八雲の相棒   作:陽灯

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ゆうぎ。曇らせ描写ありなので注意。


星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ)と旧都にて その1

私、星熊勇儀はいつものように酒を飲みながら歩いていると、旧都の入り口にいるお燐に気付き話しかけにいった。

 

しかし私と会った時から、妙に慌てた様子を見せるお燐を不思議に思う。

 

単純にお燐が新鮮な死体を得たから急いでいるわけではないということはお燐の表情やしゃべり方ですぐに分かった。鬼は嘘が大嫌いだからね。

 

普段裏表のないお燐が何か隠し事をしているのか、わざわざ鬼に対して嘘を吐いてまで隠そうとするものは何なのか。

 

あげく「鬼には見せられない」ものらしい。ならばより私が確認しなければならないだろう、旧都のまとめ役として鬼含めた住人に被害をもたらす可能性があるのなら。

 

・・・ま、お燐は地霊殿のペットだし賢いからここに被害を与えるようなものは持ってないだろうけどね。どうせ地上から酒とか食料あたりの何かしらを持ってきてたんだろう、鬼に見つかったら取られるとでも思ったのかな?そんな野蛮なことはしないのに・・・まあ酒だったらちょっとはもらうかもしれないけど。

 

「・・・後悔しないでね。」

 

お燐が猫車に被せていた布をめくる。・・・後悔?なら鬼が嫌いなものでも持ってきたのかな、もし鰯とか柊だとしても別に鬼は嫌いじゃないんだけどね。

「わっ!明るい!」

そんな暢気な事を考えながら、お燐がめくった布の部分を覗き込む。

 

 

・・・えっ・・・・・・

 

 

目に入った友人の顔に、小さく驚きの声が漏れ体に回る酒が急速にスッと抜けていく感覚を覚える。

 

それとともにお燐の行為全てが繋がっていく。

 

確かにお燐にとっては「上物の死体」だろう。顔しか見えていないが眠っているだけのような顔は「綺麗な状態」で、「鮮度が落ちる」のも確かだ。

 

それが妙に嘘らしく感じたのは、それが"()()()()()()()()()()()"から。

 

だからお燐は「鬼には見せられない」と隠し通そうとしたし、「後悔しないでね」と忠告した。

 

全部が理解出来た。お燐は詠知の死体を火車の本能として運びながらも、親切心で鬼に"詠知の死"を知らさないように布を被せて急いで運んでいたのだ。

 

疑って掛かってしまったことにお燐への申し訳なさを覚える・・・だがそれ以上に目の前の死体へのショックが頭を支配している。

 

最近あまり会えなかった友人に、こんな形で再会することになるとは思いもよらなかった。

 

「なぁお燐、なんで詠知はこんな・・・」

「あれ、これ勘違いしてない?」

「・・・詠知は疲れてたんだよ。」

 

疲れてた。その結果、病気に罹ったのか倒れてしまって死んでしまったのか。

 

・・・詠知を死ぬまで疲労させたような存在が、地上にいるのか。鬼が認めるほどの人間を死ぬまで使ったような愚か者がいるのか。

 

「お燐。・・・詠知は最期に何か言ってなかったか?」

 

「最後に?えぇーと・・・確か「鬼に会うのが辛い」って。」

「お燐!それだと勘違いしちゃうよ!」

「・・・え?」

 

お燐の一言に、沸々と沸いてきた怒り。地上への怒りに芽生えてきた頭を真っ白なものへと変えた。

 

「鬼か、鬼のせいで詠知はこうやって・・・」

 

「う、うん。」

 

・・・鬼にとって"強い人間"とは何よりも魅力的な存在だった。日頃から飲む酒よりも、比にならないほど人間との喧嘩が好きなのだ。

 

まだこの旧都に鬼が移住せず妖怪の山を鬼が統べて居た頃、人間の里の代表としてやって来た詠知は鬼の若い衆を数人軽々のして見せた。

 

元々関わりのあった私や萃香等にとっては当然の結果になったわけだが、他の鬼達にとって衝撃を受けるような光景であり詠知を特別な存在へとのし上げ詠知は"鬼の友人"となったのだ。

 

そのときに人間の里との約束事の1つとして結んだのが「詠知と鬼との喧嘩」だった。

 

年に数度、鬼の中から闘いたい奴を数人出し詠知と決闘する。さすがに四天王が出ることはあまりなかった(何回は出た)が、いずれも勝敗関係なく鬼を大いに満足させる内容を見せてくれた。

 

時が経ち、鬼が地底に移住することになり妖怪の山の支配者ではなくなる。これによって詠知が鬼と闘う必要はなくなったのだが・・・

 

『いつまでとは言われてなかったしな。』

 

