪問回数が減った数少ない場所なのかもしれない。
「あら、あまり来てないって自覚はあるのね。輝夜も喜ぶしもっと来ても良いのよ、場合によっては鈴仙を迎えに向かわせるし。」
「鈴仙に申し訳ないし、道は知ってるから大丈夫。でもなるべく来るようにはするよ。・・・今時間あるか?そろそろ定期検診の時期だからそれも受けられないかと思ったんだが。」
「いいわよ、じゃあそこに座って・・・」
「うん、特に何の問題はない。至って健康体よ。」
「なら良かった。」
「・・・それにしてもまさか詠知とここまで交流を重ねることになるとは思わなかったわね。」
永琳と輝夜と旅(逃亡)をしている際に、私が少し人より長生きな体質だという話はしていたのだがここまでとは思っていなかったらしい。
事実竹林に到着した後別れを告げる際、今生の別れのような雰囲気だった。その後妹紅と出会って旅をしていた事情でしばらく会えなかったため数百年の間を空けて再会することとなるのだが、訪問者が私だと気付いた時の永琳のあの驚き顔は後にも先にもあの瞬間だけだったろう。
「永琳や輝夜と比べればないようなものだろう?」
ちなみに永琳や輝夜は最低でも1億歳くらいにはなる。何だ億って、恐竜の時代じゃないか。月の民の寿命の長さはおかしい。それに加えて蓬莱人になったことで今や不老不死なのだ。神話に残るてゐですら100万年くらい?しか生きていないはずだ、やっぱりおかしい。
「全体的な年齢でいえばそうだけど、蓬莱人として生まれ変わったと考えればほとんど生まれた時からの付き合いだと言えるわ。地上の生活という意味では詠知の方が年上よ。」
「そうか?物は考えようだな・・・ということは私は永琳の兄か?・・・なんてな、はは。」
生まれた時から付き合いのある年上の男となると兄のイメージが強い。父親の可能性もあるだろうが永琳の見た目との差を考えると兄くらいに収まるのが妥当か・・・何言ってんだ私。
「ふふ、それも面白いかもしれないわね。じゃあはい。」
「?・・・それは?」
両手を広げる永琳に首を傾げる。
「兄が妹を労るのは普通よ?普段手当や看病をする働き者な妹を甘やかしなさい?」
「え、いや待て待て。冗談、冗談だから。」
永琳は落ち着いた雰囲気を持つ女性だが意外とノリが良い。輝夜の思いつきにしょっちゅう付き合ってなんだかんだ楽しそうにしていることが多いので茶目っ気がある。ただ元々神であった月の民、永琳も元を辿れば高貴な神様だったに違いない。そんな存在を妹扱いはさすがにまずいのでは・・・?
「あら残念・・・詠知に言われて里の人間も治療するようになったのになぁ・・・詠知の治療もたくさんしてきたのになぁ・・・今日も落とし穴から助けたのになぁ・・・」(チラチラ)
「うっ・・・」
「詠知が慰めてくれないとやる気出ないなぁ・・・」(チラチラ)
チラチラとこちらを見ながらわざとらしい演技をする永琳。
永遠亭に対する恩は深い。間違いなく永琳の治療がなければ死んでいたこともあった。・・・これくらいで永琳が満足するならいいのかもしれない。
「・・・すぐに離れるからな。」
「よろしい♪」
再度手を広げた永琳を正面から抱きしめる。
「・・・結構恥ずかしいわねこれ。」
「な?だからもう終わり(ギュッ)・・・あの、離してくれないか?」
「こんな機会今までなかったから貴重な経験。だからもっと甘やかしなさい、お兄ちゃん?」
「・・・後で怒らないでくれよ?」
普段被っているナース帽を取り、抱きしめつつ頭を撫でる。とりあえず褒めちぎるか。
「永琳は本当に偉いな、真面目で、研究熱心で、天才で、それをひけらかさない謙虚さがあって、親切で・・・」
「ちょ、ちょっと待って。私が悪かったわ、これ以上は恥ずかしいからやめて。」
「たまに茶目っ気を出すこともあって、それが普段の大人しい雰囲気とのギャップが・・・」
「待って!聞いて話を、ちょっと!?」
一通り喋り終えた後顔を真っ赤にした永琳と、反省の意を込めて正座する私が向かい合う。そういえば永琳が赤面している姿を見るのも初めてかもしれない。
「・・・まさかこんなに恥ずかしいとは思わなかったわ。」
「すまん、悪戯心が芽生えてしまった。」
「全く、言い出したのは私だけど・・・てゐの影響でも受けたの?」
「永琳の反応が珍しくてな・・・楽しくなってしまった。でも満足したか?」
考え込むような姿勢を取った永琳。数秒の沈黙の後に口を開く。
「普段味わえない経験だったわ。でも・・・良いわねたまにはこういうのも。」
「たまにはリラックスするのは大事だと思うぞ。何かしたいことがあれば手伝うし。」
実際に息抜きは大切だ、紫に散々怒られて学んだ。
「そうね。じゃあまたよろしくね?輝夜は自室にいるから会いにいってあげて。」
「分かった。もう一度帰るときに挨拶するよ、じゃあまた。」
診療室から出て輝夜の部屋に向かう。
「・・・ん?また?」
「"お兄ちゃん"か・・・ふふっ・・・」
誰か永琳を妹にする小説を書いてくれ。
クールな子が慌てたり恥ずかしがる姿を見るのが好きな筆者です。ギャップ萌え大好き勢。
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