「にゃあ・・・」
「おはようお燐、すまないな連れ出して。」
廊下にあった椅子に腰掛け、膝の上にお燐とお空を乗せているとお燐が目を覚ます。
何故部屋の外にいるのか分からないようで、あたりをキョロキョロと見回してる。
「にゃー?」
「・・・さとりに悪戯しただろう?」
「にゃ!?」
「図星みたいだな。・・・全く、さとりが起きる前に退散できたから良かったがおいたが過ぎないようになー。」
「にゃあ・・・」
お燐を一撫でしながら忠告する。主に悪戯が出来るくらい信頼関係があるのは良いことだが、限度を持たなければ関係に亀裂が入ってしまうかもしれない。
お燐が膝の上からぴょんと飛び降り、廊下の奥の方に歩いて行く。何か用事があるのかな?と思いながら眺めていると、立ち止まりこちらを振り向いて見つめてくる。
「・・・私も必要な用事か?」
「にゃー」
「分かった、ついていくよ。」
お空を抱えて、お燐の後ろをついて行く。それにしても随分広い屋敷だ、紅魔館に次ぐくらいの広さだろうか。
部屋にはそれぞれ様々なサイズのドアが取り付けられ、名札がかかっている。それぞれのペットに個室が用意されているあたり、ペットもしっかり家族として考えるさとりの家族愛の深さを実感する。
何度か廊下を曲がり歩いて行くと・・・お燐がある部屋の前で立ち止まる。その部屋はドアがなく、代わりに暖簾がかかっておりそこには大きく「湯」の文字が印字されている。
「・・・ここは?」
風呂であることはさすがに分かるが、訪問した際にたまに入らせてもらうことのある温泉とは違う場所だ。
「にゃ」
「上?・・・"ペット用温泉"?」
お燐が上を見上げるような動きをするため釣られるように上を見ると入り口上に"ペット用温泉"と書かれた札が付けられている。
「すごいな地霊殿。ペット専用の温泉もあるのか。」
「にゃ!」
「で、ここで何をするんだ?掃除でも手伝えばいいか?」
「にゃあ」(ふるふる)
一宿一飯の恩義を果たすのなら掃除が1番丁度良いな・・・と思ったがどうやら違うらしい。
そのまま中に入っていくお燐を追いかけて温泉部屋に入る。中には脱衣所がなく、そのまま様々なサイズの温泉が置かれている。人間が腰掛けるにはあまりにも深すぎるほどの温泉やくるぶしくらいまでの深さしかない温泉もある。人間サイズのものもあるため一応人も入れそうだ、人型のペット用だろうか。
ここで何をするんだろうか・・・そう思っているとお燐が桶を咥えて引きずりこちらにやってくる。
「桶?」
「にゃあ」(ジー)
「・・・お空?お空を風呂に入れたいのか?」
「にゃ!」(コクコク)
「あー・・・もしかしてお空って風呂嫌いなのか?」
「にゃー!」
意外と言葉が通じなくても分かるものだ。
お空の種族は地獄鴉である。カラスと風呂で考えつくのは、カラスの行水ということわざだ。確かにカラスが身を清める時間はかなり短い、だがカラスは毎日体を洗うくらいには綺麗好きなのだ。果たしてお空の風呂嫌いは地獄鴉が習性が別なのか、ペットになったから風呂嫌いになったのか、お空自身の性格の問題か。・・・多分後者2つだろう。
桶を持ってきたということはこれで鴉状態のお空を洗えばいいのか。・・・何で私に?と思ったが、客人の私がすることでお空が大人しくなるとお燐は考えたのかもしれない。
「そういえばこの状態で体を綺麗にしたら人間の形態でも綺麗になるのか?」
「にゃ!」(コクコク)
「ほう、結構融通が利くんだな。・・・じゃあお空を起こすか、お空ー!」(ゆさゆさ)
お空を起こすために揺さぶると、鴉状態のお空が目を覚ます。
「かぁ・・・かぁ?」
「おはようお空、久しぶり。元気だったか?」
「かぁ!」(パタパタ)
嬉しそうにその場で羽を羽ばたかせるお空。
「起きて早々だが、お空には今から風呂に入ってもらう。」
「・・・かぁ?(キョロキョロ)・・・かぁ!?」(パタパタ)
「おっと逃がさないぞー!お燐からの頼みだからなー、大人しく入ってもらおう。」(ガシッ)
逃げだそうと飛び立とうとするお空を捕まえる。なおも抵抗するお空の目の前にお燐がやって来てお空が一瞬
「にゃー!」
「かぁかぁ!かぁー!」
「にゃにゃにゃー?にゃー?」
「かぁ?・・・かぁー!」
「にゃあ、にゃー♪」
「かあ♪」
「うーん、何が何やら分からん。・・・とりあえず解決したらしいからいいか。」
さすがに鴉言葉と猫言葉の会話は理解出来ない。が、お燐とお空の間で解決したらしいから気にしなくていいか。
その間に近くにあった人間サイズの風呂からお湯を汲み、準備を・・・
ポンッ!
