そのままこちらの話を一切聞かなくなってしまったお空と鼻歌を歌う楽しそうなお燐にされるがまま、暫くの時間体を洗われ続けた。
体をお湯で流し終え、一緒に再度温泉に浸かっていたのだが・・・
「・・・あの、せめて何か話してくれないか?」
「・・・」(ぎゅっ・・・)
「・・・むぅ・・・」
・・・お空が一切離してくれないのだ。お湯で体を流す際も一切離れないので、お燐にお湯をまとめてかけてもらった。
正面から腕と翼で抱きついたまま私の腰の所に足を回し、しがみつくような形になっている。捕食でもされるのではないかと思うくらい逃げ場の無い。
何度か私から離れようとこっそり私に回された腕を剥がそうとしたり、お空をそっと押したりしたのだが、結局その度に抵抗されより強い力で抱きつかれるようになっていった結果の現状である。もうてこでも動かないのではないかと思うくらいの力強さだ。
最初はお燐も「お空も甘えたがりだからねー♪」と笑っていたが、いつまでも離れないお空に呆れたのか徐々に口数が減っていってしまい気まずい沈黙が流れ始めてしまった。
「・・・そろそろ離れた方が良いんじゃない、お空?」
「やだ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
(・・・気まずい、あと熱い・・・)
正面に見えるお空の顔を見る。真っ赤に染まった顔には困惑したような表情を浮かべながらも、目尻がとろんと垂れ下がり息遣いが荒くなっている。
普段無邪気な笑顔しか見せたことのないお空の表情に、こちらもどう対応すればいいのか分からない。
「お空、どうしたんだ?普段はそんな感じじゃないだろう・・・?」
お空は元々スキンシップの多い子だ、お燐やさとりのみならず私にも会う度に結構な頻度で抱きついたり頭を撫でることをせがんだりしてくる。
それは稀に地上に遊びに来た際も問答無用で発揮される。前は博麗神社で異変以降懐かれた霊夢が抱きつきタックルをくらって吹き飛んでいた。
だが、誰かと話しているときや忙しそうにしているときはしっかり自重するくらいには他人の事を考えられる良い子なのだ。実際私とさとりが部屋の中で話している際はドアの前で話が終わるまで待っていたりと礼節をわきまえることができる。
そんなお空だがさとりはもちろんのこと親友であるお燐のことも心から信頼しているようで、お燐の助言は素直に聞き入れお燐が忠告すれば反省したり自重したりする。・・・風呂に入れという助言は基本聞かないらしいが。
・・・だから"お燐の言葉を否定するお空"という光景は私を困惑させるのに十分だった。
「なんかすごくどきどきしてあたたかくて・・・離れたくないの・・・」
「・・・それは恥ずかしくてどきどきしてるだけじゃないか?なら離れた方がお空のためになると思うが。」
恥ずかしいや悲しいという感情とは基本無縁のお空だ、珍しく芽生えた感情に困惑してしまっている可能性はあるだろう。
「ちがうの、恥ずかしいのはそうだけどもっと違うどきどきなの・・・ぽかぽかするような・・・とにかく離れたくない・・・」
「・・・分かった。気が治まるまではこのままでいてくれ。」
「うん・・・」
お空を抱きしめ返し背中を撫でる。
・・・思えばお空に会うのも結構久しぶりだ。地上のあちこちを回ったり交流することが増えて中々旧地獄に来れていなかったし、お空は基本地霊殿か旧灼熱地獄にいるためお燐ほど地上に出てくることもない。定期的にお空が働いている間欠泉地下センターも妖怪の山(ほぼ河童)と守矢神社の管轄のため行くことはない。そのためお空と会える機会がなかった。
なら少しくらいお空の自由にさせてもあげてもいいか。そう思ったのだが・・・
「・・・・・・・・・」(ジーー)
抱きつくお空の隙間から、むっとした表情のお燐がこちらを見つめてきている。猫耳は横を向き、2本の尻尾を水面にバシャバシャと叩き付けている。・・・間違いなく不機嫌だ、昔猫の飼い方に関する本で読んだ不機嫌の特徴に完全に合致している。
・・・お空に一言否定された程度で機嫌を悪くするようなお燐ではない。なら一体・・・?
「・・・・・・・・・」(ジーー)
「・・・」
体を洗った意味がなくなるのではないかと思えるほど汗が体中から流れてくる。これは現状への冷や汗なのか、熱さから来る汗なのか・・・
温泉の中で包み込むように抱きつかれているので当然熱い。だがそれでは済まされないくらい熱いような・・・
「・・・」(メラメラ)
「お燐!?燃えてる!燃えてる!」
お燐の背中に複数個の火の玉が浮かび始めるのが見える。
火車であるお燐は炎の妖術を自在に扱える。そのためどこでも炎を出すことが出来るのだが・・・お燐とお空は灼熱地獄の熱さに適応しているためこの程度造作も無いのだろうが、このままだと私が煮込まれてしまう。
「・・・詠知はお空の方がお気に入りなんでしょ、じゃあお空にだけ構えば良いじゃん。」
「・・・そんな友人に優劣をつけるようなことするはずないだろう、何でそんなこと・・・」
「霊夢の時もそうだったじゃん、あたいのこと置き去りにしてさ。」
「・・・!」
・・・お燐が不機嫌な理由とここで私が何をすべきがしっかりと分かった気がする。ならば・・・
「お空、少し体をずらしてくれないか?」
「・・・このままでいいってさっき・・・」
「頼む。・・・そうだな。お詫びとして次にここに来たときも、いくらでも同じ事をするって約束する。」
「・・・ほんと?」
「ほんと。次もその次も。だから今は少しだけお燐にも譲ってあげてくれ、いいか?」
「・・・うん。」
抱きつくのには変わらないものの、お空が少し横にずれ左手が自由になりスペースが空く。
「お燐、おいで?」
「・・・」
左手でお燐を手招きし、無言でゆっくり近付いてくるお燐を抱き寄せ撫でる。
「ごめんな、置いてけぼりにして。」
おそらくお燐は、1人だけ構ってもらえないという状況が嫌なのだろう。
「・・・詠知は何も悪くないよ。あたいの方こそごめんなさい、自分勝手で。」
「何も気にしなくて良いさ。」
猫なのだからあまり他人に迷惑をかけすぎない程度であれば自由気ままに生きれば良い、私はそう思う。
その状態で数分経ち・・・ふと気付く。そういえば代わりの服どうしよ「ここにあるわよ。」・・・
声が聞こえた部屋の入り口を3人揃って見るとそこには・・・
「「さとり様!?」」
「・・・おはよう、さとり。・・・いつから見てたんだ?」
「泡姫ごっこのちょっと前あたりかしらね・・・お燐とお空と随分楽しんだみたいね詠知?」
寝間着ではなくいつもの服装をしたさとりが呆れたような顔でこちらを見ていたのだった。
多忙につき毎日18時投稿の夢潰える。
もう一話だけ続くんじゃ、その次はこいし編・・・のはず。