わざわざ降りるためにヤマメを説得してまで「鬼との喧嘩」を果たすため、地底に降りてきた詠知に、鬼は完全に心を奪われてしまった。

 

鬼と闘える強さを持ち、妖怪の山どころかかつで地獄であった旧都にまで単身やってくる勇気を持ち、約束事の期間を定めてないからと言って約束事を結んだ鬼ですら諦めた決闘をしにやってくる誠実さ。鬼の心を真っ正面から打ち抜くには十分すぎる内容だった。

 

狂喜乱舞した私含めた鬼との三日三晩に渡る宴会に決闘。その末に詠知は"鬼の友人"から"鬼の盟友"という真に特別な存在になったのだ。

 

その後も定期的に旧都に来てくれる詠知相手に、鬼はまたかつてのように闘いを挑む。そんな関係がずっと続いていた。

 

 

・・・そんな詠知が「鬼と会うのが辛い」と言っていた。その事実を全くもって受け止めきれない。

 

加えてお燐曰くそれが詠知の最期の言葉。明らかに「鬼のせいで死んだ」と言っているのと同義ではないか?

 

「あ、ぁぁ・・・」

「違うよ勇儀!誤解だよ!」

詠知はその能力から人間離れした年月を生きている。だがその体は人間で、傷付けば妖怪よりも時間は掛かるし病気に罹ることだってある。

 

私たちはそれを忘れていたのではないか。詠知の強さに目を奪われ、闘いを挑み傷付き疲弊していく詠知に「詠知なら大丈夫」と無意識に思い込んで・・・その結果詠知は限界を迎えた。

 

ここ最近地底に来ていなかったのはそういう理由なのだろう、鬼によって傷付いた体や精神を療養していたが最終的に限界を迎え・・・最期に鬼への恨み節を残してこの世を去った。

 

「う、あぁぁ・・・」

 

全て私のせいだ。詠知は約束を果たすために、文句の一言も言わずその傷付き続ける体でここにやって来ていた。

 

詠知がそんな風に傷付いていると知ったなら、鬼達はすぐにでも闘いを止めただろう。盟友が望んでいないことをやるほど鬼は残酷で卑怯じゃない。

 

私が気付ければ、詠知が死ぬことはなかった。詠知に恨まれることもなかった。

 

「すまない、詠知、すまない・・・」

 

両膝を着き、手に持っていた杯も床に落とす。縋り付くように猫車の縁に両手を掛け、泣きながら中に眠る詠知に謝罪の言葉を掛け続ける。

 

私が詠知に触れる資格なんて無い。詠知もきっとそれを望んでいないだろう。

 

周りに住人達が集まり始め、横からお燐が何かを話しかけてきているが、全くもって聞こえない。聴覚が鈍くなるほど泣く経験など今まで無かった。きっと殺した原因である私を咎めているのだろう、それも仕方の無いことだ。

 

「・・・そうだ、怨霊になったら・・・きっと最期は一緒に・・・」

 

火車に連れ去られた死体は、怨霊へと変化する。怨霊は恨みの力で動くため、きっと詠知の怨霊は恨みのある鬼の所まで来てくれるだろう。

 

妖怪にとって怨霊に取り憑かれるのは、死を意味する。精神で生きる妖怪にとって怨霊とは大敵になる。

 

・・・でもそれでいい。詠知に殺されるのであれば、それが本望で私に出来る唯一の償いだ。

 

「はは・・・もう何を言っても伝わらないけどね・・・」

 

涙を拭い杯を拾いゆっくり立ち上がる。

 

これ以上、詠知をここにいさせることはきっと良くないだろう。他の鬼達には私から説明する責任がある。

 

だが、最後に一目だけしっかりと詠知の顔を見たい。そうやって上から覗き込む。

 

本当に眠るような綺麗な顔の詠知。最期は安らかに逝けたなら、せめてもの救いだ。

 

「これが最後なんだ・・・」

 

そう思うと再度涙が溢れ出してくる。・・・そうやって頬を伝った涙が、詠知の顔にぽつんと落ちてしまった。

 

「あ・・・」

 

いけない、すぐに拭かなければ。そう思い何か無いかワタワタと探していると・・・

 

 

 

「ん、雨?って・・・勇儀?なんで泣いて・・・」

 

「起きた!」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

 




勇儀「最期に何言った?」
お燐「(寝る前の)最後?「(この疲れた状態で)鬼に会うのが辛い」って」
勇儀「・・・え?」

私ができる精一杯の曇らせ。泣き声の書き方難しい。
姉御肌で強気なキャラが曇るの結構好きです。まさか3000文字書いて書き終わらないなんて思わなかった。次回は曇った分の発散をする勇儀。
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