・・・ポンッ?どういう「詠知ー!一緒に入ろー!!」
振り向くと、人間形態になったお空がこちらに向かって突っ込んでくるのが見え・・・おいちょっと待て!?
「お空!?落ち着け!えぇーと、風呂場で走るんじゃ(ドンッ)うわぁぁぁ!?」
ザパァァァァン
「あったかいね~」
「そうだな~」
「体が芯から温まるよ~」
「そうだな~」
「「「極楽極楽・・・」」」
「・・・で、何か言うことはないか?」
「うにゅ・・・ごめんなさい・・・」
「ごめんなさい・・・」
お空のタックルを受け、お空と一緒に温泉の中に落ちた私は結果的にお空とお燐と並んで温泉に浸かっている。
2人揃って着衣のまま落ちたため服がずぶ濡れになってしまい、そこらに脱ぎ置いた。・・・お燐も何故か一緒に飛び込んできて同じように服を投げ置いている。・・・何で?
「・・・で、どんな会話があって私と入る選択肢になったんだ?」
「それはね・・・」
「にゃー!」(年貢の納め時だよお空、そろそろお風呂に入ってもらうからね!)
「かぁかぁ!かぁー!」(だからって詠知を頼るのはひきょーだよ!お風呂なんてつまんないもん、私は入らないからね!)
「にゃにゃにゃー?にゃー?」(じゃあみんなでお喋りしながら入る?そうすればお空も楽しいんじゃない?)
「かぁ?・・・かぁー!」(うにゅ?・・・それならたのしそう!)
「にゃあ、にゃー♪」(なら決まりね、詠知に伝えてきな♪)
「かあ♪」(分かったー♪)
「なるほどな・・・ずいぶん直球な伝え方だなお空ー?」(わしゃわしゃ)
「うにゅー・・・」
「お燐もお空を焚きつけすぎだぞー。」(わしゃわしゃ)
「うにゃー・・・」
お燐とお空の頭を撫でながら注意する。
「・・・あんまり怒ってないんだね。」
「まあ地霊殿に来たからには温泉にも入りたいと思ってたしな、結果オーライってやつだ。」
服は犠牲になったがまあ気持ちいいからいいか、くらいの感覚である。そもそもお燐が猫という気まぐれな種族だし、お空は鳥頭だ(失礼)。突発的な行動はある程度許容すべきだろう。・・・この子らに加えてこいしまでいる地霊殿は幻想郷でトップクラスに大変なのでは?主であるさとりの胃が心配になってくる。
「ね、詠知!地上のお話いっぱい聞かせてよ!」
「いいぞ~。だが体を洗いながらだなー。」
本来は頭か体を洗ってから入るものだが、お空タックルにより順序が入れ替わった。そろそろ体を洗いたい。
だがお空の顔が明確にシュンとした表情になることに気付いた。
「うにゅ・・・」
「どうした?体洗うのいやなのか?」
「・・・だってめんどくさいんだもん。翼に手届かないし・・・」
「あー・・・」
お空の背中に生える翼は、お空そのものを包み込めるのでは?と思わせる程度には大きい。確かにこれを洗うのは中々苦労するだろう。
「じゃあ鴉形態になれば洗いやすいんじゃないか?」
「それじゃお話しできない!いや!」
「・・・なら翼だけだが洗うの手伝うよ、それでいいか?」
「うにゅ!?いいの!?やったー!!」(バタバタ)
「ちょお空!?お湯の中で羽ばたかないで(ザッパーン)うにゃあああああああ!!!」
「・・・さ、一旦上がりなさい。」
お空の翼が起こした波に押し流されていくお燐を尻目に、私はお空の翼を洗うための準備を始めるのだった。
烏と鳥の字の区別がつかない。